転生した推しゲー世界にドハマりしてたら、導師と呼ばれ優秀すぎる教え子たちに包囲されていた 作:暁刀魚
大好きだったゲームの世界に転生したら、なにがしたい?
まぁそもそもこの質問は、転生するゲームによってやりたいことは変わってくるだろう。
俺の場合かつて一番プレイしたゲームは、キャラクターをビルドして、ダンジョンに潜るタイプのゲームだった。
いわゆるハクスラゲーの一種で、敵を倒して素材を集め、理想のビルドを作り上げるのが目的のゲームだ。
世界が滅んでしまうような重苦しいストーリーがあるわけではない。
しかし、この世界で生きる人々の人生を垣間見える、どこか地に足のついた味わい深いストーリーも魅力の一つ。
だからまぁ、こういう世界に転生したらやるべきことは決まっている。
俺もまた、その世界の住人として生きるのだ。
ただ、俺はこの世界の人々よりも、少しだけこの世界の”システム”に詳しい。
なので少しくらい、それを生かした生き方がしたかった。
色々考えて、そうしてたどり着いたのが迷う人々に最適ビルドを教えることだった。
しかしそれが――結果として周囲に導師と呼ばれて崇拝を集めることになるなんて。
世の中、わからないものである。
+
「そらっ!」
俺の振るった短剣が、目前の魔物を切り裂く。
犬型のその魔物は、甲高い悲鳴と共に消滅した。
後には、魔物がドロップした素材だけが残る。
なんともゲームらしい光景だ。
「牙かぁ、まぁ皮よりは嵩張らないからいいか」
俺が今いる場所は、“迷宮”の第一階層。
はっきり言って、このくらいの階層の魔物を狩っても旨味はほとんどない。
だからドロップしたら嬉しいのは、食材として使える肉なんだが、まぁいい。
今はそんなことよりも、振り返って
「大丈夫か?」
「あ……は、はい」
魔物が出現する迷宮では、一つのミスが命を奪う。
残念ながらこのゲームには蘇生魔術とかは存在しないため、命は大事にしないといけない。
いくら命知らずなウォーカー――この世界における冒険者の呼称――とは言え、命を粗末にしていいわけではない。
「危険を感じたら、すぐに脱出お守り装置を使わないとダメだぞ」
「ごめんなさい……魔物を目の前にしていて気が動転していて……」
「まあ新人ならそういうこともあるさ。ところで君の得物は……」
俺は床にへたり込んでいた少女に視線を向ける。
長い黒髪の、真面目そうな猫獣人の少女だ。
全体的に衣装も黒を基調に統一されており、雰囲気は気難しい黒猫といった感じ。
俺は彼女が今の犬魔物に襲われていたところを助けたのだ。
助けに割って入った際に少女は躓いてしまい、得物を手放してしまったらしく近くに武器はない。
だから視線を向けると、地面に転がっている槍を見つけた。
……槍?
「槍!?」
「えっ!? な、なんですか!?」
「あ、ああいや悪い。珍しいな……と思って」
うおお、猫槍ビルドだ!
ゲームでは育てたことあるけど、転生してから実際に目にしたのはこれが初めてだぞ。
若干テンションが上がって、少女をびっくりさせてしまった。
目を白黒させる少女に、俺は手を差し伸べる。
「そう……ですよね。ごめんなさい、私、槍使いなんです。……猫獣人なのに」
しかし少女は、その手を一瞬だけ掴もうとして、止めてしまった。
まぁ、無理もない。
キャラをある程度自由にできるゲームの世界ですらクセの強いビルドだったのに、現実だと輪をかけて扱いづらいビルドという立ち位置だろうからな。
「……おかげで、パーティは組めないし……周りからはバカにされるし……貴方にも迷惑をかけてしまいました」
俺が転生したゲーム「ウォーカーズ・フロンティア」、通称ウォカフロには様々なビルドが存在する。
そしてゲームをクリアするだけなら、ちょっと趣味としか言えないような変態ビルドでも、何ら問題なくクリアできる難易度だ。
そのため新規にゲームをプレイするたびに今回はどういうビルドで行こうかな、と毎回考えるのが定番である。
そしてこの猫槍ビルドは癖強ビルドに分類されるちょっと扱いにくいビルド
「ですけど……武器を握った時に
床に転がった槍を引き寄せて手に取りながら、少女はこぼす。
槍が彼女にとって一番しっくり来た理由は、それが彼女の得意武器だからだろう。
このゲームは、まずビルドの際に種族と得意武器を初期ビルドとして設定する。
そこから様々なスキル――この世界でいうとアーツを取得しつつレベルを上げてキャラを育てていくのだ。
だからビルドの方向性は、種族と得意武器という生まれつきの素質によって決定する。
俺の場合は、人間と短剣。
彼女の場合は獣人(猫)と槍といった感じ。
ゲームであれば自由に選択できるこの初期ビルドも、現実と成ったこの世界では相応の苦労があるだろう。
でも、
「だとしても、私は母から譲り受けたこの槍で……」
「――――素晴らしい!」
「へぁ……ぇ……?」
俺は、目を輝かせて少女を見た。
そう、素晴らしいのだ。
彼女がこうして、猫槍ビルドで冒険者をしているということそのものが素晴らしい。
なにせ、ゲームの癖強ビルドが強要される初期ビルドは現実だと不遇扱いだ。
そういった初期ビルドで生まれてしまった人は、そもそもウォーカーにはならないことが多いのである。
だけどこの子は猫槍ビルドでウォーカーになることを選んだ。
何やら訳ありらしいけれど、そんなことは関係ない。
「俺は君が、その槍を握って迷宮に挑んだことそのものを、素晴らしいと思っているんだよ!」
「…………え、ぇと」
「そうだ、お近づきの印にいいものを上げよう」
「…………え?」
そう言って、俺はあるものを取り出した。
それはアクセサリだ。
耳につけるイヤリング型のアイテムで、見たところ頭部位の装飾品はまだ身につけていないようなので、今の状態でも装備はできるはず。
「そ、それは……その、わ、悪いですよ。……あはは」
「ああ大丈夫、店で売ってるアイテムだから。ここでもらわなくても、街に帰れば普通に見つかるはずだよ。ようするに、効果だけ覚えて帰って貰えればいいから」
「ええと……は、はい……」
こいつは元々、俺が初めて迷宮に入った時に身につけていた装備だ。
今はもうアイテム袋の肥やしになってしまっていたけれど、若干思い入れがあったので捨てられずに取ってあったもの。
だが、折角この装備を俺以上に使える人が目の前にいるのだから、渡してしまうのも悪くない。
なんとなく、装備を大事に使ってくれそうな気もするしな。
「こいつは戦闘で最初に使った攻撃アーツの消費を半分にする代わりに、以降の攻撃アーツの消費を倍にするアイテムだ」
「……なんというか……扱いにくいですね」
「けど、君の
猫槍ビルドがなぜクセが強いかと言うと、こうだ。
猫獣人は魔力量――すなわちMPが少ない。
けれど槍は消費が重い代わりに威力の高いアーツが多い。
結果、燃費が悪くすぐにガス欠する。
ただまったくシナジーがないわけでもなく、猫獣人も槍も、AGIが高い。
であれば――
「一撃で魔物を倒してしまえば、後の消費なんて関係ないだろ?」
「あ……」
「それに猫獣人特有のアーツに、消費の少ない代わりに一回の攻撃にしか効果のない自己強化アーツがあったはずだ」
「……あ、もしかして――
「そのとおり。察しが良いな」
これこそが猫槍ビルドの基本だ。
ゲーム開始当初は、先制して一撃を叩き込み敵を一体落とす。
ここから敵を倒すとMPを回収できる槍とかが出てきて、MP効率が改善してくると、一気に強ビルドに化けるのだ。
ゲーム内ですらほぼ説明がなく、複数のシナジーを組み合わせて作る必要があるため、現実では不遇となるのも納得のビルドである。
「というわけで、別に貰ってくれなくてもいいから、一度使ってみてくれないか?」
「……どうして、ここまでしてくれるんですか?」
「ん? ああ、簡単だよ」
理由は、いくつかある。
ある事情から、こうやって他人に親切にしておく必要があるということ。
俺にとってはゲーム時代からの知識を広める行為は、別に不利益でもなんでもないこと。
だが、何よりも――
「――――俺自身が、君(のビルド)が活躍するところが見たいから」
「…………っ」
俺はただただ純粋に、そういった。
「そうだ、君の名前は?」
「――ラノ」
「ラノか、うん……いい名前だ」
「っ……」
若干それって野良を反対にしたやつ? とか考えつつ。
「じゃあ早速――」
俺がイヤリングをラノに渡そうとしたその時だった。
「みつけたよぉ、導師様ぁ」
――不意に、後ろから声をかけられた。
…………
「あー……えっと」
「やっと、やっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっと見つけたぁ。もう、フィリナを置いていくなんてひどいよぉ」
そこに立っていたのは、白髪にクソデカいリボンが特徴の小柄な少女。
どこかうっとりとした様子で俺を見上げている。
白を基調にしたケープが特徴的なローブはどこか神聖さすら感じさせる。
が、あまりにも陶酔したような顔は、末恐ろしさを抱かせるには十分だ。
「え、フィリナ……? 白一色で……それで……まさか……Sランクウォーカーの”聖女”フィリナですか!? それに……導師!?」
「あ、うん……その……」
「
「はい、導師ルスラです……」
いや、俺に導師なんてまったく似合わない二つ名なんだけど。
何せフィリアと違って、俺のランクはCだし、そこらの木っ端ウォーカーと変わらんし……
ただまぁ――
「なやめるウォーカーの才能を戯れに開花させては、開花させるだけさせてそのまま去っていくのをヤり捨てとか表現される、
――うん、知名度だけは……普通にあるんですよね。
「そうだよぉ? フィリナも導師様のパーティメンバーなのにぃ、放置プレイされて置き去りにされちゃったのぉ」
「な、こ、……この、変態!」
「えへへぇ」
「いやなんでフィリナが照れるんだよ。……あと俺は変態じゃない!」
いやまぁ、確かに導いた人は、十分やっていけるようになったところでいい感じにまとめて送り出すけどさ。
でも変態ではない! 決して変態ではない!
俺はただ、ただ――自分の手で開発した他者のビルドを見て、悦に入りたいだけなんだあああ!
架空ゲー世界で大暴れしてたら変な人になってる感じです。
よろしくお願いします。