売れない魔道具店を開いてのんびりしたい転生者、魔道具が売れすぎて大賢者と呼ばれる 作:ろーまん
売れない店を開いて、店員の女の子に「このままじゃ店が潰れちゃいますよ」と言われながらのんびり過ごす。
男のロマンの一つである。
俺もそんな人生に憧れていた。
しかし、こういう道楽みたいな生き方をするにはどうしても金が必要だ。
前世ではそんな金、どこにも転がっていなかった。
だが、転生して新たな人生を始めた今の俺には、そのチャンスがあった。
転生者特有のチートというべきか、俺には魔術の適正があった。
それを用いてお金を稼げば、売れない店も夢じゃない。
とはいえ、こういう店の王道は喫茶店とかそういう感じだろう。
しかし俺はあまり料理が得意な方ではなく、もっと言えば今更勉強するのも面倒くさい。
そこで俺は喫茶店の代わりに、魔道具屋を開くことにした。
こっちなら、魔術師として実力を磨いてきた分の知識がある。
専門家として、自分で魔道具を作ることだってできるのだ。
ただまぁ一つだけ、問題があった。
それは俺の魔道具の効果が強すぎること。
店を開く以前から散々、お前の作った魔道具はなにかおかしいと言われ続けてきたのだ。
流石に適当極まりない俺だって、自分の魔道具がヤバいことくらい理解している。
だから値段はめちゃくちゃ盛りました。
なんでこんな高いんだよ、と文句を言われてもそういうものだから、で押し通る所存です。
店だって、街の奥の奥にある普通ならたどり着けない場所にした。
これでそうそう客もやってくることはないだろう。
そう思っていたのに――どういうわけか、俺の店には割と頻繁に人がやってくる。
しかも特に売ることを想定していなかった魔道具が、時折売れてしまうのだ。
これでは「売れない店」とはとても言えないだろう。
むしろ、魔道具が高い分めちゃくちゃ儲かってしまっていると言える。
――終いには、俺のことを大賢者様なんて呼ぶ連中まで出てくる始末。
これじゃあ「売れない店を経営する」じゃなくて「悩める人に力を与える」店だ。
…………それはそれで男のロマンだな?
まぁともあれ、今日も俺の店「ラステア魔道具店」は営業を続けているのだった。
○
まぁ、客が来ていると言っても、売れていると言ってもそれはあくまで売上ベースの話。
客数ベースでは、ぶっちゃけ俺の想定通り閑古鳥はないていた。
立地も最悪、打っている商品も激高。
これで人がごった返すくらい繁盛しろっていうのも無理な話。
ただ、かならず一日に一人や二人は客が来る。
そして、普通に魔道具を買っていくのだ、その人達は。
「――いらっしゃい」
からんころんと扉が開いて、俺は視線を本からそちらへと向ける。
見ればそこには、如何にも貴族のご令嬢といった感じの少女がローブを纏って立っていた。
王都の奥の方にある俺の店は、治安がそこまでいいとは言えない。
そんな場所に一人で来るにはあまりにも場違いだ。
しかしローブは、認識を阻害し正体を隠すための魔道具。
問題はない、ということだろう。
「失礼いたします」
少女がそう言って店に入る。
ここでカウンターにやってくるなら応対しなければならないが、店の商品を物色するだけなら必要ない。
できれば後者であると嬉しいな。
今、ちょうど読んでる論文がいいところなんだよ。
死霊魔術に関する論文なんだけど、あまりに倫理観終わってて面白いんだ。
しかしそんな俺の願いも虚しく、お嬢様は一目散にカウンターへとやってきた。
残念、パタンと本を閉じて俺はお嬢様と向かい合う。
「今日はどのようなご要件で?」
「――――大賢者ラステア様ですね?」
俺のことを大賢者と呼んでくるタイプだ!
こういうタイプは、かなり厄介な要件で店を訪れる場合が多い。
果たして今回はどのような理由で俺を頼ることになったのだろう。
――少し
「自分から大賢者と名乗ったことはないけどね、ここがラステア魔道具店であることに違いはない」
「……折り行ってお願いがあって、本日は参りました。ですが本題に入る前に一つよろしいでしょうか」
「うん、何かな?」
「――今からここで起きることは、内密にお願いしたく思います」
まぁ正体を隠してやってきている時点で、その正体を明かすとなれば口止めは必要だろう。
ただあいにく、俺には彼女が何者であるかについては、なんとなく察しがついているのだけど。
「構わないよ。ウィリステラ第六王女様」
「な――!」
その言葉に、王女様はガチで驚いた様子でのけぞりフードが取れる。
おそらくこのフードが認識阻害を起動させるための条件なのだろう。
慌ててもとに戻そうとして、バレていると観念したためため息交じりに王女様は諦めた。
現れたのは、十代前半くらいの少女。
以前見た時は幼かったが、今は小柄ながらもどこか凛とした雰囲気を纏っている。
美しい金髪も相まって、王女様という表現がこれほど似合う者はそういない。
「……なぜ、わかったのですか?」
「学院時代に貴方が出席している式典に参加したから、顔を覚えていたんだ。もう何年前になるかな?」
「いえそういうことではなく……」
「どうして正体を誤魔化せなかったのかと言ったら、単純に俺がその魔道具にかけられた魔術の癖を知っているから。
「……わたくしやお兄様に対して敬語を使う必要はございませんが、それ以外の王族にそういった態度は不敬罪にあたります、お気をつけを」
おっとそうだった。
あいつと長く付き合いすぎてて、あんまりそういうのに頓着しなくなってたんだ。
気をつけよう。
「それは失礼。で、早速本題に入ってもらってもいいかな?」
「かしこまりました。――ラステア様は、”薔薇の呪い”をご存知でしょうか」
「ああ、呪術の一種で、かけられるとちょっとずつ衰弱していってしまう呪いだね。呪いであると判別しにくいせいで、呪いをかけられた本人ですら呪いと気付けない厄介なものだ」
あまりにも暗殺に向きすぎている呪いだ。
とはいえ、普通ならそういった呪殺に関する対策をお偉いさんは怠っていないはず。
何かしらの隙をつかれたか、はたまた対策を突破して来たか。
「――呪いを解除する魔道具を、お持ちではないでしょうか」
「薔薇の呪いはその進行度によって解呪する難易度が大きく変わる。今の呪いの進行度は?」
「…………もう、あまり長くはないだろう……と」
「なるほど、普通に考えればもう呪いを解呪することはできない進行度か」
「……っ」
よっぽど後手を踏まされてしまったのだろう。
そう考えると、王女様を単身でここに送り込んだのは、あいつにとって乾坤一擲の策だったに違いない。
まぁそりゃ、一国の王女様が庶子とはいえ単独で王城を抜け出して、こんなところまで来るとは相手も思わないだろうしな。
「――あいにくと、今の俺の手持ちにそこまで進行した薔薇の呪いを解呪する魔道具はない」
「そう……ですか」
「ただし――」
俺はカウンターを出ると商品棚の方に歩いていく。
そこには一見普通の店みたいな顔で、値札だけがバカみたいに高い魔道具が、比較的乱雑に並べられていた。
こう、カードショップのストレージとか、そんな感じの気安さで。
その中の一つ。
俺が取り出した魔道具は、アンクのような形をしていた。
死者とか蘇生しそうなデザインである。
まぁ作ったの俺なんだけど。
「
「――へ?」
「ピンポイントで末期の薔薇の呪いを解呪する魔道具はないんだよなぁ。流石にニッチすぎるし、だったらこっち使ったほうが早い」
いいながら、俺はそれを王女様に放り投げる。
めちゃくちゃ慌てた様子で王女様がそれを手に取ると、こちらに視線を向けてきた。
「あ、危ないですよ!? こんな高価なものを!」
「ああ問題ない、そこの店に山のように積んであるし。ちょっと作りすぎちゃったんだよね。売れてくれてよかった」
「な――――」
みればそこには、明らかに過剰在庫と化した解呪用魔道具の山。
思わずと言った様子で、王女様が絶句していた。
「な、何故コレほどまで――」
「なんというか……ノリ?」
「ええ……」
作ってると楽しくなっちゃうんだ。
別に壊してなかったことにしてもいいんだけど、もったいないし。
結果として、店の棚の肥やしとして開店当初からそこに埋もれているわけだ。
「……これほどの魔道具、どうしてラステア様は作ることができるのですか?」
不意に、王女様はそう聞いてくる。
俺は少し考えてから、答えた。
「俺はね――ロマンって言葉がすきなんだよ」
「ロ、ロマン……?」
まぁ、いきなり何いってんだって反応は仕方がない。
俺もちょっとだけそう思う。
でも、大事なことだ。
「そう、魔術にはロマンがあるし、売れない店や悩める人に力を与える店にもロマンがある」
じゃあなんで、そんなロマンを追い求めるようになったのか。
答えは非常に単純だ。
「この世界には、ロマンがあるから」
チートを手にして新しい人生を送るなんて、ロマン以外のなにものでもないだろう?
言うなれば俺は――
「運命を感じたから、かなぁ」
今の自分の境遇を、運命だと思ったから。
好きに生きてみようと……決意したんだ。
「……大賢者様」
「……ん?」
「あ、いえ……その、ありがとうございました!」
王女様はお礼とともに代金を支払うと、再びフードを被って店から出ていった。
帰りが少し心配ではあるけれど、何かあったら魔道具が教えてくれるだろう。
ともかく、俺は再びカウンターに戻ると論文に目を通し始める。
形こそ変わってしまったけれど、今日も今日とてロマンに生きられたことを、少しだけ嬉しく思いながら。
俺はこの世界で、生きていくのだ。