西暦2100年、文明は衰退しつつあった。

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第1話

 

西暦2100年初夏

 

文明が衰退して久しい。この世界は何かを間違えたのだろうと、私は思う。

 

今から50年くらい前まで世界は文明の光を燦然と輝かせていた。しかし繁栄と衰退は表裏一体であった。世界を繋ぐ電線網のどこかで食電生物が成立したのである。

 

食電生物は細菌だったから多くの人に気づかれずに世界に広まった。そして電力の輸送効率が世界中で悪化したことで世界はその存在に気がついたが、その時には手遅れだった。世界は電力収支の失敗であっという間に衰退したのである。

 

もともと人口減少が進んでいた日本において、食電生物の発生、そして2079年には南関東大震災が発生して南関東は壊滅した。

 

この混乱の時代であらゆる制度が変化した。あらゆる分野で「強い平等」よりも「やや強い平等と効率」が尊ばれるようになったのである。

 

その変化の波は教育制度にもやってきた。今の時代、教育は3年ごとに足切りをする。足切りを受けた者は学校を卒業する。

 

出来ないやつに投資するより、できるやつに投資する。かつて万人に与えられた教育も今では「やや強い平等と効率」の名の下に変化したのだった。

 

人間心理は悲しいもので、この程度の「弱い不平等」ですら一部の人が特権意識を持つには充分だったのである。

 

「A介、君はまた他人を馬鹿にしたんだね?」

 

A介は16歳、中学3年次の足切りを生き延びで高校教育を受けられるやや優秀な学生だ。彼のように増長する者は多い。

 

「いやいや、僕はただ常識を話しただけですよ。親もそう言ってます。」

 

「親とかはいま関係ないんだ。親が言ったから良い悪いは関係ない。公共の場で無差別に傲慢な態度をとるなと言っている。」

 

かつてあった法は今や形をなしていない。

 

「いいか、A介。君の親は昔の人だ。昔は今よりも自由だった。公共空間安定法なんてものもなかった。だから親の言葉に惑わされてはならないんだ。」

 

公共空間安定法とは要約すれば「公共空間では他者に配慮しよう」という自由な解釈ができる典型的な悪法である。

 

「先生や学校は焦り過ぎなんですよ。(足切り)落ちを、小馬鹿にしたところで大きな問題にするほうが悪い。ある程度は優秀だから僕は(足切り)上がりになれたんです。」

 

彼はこう言っているが、決して優秀などではない。むしろ、この程度であれば大学に入らないか、あるいは大学3年次の足切りで落ちる程度だろう。

 

「とりあえず苦情が来てるんだ。今回は誤解を受けるニュアンスだったと、そう報告書には書く。だが、何度も告げ口されてるようだと「対処」するほかないからな。」

 

こういった馬鹿が大学まで生き残るとは思いたくない。そうだ、この馬鹿は救えない。

 

本当は反省する態度一つ見せない馬鹿なんて正直に報告してやりたい、ところではあるが校長から圧力がかかっている。どれだけ金を積んだのやら。

 

「ああ、すまない。とりあえず今日はこれで終わりだ。報告書に加筆が必要ならまた呼び出しをする。」

 

A介はそれを聞くと失礼しますと言ってさっさと去っていった。

 

それから十日が経った頃、国から通知が来た。要約すると公共空間安定法による規制が強くなるという趣旨だった。

 

学生は警察の狙い撃ちの対象となったのである。

 

それから夏が終わり、秋が終わり、冬が終わり、巡って春が来た。

 

もちろんA介は警察の対象にならなかった。金を積めたからである。

 

一方で何人かの後ろ盾のない生徒は捕まっていた。

 

それから夏が終わり、秋が終わり、冬が終わり、春が来た。

 

公共空間安定法の拡大解釈は警察権の暴走を招いていた。どこかの国の大使とその家族を捕まえて拷問にかけていたことが国際社会にバレて拡大解釈は一時的に止まった。

 

春の頭にこの悪法はなくなった。

 

そして春の終わりに別の悪法が作られたと新聞は言ってくるのだった。

 

 


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