機動戦士ガンダム 閃光とハサウェイ~マフティーに足りないもの~   作:フラペチーノ

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3 マーク オブ オエンベリ

 フィリピン、ダバオの連邦軍基地。そこでは今まであったキンバレー部隊が名称を変えてキルケー部隊として活動していた。そこの司令官に任命されたケネス大佐はマフティーの活動を見つけ出し、洋上でこれらを撃滅すべく部隊を展開した。

 量産機としてはジェガンタイプにも勝る最新鋭機のグスタフ・カールを都合十二機。そして虎の子の切り札、現大気圏戦闘では屈指の性能を誇る、大気圏内での自由空中戦能力を保持した、画期的なMSであるペーネロペー。

 今まで大気圏内を自由に飛び回れる機体はSFSに依存するか、戦闘機のように変形する可変機か、とてつもなく大型のMAしかありえなかった。どの種別にしてもMSやMAとしての本来の性能を活かし切れるというものではなく、限定的な活動しかできないのが実情だった。

 ミノフスキー・クラフトを搭載したペーネロペーは空中でどんな姿勢制御もでき、その上でMSとしての性能を十全に発揮できる次世代機。それらの開発に従事したケネスは胸を張って賊であるマフティー撲滅に乗り出したわけだが、報告された戦果に大声を止めることはできなかった。

 

「グスタフ・カールが全滅⁉︎ペーネロペーは⁉︎」

「信号が残っているため、現在引き上げのための部隊を送っているところです。望遠カメラでどうにか撮れた映像がありますが、確認されますか?」

「当然だ!メインモニターに出せ!」

 

 報告官から聞いた内容は、すぐには信じられない内容だった。ここ十年ほど大きな戦闘行為はなかったとはいえ、彼らは地球連邦軍。軍縮も始まっているとはいえ、テロリストなどよりはよっぽど良い環境で訓練を積んだ兵士たちだ。

 予算だってある。最新機だって割り振られる。そんな正規軍がテロリストに壊滅される。基地でモニターをしていたためにその報告は間違っていて欲しかったが、計器の故障ではなく事実のようだ。ミノフスキー粒子散布下だったためにあまり遠距離の観測データは当てにならないというのが常識だったために、精鋭全員が撃墜されるなど指揮官として到底受け入れられない。

 ダバオで戦っていたMSメッサーなら、鹵獲をしたこともあって性能は割り出されている。ペーネロペーに全く敵わずほとんどが撤退したのだ。だというのに次の戦いになったらこうも一方的にやり返されるというのは現実のものとして受け入れ難い。

 戦況をモニタリングするために通信機器をかなりアップグレードさせた観測器から送られてきたその映像は、夜間戦闘ということも込みでその場にいる連邦士官を嘲笑うには相応しい映像だった。

 最初の内はグスタフ・カールもメッサーもまともなMS戦をしていた。スペック的にも拮抗していて、お互いにSFSに乗っている。腕以外で差異がほぼなく、どちらも一進一退の攻防を繰り広げていた。

 戦局が変わったのは、空から紺色の異形のMSが降りてきたことだ。ペーネロペーもミノフスキー・クラフトを積み込む過程で外付けユニットの見た目から異形としか言いようがないが、そのMSはまるで鳥のバケモノだった。

 そしてそのシルエットは、シャアの反乱にMSパイロットとして参加していたケネスからすれば見間違いようのない機体だった。いくらかシルエットは変わっていようと、その様相だけは見間違えない。

 

「ナイチンゲール……!」

「シャア・ダイクン最後の機体……⁉︎意趣返しにしたって、その機体をチョイスするとは……!」

 

 舞い降りた夜鳴鳥は自由落下からのビームライフルの斉射によって次々とグスタフ・カールを落としていく。当時のνガンダムと一部スペックは似通っている最新量産機が、瞬く間に落とされていく。

 自由落下を辞めたところで、肩の大型バインダースラスターが火を噴く。そうして鳥の如く自由な空を飛び回る美しき異形が不恰好な乗り物に乗ってようやく憧れの空に浮かんだ醜い人型を遙か上空から食い散らかしていく。

 その美はどこか女性を思わせた。圧倒的な暴力は美しさすら携えて、真の支配者は自分であるかと見せつけるかのようにビームライフルとミサイルによって獲物を食い千切っていく。

 グスタフ・カールを落とし切ったら、その戦場に用はないと言わんばかりにメッサーを引き連れて撤退していく。メッサーもジオン系の造りをしているからこそ、まるでジオンが蘇ったかのような視覚映像をこちらへ叩きつけていた。

 ペーネロペーと交戦こそしなかったものの、今の映像だけでわかる。あの機体もミノフスキー・クラフト実装機だ。重力を克服したのは自分たちだけではないと、まざまざと見せつけられていた。

 そしてもう一方の映像。ペーネロペー中心の映像では人質たるガウマンを解放したエーン・レイムに頭を抱え、そして相対したもう一機のミノフスキー・クラフト実装機。連邦軍でもかなりの意味を持つ意匠をしたそのトリコロールカラーのMSはほぞを噛む。

 

「ガンダム……。エゥーゴのつもりか?全く……」

 

 ペーネロペーとは異なる、外装ユニットではなくMS本体に組み込まれたミノフスキー・クラフトによって大気圏内で単体行動が可能となったガンダム。

 反連邦を掲げる組織であっても、ガンダムを運用する組織はある。エゥーゴが元々連邦軍から分たれた派閥というのもあってエゥーゴがガンダムを運用するのはまだわかるのだが、マフティーはそんなことのないただのテロリストだ。

 だというのに、ガンダムとナイチンゲールを持ち出した。その意義は大きい。

 ガンダムの方も、まるでアムロ・レイのように卓越した操縦スキルによってペーネロペーを圧倒。あれが味方だったらと、本当に悔しがったくらいだ。

 

(本当にハサウェイを呼び出してペーネロペーに乗せたいくらいだぜ……。シャアの反乱でジオンの大型MAを弱冠十三歳の時点で倒した、本物のNT。レーンのような簡易強化をしたくらいの強化人間じゃない、天然物。たとえブランクがあろうと、ハウンゼンで見せた制圧の動きから今でもそれなりにやれるだろう。あいつならあのガンダムパイロットとやりあえるんじゃないか?)

 

 ケレスはそう思いながら、ペーネロペーの回収の指示と、MSドックにはペーネロペーユニットの予備などの手配を進めさせた。

 海洋の監視は海軍に要請し、陸と空の警戒を増やすように自分たちの部隊にも指示を出す。

 これからケネスは戦力の再編と、もっとお偉いキリマンジェロにいるモグラたちへ戦力の調達をしなければならなかった。グスタフ・カール十二機の損害はかなり大きい。もちろんキルケー部隊にはまだそれなりのMSはいるが、あのガンダムとナイチンゲールが相手では焼石に水だ。

 レーンにペーネロペーを預けているとはいえ、まだエースと呼ぶこともできない青二才だ。だというのに相手はガンダムとNT専用機の実質二機はいるエース級。

 連邦政府の議会がそんなに大事なら、戦力の融通くらいしろとダカールとキリマンジェロ両方へ電文を送った。戦力の多大なる喪失の叱責を浴びるだろうが、それはマフティーを過小評価していた自分のミスなために甘んじて受け入れる。

 自分とペーネロペーならやれると、驕った証拠だ。ならば自分の頭を下げてでも戦力を調達しなければならない。

 ガンダムとナイチンゲール。連邦政府と軍を脅すならこれ以上とないカードだ。一年戦争からまだ三十年経っていない。今の議会の椅子を温めている老人のほとんどは一年戦争の経験者だ。そうでなくても十二年前のシャアの反乱を知らないバカはいない。

 またコロニーや隕石を落とされるくらいならと。無理にでも資金や兵器を用意してもらう。それが連邦軍としての意地だった。

 

 

 

 マフティーはオエンベリでの戦闘行動が新たなマフティーを産むことになるかもしれないということで、連邦軍が暴れているオエンベリへMSだけでの突貫をすることになった。住民の虐殺が起きているというのは反抗の芽を潰そうとしている行為であり、そしてダバオとは別働隊が動いているのだといれば、その突出した部隊を倒せれば次の作戦が容易になる。

 マフティーを名乗る武力勢力を鎮圧のために出撃したキンバレー部隊。そこでの通信を僅かにキャッチした後、音信不通となったためにオエンベリ軍は壊滅したと思われるが、キンバレー部隊が残っているのなら出撃する意味はあるとハサウェイは考えた。

 そのため簡単なミーティングの後、MS部隊は先行してオーストラリアへ上陸することとなる。

 ヴァリアントとシーラックの護衛にメッサーを三機だけ残して、ハサウェイたちは出撃の準備をしていた。イブリースのナイチンゲールも主力であるために危険なオエンベリへ向かう。

 出撃の準備をしていると、シーラックにいるはずのない人物がイブリースを探している感覚があった。コックピットを開けて最終調整をしていたために彼女と目が合い、そうして駆け寄ってくるケリアにイブリースは嫌な気がした。

 

「イブリース。次の出撃なんだけど……」

「ノアの護衛なんてやらないよ、デース。ノアが乗っているのは間違いなく最新鋭機のガンダム。ノアがやられたらこの部隊の負ける時だ。説得とかも無理。戦闘前に女を振りまかないで」

「っ!何よ、ちょっと良いMSが与えられたくらいで……!ハサの気持ちも知らないくせにっ!」

「知らないよ、他人の気持ちなんて。ここのところノアとも話してないからね。ずっと苛立ってるんだよ。誰かさんがささくれだった繊細な心に踏み込もうとするから。もう議会まで時間がない。それなのにMSパイロットの神経を荒立たせないで。作戦の邪魔」

 

 イブリースはケリアという女性が嫌いだった。ショートカットどころか、一般男性くらいにしか髪を生やしていなかったが、どういう心境の変化か髪を剃ってしまったらしい。そこまでしてハサウェイに振り向いて欲しいのか、一時のパートナーになれたことでのぼせ上がったのか。

 イブリースが捨てた、女という性を利用してマフティーに参加している。そしてハサウェイの恋人だからと女性クルーにマウントを取っている様子が散見される。そのせいでマフティーの女性陣の空気はよろしくない。

 ハサウェイはモテる。今の連邦政府の在り方に本気で怒り、戦争でメンタルをやられて、それでもどうにかしようと足掻いている青年だ。その上ガンダムを任されるほどのエースパイロットで、NT。惹かれない女性の方が稀だ。

 そんな女性事情に困っていなさそうなハサウェイが女性で困っている。ケリアも支えた方だろうが、ハサウェイが求める女性像ではなかったのだろう。もちろんイブリースも除外だ。

 下手にNT能力があるからこそ、イブリースは彼を怒らせてしまう。クェスに囚われているハサウェイは強化人間という作られた偽物が嫌いだ。それがわかっているからイブリースはハサウェイと一定の距離感を保っている。

 イブリースだってエースパイロットを怒らせるような真似はしたくない。その上彼はマフティーのリーダーも兼任しているのだ。イラム・マサムはよくハサウェイを戦術面や情報戦で支えてくれているが、それ以外にも支えてあげられる部分は支えてあげるべきなのだ。

 たとえば、そう。前回のような殺す相手の顔を見たいというわがままや。今回のオエンベリの部隊を叩いておきたいという本質とは異なる行動も。嫌味は言っても支えてあげるのが同じ組織の仲間というものだろう。戦略的にも意味があり、実際前回ハウンゼンに乗っていたことはハサウェイがいたダバオを襲撃したことでハサウェイ=マフティーという疑惑の目を逸らすことに繋がっている。

 今回のだって、本命の連邦議会を襲撃する際の後顧の憂いを断つという意味では理に適っている。ダバオ以外にも戦力を展開しており、その上でマフティーを名乗っているどこかの武装集団を潰そうとしているのなら、味方が増えるかもしれないという意味では戦術的にはプラスが多い。

 危険性は織り込み済みだ。だというのに、自身の恋心と心配だという個人的な理由でハサウェイを止められるのは、イブリース以外の女性陣にさぞ不評だろう。もちろんイブリースも嫌いだ。

 ケリアはいささか自分本位すぎる。そういうところにハサウェイは惹かれたのかもしれないが、度が過ぎればハサウェイにも袖にされるだろう。

 そして袖にされた苛立ちをイブリースにぶつけにきたのだ。わざわざヴァリアントから移動してきて。

 厄介極まりない。

 

「ノアはきちんと休めた?作戦立案以外にも休めるようにケアしたんでしょうね?」

「知らないわよ。薬も飲まないで不貞腐れてるんだもの!私、ハサが何を考えてるかわからない!」

「……それ、ノアにぶつけた?作戦の不満をぶつけてないよね?自分で仕事を作ったとか、ハウンゼンとダバオでの出来事を掘り返した?──あれは最終的に組織が認証した作戦だよ。それに結果としてガウマンは取り戻せたし、相手のガンダムの情報も手に入れられた。ノアがハウンゼンに乗ってなかったらハウンゼンの行き先もロストしていた可能性が高い。結果を見れば最上の動きをしている。そのノアを、私たちのリーダーを、責めたな?」

「ヒッ⁉︎」

 

 イブリースは殺気を込めてケリアを睨む。実戦も経験し、連邦軍に所属していた彼女からすれば殺気を見せつけるくらいはできる。そこにNT能力によるプレッシャーも混ぜた結果、ケリアはたたらを踏んで数歩後退した。

 コックピットにいるイブリースから、物理的に距離を取った。

 現状、問題が起きていない。強いて言えばハウンゼンで知り合った少女、ダバオでも庇ったギギという異性の存在。それがケリアは気に入らないのだろう。そうしたことでガウマンが捕まったと繋げられるかもしれない。だが、ペーネロペーがいたことでその繋げ方もかなりの無理筋だ。

 大気圏を自由に飛べる、連邦軍でも特別な意味を持つフラッグシップ機たるガンダム。マフティーだけが手に入れたと思っていたミノフスキー・クラフト実装機を相手も持っていたとなれば飛べないメッサーで勝てというのは傲慢な話だろう。

 アナハイムはこういうところがあると、ジオンとも繋がっていた過去をイブリースは嫌っていたが、ジオンに手を貸していたグラナダ支部が今ではマフティーに力を貸している。メッサーもナイチンゲールも、Ξガンダムもグラナダ支部が残っていなかったら生産されていない。

 嫌いな場所がなければこうしてマフティーの活動ができていないために、イブリースは仕方がなく今の状況を受け入れた。アナハイムの社員は気の良い人たちばかりで、上層部がどんな組織にでもMSを売り渡す死の商人というだけ。

 話を戻して、ギギという少女のことだ。イブリースからすればハサウェイが気にしている少女ということで、今もその少女とは離れている。しかも今後は香港に向かうということまで共有されているのだからもうハサウェイに関わることはないように思える。

 しかし残念ながら、彼女の立場からすればギギという少女のことは苦言を呈するに値する人物ということ。NTというのは時間や距離を超越すると言われている。そしてギギという少女はまるでNTのような不思議な少女だという。ハサウェイも言語化できていなかった。

 イブリースはケリアがギギを気にしているなんていう瑣末なことを鼻で笑う。それだけハサウェイを信用していないのだ、目の前の女は。行きずりの女と一夜を過ごす男だと思いたいのだ。仕事に忙しくて自分に構ってくれないから、そういう言い訳の材料に変換したいということ。

 そうでもしないと、自分という女を抑えられない。ハサウェイの恋人という地位を失うことを恐れている、浅い女でしかない。

 作戦行動中にそんなことをする男だと思われているハサウェイが不憫で仕方がなかった。

 ダバオの夜間襲撃でギギと一緒にいたことと、彼女と一緒に逃げられなかったことは仕方がないことだろう。何せ一緒のホテルの部屋にさせられて、いきなりの襲撃。そして彼女を引き渡せるような警察も連邦軍も側にいなかった。

 それで襲撃されている中でギギを放り出したら、それこそ連邦軍に怪しまれるだけだ。行動をしている時にどういう感情で動いていようと、結果を見ればそういう理由が見えてくる時点で責められるべきではない。イブリースは少なくとも、レポートを見た時点でそう判断してシュレッダーにかけた。

 ダバオ襲撃はハサウェイがマフティーだと疑惑を持たれることを消すための行動。非道なテロリストなら知り合ったばかりの少女など投げ捨てただろう。だが、優しい彼はそうしなかった。連邦軍に保護されるまで寄り添った。

 擬態行動としては完璧だった。それ以上に言いようがない。

 

「もう出撃時間になる。退いて。戦闘ではノアのこと、気にかけておくよ。ガンダムって象徴が落とされるのは組織的にもまずいことだからね」

 

 タラップを移動させるように整備員に伝えて、ケリアが遠ざかっていく。頭部へコックピットコアが格納されていき、周りから人が避けていった。

 床が開いていき、海面から出撃する形だ。三十mにもなる鉄の塊が海に落ちる。装備の耐久性を計測する意味でも海面からの出撃は都合がいい。シールドやビームライフルは破損することもなく、機体もオールグリーン。

 そのままシーラックを追い抜いて浮上。ミノフスキー・クラフトによって一気に浮上し、先に出撃していたギャルセゾンに乗ったメッサーと、Ξガンダムと追いつく。

 

「遅かったな、イブ」

「ごめんね、ノア。でもこれ、貸し一だから」

「……何の話だ……?」

 

 ハサウェイとそれだけ話してオーストラリア北部のオエンベリへ向かう。

 ガンダムに従うジオン系のMSの群れ。それだけはマフティーに入ってそこそこ経つイブリースでも慣れることはなかった。

 

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