機動戦士ガンダム 閃光とハサウェイ~マフティーに足りないもの~   作:フラペチーノ

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4 アプローチ ウォーク

 オエンベリの周辺は酷い惨状だった。空から見ただけで様々な集落が黒く荒んでおり、高精度すぎるセンサーが人の死体をキャッチしていた。MSに踏まれたのか、それとも対人装備ではない武装にやられたのか、人も建物も街も治安維持の名目で襲われた惨状ではなかった。

 マンハンターが街中でいきなり機関銃を乱射する光景は映像でも見ていたが、それをMSで街単位にやったような凄惨さだ。イブリースはそんな地獄の光景を見慣れているために平気だったが、一部の女性パイロットはそうもいかずに嗚咽を漏らしていた。

 自分たちでやるのと、他人がやった惨状を見せつけられるのは覚悟の意味で耐性が異なるものだ。

 情報収集をしつつ、夜の帷も落ちたことでマフティーは居座っていた連邦軍へ強襲。オエンベリ軍は壊滅状態だろうと判断して、連邦軍の戦力を削ることにする。

 オエンベリ自体はオーストラリア北部の、小さな炭鉱の街だ。人口も少ないはずで、宇宙世紀が一世紀も過ぎ去っているのにそこまで発展していない街。だからこそ、反抗組織が集まるには良い隠れ蓑だったのだろうが、その集結を嗅ぎつかれてたくさん集まったところを一網打尽にされたらしい。

 オーストラリアで指揮しているであろうキンバレー隊がこれからオーストラリアにやって来るであろうキルケー部隊に合流されても困る。キンバレー隊は今までマフティーの猛攻を防げなかった無能扱いをされているが、長年このオーストラリアの地に根差して軍事行動を行なっている、いわば彼らのホームグラウンドだ。

 機体も最新鋭のグスタフ・カールばかり。ケネスに合流せずに単独行動をしている今が狙い目なのだ。

 強襲ということでΞガンダムのミサイルがMSの待機している場所へ降り注ぐ。鎮圧も終わったからか、MSに搭乗していないパイロットが多かったようだ。棒立ちのまま爆発していくMSたち。サイレンが鳴り響いてスクランブルで上がってくるMSとSFS。

 初撃は気付かれないようにガンダムだけでの爆撃だったが、それで全部を倒せたわけではない。キルケー部隊に変わったはずのオーストラリア方面軍は前の指揮官であるキンバレーにかなりの数が追従したようでMSは三十機以上いた。

 崩壊しかけている建物にもMSを隠していたようで、それは調査不足だったとハサウェイが舌打ちをする。目に見えて固まっているMSが十機程度で、それくらいなら自分たちと数は同数。それに奇襲を仕掛けるのだから十分倒せると思っていたのだが、実に三倍近いMSがバラバラと出てきたのだ。

 

「ここからが地獄だぞ!キンバレーも随分好かれていたらしい!」

「まだ奴らも慌ててる状態だ!むしろ姿を見せ始めたばかりの奴から優先して狙っていけ!」

「建物はできるだけ壊すなよ!キンバレーや生き残りの捕虜がいるかもしれん!情報取得が優先だ!」

「優先事項を気にしすぎて堕とされるなよ!ナハティガル、戦闘は率先して頼む!」

「わかってるよ、リーダー。01、06、07!フォーメーション組むよ!」

 

 イブリースは、エメラルダ、ハーラ、ロッドと一個小隊を組んで応戦する。彼らは長らくマフティーとして参加してMS戦も行なっている、組織の中ではベテランのパイロットだ。

 もう戦場に入るため、マフティーの中で呼ばれるコードネームで呼び合う。イブリースはナイチンゲールに関連する言葉で、メッサーのパイロットたちは機体番号。ハサウェイはガンダムに乗っているし実質リーダーなのでリーダ呼びだ。

 ミノフスキー粒子もまともに散布されていないためにまだ通信が効く。そして、だからこそ彼女はSFSで上空に来たMSを優先して狙い撃ちにし、他の三名にはSFSに乗ろうとしているMSや、まだ動いていないMSを撃ってもらった。

 空ならいくら核爆発を起こしても問題ない。核融合炉がいくら爆発しようと街への被害は少ない。ファンネル・ミサイルの初実施も行い、自分のサイコミュに引きずられるように軌道が変わって逃げようとするグスタフ・カールのコックピットに直撃していった。

 残りの三名はSFSと一緒にジェガンの足を破壊したり、それこそ搭乗前のパイロットがミサイルの爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ。

 一方的にやられる恐怖に、密集して突撃してくるグスタフ・カールたち。それはイブリースにとってはカモでしかなかった。腹部のメガ粒子砲を使って三機とも爆発させた。

 空に上がっているMSを全部撃ち落としたところで他の味方を確認すると、搭乗しようとしている兵士たちへビームライフルを向けて投降を促していた。結構な数の敵を倒してしまったが、事情を聞くには十分な数が残っていた。

 Ξガンダムも同じように上空から脅すことで敵を無力化していた。全てのMSを沈黙させて、ハサウェイから通信が入る。味方への損害はないようだ。

 

「ナハティガル。このまま上空で警戒を頼む。遠征している別働隊がいないとも限らない」

「了解。……上空から見てるけど、かなり一方的だったみたいだね。いくら武装集団でマフティーを騙っていたからって、住民丸ごと焼き討ちなんてする?」

「キンバレーはよっぽど自分の進退に焦ったらしい。ケネスは優秀な指揮官だよ。今後のためにも一部とはいえマフティーを撲滅しないと無能の烙印を押されておしまいだ」

「実際、何人も連邦政府高官を暗殺されてる無能だからね」

 

 マフティーの他のパイロットはMSから降りてキンバレー部隊の捕縛と、オエンベリのマフティー陸軍を名乗る武装集団の生き残りと交渉に向かった。その間イブリースは上空で監視をしていたが、増援も反乱もなく大人しいものだった。

 その代わり、道に落ちている悲惨な死体などをくっきりと見てしまう。強化人間として売られた人間の末路として見慣れているものではあるが、ただの住人も相当やられているだろう。万に近い人間がやられているのは武装集団だけとは言えないだろう。

 連邦という組織はいつもこうだ。最初の宇宙棄民からしてやりすぎる。その結果がジオン公国という反発者を産み出して、結果として自分たちの首を絞める。場当たり的な対処をして、自分たちの私腹を肥やすことを優先して、毎回民が傷付く。

 コロニー落とし、フィフス・ルナ落とし。そんなことばかりだ。

 イブリースはNTとしての能力を発揮して警戒しつつも、そんな連邦のダメなところを考えながら時間を潰していた。

 結果としてキンバレー大佐本人がいたことと、物資はほとんど残っていなかったこと。捕虜になった女性は酷い目に遭っていて、死なせた方がマシな扱いを受けていたこと。男はほとんど殺されていたこと。マフティー陸軍を名乗る連中の生き残りもいて、そことある程度の情報交換をしたことなどを報告として聞いた。

 キンバレーやオエンベリ軍が持っていた情報は微妙なものだ。アデレートでの会議が中国のコワンチョウに変更になったとか、そんな通信がいくつも傍受できたというもの。だがそれはあまりにも明け透けすぎる。だからハサウェイはアデレートから変更になっていないと予測した。

 オエンベリ軍は五千を超える人数が生き残っているらしい。マンハンターからの被害から逃げ出してそのまま反連邦活動に従事している住民がオーストラリア中から集まって、決起したのだという。キンバレーが案外ザルだったこともあってハウンゼンを襲撃するための機体なども強奪できたようだが、そのハウンゼン襲撃という金銭目的の作戦が失敗したのは大きな失敗だったようだ。

 その成果を持ってマフティー本隊と合流して資金援助をしてもらいつつ、連邦政府を脅して金をせびろうとして失敗。その上キンバレーに場所がバレて襲撃されたというのが今回のオエンベリの顛末のようだ。

 そう言われても、そんな大人数を食わせる能力はマフティーにはない。キンバレー隊の生き残りを捕虜にして、政治の駆け引きにするくらいのことしか成果はなかったと言えるだろう。

 だが、かなりの数のMSを撲滅できたというのは大きい。いくら連邦政府が巨大なものであったとしても、MSの調達には時間がかかる。アデレートの会議に参加しないキリマンジェロの軍本拠地で穴熊をしている連中やダカールでふんぞり返っているもの。または地元にいる者などは今のところ暗殺される予定もないのでマフティーへの対応はおざなりだろうとクワック・サルヴァーは予測していた。

 三倍の戦力を撃滅できたというのは本当に大きいことだ。数で劣るマフティーとしてはこういう戦果が欲しいところ。練度が低かろうと、数は時に大きな波になりうる。練度のある敵に囲まれて、たまたま撃った新兵のビーム一発で堕とされるなんてことも戦場では起こり得る。

 情報と物資という意味では成果はなかったが、戦績という意味ではきちんと意味があった。そしてオエンベリでの虐殺の様子を撮った映像を宇宙へ送り出せたという。それらを見せればマフティーが世間で評価されるだろうとオエンベリ軍は考えていたようだ。

 それだけで世論が動かせるかわからないが、情報戦を仕掛けることは大事だ。正規軍が虐殺をしたというのは風聞が悪いのも事実。このことを踏まえてヴァリアントへ戻り、次の作戦を考えることになった。

 

 

 ハウンゼンでハサウェイと出会っていた不思議な少女、ギギ・アンダルシアはケネス大佐とやり取りをしつつも本来の目的である香港へ向かっていた。彼女のパトロンであるカーディアス・バウンデンウッデン伯爵の住むアパートメント・ビルを整えなければならなかったからだ。

 そうして部屋の内装を整えていて、次の日。彼女は思い立ったかのようにランニングに出かける。身体の維持も愛人としては必要なことだ。そういう名目で、あとは住居の近くを見ておきたいという意思表示で彼女は走りに行く。

 ある程度街並みを見回って、アパートメントから離れた場所で電話ボックスを見つけた。通信機器が宇宙世紀になって発達したとはいえ、ミノフスキー粒子の関係もあるからか海底の通信ケーブルは宇宙世紀になっても有効だった。

 ギギの手持ちの通信機器では着信履歴が残ってしまう。それに香港へ彼女はケネス大佐の融通で移動できていた。連邦軍の監視、そして高級住宅街とはいえ治安は微妙だと聞いていたために誰にも聞かれない個室の電話ボックスというのは便利だった。

 そこでケネスから貰っていたハサウェイの移動先、アマダ・マンサン教授の研究室へコールをかけた。彼女は自身の直感に従って行動をしたかったのだ。

 そこで香港に移動するまでに同行していた連邦政府の関係者が多く語っていたアデレートという単語から、ハサウェイの知りたがる情報だろうなと思い教授へ情報を流していた。ハサウェイの声を聞きたかったのも事実だが、おそらくオーストラリアにいるんだろうなと思っていたので意外でもなかった。

 インテリジェンスを感じるアマダ教授との会話でハサウェイをデートに誘うていで彼女はアデレートのことを伝える。

 それを伝えた夜、彼女はニュースでダバオの大量殺戮を知る。連邦軍とマンハンターが一緒になって逮捕者と死傷者を大量に出したというのだ。そこにキルケー部隊の名前もあり、ケネスが関わったということも必然的に知る。

 彼女も少し前まではいたダバオだ。ジェガンに乗ったマン・ハンターの横暴はダバオでもあったと聞いていたが、100人を超える死傷者とそれ以上の逮捕者を出すというのは民意がどう動くか。

 彼らはマフティーの攻撃に煽られる形で暴動を起こしたようだ。それの鎮圧にしても威圧的すぎる。マン・ハンターはいつもそうで、こうやって民衆へ恐怖を植え付けて反乱の芽を潰そうとする。

 だが、それは逆効果だとしかギギには思えなかった。

 

「それは正しくないよ、大佐……」

 

 そのニュースをきっかけに、彼女はオーストラリアで今何が起きようとしているのか自分の目で見たいと思った。それはパトロンたる伯爵を裏切る行為だった。だから仕事としてアパートメントを整えてから彼女は香港を飛び出る。

 アマダ教授と電話をしたものの、直接マフティーの居場所を聞くなんて無理だ。そのため彼女はひとまずケネスの伝手を頼るしかない。アパートメントの守衛などに手を振って、彼女は香港を脱出した。

 伯爵への選別は残してきた。あとは自分勝手に生きるだけ。

 彼女は惹かれつつあるハサウェイの元へ、ただ駆けつけたい一心で、敵対しているケネスさえも利用してみせるのだ。

 

 

 ヴァリアントに戻ったハサウェイたちは様々な情報を結合させていた。アマダ教授からはギギからの伝聞によるアデレートでの議会実施の兆候。オエンベリで手を取ることはなかったフォビオたちの、連邦政府高官たちのコワンチョウへの脱出ルートへの襲撃予定。そしてヨーロッパからオーストラリアへ補給がありそうだという連邦軍の動き。

 そしてケリアが情報収集のためにヴァリアントから飛び出して行ったこと。

 それらを統合して、やはり議会はアデレートで実施されるのだろうと判断する。その上でこちらの補給状況なども情報が届いて、MSパイロットが一堂に集まって今後の方針が話された。

 ヴァリアントはあくまで海上艦。アデレートまでの足であり、襲撃には使えない。今もアナハイム・エレクトロニクスの船だと偽装して用いているので、この辺りでおさらばだ。

 MS部隊は各々地球の臍、エアーズロックに向かう。そこで最後の補給を受けてアデレートまで飛んで襲撃をかける予定だ。湾岸で受ける補給が一回、エアーズロックで受ける補給が一回。それが終われば総力戦だ。

 物資のリストを見て、補給に足りないものはないか確認していく。これ以降は打診しても間に合わない可能性があることと、ヴァリアントの居場所を教えることになるのでこれが最終チェックとなった。

 人員の不足を嘆き、メッサーの予備パーツやSFSのギャルセゾンが補給されることから新人だろうと幾らかは人員補充がされることを神に祈るという、あまりしたくないことをする面々。

 神を信じていないイブリースはナイチンゲールの武装をあまり消耗しておらず、攻撃も受けていないことから今のところ補給パーツは足りていた。Ξガンダムと共通のファンネル・ミサイルも十分以上に補給されているので、彼女としても追加発注はなかった。カーゴピサの回収が上手くいったことが大きい。ビームライフルなどの予備も余っているために、予備パーツは今のところ潤沢だった。

 アデレートへの道は、連邦軍の基地も複数あることからかなり困難な道だ。だからこそ、ハサウェイは全員を見渡して覚悟を決めて言う。

 

「すまないが、困難な道だ。堪えてくれ。そして……みんなの命を、預けてくれ」

「ノア。今更だよ。反連邦運動に参加した時点で、もう命はチップしてる。MSでやられるか、オエンベリみたいに蹂躙されるか。そんなのは覚悟の上で連邦軍と戦う道を選んでる。一蓮托生だよ。こんな命、使い潰して」

「そんな言い方をするな、イブ。……そんな言い方は、ダメだ」

「……ごめん。話し合いは以上かな?今日は薬を飲んで休むよ」

 

 イブリースはそう言って、ゆっくりとした足取りでシーラックへ向かう。その遅い足取りと、さっきの発言からハサウェイとイラムは彼女の後ろ姿を悲しげに見つめていた。

 

「ねえ、ハサウェイ。……イブリースはいつまで保つの……?」

「クワック・サルヴァーの見立てでは、あと数年。三十歳までは生きられない、らしい。十年以上の無茶な強化で彼女はだいぶ肉体機能を損傷している。……それが、強化人間だ」

 

 それが強化人間の定め。ノウハウもないままNTという幻想を追い求めて、間違いを間違いと気付かないままNTへのカウンターとして用意された紛い物。特に彼女の場合はネオ・ジオンを名乗る反乱勢力が猛威を奮っていた時に用意されたハイコスト・タイプだ。

 ジオンから強化人間の資料を手に入れようと、何度もコロニー落としやダカール襲撃をしてみせたハマーンや、予測通りに連邦へ反旗を翻したシャア・ダイクンに対するカウンターとして作成されたエースパイロットの模造品だ。

 たとえシャアの反乱が起きずとも、ロンド・ベルを抑えるための隠し札としても育成されていた、連邦軍の秘密兵器。コストも寿命も度外視にして、自分たちの安全のために切り捨てた兵器でしかない。

 彼女が女性としての機能をいくつも失っていることは知られている。まるで最後の命の灯火を燃やすかのように苛烈にMSを操るイブリース。そんな彼女を戦力として頼らなければならないほどの弱小戦力。それが現時点でのマフティーだった。

 

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