見たかったから書いた

若いゼルレッチの口調も朱い月の口調も妄想です

だって原作に無いからね!!


※一応Fate世界線想定です
旧二十七祖第三位の詳細が分かれば月姫世界線でも良かったんですが……

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万華鏡に見えるは砕けた月か

 薄暗い時代の夜。

 

 月は不気味なほどに朱く、そして巨大だった。

 

 後に「魔術師」と「死徒」の生存競争として語り継がれることになるその戦争は、世界の裏側を完全に二分していた。

 魔術師たちを束ね、前線に立つのは

 

 

 魔道元帥キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ

 

 対する死徒の頂点に君臨せしは、地球の支配を目論む月の原初の一(アルテミット・ワン)──朱い月のブリュンスタッド

 

「第二の魔法使い」と「タイプ・ムーン」。

 神域に等しい両雄が激突した理由は、拍子抜けするほどに簡潔だった。魔法使いが、傲慢なる月の王をただ【気に入らない】と思った。

 

 それだけである。その至極個人的な不快感だけを理由に、魔法使いは魔術協会をまとめ上げ、人智を超えた戦端を開いたのだ。

 

 

 戦況はほぼ互角──

 否、客観的に見れば些か死徒の側が優勢であった。

 原理血戒(イデア・ブラッド)

 王から冠を賜った二十七の眷属──死徒二十七祖

 

 その実力は、とうに通常の生命という器を破綻させている。ある者は城、ある者は森、ある者は神代の魔術を。ある者は翼を持って戦場を蹂躙した。

 

 彼ら埒外の存在は戦場を文字通り喰らい尽くし、大地に流れる魔術師たちの血河を渇望のままに飲み干していく。しかし、どれほど前線が凄惨を極めようとも、この戦争の天秤を決定づけるのは「将」たる二人の決着をおいて他にない。

 

 一方は、平行世界を渡り歩き、世界の運営すら可能とする魔法使い。 

 

 一方は、一つの天体においてたった一つしか存在し得ない、最強の生命体。

 

 両者、共に見劣りすること無き存在であった。

 

「──ほう」

 

 朱い月が退屈そうに七色に偏食する、その瞳を細めた。彼の周囲の空間が、その意思一つで歪み、自重に耐えかねたように崩壊していく。それは物理法則の改変などという生易しいものではない。月の王が存在するだけで、地球の環境(テクスチャ)が侵食され、上書きされて行くのだ。

 

「私に牙を剥いた無謀は称えよう、魔術師。だが、星の代弁者たる我の前に、お前の『魔術』などという児戯がいつまで持つかな?」

 

「ふん、尊大な奴だ。月での引きこもり生活が長すぎて、少し頭が固くなっているんじゃないなかね? 異星の王よ」

 

 ゼルレッチは不敵に笑い、手にした宝石の剣を軽く振るった。その瞬間、彼の背後の空間に、無数の「窓」が開く。

 

 無数の「窓」の向こう側──それは無限に連なる平行世界。ゼルレッチが剣を引けば、数多の可能性から汲み上げられた莫大な魔力が、濁流となって現界した。

 

「我が権能は、天体の模写。この星の因果ごと、貴様を無に還してくれよう」

 

 朱い月が静かに手をかざす。その瞬間、空間を構成する「元素」そのものが彼の意志で強制的に生成・合成され、組み替えられていった。大気が、光が、重力さえもが月の王の絶対的な支配下で超高密度のエネルギーへと変貌し、ゼルレッチへと押し寄せる。それは世界そのものが牙を剥く、圧倒的な質量と法則の暴力。

 

 だが、万華鏡の魔法使いが退く事はない。

 

「お前が世界を書き換えるというのなら、こちらは無限の今を叩きつけるまでよ!」

 

 ゼルレッチが宝石の剣を突き出す。大気という触媒を介さず、並行世界から直接引き込まれた魔力の奔流。それは文字通り、尽きることのない力技の結晶だった。

 

 

 両者の激突は、音を置き去りにした衝撃波となって大地を爆砕した。朱い月が生成する、空間ごと圧殺する超質量の盾。それをゼルレッチは、無限の窓から供給される純粋な魔力の砲撃によって、ただ力任せに撃ち砕いていく。

 

「ほう、無限の魔力源か。だが、器が人間の肉体である以上、出力には限界があるのだろう?」

 

 朱い月の虹の魔眼たる瞳が輝き、空間の元素をさらに超圧縮し現実では存在があり得るのすら分からない物質を放出する。

 

 しかし、ゼルレッチは不敵に笑う。彼が剣を振るうたび。個人の限界を超えた超絶的な魔力が、空間の支配権を強引に奪い返す。戦場は、一瞬ごとに生成される新たな物質と、それを消滅させる無限の光で満たされた。神域の撃ち合いは、周囲の地球の現実を崩壊させていく。

 

 

 そして遂に朱い月が右手を掲げた。それだけで、夜空に浮かぶ朱い月が、さらに肥大化したかのように錯覚する。いや、錯覚ではない。彼は鏡像しかして本物と同等の月を具現化したのだ──自らの故郷である月をそのまま質量兵器として地球へと降ろし、万物を圧殺せんとゼルレッチの頭上へ叩きつけようとしたのである。

 

 並の魔術師であれば、そのプレッシャーだけで魂ごと圧壊していただろう。だが───

 

「お前の世界は、ここで終わりだ魔術師」

 

「断る。俺の第二魔法(万華鏡)、舐めてもらっては困るな!」

 

 ゼルレッチの瞳に、万華鏡のごとき極彩色の光が宿る。彼が操るは平行世界の運営。無限に存在する可能性の選択と適用。

 

 頭上から降り注ぐ、星の質量を持った一撃。

 

 それに対し、ゼルレッチは「無限に存在する平行世界」から、あり得たはずの莫大な魔力を瞬時に引き出し、宝石剣をもって一本の光の束へと収束させた。無限から汲み上げられる魔力の奔流は、もはや一つの惑星にすら匹敵するエネルギーの渦となって、朱い月の絶技へと正面から激突した。

 

 後の世にて『無尽エーテル砲』と呼ばれるその一撃は朱い月の『月落とし』と激突し世界に悲鳴を上げさせた。

 

 

 朱と極彩色が混ざり合い、周囲の空間そのものがガラスのようにひび割れて砕け散る。ただ二人を媒介として、地球と月の力が、元素と魔法が、宙の狭間で激しくせめぎ合う。

 

「……何……!?」

 

 朱い月の顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。自身の絶対的な力が、ただの一人間の、それも「魔術」の延長戦場と思っていた技に押し返されようとしている。

 

 違う、今、月は───

 

 「しかし、月は綺麗だな。だが、それも直に壊れるが」

 

 「馬鹿な……何をしているのだ、貴様は……!?」

 

 「言ったろう? お前の月を壊しているのだよ」

 

 「我が月を……! 鏡像と言えど砕くなど有り得ん!!」 

 

 「砕けるだけの魔力を、用意したまで。──お前は魔法について。少々不勉強が過ぎたな、朱い月」

 

 ──凄絶な咆哮と共に、極彩色の光軸が朱い月の盾を、その概念ごと貫いた。

 

 無限の並行世界から汲み上げられた魔力は、一人の人間という器の限界をとうに超え、ゼルレッチの肉体を内側から焼きながらも天体規模の質量を圧倒していく。

 

 押し寄せる『無尽エーテル砲』の光。それは朱い月が降らせた擬似天体を真っ向から真っ向から撃ち破る。

 

 世界に、硝子がひび割れるような硬質な音が響き渡る。

 

 月の王が絶対の拠り所とした、夜空の象徴。それが万華鏡の光に侵食され、まるで鏡の玩具のように美しく、そして無残に砕け散っていく。

 

「見事だ、魔術師……! 認めよう、お前は我が領域を侵したと」

 

 光の奔流に呑まれ、肉体を分子レベルで崩壊させながらも、朱い月は傲然と笑った。

 

 肉体は滅びる。だが、星の代弁者たる彼の意思は死なない。彼は己が地球(ガイア)霊長(アラヤ)の抑止力から廃絶される未来というものを少なからず察していた、そしてその未来にあったとしても地球を我が手に出来るよう「器」へと転生する呪いをこの星に深く刻み込んでいたのだ。

 

 爆発的な光が収束したとき、そこには静寂だけが残されていた。月の王は消え去り、夜空には砕け散った月の破片が、まるで万華鏡の狂い咲く花のように美しくきらめいていた。

 

「……ふん、大言壮語の割には、往生際の悪い奴め」

 

 ゼルレッチは宝石の剣を杖代わりに、荒い息を吐きながら大地に膝を突いた。

 

 勝った。しかし、代償はあまりにも大きかった。限界を超えて魔法を回し続けたその肉体は急速に老化し、全盛期の肉体は見る影もなく衰退していく。

 

 これより始まるは、王を失った二十七祖たちと魔術師、聖堂協会の泥沼の争い。そして、いずれ現れるであろう「朱い月の後継者」を巡る、永きに渡る世界の裏側の暗闘。

 

 その事を予見しながら彼は月の光を浴びながら不敵に口角を上げる。

 

「だが──あぁ、せいせいした。胸のつかえが取れたな」

 

 魔法使いは、本物の月を仰ぎ見ながら、ただ一言、そう満足気に呟いた。

 


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