その後、構想を詰めていったところ、ユトが聖剣を引き抜きました。
なんで?
テイルズオブゼスティリアリメイク、DLCが発売された。
「TOZ-R アフターエピソード」
どうやら、エンディング後の世界を舞台に、物語が展開されるらしい。
主人公はユト。
お前かよ。
DLC主人公の座まで奪うのかよ。
無法だわ。
原作キャラの見せ場を奪わないんじゃなかったのか。
内容としてはこうだ。
ユトは、スレイが眠りについた後の世界で、浄化担当者が存在しないことを問題視している。
そのため、ライラに聖剣を引き抜いてもいいかと尋ねる。
ライラ「本当に、導師になるおつもりなのですか?」
ユト「聖剣を引き抜けば、制度上は導師に該当します。ただし、スレイさんと同じ意味で、その名を掲げるつもりはありません。必要なのは浄化機能です」
ユト「ただし、導師になる具体的なメリットとデメリットを言える範囲で教えてください」
契約時に条項はしっかり確認する。ユトなので。
こうしてユトは、制度上の導師となった。
だが、自分からその名を掲げることはない。恒常的な神依もできない自分を、スレイと同じ意味で導師と呼ぶつもりはないらしい。
今作のロゼとアリーシャは、どちらも導師になり得るだけの霊応力と覚悟を持っている。
ユトが先に聖剣を引き抜いたからといって、その可能性まで失われたわけではない。
導師になってもいい。
ならなくてもいい。
だが、最初に聖剣を引き抜いたのはユトであった。
やっぱり奪ってるじゃないか。
ユトは、スレイが眠り続けている世界で、ライラと共に浄化の旅を続ける。
その中で、ロゼやアリーシャ、他の天族たちと再会するのであった。
リメイクでは、原作DLCで炎上の一因となったロゼの振る舞いは、かなり穏当になっている。
アリーシャを「仲間じゃない」と突き放すこともない。
これは、TOZ-R終盤で既に一緒に旅をしてきた経験があるからだろう。
共に眠るスレイを見守った、止められなかった者同士、二人の間には既に連帯感があった。
それはそれとして、ロゼとアリーシャは、自分たちにも憑魔の浄化を担わせてほしいとユトに申し出る。
そのためには、ユトとの従士契約が必要になるらしい。
ユト「従士契約は可能です。ただし、二人分の負荷を受けた場合、私は戦力として機能しない可能性があります」
ロゼ「それって、やめた方がよくない?」
ユト「任せましたよ」
アリーシャ「何をですか?」
ユト「戦闘を」
アリーシャ「契約前から戦力外になる予定なのですか?」
ユト「任せましたよ」
ロゼもアリーシャもユトにかかる負荷を心配していたが、ユトは自分が戦力にならないことを心配していた。
その後、ユトは二人に負荷と危険性を改めて説明した。
それでも浄化を担いたいという意思を確認した上で、ロゼとアリーシャは、それぞれユトと従士契約を結んだ。
ユト「……思ったより、負荷が少ないですね」
本人も驚いている。
これには原因がある。スレイが眠りについたことで世界全体の霊応力が上昇しているためだ。
ユト「これなら私も戦えそうです」
こうして、パーティーが結成された。
ところで、アリーシャと従士契約する際にユトは衝撃の発言をした。
ユト「真名は『そぞろ涙目のアリーシャ』、というのはいかがでしょうか」
お前が言うんかい。
そういやこいつ炎上論点スタンプラリーだった。
アリーシャ「それは、どのような意味なのでしょうか」
ユト「泣いてもよいのですよ、という意味です」
ロゼ「泣いてもいい、か。あたしは好きだな。アリーシャって、何でも一人で抱え込んじゃうところあるじゃん」
ミクリオ「だが、その言葉から意図が伝わるか?」
ユト「しかし、泣くことを禁じられていない者、という意図で――」
ザビーダ「真名は手紙書くところじゃねえぞ」
ユト「……マオクス=アメッカ*1に戻します」
アリーシャ「泣いてもよい、というお言葉だけ頂きます」
ユト「はい」
ここで言葉の意味を辞書で調べてみる。
そぞろ:これといった理由もなしにそうなるさま。
涙目:涙ぐんだ目。泣いている顔。
つまり「そぞろ涙目」とは「これといった理由もなく涙ぐんでいる」みたいな意味になる。
ユトはこの言葉に「理由がなくても泣いてよいのですよ」という意味を込めたかったらしい。
超好意的に解釈すると、そうなる。
アリーシャだけでない。ロゼにもユトは不適切な真名を与えようとする。
ユト「ロゼさんの真名は、『罪を忘れない殺人者ロゼ』というのはいかがでしょうか」
ロゼ「いかがじゃない」
ミクリオ「なぜ長所と犯罪歴を同時に刻んだ」
ユト「ロゼさんの長所は、自身の殺人を、都合のよい理屈で無かったことにしない点ですので」
エドナ「説明するほど悪化してるわよ」
ザビーダ「真名に犯罪歴を記載すんな」
アリーシャ「ユト様、命名から一度離れてください」
ユト「では、『罪を忘れないロゼ』ならば」
ロゼ「殺人者だけ消せばいいと思ってる?」
ユト「……ウィクエク=ウィク*2のままにします」
ここで、「ユトは本気で考えているが、命名者に向いていない」という側面が描かれる。
ユーゼクスを名付けたのがスレイで本当に良かった。
本DLCでは原作通り、アリーシャはマルトランの幻影との決着をつける。
未練を断ち切らせてくれてありがとう。幻影を作ったサイモンにそう告げるアリーシャは、とてもまばゆかった。
人々を目覚めない夢に閉じ込め、己の加護を呪ったサイモンにとって、こうもまっすぐ、自分の存在を認めてもらえたのは、きっと初めてだったのだ。
サイモンは、わずかに顔を歪めた。
「……そう。結局、私は何の意味もなかった」
「いいえ」
アリーシャは即座に否定した。
「貴方のしたことを、正しいとは言いません」
「それでも、貴方が作った幻影と向き合ったからこそ、私は未練を断ち切り、前へ進むことができました」
「ヘルダルフの孤独を癒せなかったことと、貴方の存在に意味がなかったことは、同じではありません」
サイモンは黙った。
誰かがそばにいることと、孤独でないことは同じではない。
だが、孤独を癒せなかったからといって、そばにいた者の存在まで無意味になるわけではない。
サイモンの夢が人を閉じ込めたのは、悪夢だったからではない。むしろ、失ったものが戻る、あまりにも心地よい場所だったからこそ、現実へ帰る理由を奪ってしまったのかもしれない。
ところで。
もしかして導師ユト、アリーシャの見せ場まで奪っているわけではない?
DLC主人公という座は確かに奪った。
だが、マルトランの幻影と決着をつける役も、サイモンへ言葉を届ける役も、アリーシャのままだ。
ユトが担当しているのは、浄化と従士契約、そして従士へ真名を与えることだ。
こいつ、主人公の席には座っているのに、物語の答えを横取りしていない。
お前、何のために導師になったんだ……?
ところで、このアフターエピソード。
街の人々に話しかけると、天族の気配を感じ取れる人間が増えている。
まだ明確に会話できる人間は少ないが、スレイの眠りは確かに世界を変えていた。
「昔色々あって、人間がちょっと苦手」と語る天族もいる。ユトは、「それなら無理に関わる必要はありません」と返す。「ただし、人間の代替わりは激しいため、現在の人間と過去の人間は全く違う価値観を持っている可能性があります」とも。
「天族に祈るってどうやるの?」と尋ねる子供には、アリーシャが「そこにいると信じることだ」と教えてくれる。
少なくとも、そこにいた天族は「人間よ我を崇めろ」とは言っていない。ただ、自分の存在を否定されず、ひとりの相手として尊重されたかっただけなのだ。
子供「じゃあ……こんにちはって言えばいい?」
アリーシャ「ああ。それで十分だと思う」
子供は、誰もいないように見える空間へ向き直った。
「こんにちは。ぼくにはまだ見えないけど、そこにいる?」
返事は聞こえなかった。
風が吹いて、吊るされた飾りが小さく揺れた。
子供は目を丸くした。
「今、返事した?」
アリーシャは笑った。
「ああ。笑顔で手を振っている」
スレイは、まだ目覚めない。
街を歩いても、彼の姿はどこにもない。
彼を知る者たちは待ち続け、彼を知らない子供たちは成長していく。
それでも、スレイの眠りは、ただの不在ではなかった。
天族の気配を感じる者が一人増える。
見えない相手へ挨拶する子供が現れる。
人間を避けていた天族が、今すぐではなくてもよいなら、と街の近くへ留まる。
世界は救われた瞬間に変わったのではない。
スレイが眠り続ける時間の中で、少しずつ変わり続けていた。
***
余談だが、後に発売された設定資料集では、ユイの加護が判明している。
「周囲の人間が、天族を知覚しやすくなる」
という効果だ。
世界全体の変化はスレイの眠りによるものだが、ユトの周囲では、ユイの加護がその変化を小さく後押ししていたらしい。
「存在する」という真名に、これ以上なく相応しい加護だと思う。