俺が買った『猿でも分かる魔法の使い方』が本物の魔導書だったので、とりあえず確率操作で無双します【リメイク】   作:パラレル・ゲーマー

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第13話 猿と大臣スキャンダルと震度五弱

 月曜日の午後。

 

 佐藤健司は、いつもと同じようにノートPCの前に座り、証券口座の取引ツールと睨み合っていた。

 

 画面では、無数の数字が赤と緑に明滅し、チャートが波打ち、板の注文が秒単位で書き換わっている。

 

 だが、今日の健司の頭の中は、どこか上の空だった。

 

 エントリーのタイミングを探りながらも、意識の片隅には常に、土曜日に自分が5ちゃんねるのオカルト板に書き込んだテキストが張り付いていた。

 

【予知者K ◆Predict/K】として投下した、初めての相場以外の予知。

 

 三日以内。黒部慎一郎大臣。政治資金パーティー収入の不記載。二千万円台。夕刊系ネット記事。

 

 投稿してから、二日ほどが経過していた。

 

 だが、現実の世界ではまだ何も起きていない。

 

(……このまま、何も起きないんじゃないか?)

 

 健司は、モニターの端に小さく開いたニュースサイトをちらりと横目で見ながら、そんなことを考えていた。

 

 株のデイトレードなら、自分の予想が当たれば純粋に嬉しい。金が増えるという絶対的な快感がある。

 

 だが、政治スキャンダルは違う。

 

 当たるということは、現実に誰かの不正が暴かれ、マスコミが動き、一人の政治家が窮地に追い込まれるということだ。自分の書き込みが、その生々しい現実のドロドロとした事象とリンクしてしまう。

 

 いっそ、外れてくれた方が気が楽なのではないか。

 

『ノイズが混じっているぞ、猿』

 

 不意に、スマートフォンの画面が明るくなり、魔導書からのメッセージが届いた。

 

『市場を見るなら市場を見ろ。お前の集中力は今、三割方あっちに持っていかれている』

 

 健司は舌打ちをして、キーボードを叩いた。

 

「無理だろ。あんな生々しいこと書かされて、普通に集中できるかよ」

 

『書いたのはお前自身だ』

 

「お前が書けってけしかけたんだろうが」

 

 健司はため息をついた。

 

 魔導書の言う通りだ。今は目の前のチャートに集中しなければ、簡単に市場に食われる。

 

 彼は首を振り、再びデイトレードに意識を戻そうとした。

 

 午後五時過ぎ。

 

 株式市場がすでに大引けを迎え、健司がその日の戦績をまとめようとしていた時だった。

 

 机の上に置いていたスマートフォンが、狂ったように連続して震え始めた。

 

 Xの通知だ。

 

 一つや二つではない。数十、数百という単位で、急激に通知バッジの数字が跳ね上がっていく。

 

「なんだ……?」

 

 健司は眉をひそめながらスマホを手に取り、タイムラインを開いた。

 

 目に飛び込んできたのは、一つのニュースアカウントの速報だった。

 

【夕都オンライン】

 黒部慎一郎内閣府特命担当大臣に、政治資金パーティー収入不記載の疑惑が浮上。

 関係者によると、不記載額は約二千四百万円にのぼる可能性。

 野党は明日以降の委員会で、説明責任を厳しく追及する構え。

 

【ニュース速報】

 黒部慎一郎大臣に金銭スキャンダル報道。

 政治資金パーティー収入の不記載か。

 初報は夕刊系ネットメディア「夕都オンライン」が報じた。

 

 健司は、画面を見た瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。

 

「……出た」

 

 黒部慎一郎。金銭スキャンダル。パーティー収入不記載。二千四百万。夕都オンライン。

 

 予知した要素が、恐ろしいほど完璧に一致していた。

 

『一つ目、的中だな』

 

 魔導書からの短いメッセージ。

 

 だが、健司は全く喜べなかった。

 

 株で勝った時のような、脳汁が溢れ出すような高揚感は微塵もない。代わりに、腹の底に重く冷たい石を落とされたような、気味の悪い感覚だけが広がっていた。

 

「本当に出たのかよ……」

 

 彼はすぐさま、PCのブラウザでオカルト板の【予知・予言総合スレ】を開いた。

 

 スレッドは、すでに凄まじい勢いで流れ始めていた。

 

 712:本当にあった怖い名無し

 おい

 

 713:本当にあった怖い名無し

 出たぞ

 

 714:本当にあった怖い名無し

 黒部マジで出たじゃねえか!! 

 

 715:本当にあった怖い名無し

 夕都オンラインの記事来てるぞ

 

 716:本当にあった怖い名無し

 二千四百万wwwww

 

 717:本当にあった怖い名無し

 三日以内、政治資金パーティー、不記載、二千万円台、夕刊系ネット記事

 全部合ってるじゃん……嘘だろ? 

 

 718:本当にあった怖い名無し

 いやいや、政治家の金銭問題なんて掘ればいくらでも出るし、ありがちだろ。

 

 719:本当にあった怖い名無し

 ありがちでも、黒部を名指しして金額のレンジから初報のメディアまで当てたのは何なんだよ。

 

 720:本当にあった怖い名無し

 これ、政治記者界隈では数日前から噂あったんじゃね? 

 ただの情報漏洩だろ。

 

 721:本当にあった怖い名無し

 つまり、予知じゃなくてただの情報通? 

 

 722:本当にあった怖い名無し

 株のK本人なら、情報収集能力が異常に高いだけって可能性は十分にあるな。

 

 723:本当にあった怖い名無し

 でも初報が夕刊系ネット記事ってところまで合ってるのは気味悪い。

 

 724:本当にあった怖い名無し

 予知者K、出てこいよ。

 

 725:本当にあった怖い名無し

 本人どこだ。震えて眠ってるのか? 

 

 726:本当にあった怖い名無し

 これで逃げたら笑うわ。

 

 板の住人たちの反応は、「完全に信者化した」わけではなかった。

 

 彼らもネットの海を長く泳いでいる。たった一度の的中で狂信したりはしない。「情報通だっただけ」「たまたま当てずっぽうがハマった」という防衛線を張りながら、それでも隠しきれない動揺でざわついている。

 

 Xの株クラ界隈にも、この波紋は一気に広がっていた。

 

【株クラまとめ速報】 @kabu_matome_sokuho

【速報】株のK、オカ板で投下した黒部大臣スキャンダル予知が的中か

 ・三日以内

 ・黒部慎一郎大臣

 ・政治資金パーティー収入不記載

 ・二千万円台

 ・夕刊系ネット記事

 だいたい合ってる模様。相場の預言者、政治にも進出。

 

【含み損OLミナ】 @mina_kabu_loss

 え、Kさんの黒部大臣のやつ、当たってません……? ちょっと鳥肌立ちました。

 

【損切り侍@退場寸前】 @samurai_cut

 株だけじゃなくて政治まで当てるの、本気で怖いです。Kさん何者なんですか。

 

【板読み初心者タケ】 @take_itanomi

 初報媒体と金額レンジまで合ってるのは、偶然と言い切れない気がします。

 

【株負け太郎】 @make_taro_loser

 いや、政治家の金銭問題なんて時期的にいくらでも出るだろ。一個当てたくらいで騒ぐなよ信者ども。

 

【検証メモ用】 @kensho_kabu_log

 予知者K初回予知、現時点で的中要素多数。

 ただし、本人が「予測予知に近い」と表現していた点に注意。

 事前情報、政治記者界隈の噂、並外れた情報収集能力による可能性は残る。

 継続検証対象とします。

 

【T】 @T_kansoku

 一つ目。

 

 健司は、ニュースの画面とネットの反応を交互に見つめていた。

 

 黒部大臣の顔写真が並び、「説明責任」「野党追及」「会見要請」といった見出しが躍っている。

 

 政治家に同情する必要はない。不正が事実なら暴かれるべきだ。

 

 だが、自分が見てしまった未来が、こうして現実として立ち現れたことに、健司は得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 株価の上下とは違う。そこには、具体的な人間がいる。秘書、記者、支援者、家族。自分の予知が、現実のドロドロとした人間の因果に触れてしまったのだ。

 

「……これで軽いのかよ」

 

 健司は額の汗を拭いながら、魔導書にメッセージを送った。

 

『軽い』

 

 魔導書は平然と即答した。

 

『不正が表に出るだけだ。人が死ぬわけではない』

 

 その言葉に、健司は顔をしかめた。

 

「その言い方、やめろよ……」

 

『感傷に浸っている暇はないぞ。オカ板のスレッドを見てみろ。連中がお前を呼んでいる。出ていって、結果を回収しろ』

 

 健司は深呼吸をして、オカルト板の書き込み欄にカーソルを合わせた。

 

 ここでドヤ顔で勝利宣言をするのは違う。あくまで淡々と、事実だけを述べる。

 

 742:予知者K ◆Predict/K

 一つ目、的中として記録します。

 

 ただし、これは予測予知に近いです。

 すでに現実側に前兆が多かった可能性があります。

 完全な未知予知とは言えません。

 

 ログを保存してくれた方、ありがとうございます。

 

 書き込んだ直後、スレッドの流れる速度がさらに上がった。

 

 743:本当にあった怖い名無し

 本人来たぞ! 

 

 744:本当にあった怖い名無し

 当てたのに冷静で草

 

 745:本当にあった怖い名無し

 もっとドヤるのかと思ったわww

 

 746:本当にあった怖い名無し

 予測予知って言い張るのか。謙虚だな。

 

 747:本当にあった怖い名無し

 いや、本人が「これはまだ疑える」って自分で言ってるんだろ。

 

 748:本当にあった怖い名無し

 この冷静さが逆に怖いんだが。

 

 749:本当にあった怖い名無し

 完全な未知予知じゃないって言うなら、未知予知やってみろよ! 

 

 750:本当にあった怖い名無し

 そうだよ、地震当てろって言ってただろ! 

 

 751:本当にあった怖い名無し

 宝くじは? ロト6の番号教えてくれ! 

 

 752:本当にあった怖い名無し

 宝くじより地震の方が検証しやすいだろ。

 

 753:本当にあった怖い名無し

 地震は外れたらデマで捕まるからやめとけww

 

 754:本当にあった怖い名無し

 でも未知予知ってそういうことだろ。K、やれるもんならやってみろ! 

 

 住人たちが、明らかに「次」を求めて煽り始めていた。

 

 健司は画面を見つめたまま、再び魔導書にメッセージを打つ。

 

「地震当てろって言われてるぞ……。やるのか、本当に」

 

『やる』

 

「馬鹿言うなよ。地震なんて、外れたら悪質な災害デマだ。当たったとしても、人を不必要に怖がらせてパニックを起こすだけだろ」

 

 健司は強く反発した。

 

『だから、煽るなと言っている』

 

 魔導書の言葉は、いつになく厳格だった。

 

『被害規模に応じた“備え”だけを書け。水を買い占めろなどと無責任なことを言うな。不安ではなく、行動を促せ』

 

『いいか、猿。予知は恐怖を煽るためのものではない。未来に備えさせるためのものだ。それを履き違えれば、お前はただの迷惑な災害デマ屋に成り下がるぞ』

 

 その言葉に、健司ははっとした。

 

 ただの面白予言者ではなく、預言の重さを自覚しろということか。

 

「……分かった」

 

 健司は小さく息を吐き、まずは板へ向けて、改めて分類を書き込むことにした。

 

 760:予知者K ◆Predict/K

 改めて整理します。

 

 予測予知は、現実側の前兆を読むものです。

 相場、政治スキャンダル、企業トラブルは、ここに近い場合があります。

 

 未知予知は、自分が情報を持っていない未来を拾うものです。

 地震、突発的な障害、事故などが近いと思います。

 

 上位者予知は、今の自分では扱えません。

 無理に見ようとするつもりもありません。

 

 761:本当にあった怖い名無し

 また設定語り来たぞ

 

 762:本当にあった怖い名無し

 でも分かりやすい

 

 763:本当にあった怖い名無し

 黒部は予測予知だからノーカンってこと? 

 

 764:本当にあった怖い名無し

 ノーカンではないけど、情報通で説明できる余地ありってことだろ

 

 765:本当にあった怖い名無し

 じゃあ未知予知やってみろ

 

 766:本当にあった怖い名無し

 地震地震

 

 767:本当にあった怖い名無し

 災害予知は洒落にならんからやめろ

 

 768:本当にあった怖い名無し

 震度3くらいなら平和

 

 769:本当にあった怖い名無し

 震度3なんて日本ならそのうち当たるだろ

 

 770:本当にあった怖い名無し

 じゃあ震度5弱くらいで

 

 771:本当にあった怖い名無し

 軽く言うなw

 

 772:本当にあった怖い名無し

 場所と時間まで指定したら認める

 

 健司は目を閉じた。

 

 そして、意識を深く沈めていく。

 

 黒部大臣のスキャンダルを見た時とは、感覚が全く違っていた。あの時は人間の欲や記者の動き、情報の流れといった「社会の波」を感じ取った。それは株の相場を見る感覚に近い。

 

 だが、地震は違う。

 

 そこには人間の欲望がない。板も、ニュースも、会計帳簿もない。

 

 もっと深く。物理的な、地面の遥か下。

 

 圧倒的な圧力。岩盤の軋み。見えないひび割れ。溜まり続ける巨大なエネルギー。

 

「うっ……!」

 

 健司の脳が、かつてないほどの負荷に悲鳴を上げた。

 

 これは「未知予知」だ。情報ではなく、未来の事象そのものに素手で触れているような暴力的な感覚。

 

 激しい耳鳴りがし、視界がぐらりと揺れた。椅子に座っているのに、足元の床が大きく傾いたような錯覚に陥る。吐き気が込み上げてくる。

 

『深く覗くな!』

 

 魔導書の鋭い声が、健司の意識を引き戻した。

 

『震源のメカニズムを理解しようとするな。お前は地球物理学者ではない。拾うのは結果の表面だけだ。場所、時刻、震度、被害の程度。それ以上は見るな!』

 

 健司は必死に意識の深度を調整し、浅い部分の未来のビジョンだけをすくい上げた。

 

 浮かび上がってくる断片。

 

 北河県南部。白峯市。

 

 夕方のオレンジ色の光。

 

 駅ビルのエレベーターの液晶に表示される赤い『停止』の文字。

 

 棚から落ちて散乱する本。

 

 一斉に鳴り響く、スマートフォンの不快な緊急地震速報の音。

 

 17時18分という数字に近い感覚。

 

 震度5弱。

 

 津波はない。電車の遅延を示す電光掲示板。

 

 健司は荒い息を吐きながら目を開け、キーボードに指を置いた。

 

 790:予知者K ◆Predict/K

 次は未知予知です。

 

 48時間以内。

 北河県南部、白峯市周辺。

 震度5弱。

 時刻は夕方、17時台。

 津波はありません。

 建物倒壊級ではないと思います。

 ただし、エレベーター停止、鉄道遅延、棚から物が落ちる程度の混乱があります。

 

 白峯市周辺の人は、念のためスマホの充電、枕元の靴、棚の上の重い物だけ確認してください。

 水を買い占める必要はありません。

 過度に騒がず、軽く備えてください。

 

 ログとして残します。

 

 投稿を終えた瞬間、健司は机に突っ伏した。

 

 ひどい頭痛と耳鳴りが収まらない。未知予知の負荷は、想像を絶していた。

 

 オカルト板の空気は、この書き込みによって明確に変わった。

 

 黒部大臣の時は「半笑い」だった住人たちが、一転して不穏な緊張感を漂わせ始めたのだ。

 

 791:本当にあった怖い名無し

 地震予知きた……

 

 792:本当にあった怖い名無し

 これはアウトだろ。デマだったら捕まるぞ。

 

 793:本当にあった怖い名無し

 48時間以内で白峯市周辺って、絞りすぎだろ。

 

 794:本当にあった怖い名無し

 北河県南部ってどこだよ。

 

 795:本当にあった怖い名無し

 白峯市民ワイ、急に怖くなってきたんだが……。

 

 796:本当にあった怖い名無し

 震度5弱なら日本ならどこでもあり得るけど、場所と時間と規模まで指定してるのは攻めすぎ。

 

 797:本当にあった怖い名無し

 津波なし、まで書いたぞ。

 

 798:本当にあった怖い名無し

 エレベーター停止、鉄道遅延、棚から物が落ちる。妙に具体的で嫌な感じがする。

 

 799:本当にあった怖い名無し

「水を買い占める必要はありません」で草。妙に冷静だな。

 

 800:本当にあった怖い名無し

 災害デマは普通に通報案件だぞ。通報しとくわ。

 

 801:本当にあった怖い名無し

 白峯市民だけど、とりあえずスマホ充電しといた。

 

 802:本当にあった怖い名無し

 信者になるの早すぎww

 

 803:本当にあった怖い名無し

 でもスマホ充電くらいなら損はないしな。

 

 804:本当にあった怖い名無し

 俺も棚の上のフィギュアだけ下ろしたわ。

 

 805:本当にあった怖い名無し

 それは普段から下ろしとけよw

 

 806:本当にあった怖い名無し

 外れたら完全に終わりだなK。

 

 807:本当にあった怖い名無し

 当たっても終わりだろこれ……。

 

 808:本当にあった怖い名無し

 これ当たったら、さすがにもう偶然じゃ済まないぞ。

 

 Xの株クラ界隈も、この異様な予知に即座に反応した。

 

【名無し投資家A】 @nanashi_invest

 予知者K、今度は地震予知を投下。

 北河県南部・白峯市周辺、48時間以内、震度5弱、17時台。

 これはさすがに怖いんだが。

 

【株負け太郎】 @make_taro_loser

 株のK、ついに災害予知まで始めたぞ。

 外れたら完全に通報されて終わりだろこれ。

 

【含み損OLミナ】 @mina_kabu_loss

 白峯市周辺の方、念のため気をつけてください……。

 Kさん、買い占め不要って書いてるのは冷静でよかったです。

 

【検証メモ用】 @kensho_kabu_log

 予知者K、第二予知ログ保存。

 対象:北河県南部・白峯市周辺

 期限:48時間以内

 震度:5弱

 時刻:夕方17時台

 津波:なし

 予測される混乱:エレベーター停止、鉄道遅延、棚から物が落ちる

 注意喚起:スマホ充電、枕元の靴、棚の重い物確認、水の買い占め不要

 的中・不的中ともに記録します。

 

【T】 @T_kansoku

 二つ目。

 

 健司は、荒い息を吐きながらスマホの画面を見つめていた。

 

「……地震って、本当に来るのか?」

 

『お前が拾った未来の糸では、来る』

 

 魔導書は静かに答えた。

 

「それを……外す方法、というか、被害をなくす方法はないのか?」

 

『今の予知に、人間が地震そのものを止める余地はない』

 

『だが、お前の書き込みを見て、棚から物を下ろす者はいる。スマホを充電する者はいる。その時間にエレベーターに乗るのを避ける者もいるかもしれない。未来そのものを完全に変えられなくても、被害の形は変えられる』

 

 その言葉に、健司は少しだけ救われた気がした。

 

「……それなら、書いた意味はあるのか」

 

『当たるためだけに書いたなら、意味はない』

 

『だが、備えさせるために書いたなら、意味はある』

 

 オカルト板のスレッドは、すでに運命のカウントダウンに向けて静かに動き出していた。

 

 850:本当にあった怖い名無し

 これ、外れたら災害デマ扱いで終わりだな。

 

 851:本当にあった怖い名無し

 当たったら? 

 

 852:本当にあった怖い名無し

 当たっても終わりだろ。怖すぎるわ。

 

 853:本当にあった怖い名無し

 白峯市民だけど、念のため充電した。

 外れたら笑う。当たったら泣く。

 

 854:本当にあった怖い名無し

 震度5弱をここまでピンポイントで当てたら、さすがに洒落にならんぞ……。

 

 健司はPCを閉じ、重い頭を抱えた。

 

 48時間。

 

 その期限に向けて、見えない時計の針が、静かに、だが確実に動き始めていた。

 




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