地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第26話 氷叢さんのヒーローネーム

雪代 side

 

「……うん、よし」

 

 休日明け、早朝に起きた私は、台所で朝食を作った。

 お菜を大方作り終わってから釜の蓋を開けると、美味しそうなご飯の香りが鼻を擽る。

 先月作って冷凍しておいた蕗の薹味噌を解凍して、今朝炊いた五穀米でおにぎりを作る。

 二人分の朝食をちゃぶ台に並べていると、ちょうど六花が起きてくる。

 

「ママ、おはよ〜」

「おはよう六花。朝ごはんできてるよ」

「……うん」

 

 私が声をかけると、六花が眠そうな目を擦りながら座布団に座る。

 ちょうど朝食の準備が終わったので、二人で揃って朝食を食べる。

 

「「いただきます」」

 

 今日の朝食は、五穀米のおにぎりと豚汁、だし巻き卵、キュウリの糠漬け、葱納豆。

 豚汁のお椀に口をつけながらテレビに目を向けると、やはりというべきか、六花のニュースをやっていた。

 どのニュース番組を見ても、六花の体育祭優勝と、インゲニウムがヒーロー殺しに襲撃された事件が二大トピックだった。

 これ、電車で移動したらえらい事になりそうね……

 

「ねぇ六花、今日は一緒に車で学校に行こっか」

「ん? なんで〜?」

「この前六花が体育祭で優勝したでしょ? だから電車で移動すると、いろんな人に声をかけられて足止めされちゃうと思うの。あと、今日雨すごいし……」

「……んん、そっか」

 

 私が説明すると、六花は納得した様子で頷く。

 その後、六花が着替えている間に洗い物を済ませて、二人で車に乗り込んで学校へ向かう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

「〜♪」

 

 学校に着いた六花は、上履きを履き、履いてきた靴を下駄箱にしまおうとする。

 するとその時だった。

 

「おい」

 

 振り向くと、爆豪が六花の後ろに立っていた。

 

「ん、なんですかバクゴーさん……」

「つかえてんだよ、早くどけ」

「あっ、ごめんなさい……」

 

 爆豪が言うと、六花はそそくさと場所を譲る。

 爆豪と六花は出席番号が隣同士なので、登校のタイミングが被ると下駄箱で余計な足止めを喰らってしまうのだ。

 どこか不機嫌そうな爆豪を見て、六花はまだ爆豪が体育祭の時の事を怒っているのだろうと思い、恐る恐る話しかける。

 本当は体育祭が終わったその日に話したかったのだが、表彰式の前はブチギレモードで話どころではなく、表彰式が終わった後も話しかけんなオーラが全開だったため、結局休み明けに話す事にしたのだ。

 

「あの、バクゴーさん。まだ怒ってます……?」

「あ?」

「いや、バクゴーさん表彰式ですごいキレてたじゃないですか……確かに私、バクゴーさんにいろいろ失礼なことしちゃってるかもしれないですけど、アレに関しては私は悪くないので……いい加減怒らないでほしくてですね……というか、負けても怒らないって約束だったわけですし……」

 

 六花は、体育祭の事を怒っているかどうかを爆豪に尋ねた上で、これ以上怒らないでほしいという事をハッキリ伝えた。

 すると爆豪は、下駄箱の扉を乱暴に閉めてから口を開く。

 

「てめェにキレたんじゃねぇよ」

「えっ?」

「確かに俺は、てめェを舐めプのクソカスだと思ってる。最後に俺のハウザーを殺した技、アレ全然全力じゃねぇだろ」

「いや、たしかにそうですけど……」

「けどそれ以上に、てめェの全力を引き出せなかった自分(てめェ)にムカついた」

 

 爆豪は、最後まで全力を出さなかった六花にではなく、六花の全力を引き出せなかった自分に怒っていたのだと本心を打ち明けた。

 何もできずに完封され、情けをかけられて出した全力も全く通じず、六花がその場のノリで出したチョイ技で完封された。

 爆豪の目指す完全勝利とは程遠い、完敗だ。

 だが爆豪は、そこで終わらせなかった。

 

「こっからだ。てめェが舐めプで勝つのなんざ、あれで最後だ。てめェなんざすぐ追い抜いて、今度こそ完膚なきまでにぶっ潰してやる。見とけ」

「あぁ、はい……」

 

 爆豪が六花に宣戦布告してから先に教室へ向かうと、六花も慌てて下駄箱に靴をしまって教室へ向かう。

 体育祭後は拘束されるくらいブチギレていたにもかかわらず、休みが明けたらすっかり立ち直っていたため、六花は爆豪の感情の振れ幅の大きさに困惑していた。

 

 

「でさ〜!」

 

 教室に行くと、クラスメイトがわいわいと話していた。

 だが爆豪と六花が一緒に教室に入るのを見ると、教室の空気がガラリと変わる。

 

「おは……アレ!? 珍しい組み合わせ!」

「どーした爆豪!!」

「うっせぇ、こいつが勝手についてきたんだよ!!」

「だって、どうせ行き先一緒ですし……誰かについていかないと、また道わかんなくなっちゃうので……」

 

 芦戸と切島が話しかけてくると爆豪がキレ、六花が事情を説明する。

 爆豪が乱暴に扉を閉めてズカズカと席へと歩いて行くと、六花が爆豪に声をかける。

 

「バクゴーさん、扉そんな閉め方したら壊れちゃいますよ」

 

 そう言って六花は、爆豪についていく形で席に着くと、鞄の中身を机の上に出す。

 そんな六花の様子を見て、瀬呂と砂藤が話す。

 

「……なぁ、氷叢ってさ」

「ああ…意外と肝据わってるよな……」

 

 爆豪と普通に話している六花を見て、クラスメイト達は意外そうな反応を見せた。

 会話の途中で詰まったり大きな音にいちいち驚いたりするので忘れがちだが、六花は意外と肝が据わっている。

 その後、次々とクラスメイトが集まってきて、先日の体育祭の話で盛り上がった。

 

「超声かけられたよ、来る途中!!」

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

 

 芦戸、葉隠、切島が興奮気味に言い、瀬呂が机に手をついて辟易した顔でぼやくと、蛙吹が机に突っ伏したまま瀬呂に追い討ちをかける。

 

「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ」

「やっぱ雄英すげえな…」

 

 上鳴と峰田が、顔を見合わせて言う。

 そんな中、葉隠が六花に話しかける。

 

「ねぇ、六花ちゃんはどうだった!?」

「あっ、いや……私、今日は車で来たのでそういうのは無くて……」

 

 車で雪代に送られてきた六花は、クラスメイト達の話題についていけずにいた。

 皆でわいわい話していると、予鈴が鳴ったので、皆急いで自分の席に戻る。

 すると時間通りに―

 

「おはよう」

「「「「おはようございます!!」」」」

 

 相澤先生が教室に入ってきたので、皆で一斉に挨拶をする。

 

「あー、前回のHRで少し話をしたので、中には察しがついている奴もいるかと思うが……今日のヒーロー情報学…少し特別だぞ」

 

 それを聞いて、数人の生徒が身構える。

 張り詰めた空気の中、相澤が再び口を開く。

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「「「胸膨らむやつきたああああ!!」」」」」

 

 相澤の発表を聞いた途端に、クラスのテンションが一気に最高潮になる。

 だがその直後、相澤が睨むとすぐに全員大人しくなった。

 全員が黙ると、相澤が話を始める。

 

「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から…つまり今回来た『指名』は将来性に対する『興味』に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

 

 相澤が言うと、プロの世界の厳しさを知った峰田は机をガンっと叩く。

 すると葉隠が相澤に尋ねる。

 

「頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 相澤は、葉隠の質問に対して頷き指名の集計結果を表示する。

 

 

  A組指名件数 総数14,607

 

  氷叢:9,057

   轟:2,256

  爆豪:2,143

  常闇:360

  飯田:301

  上鳴:272

 八百万:108

  切島:68

  麗日:20

  瀬呂:14

  尾白:8

 

 

「例年はもっとバラけるんだが、上位三人、特に氷叢に注目が偏った」

「だーーー白黒ついた!」

「2位3位逆転してんじゃん」

「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

 切島、瀬呂が、準優勝の爆豪より3位の轟の方が指名数が多い事を指摘すると、爆豪が怒鳴る。

 

「ウッソ、六花9000件超えってマジ!?」

「んん……」

 

 近くの席の耳郎が六花の指名数の多さに驚いていると、六花も瞬きをして驚く。

 六花への指名だけで、全体の6割強を占めている。

 六花の場合は、実力だけでなく、ルックスも評価された結果だ。

 

「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

 相澤が言うと、砂藤と麗日が興奮気味に反応する。

 

「まぁ仮ではあるが適当なもんは…」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 突然、相澤の言葉を遮る形で、教室の入り口の方から声が響く。

 

「この時の名が! 世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

「「「「ミッドナイト!!」」」」

 

 ミッドナイトが、セクシーポーズをしながら教室に入ってくると、相澤とバトンタッチする形で教壇に立つ。

 

「まぁそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来ん。将来自分がどうなるか名を付けることで、イメージが固まりそこに近付いていく。それが『名は体を表す』ってことだ…“オールマイト”とかな」

 

 そう言って相澤は、全員にペンとフリップを配ると、寝袋に入って寝始めた。

 

 

「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」

(((発表形式かよ!!?)))

 

 15分後、ミッドナイトが唐突に言うと、生徒達が心の中でツッコミを入れる。

 将来使っていくヒーローネームとはいえ、大勢の前で発表するのは勇気がいる。

 そんな中、芦戸が手を挙げる。

 

「じゃアタシいきます!」

 

 芦戸が前に出て、全員の前でヒーローネームの案を発表する。

 

「リドリーヒーロー! エイリアンクイーン!!」

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」

「ちぇー」

 

 芦戸のヒーローネームは、ミッドナイトが即ボツにした。

 ついでに言うと、2の監督はリドリー・スコットではなくジェームズ・キャメロンだ。

 最初に芦戸が変なヒーローネームを発表したせいで、大喜利のような空気になってしまう。

 そんな中、今度は蛙吹が手を挙げる。

 

「じゃあ次、私良いかしら」

「梅雨ちゃん!!」

「小学生の時から決めてたの、フロッピー」

 

 そう言って蛙吹は、

 『梅雨入りヒーロー

    FROPPY

    フロッピー』

 と書かれたフリップを見せた。

 

「カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!! 皆から愛されるお手本のようなネーミングね!!」

 

 蛙吹のおかげで、先程までの大喜利のような空気が払拭された。

 すると今度は、切島が前に出る。

 

「んじゃ俺!! 烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

 

 切島は、ダンッと漢らしく

 『剛健ヒーロー

  烈怒頼雄斗』

 と書かれたフリップを見せた。

 

「『赤の狂騒』! これはアレね!? 漢気ヒーロー《紅頼雄斗(クリムゾンライオット)》リスペクトね!」

「そっス! だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は“(クリムゾン)”そのものなんス」

「フフ…憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついてまわるわよ」

「覚悟の上っス!!」

 

 切島は、ぐっと拳を握り締め、尊敬するヒーローの名を背負う覚悟を見せた。

 そんな切島の漢気にあてられたのか、皆どんどんヒーローネームを発表していった。

 

 耳郎は、ヒアヒーロー《イヤホン=ジャック》。

 障子は、触手ヒーロー《テンタコル》。

 瀬呂は、テーピンヒーロー《セロファン》。

 尾白は、武闘ヒーロー《テイルマン》。

 砂藤は、甘味ヒーロー《シュガーマン》。

 芦戸は、リドリーヒーロー《エイリアンクイーン》改め《Pinky(ピンキー)》。

 上鳴は、スタンガンヒーロー《チャージズマ》。

 葉隠は、ステルスヒーロー《インビジブルガール》。

 

「良いじゃん良いよ! さぁ、どんどん行きましょー!!」

 

 八百万は、万物ヒーロー《クリエティ》。

 轟は、《ショート》。

 常闇は、漆黒ヒーロー《ツクヨミ》。

 峰田は、モギタテヒーロー《GRAPE JUICE(グレープジュース)》。

 口田は、ふれあいヒーロー《アニマ》。

 そして爆豪はというと。

 

「爆殺王」

「そういうのはやめた方がいいわね」

「なんでだよ!!」

 

 即ダメ出しされていた。

 ヒーローネームに『殺』の字を入れるのは良くない。

 当たり前だ。

 

「爆発さん太郎は!?」

「黙ってろクソ髪!!」

 

 切島が代案を出すと、爆豪がキレる。

 教室内がギャーギャーと騒がしくなったところで、その空気を変えるように、麗日が席を立つ。

 

「じゃ、私も…考えてありました」

「シャレてる!」

 

 麗日は、少し恥ずかしそうに『ウラビティ』と書かれたフリップを見せた。

 すると今度は、六花が前に出てフリップを見せる。

 

「……リッカ」

 

 六花のフリップには、判別が不可能なくらい汚い字でデカデカと『六花』と書かれていた。

 本名をヒーローにする事自体は悪くないが、とにかく字が汚い。

 だが、当の本人はどこか誇らしげだ。

 何故人が読めないくらい汚い字をフリップいっぱいに書いてそんなに誇らしげな顔ができるのか、ミッドナイトには理解が及ばなかった。

 

字きったな…あなたも名前ね」

「……はい。ヒーローネームとか、考えてもすぐ忘れちゃうと思うので……」

 

 六花は、自分のヒーローネームを覚えられないという理由で本名にした。

 

「思ってたよりずっとスムーズ! 残ってるのは、再考の爆豪くんと...飯田くん、そして緑谷くんね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

飯田 side

 

「………」

 

 ――天哉………昨日…言おうか迷ってたん…だけどな、足の感覚が、全くねえんだ。

 ――そんな…嘘だ!

 ――ヒーロー…インゲニウムは多分…ここでおし…まいだ…

 ――ダメだ! これからもっと多くの人を導くんだ、兄さんは!! 嫌だよ!!

 ――俺だって…嫌だよ…だからさ…お前がいいなら…この名……受け取ってくんねえか

 

 昨日の兄さんの言葉を思い出しながら、僕はフリップにペンを走らせる。

 ターボヒーロー《インゲニウム》。

 兄さんはその名を、僕に託してくれた。

 

 だが『イン』まで書いたところで、僕は手を止め、フリップに書いた字を消した。

 そして、白紙にしたフリップに『天哉』と書く。

 ……ごめんなさい、兄さん。

 僕は、まだ……兄さんの名に相応しいヒーローじゃない。

 

「あなたも名前ね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 飯田もヒーローネームを発表し、残るは緑谷と爆豪だけになった。

 緑谷は、ヒーローネームをフリップに書くと、教壇に立って発表する。

 

「!?」

「えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」

「うん。今まで好きじゃなかった。けどある人に、“意味”を変えられて…僕には結構な衝撃で...嬉しかったんだ。これが僕のヒーローネームです」

 

 そう言う緑谷のフリップには、『デク』と書かれていた。

 そして最後の爆豪はというと。

 

「爆殺卿!!」

「違うそうじゃない」

 

 また変なヒーロー名を発表して、ミッドナイトにボツされた。

 

 

 

 

 




ちなみに六花ちゃんの声のイメージは加隈亜衣さんです。
ぬ〜べ〜の新アニメのゆきめの中の人ですが、個人的なイメージは鬼滅の真菰や転剣のフランです。
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