地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第28話 氷叢さんの職場体験(2)

氷叢雪代(ノウメン) side

 

「何を成し遂げるにも信念…想いが要る。無い者、弱い者が淘汰される。当然だ。だから死ぬ(こうなる)

 

 ステインは、弔くんの左腕と胴を両膝で押さえつけ、両手に握ったナイフを弔くんの首に突きつけた状態で睨みながら言い放つ。

 方向性の違いから、邂逅早々喧嘩した二人だけど、結果はステインの圧勝。

 弔くんや黒霧さんを一方的に斬りつけ、“個性”を使って完封。

 弔くんは、ステインの強さに呆れて笑っていた。

 

「ハッハハハ…! いってえええ、強過ぎだろ。黒霧! こいつ帰せ早くしろ!」

「体が動かない…! おそらくヒーロー殺しの“個性”……」

 

 ステインの“個性”は『凝血』。

 確か、血液を摂取した相手の血液を固めて動きを封じる“個性”……だったはず。

 なんて考えていると、頼みの綱(黒霧さん)が切れた弔くんが話しかけてくる。

 

「おい、ノウメン……お前、動けるんならこいつなんとかしろ!」

「怪我したくないので嫌です。私、弔くんの手下じゃありませんし……大体、ステインを仲間にするのは弔くんの宿題じゃないですか。宿題は自分でやって下さい」

「てめぇ……“個性”解けたら塵にしてやる……」

 

 私が断ると、弔くんが私を睨みつける。

 おお、怖い怖い。

 

「“英雄(ヒーロー)”が本来の意味を失い偽者が蔓延るこの社会も、徒に“力”を振り撒く犯罪者も、粛清対象だ…ハァ…」

 

 そう言ってステインがそのまま弔くんの首を切ろうと右手の刃物を動かすと、弔くんが刃物を右手で掴む。

 

「ちょっと待て待て…この掌は……ダメだ。殺すぞ」

 

 弔くんがそう言った直後、ステインの刃物がボロボロに崩れる。

 

「口数が多いなァ…信念? んな仰々しいものないね…強いて言えばそう…オールマイトだな…あんなゴミが祭り上げられてるこの社会をめちゃくちゃにブッ壊したいなァ、とは思ってるよ」

 

 そう言って弔くんが不気味な笑みを浮かべると、ステインが僅かに目を見開いて体を震わせる。

 そのまま弔くんがステインに向かって手を伸ばそうとすると、ステインは大きく後ろへ退いて回避した。

 

「せっかく前の傷が癒えてきたところだったのにさ…こちとら回復キャラいないんだよ。責任とってくれんのかぁ?」

 

 弔くんは、不機嫌そうに首をボリボリ掻きむしりながらゆっくりと立ち上がる。

 するとステインは、左手の刃物を鞘に収めて口を開く。

 

「それがお前か……」

「は?」

「お前と俺の目的は対極にあるようだ…だが、『現在(いま)を壊す』、この一点に於いて俺達は共通してる…」

「ざけんな帰れ死ね。“最も嫌悪する人種”なんだろ」

「真意を試した。死線を前にして人は本質を表す。異質だが…“想い”…歪な信念の芽がお前には宿っている…………お前がどう芽吹いていくのか…始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないかもな…」

 

 ステインがそう言うと、弔くんは不服そうに首を掻く。

 

「始末すんのかよ…こんなイカレた奴がパーティーメンバーなんて嫌だね俺…」

「死柄木弔。彼が加われば大きな戦力になる。交渉は成立した!」

 

 不満を漏らす弔くんに対して、黒霧さんがステインを仲間にするメリットを語る。

 ……そろそろいいかしらね。

 私は、タイミングを見計らって席を立った。

 

「話は終わりましたか? そろそろ本題に移りたいんですが」

「ハァ……お前もこいつの仲間なら、何故こいつを救けなかった?」

「私が出るまでもないと思いまして。あなたが彼を試そうとしているのは、わかっていましたから」

 

 私がヒラヒラと手を振りながら言うと、ステインが目を細める。

 

「………………お前、女か」

 

 あら、気づいてたのね。

 ボイチェンしてたんだけどな……

 

「…………お前の目的は何だ。返答によっては……ハァ……たとえ女であろうと容赦はしない」

 

 ステインが、刀を抜いて私の首元に向け、殺気に満ちた目で私を睨んでくる。

 私は、目に少し殺気を込めて、ステインを睨み返しながら口を開いた。

 

「今あるこの世界を壊すこと。私の望みは、それだけです」

「……そうか」

 

 私の言葉か、殺気か。その両方か。

 どちらに圧されたのかはわからないけど、ステインは静かに刀を鞘に戻す。

 

「俺を“保須”へ戻せ。()()()にはまだ成すべきことがある」

 

 ステインが命令すると、黒霧さんがワープゲートを開いてステインを元いた場所へ帰す。

 ……さて。

 私もひと仕事してきますか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

「くぁぁ……」

 

 職場体験二日目、午前6時。

 ホテルの一室のベッドの上で、六花が目を覚ます。

 慣れないベッドで寝たせいか、いつもより早く目が覚めてしまった。

 ベッドでも眠れない事はないが、どうも寝つきが悪い。

 明日からは和室を取ってもらえないかミルコに交渉してみよう、そんな事を考えながら眠い目を擦っていた、その時だった。

 

「おい起きろ! 今から(ヴィラン)を蹴っ飛ばしに行くぞ!」

「ひゃい!」

 

 ミルコが、外から窓を叩きながらバルコニーから話しかけてくる。

 ミルコが宿泊しているのは六花の隣の部屋だが、おそらく自分の部屋のバルコニーから六花の部屋のバルコニーへと跳び移ったのだろう。

 本来ならドアから声をかけるべきなのだろうが、バルコニーから声をかけた方が早いし、既に外にいるのでそのまま(ヴィラン)退治に行ける。

 大雑把な彼女らしいと言えば彼女らしい。

 

 六花は、慌ててコスチュームに着替えると、昨日と同じようにミルコの後ろを飛び、見て学んだ。

 学生である六花には(ヴィラン)退治の仕事は割り振られず、六花の仕事は主に避難誘導や逃げ遅れた住民の救助、ミルコが倒した(ヴィラン)の捕縛だ。

 午前中のパトロールが終わった後、六花とミルコはあるビルの屋上で休憩を取った。

 六花は、緑谷や相澤にしたのと同じように、氷を介して自分の活力をミルコに送り込み、ミルコの体力を回復させた。

 キラキラと輝く小さな氷の花がふわふわと宙に浮かび、やがてミルコの体に付着すると、雪が解けるように消えていく。

 

「……どうですか?」

「おう、全快だ! ありがとな!」

 

 六花が様子を尋ねると、ミルコが勝気な笑みを浮かべて答える。

 最初は”個性”で人の傷を癒す手段を持っていなかった六花だったが、雄英に入学してからは、回復技も使えるようになった。

 その後、リカバリーガールと一緒に練習に練習を重ね、疲労程度なら一回の処置で全快させられるようになった。

 

「そういえばミルコさん……」

「何だ?」

「えっと……昨日聞きそびれちゃったんですけど……なんで私のこと、指名してくれたんですか?」

「そりゃお前、生意気だからだ!」

 

 六花が尋ねると、ミルコが六花をビシッと指差して即答する。

 すると六花は、予想外の返答にきょとんとする。

 

「……な、生意気……?」

「選手宣誓ん時の態度! 周りの迷惑なんざ考えてねぇって言わんばかりの無双っぷり! 最近のヒーローは弱虫ばっかだからよ、久々に面白ぇ奴が来たって思ったね。2位の奴も大概生意気だったけど」

「あの、褒められてるのか褒められてないのかわかんないんですけど……」

 

 ミルコの評価に対し、六花が正論で返すと、ミルコは「褒めてるに決まってんだろ!」と笑いながら六花の背中をバシッと叩く。

 

「逆に聞くけどよ、お前はなんで私のとこに来た? お前なら、もっと上からの指名もあったんじゃねぇのか?」

 

 ミルコもまた、六花と同じ事を考えていた。

 事実、六花はオールマイト以外のトップヒーロー全員に指名を貰っている。

 その中には当然、エンデヴァーやホークスなど、ミルコよりもレベルの高いヒーローもいる。

 自分の能力を過小評価しているわけではないが、六花ほど実力があるなら、それらのヒーローも視野に入れていたはずだ。

 そう考えるとミルコに対し、彼女の耳や尻尾をまじまじと眺め、頬を緩ませながら六花が答える。

 

「うさぎさん……かわいいから……」

 

 予想外の答えに、ミルコはきょとんとする。

 『近接格闘を極めたいから』、『単独の方が性に合ってるから』、単純に『ファンだから』、彼女が想定していたのはその辺の答えだった。

 だが、『うさぎはかわいい』という理由で自分を選んだのは完全に想定外だった。

 自分の事を『かわいい』と評した六花に対して、ミルコはヘッドロックをした。

 

「何だお前、私をかわいいうさぎちゃん扱いするたぁ、いい度胸だなァ!?」

「あいたたたた……」

「お前は私がみっちり扱いてやる! 覚悟しとけよ!?」

「はひっ」

 

 怒っているような口調でヘッドロックをするミルコだが、目が全く怒っていない。

 おそらく本心では、自慢の毛並みを『かわいい』と褒められたのが嬉しいのだろう。

 (ミルコ基準で)緩めのヘッドロックも、彼女なりのスキンシップだ。

 六花のひんやりしていてもちもちすべすべした肌の感触が気持ちいい事もあってか、ミルコはしばらくの間六花にヘッドロックをしたまま離れなかった。

 

 その後、昼休憩を終えた二人は、午後のパトロールに出発した。

 午後も同じように、ミルコが(ヴィラン)を蹴っ飛ばし、六花はミルコに蹴っ飛ばされた(ヴィラン)を六花が氷漬けにして警察に引き渡した。

 現場にいた(ヴィラン)を全員引き渡した六花は、小さくため息をつく。

 

「……ふぅ」

「気ィ抜くな、仕事はまだ終わってねぇぞ!」

「え?」

 

 ミルコの言葉に、六花が振り向く。

 そこには、ミルコのファンが集まっていた。

 

「見ろ、ミルコだ!」

「かっけぇ!」

「こっち向いて〜!」

 

 その場にいたファン達が、ミルコに歓声を送る。

 するとミルコは、ファン達の方を振り返り、勝気な笑みを浮かべた。

 

「私に蹴られたい奴はどっからでもかかってこい!」

 

 ミルコが自信満々に言うと、ファン達の歓声がより一層大きくなる。

 そして、その場に集まっていた市民達は、何もミルコだけが目当てではなかった。

 

「なあ、あれって六花ちゃんじゃね? 体育祭の!」

「ホントだ、生で見ると超かわいい!」

「けど、なんでミルコと一緒に!?」

「六花ちゃ〜ん、こっち向いて〜!」

「うおおおお!! 六花様あああああ!!!」

「こおりのおねーちゃん、がんばれ〜!」

 

 六花の方にも、人が大勢集まってくる。

 観客達は、六花の愛くるしい姿に目を奪われていた。

 こんなに大勢の人間に一度に好意を向けられた経験のない六花は、目の前の光景に戸惑っていた。

 対応に困った六花は、助けを求めるようにミルコの方を見る。

 

「え、えっと……」

「ファンサービスもヒーローの仕事だ! しっかりやれよ!」

 

 ミルコが言うと、六花はとりあえず近くの市民に手を振ってみる。

 すると、何人かが「グハッ」と口や鼻から血を噴き出し、心臓のあたりを押さえながら倒れた。

 恍惚とした表情を浮かべて倒れる市民を見て、六花がギョッとする。

 

「あのょ……なんか人が倒れましたけど……」

「放っとけ!」

 

 ファンサで人が倒れた事についてミルコに助けを求めようとすると、ミルコはあっさりスルーした。

 熱狂的なファンが多いミルコにとっては、ファンサでファンが倒れる事など慣れっこなのだろう。

 そんな中、眼鏡をかけたショートボブの女子中学生が、六花に話しかけてくる。

 

「あ、あの! 私、六花さんのファンです! サインください!」

 

 そう言って眼鏡女子が、六花に色紙とサインペンを差し出してくる。

 六花が困った様子でミルコを見ると、ミルコは「してやれよ」と言わんばかりにサムズアップをした。

 六花は、眼鏡女子から色紙とサインペンを受け取ると、色紙いっぱいにサインをする。

 

「ど、どうぞ……」

「ありがとうございます!!」

 

 眼鏡女子は、感極まった様子で六花のサインを受け取る。

 彼女が受け取った色紙には、相変わらずの悪筆で『六花』と書かれていた。

 

「字ィきたな!! いやでも推しのサイン尊い…神棚に飾る…!!」

 

 眼鏡女子は、六花の悪筆さに戸惑いつつも、六花のサインを家宝のように扱った。

 その後も、パトロールは続く。

 

 

「オラァ!!」

「っ……」

 

 午後のパトロールを終え、夕食を食べ終わった後は、近所のジムでスパーリングをした。

 ミルコ御用達のジムで、“個性”を使ったトレーニングにも対応している。

 六花が近接格闘の技術を磨きたいと頼み込んだため、ミルコが六花の希望に応じ、空き時間を見つけてスパーリングをしているのだ。

 

 ミルコの右脚の蹴りを見切った六花は、上段回し蹴りを放ってミルコの蹴りを相殺する。

 二人の蹴りが、正面からぶつかり合う。

 だがその直後、ミルコが空中で身を翻し、六花の頭目掛けて踵落としを仕掛けてくる。

 直前でミルコの蹴りに気づいた六花は、咄嗟に両腕を氷に変えてガードした。

 

「っ、はふっ……」

 

 ギリギリでミルコの蹴りをガードした六花は、一度距離をとってため息をつく。

 幼い頃から農作業で鍛え、空手と柔道の黒帯持ちの雪代に指導してもらっている六花の身体能力は、ヒーロー科の女子の中では高い部類に入る。

 ヒーローになる為の訓練をしていたわけではないが、雪代に叩き込まれた基礎と天性の戦闘センスによって、六花の生身の強さは既にプロの域に達している。

 手加減してもらっているとはいえ、ミルコの攻撃のペースについてきていた。

 

「あのょ……何か直した方がいいとこありました?」

「おう。動きは悪かねぇ……が、敵の動きを見てから動くのがクセになってんな。近接で目だけを頼んのはやめとけ」

「……ん、それって何か良くないです?」

「お前はなまじ反射神経があるから、見てから対処しても大体何とかなっちまうんだろうけどな。逆に言や、見えねぇ攻撃とか見えてても意味ねぇ攻撃には対処できねぇってこった。五感を研ぎ澄ませ! 実戦じゃ、初見殺しなんざザラにある。向こうが仕掛けてきたら対処しようなんざ甘ぇ、『来る』と思ったらすぐ蹴っ飛ばせ!」

「……っはい!」

 

 ミルコがアドバイスすると、六花が元気よく頷く。

 ちょうどいい時間になったので、ミルコが先にリングから降り、プロテイン入り人参スムージーを一気に飲み干す。

 六花もリングから降りてコーラ味のプロテインを飲もうとすると、ミルコが思い出したように口を開く。

 

「あ、そうそう。明日は保須に行くから準備しとけよ」

「ん、保須ですか……?」

「最近ヒーロー殺しのクソヤローが暴れてやがるからな。蹴っ飛ばしに行くんだよ」

「……ん? ヒーロー殺し?」

 

 ミルコの言った『保須』、『ヒーロー殺し』という単語が、六花の頭の中で引っ掛かる。

 最近そんな言葉をどこかで聞いた事があるような気がする。

 しかも、六花にとって身近な人が、それに関係しているような気もする。

 だが六花は、肝心な部分が思い出せなかった。

 

「なんだ、何か気になることでもあんのか?」

「いや……最近どっかでその話聞いたことあるような気がするんですけど……思い出せなくて……」

 

 六花は、頭を掻いてなんとか思い出そうとするも、どうしても思い出せない。

 小骨が引っかかったような蟠りを抱きつつも、六花はプロテインを飲み干し、散らかしていたトレーニング器具を片付ける。

 こうして、職場体験2日目は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

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