地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第29話 氷叢さんの職場体験(3)

No side

 

「オラァ!!」

「ぐへっ!!」

 

 職場体験三日目。

 この日も六花とミルコは、静岡駅から少し離れた街をパトロールしていた。

 ミルコが(ヴィラン)を蹴り飛ばし、六花が(ヴィラン)を凍らせて拘束する。

 時折ファンサービスもこなして、フルスロットルで午前のパトロールが終了した。

 

「うし、そろそろ昼飯にすっか!」

「あ、はい」

 

 六花とミルコは、1日目の夕食の時に利用したホテル1階のビュッフェレストランで昼食を摂る。

 ミルコは、サラダバーから取ってきた人参スティックを頬張りながら今日の予定を話す。

 

「昼食ったらすぐ出発するぞ!」

「えっと……どこ行くんでしたっけ」

「あぁ? 昨日言っただろ、保須だよ!」

 

 そういえば昨日そんな事を言われた気がする、と六花はぼんやり思い出す。

 今日あたりにでも保須にヒーロー殺しが出没する可能性が高いので、六花もミルコと一緒にパトロールする事になったのだ。

 

「保須って……確か東京でしたっけ。新幹線乗るんですか?」

「んなもん乗らねーよ、跳んで行くんだよ!」

「えっ」

「急げ、チンタラしてたら日ぃ暮れちまうぞ!」

 

 そう言ってミルコは、自分だけ先に食事を済ませ、レストランを出て行く。

 六花も慌てて盛り蕎麦を掻き込むと、急いで部屋に戻って荷物を纏め、チェックアウトを済ませた。

 準備を済ませたミルコと六花は、保須に向けて超特急ですっ飛んでいった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

黒霧 side

 

「保須市って………思いの外栄えてるな」

「この街を正す、それにはまだ…犠牲が居る」

 

 私は、保須市にワープゲートを開き、ステインがいる場所へと自分ごと死柄木弔を送り込んだ。

 死柄木弔とステインは、保須市を見渡して口を開く。

 

「先程仰っていた“やるべきこと”というやつですか?」

「『お前は』話がわかるやつだな」

「いちいち角立てるなオイ………」

 

 私の質問に対してステインが答えると、死柄木弔が苛立った様子で口を挟む。

 

「ヒーローとは偉業を成した者のみ許される“称号”! 多すぎるんだよ……英雄気取りの拝金主義者が! この世が自ら誤りに気づくまで、俺は現れ続ける」

 

 ステインは、背中に差した刀の柄を握りながら、貯水タンクから飛び降りた。

 死柄木弔は、降りていくステインを見下ろしながら嫌味を口にする。

 

「あれだけ偉そうに語っておいてやることは草の根運動かよ。健気で泣けちゃうね」

「……そうバカにも出来ませんよ」

「?」

「事実、今までに奴が現れた街は軒並み犯罪率が低下しています。ある評論家が『ヒーロー達の意識向上に繋がっている』と分析してバッシングを受けたこともあります」

「それは素晴らしい! ヒーローが頑張って食いぶち減らすのか! ヒーロー殺しはヒーローブリーダーでもあるんだな! 回りくどい!! やっぱ…合わないんだよ根本的に…ムカつくしな…黒霧、脳無出せ。俺に刃ァ突き立ててタダで済むかって話だ。ブッ壊したいならブッ壊せばいいって話…ハハ」

 

 私は、死柄木弔の命令に従い、脳無を三体こちら側に出現させた。

 

「大暴れ競走だ。あんたの面子と矜恃、潰してやるぜ大先輩」

 

 そう言って死柄木弔が笑みを浮かべる。

 ちょうどその時、私の携帯宛てにメールが届いた。

 ノウメンからの連絡だ。

 要約すると、『こちらは目的地に到着した。約束の時間に帰りの足を用意してほしい』との連絡だった。

 

 彼女の行き先は……札幌でしたね。

 彼女の仕事は、刑務所に収監されている()()()()の暗殺。

 保須でのヒーロー殺しの事件によって、地方の主要施設の警備が手薄になっている今、ターゲットを暗殺するのが彼女の狙い。

 ステインと死柄木弔、どちらが世間に注目されたとしても、保須での騒動が彼女の仕事の隠れ蓑になる。

 彼女がステインを仲間に引き入れる事に賛成していたのは、この為だったのですね……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

 ビルの上を跳ぶ事1時間。

 ミルコと六花は、保須市に到着した。

 

「とうきょう……はじめてきた……」

 

 六花は、初めて見る街並みに、目を見開いて震えている。

 東京都保須市。

 23区ほどではないものの、東京都内という事もあり、それなりに栄えている。

 

「おい、何ボサっとしてんだ! 行くぞ!」

「あ、はい……」

 

 ミルコが六花に声をかけると、六花が慌てて駆け出す。

 するとその直後、ミルコが自慢の聴覚と嗅覚で異変を察知する。

 

「リッカ!」

「……はいっ」

 

 ミルコが方向転換して大通りの方角へ向かうと、六花もミルコについていく。

 二人が現場へ直行していた、ちょうどその時。

 

 

 

 ボゴォォン!!

 

 

 

「「!!」」

 

 ちょうど二人が向かおうとしていた交差点から、爆発音が聴こえる。

 二人が現場に駆けつけると、そこは既に火の海だった。

 現場では、破壊の限りを尽くさんと、二体の脳無が暴れ回っていた。

 翼が生え黄色がかった肌をした細身の脳無と、下顎から上の顔がない黒い肌の脳無だ。

 応戦したヒーローも、脳無達に手も足も出ず、次々とやられていく。

 

「うわキメェ、なんだあいつら」

「なんか、どっかで見たことあるような……」

「とりあえず蹴っ飛ばす!!」

 

 そう言ってミルコは、黒い方の脳無に突っ込んでいく。

 

「『月堕蹴(ルナフォール)』!!」

 

 ミルコは、脳無の上へと高く飛び上がると、脳無の頭目掛けて右脚を振り下ろす。

 だが脳無は、ミルコの蹴りを左腕でガードし、攻撃を完璧に防いだ。

 常人ならガードした腕が粉砕骨折していたところだが、脳無は無傷どころか痛がるそぶりすら見せない。

 受け流して衝撃を無効化した様子もなく、ただ普通にガードしただけにもかかわらず、まるで蚊でも止まったかのように脳無は平然としている。

 

「あぁ? なんだこいつ、効いてねぇ」

 

 蹴りを完璧にガードした脳無に倒し、ミルコが怪訝そうな表情を浮かべる。

 脳無がミルコに掴みかかろうとすると、ミルコは後ろに跳んで回避する。

 ミルコが態勢を立て直そうとすると、現場にいたヒーロー達がミルコに声をかける。

 

「ミルコさん! そいつら、打撃が効きません!」

「黒い方は、傷を負わせてもすぐ再生します!」

「チッ、回復持ちか…めんどくせぇ! おいリッカ、そっちは任せた! こいつは私が蹴っ飛ばす!」

「は、はい……っ」

 

 ミルコが指示を出すと、六花は翼の生えた脳無の方へ向かい、ミルコは顎の脳無の方へと再び突っ込んでいく。

 

「『踵半月輪(ルナアーク)』!!」

 

 ミルコは、脳無の頭目掛けて渾身の踵落としを繰り出す。

 脳無は、今度は両腕でミルコの踵落としをガードした。

 だが、それがミルコの狙いだった。

 ミルコは空中で一回転し、脳無の死角に入り込むと、素早く脳無の側頭部を両脚で挟み込む。

 

「てめェ、頭弱点だろ」

 

 ミルコはニヤリと笑うと、脳無の頭を脚で挟み込んだまま、後方へ捻じり込む。

 そしてそのまま、勢いよく地面に叩きつけた。

 

「『月頭鋏(ルナティヘラ)』!!」

 

 グシャッと音を立てて、脳無の脳がトマトのように潰れ、脳漿が飛び散る。

 脳無は、地面に頭をめり込ませたまましばらくピクピク痙攣したかと思うと、やがて動かなくなった。

 散々苦戦を強いてきた脳無があっさり倒れたのを見て、ヒーロー達が唖然とする。

 

「再生しない……!?」

「やっぱりな。どんなダメージでも回復しちまう無敵“個性”なら、咄嗟に頭守るっつー発想は出ねぇもんなぁ。おいリッカ! そっち終わったか!?」

 

 ミルコが、髪を掻き上げながらリッカの方を振り向く。

 

「……おわりました」

 

 ミルコが脳無を倒したのとほぼ同時に、六花も翼の脳無の上に跨って抱きつき、脳無の体を凍てつかせていた。

 零下100℃にまで体温を下げられた脳無は、生命活動を停止して動かなくなっていた。

 現場に到着してから1分未満で、ミルコと六花によって制圧が完了した。

 

「ハッ! こんなのに梃子摺りやがって、弱虫め!」

 

 ミルコは、たった今倒した脳無を拘束しつつ、ボロボロの状態で唖然としているヒーロー達に向かって勝気に笑う。

 

「次行くぞ!」

 

 そう言ってミルコが次の事件現場に向かおうとするので、六花もそれに続こうとする。

 するとその時、六花の携帯に一通のメールが届いた。

 

「……ん?」

 

 六花は、その場でメールを確認する。

 メールの差出人は緑谷だった。

 メールの内容は位置情報、それも保須市の路地裏だった。

 今すぐここに来いという事だろうかと考えた六花は、ミルコに声をかける。

 

「あのょ……ミルコさん……」

「あ!?」

「えっと……今、デクさんからメールが来て……もしかしたら呼ばれてるかもしれないので、行ってきていいですか……?」

 

 六花は、ミルコに事情を説明した。

 するとミルコは、迷わず口を開く。

 

「わかった、行ってこい!」

「……行ってきます」

 

 ミルコの許可を得た六花は、位置情報が示す先へと向かう。

 六花は高く飛び上がると、緑谷のもとへと飛んでいく。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

飯田 side

 

 時は遡り数分前、江向通りの路地裏にて。

 保須をパトロールしていた僕は、ネイティブさんがヒーロー殺しに襲われている所を目撃していた。

 ヒーロー殺しは、ネイティブさんの顔面を掴んで壁に叩きつけながら言った。

 

「騒々しい…阿呆が出たか…? 後で始末してやる…今は…俺が為すべきことを為す」

「身体が…動かね…クソ野郎が…!! 死ね…!」

「ヒーローを名乗るなら、死に際の台詞は選べ」

 

 ヒーロー殺しが、刀を抜いてネイティブさんを斬ろうとする。

 そうはさせない!!

 僕は背後から、ヒーロー殺しへと蹴りを放つ。

 だが、素早く振り抜かれたヒーロー殺しの刀が、僕のヘルメットに直撃し、僕はそのまま吹き飛ばされた。

 ヒーロー殺しは、僕の顔を見て目を細める。

 

「スーツを着た子供……何者だ」

「ぐっ…!」

「消えろ。子供の入っていい領域じゃない」

「血のように赤い巻物と、全身に携帯した刃物……ヒーロー殺しステインだな! そうだな!? お前を追ってきた。こんなに早く見つかるとはな!! 僕は──…」

 

 そう言って僕がヒーロー殺しを睨みつけると、ヒーロー殺しは僕の眼前に刀を突きつける。

 

「その目は敵討ちか。言葉には気をつけろ。場合によっては子供でも標的になる」

 

 殺すに値しないというのか……

 ふざけるな……!!

 お前は、僕の兄さんを……!!

 

「標的ですら……ないと言っているのか。では聞け犯罪者。僕は…! お前にやられたヒーローの弟だ…!! 最高に立派なヒーローの弟だ!! 兄に代わりお前を止めに来た!! 僕の名を生涯忘れるな!! インゲニウム、お前を倒すヒーローの名だ!!」

「そうか、死ね」

「ああああぁ!!!」

 

 僕は、ヒーロー殺し目掛けて渾身の蹴りを放つ。

 だがヒーロー殺しは、僕の蹴りを避け、背後に回り込んだ。

 

「インゲニウム、ハァ…兄弟か、ハァ…奴は伝聞のため生かした。お前は…」

 

 その瞬間、眼前にヒーロー殺しの爪先が迫ってくる。

 

「あ゛っ」

 

 ヒーロー殺しは、棘の付いたブーツで、僕の右腕を蹴った。

 鋭い棘が、アーマーを貫通して腕に突き刺さる。

 

「ぐっ…!!」

 

 僕はそのまま、ヒーロー殺しに背中を踏みつけられた。

 

「弱いな」

 

 ヒーロー殺しは、僕の頭を踏みつけ、僕の左肩に刀を突き刺した。

 

「あ゛あ゛っ!!」

「お前も、お前の兄も弱い…贋物だからだ」

 

 贋物だと……!?

 ふざけるな……!!

 兄さんは、僕にとって最高のヒーローだったんだ!!

 それをお前が……!!

 

「黙れ悪党…!! 脊髄損傷で下半身麻痺だそうだ………! もうヒーロー活動は適わないそうだ!! 兄さんは多くの人を救け…導いてきた。立派なヒーローなんだ!! お前が潰していい理由なんて無いんだ…! 僕のヒーローだ…僕に夢を抱かせてくれた、立派なヒーローだったんだ!!! 殺してやる!!!」

「あいつをまず救けろよ」

 

 憎しみで目の前が真っ赤になり激昂すると、ヒーロー殺しが地を這うような声で言い放つ。

 奴が指を差した先には、重傷を負ったネイティブさんがいた。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ、私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ、ハァ……だから死ぬんだ」

 

 ヒーロー殺しが刀を引き抜き、刀についた血を舐める。

 すると僕の体は、何かがのしかかったように動かなくなる。

 くそっ、ヒーロー殺しの“個性”か……!!

 

「ぐっ…!!」

「じゃあな、正しき世界への供物」

「黙れ………黙れ!!! 何を言ったってお前は、兄を傷つけた犯罪者だ!!!」

 

 

 

「SMASH!!」

 

 

 

「!!?」

 

 突然、ヒーロー殺しが吹き飛ばされ、背後に積んであったゴミ袋へと突っ込んでいく。

 僕の目の前には、緑色の電光を纏い、拳を振り抜いた緑谷くんがいた。

 

「緑谷……くん…!?」

「救けに来たよ、飯田くん」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

緑谷 side

 

 保須市…

 脳無…らしき奴ら…

 飯田くん、保須…

 ヒーロー殺し…

 

 頭の中で散乱した情報が線で繋がり、ひとつの答えに行き着く。

 

 考えすぎかもしれない!

 確証も全くない!!

 でもだからって、動かずにはいられない!!

 ヒーロー殺しが現れた街で、脳無みたいな奴が暴れてる…

 

 この町でおそらく、僕だけが考えられる不安…………

 敵連合(あいつら)とヒーロー殺しが、繋がってるんじゃないのか!?

 

 て事は今、ヒーロー殺しもこの街にいるんじゃないのか!?

 飯田くんが現場にいないのは、ヒーロー殺しを()()()()()()()()()()()()ないのか!!?

 

「よかった…ビンゴだ」

 

 間一髪、間に合った。

 ヒーロー殺しをぶん殴った僕は、一度距離を取って態勢を整える。

 するとヒーロー殺しも、ゴミ袋の山から起き上がり、刀を構えて態勢を整えた。

 

「緑谷くん!? 何故…!?」

「ワイドショーでやってた…! ヒーロー殺し被害者の6割が、人気のない街の死角で発見されてる。だから…騒ぎの中心からノーマルヒーローの事務所あたりの路地裏を…虱潰しに探してきた! 動ける!? 大通りに出よう、プロの応援が必要だ!」

「体を動かせない…! 斬りつけられてから…おそらく奴の“個性”…」

「それも推測されてた通りだ…………斬るのが発動条件ってことか…?」

 

 ヒーロー殺しの“個性”を推測していると、血を流して倒れているネイティブさんの姿が目に映る。

 もう一人…!!

 飯田くんだけなら、まだ担いで逃げられたかもしれないのに…!

 

「緑谷くん、手を…出すな。君は、関係無いだろ!!」

「何……言ってんだよ…」

 

 『関係無い』と言い放つ飯田くんに、僕は反論しようとした。

 するとその時、ヒーロー殺しが刀を構えて近づいてくる。

 

「仲間が『救けに来た』、良い台詞じゃないか。だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然……弱い方が淘汰されるわけだが。さァ、どうする」

 

 ヒーロー殺しの視線に、全身の毛が逆立ち、冷や汗が止まらなくなる。

 USJの奴等とは違う…殺人者の…眼…!

 何の確証もない推測でも何でも…プロを説得して一緒に来てもらうべきだった。

 身動きを取れない二人を守りつつ、僕一人で()()()()()…出来れば、ヒーロー殺しを退ける。

 

 僕は、ヒーロー殺しを睨み返しつつ、背中に回した右手で携帯を操作し、クラスの皆にメールを一斉送信した。

 今は、皆が気づいてくれる事に賭けるしかない……!

 

「やめろ!! 逃げろ、言ったろ!! 君には関係無いんだから!」

「そんなこと言ったら、ヒーローは何もできないじゃないか! い……言いたいことは色々あるけど…後にする…! オールマイトが言ってたんだ。余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって」

「ハァ……」

 

 僕が震えながらも笑うと、ヒーロー殺しは不気味に口角を吊り上げる。

 その直後、僕はヒーロー殺しに飛びかかった。

 

「良い」

 

 ステインが刀を振るうと、僕はグラントリノとの特訓で習得した新技『フルカウル』を発動して、姿勢を低くして懐に入り込む。

 するとヒーロー殺しは、咄嗟に左手でナイフを抜いて斬りかかろうとしてくる。

 

「ダメだ、斬りつけられたら…」

 

 そんで!!

 斬りつけられる前に、股の間を通り抜ける!!

 

 僕がヒーロー殺しの背後を取ると、ヒーロー殺しがすかさず刀を振るってくる。

 僕は、上に跳んで刀を回避し、そのままヒーロー殺しの頭上で拳を振り抜いた。

 

「20%デトロイト…SMASH!!!」

 

 『フルカウル』の出力を一気に上げて、思いっきりヒーロー殺しの頭を殴りつける。

 ヒーロー殺しは、そのまま地面に頭を叩きつけて倒れた。

 いける…!!

 このまま畳み掛ける!!

 

「なっ…!!」

 

 畳み掛けようとしたその時、体に何かがのしかかったように動かなくなる。

 見ると、左腕に小さな切り傷ができていた。

 

 掠ってたのか!!

 こんな気づかない程の掠り傷で…!?

 ───…そうか…違う…!!

 血か!!

 ナイフに付いた血を舐めたのか…!

 

「良い…口先だけの人間はいくらでもいるが…お前は生かす価値がある…こいつらとは違う」

 

 そう言ってヒーロー殺しは、飯田くんに歩み寄ると刀を突きつける。

 くそっ、動け、動け!!

 

「ちくしょう!! やめろ!!」

「───…うぅ!!」

 

 

 

 ゴオッ!!

 

 

 

 同時に飛んできた灼熱の炎と地を這う氷結が、ヒーロー殺しを後退させる。

 この攻撃は……

 

「次から次へと…今日はよく邪魔が入る…」

「緑谷。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

 

 轟くん……!!

 

「轟くんまで…」

「何で君が…!?」

「何でって…こっちの台詞だ。数秒、“意味”を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味無くそんなことする奴じゃねぇからな、お前は。“ピンチだから応援呼べ”ってことだろ。大丈夫だ、数分もすりゃプロも現着する」

 

 そう言って轟くんは、地面を凍らせていく。

 ヒーロー殺しの“個性”で動けなくなっていた僕達は、轟くんの氷で持ち上げられ、ヒーロー殺しから遠ざけられた。

 轟くんの氷を避けようと跳び上がったヒーロー殺し目掛けて、轟くんが炎を放つと、ヒーロー殺しは壁を蹴って身を翻し炎を避けた。

 ネイティブさんと僕は、氷の上を滑りそのまま地面に着地する。

 

「情報通りのナリだな。こいつらは殺させねえぞ、ヒーロー殺し」

「轟くん! そいつに血ィ見せちゃダメだ! 多分血の経口摂取で相手の自由を奪う! 皆やられた!」

「血…それで刃物か。俺なら距離を保ったまま…」

 

 轟くんが距離を保ったまま攻撃しようとすると、ヒーロー殺しの投げたナイフが轟くんの頬を掠め、ヒーロー殺しは轟くんの眼前まで迫る。

 

「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」

 

 ヒーロー殺しが右側から斬りかかってくると、轟くんは氷でガードした。

 でもヒーロー殺しがナイフと同時に投げた刀が降ってきて、轟くんが刀に気を取られた瞬間にヒーロー殺しが轟くんの頬を舐めようとする。

 轟くんが窮地に陥った、その時だった。

 

「!!」

 

 白くて丸い何かが、上から大量に降ってくる。

 上から降ってきたものをヒーロー殺しが避けた、その直後。

 

 

 

  THUMP!!!

 

 

 

 上から降ってきた何かが、ヒーロー殺しを吹っ飛ばした。

 頭に直撃を喰らったヒーロー殺しは、そのまま頭を地面に叩きつけられ、地面が放射状にひび割れる。

 信じられない光景に唖然としていたその時、冷気が肌を撫でた。

 

「デクさん……まいごになっちゃったけど……やっとみつけました」

 

 そんな声が聴こえて見上げると、そこには右脚を大きく振り抜いた、僕のクラスメイトがいた。

 彼女の周りには、無数の雪玉……いや、()()が浮いている。

 この雪と冷気は……

 

「氷叢さん……!?」

 

 

 

 

 




デクがいきなりワンフォーオール20%使いこなせてるのは、六花ちゃんとのトレーニングのおかげです。
やっと伏線回収できました。

脳無(ツバサくんと顎)は二体ともミルコと六花ちゃんがやっつけちゃったので、ステインがデクを助ける展開はありません。
相手は氷だから血をペロペロできないねぇ、ステインさんどうすんの(笑)
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