地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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昨日一瞬だけ赤バーになってぬか喜びしてたらオレンジに戻った悲しみ。
面白いと思っていただけましたら、高評価・お気に入り・感想等よろしくお願いします( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
作者は単純ですので、高評価・お気に入り・感想をいただけましたらモチベーションになります。


第33話 氷叢さんの休日・その2

No side

 

「あつい……」

 

 六花は、快晴の空を見上げながらそう呟く。

 六花は黒い兎の垂れ耳のカチューシャをつけ、その上からキャスケットにも見えるキャップを被っている。

 ちなみに服装は、白い緩めのTシャツと黒のサロペットパンツ、ハイカットのスニーカーといった格好だ。

 

 六花の隣には、白い兎の耳のカチューシャをつけて張り切る飯田、象の耳をつけた峰田、熊の耳をつけた上鳴、六花、猿の耳をつけた常闇がいる。

 ここはズードリームランド。動物をモチーフにした遊園地だ。

 子供からお年寄りまで幅広い層に人気で、日曜という事もあり人で賑わっている。

 

 飯田がネイティブに遊園地のチケットを四枚もらい、緑谷、轟、六花と一緒に行くつもりだったのだが、緑谷と轟が行けなかったので、代わりに上鳴と峰田が一緒に行く事になったのだ。

 当初はこの四人で行く予定だったのだが、行きの電車でたまたま常闇に会い、五人で一緒に行く事にしたのだ。

 

 常闇の方は、ホークス事務所で職場体験をしていた時、救けた市民にお礼にとチケットを二枚貰い、USJで一緒に戦った口田を誘って二人で楽しむ予定だった。

 だが、今日になって口田の弟が急に高熱を出したため一緒に行けなくなってしまい、仕方なく一人で来たのだという。

 

「委員長、この装身具はつけなくてはいけないものなのか?」

 

 猿耳をつけた常闇が、自分の猿耳をいじりながら話しかける。

 実は常闇も、遊園地に来るのは初めてだ。

 飯田曰く、つけなければいけない事はないが、ズードリームランドに来た以上、ズードリームランドの住人になりきるべきだとの事。

 

「イーダさんって、割とカタチから入るタイプですよね」

 

 熱く語る飯田に、六花が冷静にツッコミを入れる。

 上鳴は、ウサミミをつけた六花を見て、浮かれ気味に口を開く。

 

「ま、ノリだよな。それに動物の耳つけた女の子ってカワイイし! ウサミミ最高!」

「?」

 

 上鳴の言葉に対して、六花は自分の黒い垂れ耳を触りながら首を傾げる。

 六花の天然な行動に対し、上鳴はホッコリして頬を緩ませる。

 何を隠そう、上鳴はウサミミ姿の六花が目当てで飯田の誘いに乗ったのだ。

 

「何言ってんだ、カワイイだけならぬいぐるみだってできる。大切なものが足りないだろうが!」

「大切なもの?」

 

 何故か鼻息を荒くして憤る峰田に、上鳴が首を傾げる。

 

「ウサミミならバニーガールの恰好がマストだろうが……! こぼれんばかりのおっぱいに鋭角に食いこむハイレグに網タイツだろうが!! なぜ、男のドリームを売ってないんだ! ドリームランドなのに!! ハッ、そうだ氷叢! お前今すぐバニーガールの格好に着替えてこい! レオタードの角度は魅惑の30度!!」

「私、そのバニーなんたらってやつしりません。そんなに好きなら自分で着てくればいいじゃないですか」

「わかってねーな、野郎が着たって意味ねーだろうが! 女が着るからドリームなんだよ!!」

 

 峰田のセクハラ発言に対して、六花が呆れ顔で言い返すと、峰田がさらに反論する。

 女子に対してストレートにセクハラ発言ができる度胸は、もはや鋼のメンタルと言ってもいいだろう。

 拳を握って力説する峰田に、飯田が反論する。

 ズードリームは森とサバンナをモチーフにした遊園地だ。森とサバンナにバニーガールはいない。

 だがそれに対して峰田が、悪徳業者に騙されてサバンナに放り込まれたバニーガールがいるかもしれないと妄想全開で反論する。

 真面目な飯田と性欲剥き出しの峰田が、サバンナにバニーガールがいるかいないかという議題で熱いディベートを交わしていると、周りの親子連れが遠巻きに二人を見た。

 飯田は、周りの客に謝ってから、せっかくなら乗り物全部制覇しようと意気込む。

 

「氷叢くんと常闇くんは、まずはどこに行きたい?」

「私はよくわかんないのでトコヤミさんが行きたいとこでいいです」

「では、俺は期間限定のアップルパイを……」

「うむ、アップルパイだな!」

 

 五人は早速、期間限定のアップルパイが食べられるという“森のスィーツ屋さん”に向かった。

 飯田に先導されながらしばらく歩いていると、リンゴをモチーフにした装飾品で装飾された店に辿り着く。

 早速、期間限定アップルパイと飲み物をそれぞれ一つずつ頼み、店の近くに置いてあるテーブルで食べる。

 六花と上鳴はコーラ、峰田はブドウジュース、常闇はリンゴジュース、飯田はオレンジジュースだ。

 峰田が、六花に声をかける。

 

「おい氷叢ぁ…コーラ一口くれよ」

「ヤです。デンキさんから貰えばいいじゃないですか」

「くっ……! 上鳴ぃ…何で氷叢と同じの頼んだんだよ!」

「いや、そんなこと言われても」

「峰田くん、テーブルを叩くのはよすんだ!」

「騒々しい……」

 

 六花との間接キスに失敗した峰田が悔しそうにテーブルをガンッと叩き、上鳴を責めると、真面目な飯田が峰田を注意し、常闇が呆れた。

 上鳴も、六花と同じコーラを注文していた。

 ならば同性の上鳴から分けて貰えばいいという六花の正論に対し、峰田は何も言い返せず、よりによって六花と同じ飲み物を注文した上鳴に矛先を向けた。

 そんな会話をしていると、店員が注文したアップルパイを運んできてくれた。

 

 リンゴが大好物の常闇は、アップルパイを美味しそうに啄んだ。

 そんな常闇に飯田が話しかけると、常闇が「委員長はオレンジジュースが好きなのか」と聞き返す。

 飯田曰く、オレンジジュースは“個性”のエンジンの燃料なので、他のものを飲みたくてもつい体が勝手にオレンジジュースを選んでしまうとの事。

 

「氷叢くんと上鳴くんはコーラが好きなのか。美味いのかい?」

「えっ、委員長コーラ飲んだことねーの?」

「ああ。炭酸だとエンジンがエンストしてしまうからね」

「あ、そうなんですね……」

 

 飯田が六花と上鳴の飲んでいるコーラを見て話しかけると、上鳴が驚いたような顔をする。

 飯田は“個性”の関係上炭酸飲料を控えているので、コーラを飲んだ事がないのだ。

 こんなに美味しい飲み物を飲めないなんて可哀想だと、六花は心の中で飯田を憐れんだ。

 アップルパイを食べ終わってから、飯田が六花と常闇にどこか行きたいところはないか尋ねたが、二人とも特になかったので飯田に任せる事にした。

 

 

 移動した六花達が次に向かったのは、木々が生い茂ったエリアだ。

 生い茂る木々の間には、一体どういう趣向なのか、タイヤやメロンパン、ピラミッド、赤い球体などの彫刻がポツポツと置かれている。

 飯田曰く、ここの園長が芸術好きな人で、昔から色んな芸術作品を期間ごとに展示しており、飯田が前に来た時は白塗りの人が組体操をしていたらしい。

 その光景を想像した六花は、その組体操とやらを見てみたい気がした。

 

 五人が次に来たのは、“オアシスのティータイム”というティーカップだ。

 はしゃぐ飯田の後に続いて、常闇もティーカップに乗りこむ。

 六花も、二人に続く形で、上鳴や峰田と三人でティーカップに乗り込んだ。

 他に乗っているのは小さい子供連ればかりだ。

 当然ながらティーカップに乗った事がない六花は、カップの中心についているハンドルが気になるようで、上鳴に話しかける。

 

「デンキさん、このハンドルなんです?」

「それを回すと、カップが回んの」

「へぇ……」

 

 開始のブザーが鳴り終わると、緩やかで楽しげな音楽が流れはじめる。

 六花は、音楽に合わせて緩やかにハンドルを回した。

 六花は、クール系の外見と規格外の“強個性”とは裏腹に、内面は幼稚園児のように純粋であどけない。

 初めての遊園地で彼女がはしゃいでいるのを見て、上鳴は年相応にドキドキしていた。

 彼も男子高校生、色々と多感な年頃だ。

 クラス一の美人と遊園地で遊ぶという夢のようなシチュエーションに、上鳴は内心かなり浮かれている。

 

「わがままオッパイの谷間に食い込む襷掛けカバン……唆るぜぇ……」

 

 なお、隣に座っていた峰田は、血走った目で六花の胸を見ながら鼻息を荒くしていた。

 若干前屈みの姿勢でハンドルを回し、さらにはショルダーバッグの紐が谷間に食い込む事で、サロペット越しでもその形がハッキリわかる程に胸が強調されている。

 峰田の想像力により、その肉感やフォルムが忠実に再構築され、脳内のエロフォルダに永久保存される。

 だがその直後、そんな煩悩は一瞬にして掻き消される。

 

「常闇くん……っ、一体何を……!」

 

 後ろから、飯田の声が聴こえる。

 見てみると、飯田と常闇の乗っているティーカップが、場外まで飛ばされてしまいそうな速さで回っている。

 それを見た六花が、何か納得したような顔をする。

 

「あ、なるほど。そういう遊びですか」

「えっ?」

 

 その直後。

 強烈な遠心力が、上鳴と峰田を襲う。

 

「「ぎゃああああああああああ!!!」」

 

 三人を乗せたティーカップが、横向きに高速回転しながら火花が散る程の速度で外周を回り、飯田と常闇のティーカップに追いついた。

 

「ムッ……氷叢か」

「トコヤミさん、どっちが速く回せるか勝負です」

「フッ、望む所」

「ち、違うぞ二人とも……!」

 

 何かを勘違いした六花と常闇が、互いに静かに闘志を燃やし合う。

 飯田の声も虚しく掻き消され、熾烈な競争が繰り広げられる。

 火花を散らしながら一心不乱にハンドルを回して勝負に勤しむ二人に対し、他の三人はティーカップの縁にしがみついたまま悲鳴を上げた。

 

 

「「お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……」」

「えっと……なんかごめんなさい……」

 

 数分後、飯田と常闇は近くのベンチでぐったりと座り込み、上鳴と峰田は地べたに四つん這いになって吐き気に苦しんでいた。

 峰田に至っては、さっき食べたアップルパイとブドウジュースをリバースしている。

 そんな四人を見て、申し訳なさそうに謝る六花だけは涼しい顔をしている。

 極超音速の世界にも容易く適応できる六花にとっては、ティーカップごときで酔っているようではまだまだなのだろう。

 

 結局次のアトラクションは飯田、常闇、六花の三人で乗り、まだ吐き気が治らない上鳴と峰田は近くで休む事にした。

 次にやってきたのは、煌びやかなメリーゴーラウンドだ。

 象や犀など、様々な種類の動物を模した乗り物が並んでいる。

 飯田は馬に、常闇は犀に、六花はキリンに乗った。

 

「きりんっ、きりんっ♪」

 

 六花は、キリンの首に抱きついてキャッキャとはしゃいだ。

 するとメリーゴーラウンドが、ゆっくりと動き始める。

 飯田と常闇も、それぞれ楽しんでいるようだ。

 一方で、峰田と上鳴はというと。

 

「ぎぼぢわりい……」

「六花ちゃんのバイタリティ舐めてたわ……」

 

 メリーゴーラウンドの近くのベンチで休んでいた二人は、未だに吐き気に苦しんでいた。

 飯田と常闇はまだ比較的軽症で済んだが、底知れないバイタリティを持つ六花と一緒にティーカップに乗っていた二人は、未だに平衡感覚が元に戻らず視界がぐわんぐわんと歪んでいる。

 なんとか気分を紛らわせようと、二人は妄想を膨らませる。

 

「あー、太ももムチムチバツイチ子持ちのドスケベ爆乳爆尻ナースに介抱されてーなぁ……」

「あー、綺麗なお姉さんに逆ナンされてー……」

 

 二人は、美人なお姉さんに優しくされる妄想をする事で、吐き気を忘れようとした。

 美人なら目の前に六花がいるが、それはそれ、これはこれだ。

 二人がベンチで休んで体力を回復させていた、ちょうどその時だった。

 

「あの……」

 

 前の方から、可愛らしい声がかけられる。

 二人が顔を上げると、そこにはキリンのカチューシャをした幼い女の子がいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「つまり、迷子というわけだな」

「だから、ユカ、まいごじゃないもん! もうようちえんなのにまいごにならないもん!」

 

 メリーゴーラウンドに乗り終わった後、ベンチで待っていた上鳴と峰田から訳を聞いた飯田の結論に、ユカという女の子は唇を尖らせて反論した。

 ユカの話によると、母親と二人で遊園地に遊びに来て、母親が昼食を買いに行っている間に、大好きなキャラクターの着ぐるみが通りかかり、ついそれを追って迷ってしまったらしい。

 

「ユカさん。私なんて、学校の中でもよく迷子になっちゃいます。私たち、仲間です」

「己の痴態を誇らしげに語るな……」

「なかまじゃない! ユカ、まいごじゃないもん!」

 

 六花が迷子のユカにシンパシーを感じて話しかけると、常闇がツッコミを入れ、ユカが不服そうに反論する。

 誰だって、高校生なのに学校の中で迷子になるようなダメ人間と一緒にされたくはない。

 

 本人が迷子じゃないと言い張るものだから、迷子センターに連れて行けないと上鳴が苦笑する。

 上鳴が連れてきたユカは、何故か常闇を怖がっていた。

 ユカ曰く、この前パンを食べられて突かれたから鳥は怖いらしい。

 そんなユカに対して、上鳴と峰田が、常闇はそういう“個性”だから怖くないと言う。

 だが当の本人は、トラウマはそう簡単に払拭できるものではないと言いつつ、ユカの母親を探す事を優先した。

 それに同意した飯田が、ユカに待ち合わせ場所を尋ねる。

 

「リンゴのまえ!」

 

 ユカが、これだけは覚えてると言わんばかりに大きな声で答える。

 六花達は、リンゴモチーフの装飾があった森のスィーツ屋さんかもしれないと考え、ユカを連れて森のスィーツ屋さんへと移動する。

 これで男四人だけだったら誘拐犯か何かと間違われていたかもしれないが、六花も一緒だったのでその心配はなかった。

 

「あか〜いリンゴのアップルパイ♪ あつ〜いリンゴにしっとりパイ♫ あまくてすてきなまほうのおかしっ♬」

 

 六花は、さっき食べたアップルパイを思い出しながら、即興のオリジナルソングを口ずさむ。

 すると六花の歌が気になったのか、ユカが話しかけてくる。

 

「まっしろのおねえちゃん、それなんのうた?」

「アップルパイのうたです。今つくりました」

「おねえちゃん、おうたじょうずだね」

 

 ユカと六花は、ニコニコ笑顔を浮かべながら話している。

 六花のぽわぽわした雰囲気に心を開いたのか、ユカは六花に懐いていた。

 六人で雑談をしているうちに、森のスィーツ屋さんに辿り着く。

 記憶通り、確かに店はリンゴモチーフの装飾が施されている。

 だがユカ曰く待ち合わせ場所はここではなく、もっと大きいリンゴの前だという。

 

 飯田がそんな大きなリンゴは知らないというので、峰田の提案で、今度は観覧車に乗って上から探してみる事にした。

 そうして観覧車に乗り込み、六人で目を凝らして探してみるが、大きなリンゴは見つからない。

 すると峰田が、呆れたように口を開く。

 

「つーか、今更だけどよぉ……氷叢の“個性”で探せば良くねえか?」

 

 峰田の案に、飯田、上鳴、常闇がハッとする。

 だが当の本人は、露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「えぇ……コウキョウノバで“個性”使うのダメじゃないです?」

「今そんなこと言ってる場合じゃねえだろ……ユカちゃん困ってんだぞ」

「じゃああとでおこられたら、ミノルさんにやれってゆわれましたってゆっていいです?」

「何でオイラなんだよぉ!」

 

 六花の理不尽な発言に、峰田が抗議する。

 四人に説得された六花は、雪でできた鷹の大群を遊園地全体に飛ばした。

 すると、それを見たユカが怖がって上鳴にしがみつく。

 

「と、とりさん、こわい……」

「氷叢くん、ユカくんが怖がっているぞ。別の形にできないのか?」

「…………とりさん……かわいいのに……」

 

 ユカを怖がらせてしまった六花は、しょぼんと落ち込む。

 六花にとって、鳥は友達だ。

 特にシマエナガには強い思い入れがある。

 加えて、六花の造る雪像は、その動物の長所をそのまま再現できる。

 猛禽類の視力は人間の8〜10倍あるといわれ、人間の目には見えない紫外線も視認できる。

 鳥はなんだかんだで便利なのだ。

 

 しかし、ユカを怖がらせてしまっては元も子もないので、六花は雪の形を変えて小さな氷の粒にする。

 氷の粒を広範囲に飛ばし、遊園地全体をくまなく探した。

 だが、結局待ち合わせ場所らしきものは見つけられなかった。

 係員に聞いても、それらしきものはないらしい。

 

 上鳴が迷子センターに行くよう言うと、ユカは必死で首を横に振る。

 迷子センターにユカの母親がいるとは限らないと飯田が言うと、峰田が場を和ませようと、「もしかしてもう帰っちまってたりして!」などと洒落にならない冗談を言った。

 するとユカが泣き出してしまったので、峰田以外の四人が峰田を責める。

 

「……ミノルさんサイテーです」

 

 六花に白い目で見られた峰田は、慌てふためく。

 するとその時、着ぐるみが配っていた赤い風船が目に留まる。

 峰田は、慌てて風船を貰ってユカのもとへ戻ってきて「ほら! 大きなリンゴだぞ!」と言った。

 

「ちがうもん! もっとも~っとおおきいリンゴだもん!」

 

 冗談まじりに言う峰田に対して、ユカが反論する。

 これはリンゴじゃなくて風船だと上鳴が笑いながら言うと、赤くて丸いものは全部リンゴだとユカが言う。

 それを聞いた六花達はハッとする。

 つまり『大きいリンゴ』は、本物のリンゴの形をしているわけではなく、赤くて丸いものだという事だ。

 赤くて丸くて大きなものが遊園地にあったかと考えていると、常闇が思い出したように口を開く。

 

「ある。こっちだ」

 

 そう言って常闇が走り出す。

 他の五人も、常闇を追いかける形で走り出した。

 常闇が向かったのは、ティーカップに乗る前に立ち寄ったモニュメントだ。

 そこには、ユカの母親らしき女性が、心配そうにユカを待っていた。

 

「ママ!!」

「ユカ……!! もう、どこにいたの! ママ、心配したんだからね……っ」

 

 五人から事の顛末を聞いた母親は、五人に謝罪と感謝を繰り返す。

 そんな母親に対し、飯田達が自分達は当然の事をしたまでだと返す。

 

「ユカさん、お母さんに会えてよかったですね」

「……うん」

 

 六花が話しかけると、ユカが小さく頷く。

 母親に促されて六花達に礼を言ったユカは、常闇に駆け寄って謝った。

 以前自分を突いてきた鳥よりも大きな嘴をしているから、丸ごと食べられてしまうと思って怖かったとの事。

 それを聞いた常闇は、フッと笑みを浮かべる。

 

「……気にするな。俺が好きな食べ物はリンゴだ」

 

 その常闇の笑みに、ユカの頬がリンゴのように赤らんだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから五人は遅めの昼食を食べ、食後のデザートにまたアップルパイを食べていた。

 常闇がもう一度食べたいと言い出したので、それに釣られて他の四人も食べる事にしたのだ。

 だが六花だけは、何故かアップルパイを二個注文した。

 六花は、何故かアップルパイをその場では食べずに、二個とも冷凍した。

 そんな六花に対し、飯田が疑問を投げかける。

 

「氷叢くん、何故アップルパイを冷凍しているんだい?」

「これは……帰ってからママと一緒にたべる分です。おいしかったので……ママにもたべさせてあげたいです」

 

 そう言って六花がアップルパイを直に鞄にしまおうとすると、飯田が六花の行動に感激する。

 

「なるほど……氷叢くんは母上想いなのだな。感服したよ……! だが、直接鞄に入れるのは不衛生だぞ」

「あ……はい……」

 

 飯田が、こんな事もあろうかと持ち歩いていたビニール袋を手渡したので、六花はアップルパイをペーパーナプキンに包んでから、飯田に貰ったビニール袋に入れて鞄にしまった。

 その後、話題は授業参観の感謝の手紙の話に移り変わる。

 ビッシリ便箋40枚に書いてきた飯田に対して、上鳴は2枚、峰田は1枚だ。

 飯田が代表して読めばいいと上鳴が言うと、飯田がそんなわけにはいかないと反論しつつも、枚数が多すぎるとクラスメイトの分の時間を削ってしまうと思い悩む。

 そんな飯田を横目に、六花は足をぷらぷらさせながらストローでコーラを啜る。

 その時、通りを警備員らしき人達が慌てた様子で走っていくのが見えた。

 

 何かあったのかと五人が警備員が走っていった方向を向いた直後、物が壊されたような音や悲鳴が聞こえてきた。

 只事ではない様子に、六花達は席を立って駆けつける。

 騒ぎの元はお化け屋敷だった。

 なんだなんだと野次馬が集まっている。

 

 

「子供が中にいるはずなんです……っ、ユカが、まだ……!」

 

 お化け屋敷の近くには、警備員に止められながらも、必死に叫んでいるユカの母親がいた。

 六花達が駆け寄ると、母親が六花達に気付き、泣きながら事の顛末を説明した。

 ユカと一緒にお化け屋敷に入ったら、ユカが突然いなくなってしまい、中にいた人形が突然襲いかかってきたとの事。

 そうしている間にも、人形のお化けが、お化け屋敷の中をしっちゃかめっちゃかに破壊する。

 その様子を見て、警備員や野次馬が恐怖のあまり叫び声を上げていた。

 母親は、ユカを助けようと必死に警備員に訴えかけるが、警備員に止められてしまう。

 

「ち、近づかないでください! お母さん、今、ヒーローを呼んでいますからもう少し待っていてくださいっ」

「そんな……っ」

 

 娘の危機に、母親は歯痒そうにお化け屋敷を見つめる。

 ズードリームランドの近くにはヒーロー事務所は無く、ヒーローの到着を待っていたら、少なくとも10分以上は掛かってしまう。

 それまでユカが無事かどうかわからない。

 母親は、今すぐ助けに行きたいのに、助けに行けない非力な自分を恨んだ。

 そんな母親を見て、飯田は何か決心したように声をかけた。

 

「ユカくんのお母さん、僕が探してきます。ご安心を」

 

 そう言って飯田が、母親を宥めてから、お化け屋敷へと向かう。

 上鳴達も、慌てて飯田を追いかける。

 飯田が向かったのは、お化け屋敷の裏側だ。

 飯田曰く、昔兄が偶然この抜け道を見つけたとの事。

 飯田が抜け道を通ってお化け屋敷に入ると、上鳴と常闇、そして峰田も、這いつくばるように飯田の後をついて行った。

 

「……まぁ、一回やったら二回目もいっしょですし……」

 

 なんだかんだで、六花もついていく。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

峰田 side

 

「うお、暗っ」

 

 最初は何も見えなかったけど、目が慣れてくると中の惨状がわかった。

 本来、通路のはずの場所には壊されたセットや装置が散らばっている。

 そんな薄暗がりの中、何かが動き回っている音がしている。

 しかも、ひとつじゃない。

 

「なんだよ、オバケ役の人が待遇改善でストでも起こしてんのかぁ……?」

 

 体が震えるのを感じながら冗談を言うと、飯田が答える。

 ここは子供向けのお化け屋敷だから、お化けは全て人形らしい。

 そんなもんがなんで勝手に動いてるんだと言うと、常闇が、そんな事より女の子を探すのが先だと正論を言ってきた。

 そんなんわかってるよ、と反論しようとした時、河童の人形がオイラに襲いかかってきた。

 

「ぎゃああああ!!?」

 

 だけど河童の人形は、オイラには当たらなかった。

 常闇の体から飛び出した黒影(ダークシャドウ)が、河童の人形に噛みついてぶっ壊したからだ。

 

「ひっ……!」

 

 顔のすぐ横で河童を嚙み砕かれて、オイラは腰を抜かした。

 でも、黒影(ダークシャドウ)は止まるどころか、暴走して周りのものを壊し始めた。

 こいつ、暗闇の中だと凶暴化すんのかよぉ!?

 

「怖えよ! 常闇のペット!!」

 

 周りの人形をひっちゃかめっちゃかに壊しまくる黒影(ダークシャドウ)に、オイラは思わず半泣きになりながら叫んだ。

 すると黒影(ダークシャドウ)がピタッと止まり、ゆっくりと振り返る。

 あっ、やべっ……

 

「ペットダト……?」

「ウソウソウソウソッ! むしろ飼い主っ!?」

「「俺達は(ハ)対等だ(ダ)……!」」

 

 黒影(ダークシャドウ)が、怒りのままオイラに飛びかかろうとする。

 やべぇ、地雷踏んだ!!

 南無三……!!

 

 オイラが身を屈めて受け身の姿勢を取ったその時、目の前がビカッと黄色く光った。

 見ると上鳴が、体から放電していた。

 黒影(ダークシャドウ)は、上鳴の放った電光にビビって大人しくなる。

 

 はぁ〜……助かっ……

 

 ……あれ?

 今まで暗がりで気づかなかったけど……

 氷叢いなくね?

 

「……なぁ、このパニックで気づかなかったけどよ……氷叢どこ行った?」

「「え?」」

「……何?」

 

 オイラの言葉に、三人が後ろを振り向く。

 

「来てねえんじゃねえの? お化け屋敷の前で待ってるとか……」

「いや、確かにオイラの後ろにいたはずなんだよぉ! どこ行ったんだよあいつ!」

「何てことだ、ユカくんに続けて氷叢くんまで……! ユカくん! 氷叢くん! どこだ! いるなら返事をしてくれ!」

 

 飯田の呼びかけにも、返事ひとつない。

 上鳴は、二人ともお化け屋敷の中にはいないんじゃないかと言う。

 するとだ。

 

「イルヨ」

 

 上鳴の言葉に、子犬みてぇに大人しくなった黒影(ダークシャドウ)が反論した。

 女の子は、闇に紛れて怯えていて、氷叢も女の子と一緒にいるらしい。

 黒影(ダークシャドウ)は、二人がいる場所へとオイラ達を案内した。

 隅の井戸の近くには、キリンのカチューシャが落ちていた。

 さっきの女の子がつけていたカチューシャだ。

 

「コノ井戸ノ中ダヨ」

 

 そう言われて井戸の中を覗いたけど、中には誰もいない。

 その時常闇が、もしかしたら“個性”が発現したのかもしれないと言った。

 女の子の“個性”は、闇の中に紛れて、その中で色んなものを操る“個性”……らしい。

 出てこないのは、闇から出てくる方法がわからないからじゃないかと飯田が言った。

 すると常闇が、少し考えてから言った。

 

「……俺が話してみる」

 

 そう言って常闇が、井戸に向かって話しかける。

 だけど常闇の厨二丸出しな言い回しのせいで、堅物の飯田にまで「硬い」とツッコまれた。

 

 そんな言い回しで幼女が出てくるわけねぇだろ!!

 こいつ、こんな時まで厨二病全開かよ!!

 

 なんて心の中でツッコミを入れると、常闇が少し考えてから、井戸の中に手を伸ばした。

 

「ユカ、この手を握れ」

 

 すると、闇の中から暗く透き通る女の子の小さな手がゆっくりと現われ、戸惑うようにおずおずと常闇の手に触れた。

 常闇はその手をしっかりと握り返すと、闇から女の子が現れた。

 

「とりのおにいちゃん……」

「もう大丈夫だ」

 

 あーよかった。

 なんて考えつつ、井戸の中を覗く。

 井戸の中の女の子の近くには、氷叢が倒れていた。

 黒影(ダークシャドウ)は、井戸の中へと移動して氷叢を救出した。

 

黒影(ダークシャドウ)、氷叢は……」

「ダイジョウブ、気ヲ失ッテルダケダ」

 

 氷叢を井戸の中から救出した黒影(ダークシャドウ)は、地面に氷叢を降ろす。

 そのまま帰ろうとしたけど、女の子は、帰りたくないと言った。

 母親を怖がらせてしまったから今の姿のまま戻りたくないと泣く女の子に、常闇が話しかける。

 だけどまた厨二全開な言い回しのせいで上鳴達にツッコまれ、常闇が悩む。

 すると常闇の代わりに、黒影(ダークシャドウ)が言った。

 

「闇は友達ダヨ!」

 

 黒影(ダークシャドウ)が話しかけると、女の子はビックリしつつも黒影(ダークシャドウ)に近づいた。

 女の子は、黒影(ダークシャドウ)に対して友達だと言って笑いかける。

 その姿を見て、オイラもホッとしたように頰を緩ませた。

 するとその時、氷叢が目を覚まして上体を起こした。

 

「んん〜……?」

「氷叢くん! 良かった、気がついたか……!」

「あれ……? イーダさん……? みんな……? わたし、なにしてたんでしたっけ……」

「もう大丈夫だ、すぐにここから出よう。立てるかい?」

「あ……はい……」

 

 飯田が声をかけると、氷叢はゆっくりと立ち上がる。

 

「……さて、行こうか」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

No side

 

「ユカ、お姉さんにごめんなさいは?」

「おねえちゃん、ごめんなさい……」

「いえ、だいじょうぶですよ。勝手に首つっこんでジメツしただけなので……それより、たすかってよかったですね」

 

 母親に促されてユカが頭を下げると、六花がちょうどぶつけた頭を掻きながら言う。

 事の顛末はこうだ。

 六花は氷の使い魔でユカを見つけて助け出そうとしたのだが、足を滑らせて井戸の中に落ちてしまい、そのまま頭を打って気絶してしまった。

 ユカの“個性”が暴走中だった事もあって、一緒に闇の中に紛れてしまい、そのせいで峰田達が見失ってしまったのだ。

 

 母親が何度も礼を言うと、飯田が恐縮し、峰田が「カラダで払う的な……?」と最低発言をする。

 

「ミノルさん、カラダではらうってどういう意味です?」

「六花ちゃんもいちいち聞かなくていいよ!!」

 

 六花が峰田の発言に反応すると、上鳴がツッコミを入れる。

 ヒーロー志望として当然の事をしたまでだと胸を張る飯田に、母親が賞賛の眼差しを送りながら、ユカに礼を言うよう促す。

 するとユカは、ぴょこっと頭を下げてから、常闇に駆け寄って言った。

 

「とりのおにいちゃん、おうじさまみたい……だいすき!」

 

 ユカが頬を赤らめながら言った言葉に、その場にいた全員が驚く。

 

「わ……ぁ……っ」

 

 女の子に告白された常闇に対して嫉妬する上鳴と峰田の近くで、六花はキャップで口元を隠しながら頬をほんのり染めている。

 六花は、生まれてこの方、恋をまだ知らない。

 だが、年頃の女子としては、やはり気になるものだ。

 その隣で飯田が、しっかりとお互いの両親に許可を取り、大人になってから清く正しい付き合いをするようにとユカに言い聞かせる。

 ユカの眩しい笑顔に、常闇は照れたように呟く。

 

「……先のことは闇の中だ」

 

 

 

 

 




A組で一番かわいいのは黒影(ダークシャドウ)。異論は認める。
本作では、常闇くんは飯田くんに誘われて遊園地に来たのではなく、たまたま行き掛けに一緒になったって事にしてます。
あと、六花ちゃんが一緒にいるので、上鳴と峰田はナンパしてません。
ナンパしてないので、ユカちゃんが逆ナンを覚える流れもありません。
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