No side
「ふわぁぁ……」
物間達が来た日の深夜。
六花は、談話スペースで大きなあくびをしていた。
飯田が寝静まったのを確認すると、緑谷が他のクラスメイトに声をかけて談話スペースで作戦会議を開いた。
爆豪に関しては、「クソかったりぃ。寝る」と言って部屋に戻って寝てしまい、結局集まったのは飯田と爆豪を除く18人だった。
全員が注目する中、緑谷が口を開く。
「飯田くん、いつも僕達のことを第一に考えてくれていて……そんな飯田くんに対して、思えば僕って何も返せてないなって…ふと思ったんだ」
「確かに……お世話になりっぱなしではいけませんものね」
緑谷の言葉に、八百万も頷く。
この日は、飯田の誕生日の前日だった。
緑谷は、いつもお世話になっている飯田の為に、クラス皆で誕生日を祝ってあげたいと考えていたのだ。
すると上鳴も口を開く。
「あいつ、俺達のことは気にかけてくれるくせに、自分の誕生日すら忘れてんだもんなぁ〜。たまには俺達が目一杯世話焼いてやろうぜ!」
「うん、やろやろ!」
「私、ビックリするやつやりたい!」
「よっしゃあ!! 俺らで世界一楽しい誕生日パーティーにしてやろうぜ!!」
上鳴の言葉に、ノリのいい芦戸、葉隠、切島が賛同した。
こうして、A組全員で飯田の誕生日パーティーをやる事になった。
企画班は芦戸、上鳴、切島、耳郎、葉隠。
装飾班は尾白、口田、障子、瀬呂、常闇、轟、緑谷、峰田、八百万。
そして料理班は蛙吹、麗日、砂藤、六花。
それぞれの担当が決まったところで、各自作業に取り掛かった。
「まずは誕生日当日のメニューを決めないとな。飯田の好き嫌いとか、食べられないものとか把握してる奴いるか?」
そう切り出したのは、A組の料理長、シュガーマンこと砂藤力道。
料理班には、普段から自炊をしている蛙吹と麗日、そして部屋王決定戦の時に蕎麦が好評だった六花が選出された。
「う〜ん、飯田くんあんまり好き嫌い無さそうだからなぁ」
「そうね。飯田ちゃんが好き嫌いしてるとこ、見たことがないわ。……あ、でも飯田ちゃん、普段食堂でビーフシチューとオレンジジュースを頼んでるわね」
麗日と蛙吹が、普段の飯田の食事中の光景を思い浮かべながら言った。
飯田の好物といえば、ビーフシチューとオレンジジュースだ。
この二つを押さえておけば、飯田は喜ぶだろう。
「ビーフシチューとオレンジジュースか……でもそれだけだと普段の飯と変わんねぇよな? 他に何か作りたいもの無えか?」
「お蕎麦」
「それは六花ちゃんの好きなものでしょ。今は飯田ちゃんの食べたいものを考えるのよ」
「てかビーフシチューに蕎麦は合わないんじゃ……」
「わたし、お蕎麦屋さんのお料理しか作れない……」
蛙吹と麗日の指摘に、六花は少し悲しそうに俯く。
六花の得意料理といえば、雪代に教えてもらった手打ち蕎麦とだし巻き卵、それから鴨焼きだ。
元々蕎麦屋をやっていた雪代に料理を教わっていたので、得意料理のレパートリーが蕎麦屋のメニューに偏っているのだ。
それでは役に立てないといじけていると、砂藤が六花に声をかける。
「あ、でもケーキ作る時、冷やす工程があるから、ケーキ作り手伝ってくれるか?」
「……はいっ」
砂藤が言うと、六花はすぐに機嫌を直した。
ちなみに砂藤が作る事にしたのは、オレンジジュースをふんだんに使ったショートケーキだ。
飯田も砂藤の作るケーキは美味しそうに食べていたので、ケーキ作りの材料で食べられないものがあるという事はまずないだろう。
六花達は早速、ケーキ作りの準備に取りかかった。
◆◆◆
飯田 side
僕は、鳥の鳴き声と共に目を覚ました。
目を開けると、今となっては見慣れた天井が目に飛び込んでくる。
枕元の目覚まし時計を見ると、いつも通り、アラームをセットした時間の5分前だった。
目覚まし時計のアラームを解除し、軽く伸びをしながら起き上がる。
布団の皺を伸ばしてから、いつものように窓のカーテンを開けると、ベランダの手摺りに留まっていた小鳥が驚いたように飛び立つ。
驚かせてしまった小鳥に「すまない」と謝ってから窓を開けると、澄んだ空気が部屋に吹き込んでくる。
軽く深呼吸をすると、すっかり目が覚め活力が湧いてきた。
そしてトイレで用を足してから、洗面用具を持って部屋を出て、一階の風呂場の脱衣所へ向かった。
「またか……」
脱衣所に着くなり、目に飛び込んできたのは、乱れた室内だった。
籠が乱れていたり、備品が違う場所に置かれていたり、誰かの歯ブラシが忘れっぱなしだったりしている。
僕はため息をつきながら、籠や備品を元の場所に戻し、忘れ物の歯ブラシを洗面所の端に置いた。
生活空間の乱れは、心の乱れに繋がる。
もっと綺麗に使わねば……
改善策を考えつつ、冷水で顔を洗い、歯を磨いていると、口田くんと障子くんがやってきた。
「おはよう、障子くん、口田くん」
「今日も早いな、委員長」
「うん……」
僕が声をかけると、障子くんはいつもと変わらない様子で、口田くんは少し眠そうに反応した。
この二人は早起きなので、朝はこうして洗面所で顔を合わせる事が多い。
僕は歯ブラシの忘れ物の事を思い出し、二人に聞いてみた。
「……上鳴かもしれん。そんな色のを使っていたような気がする」
上鳴くんか……起こすついでに聞いてみよう。
僕は障子くんに「ありがとう」と礼を言ってから洗面所を後にし、エレベーターに乗り込んだ。
三階で降りて自室へ向かう途中、尾白くんとすれ違った。
「おはよう、尾白くん」
「おはよう〜」
僕が挨拶すると、尾白くんは眠そうに答えた。
よく見ると、髪や尻尾に寝癖がついている。
自室に戻り制服に着替えた僕は、脱いだパジャマを畳んで洗濯用の籠に入れ、窓の鍵をチェックし、カーテンを閉めた。
そして、昨日のうちに今日の授業で使う教科書や参考書を入れておいた鞄を肩から下げ、部屋を出る。
エレベーターに乗って二階で降り、手前から二番目の部屋をノックする。
声をかけながらノックすると、上鳴くんが「はよ〜……」と眠そうに答えながら扉を開けた。
上鳴くんに歯ブラシを洗面所に忘れていた事を伝えてから、再び一階へ戻り、食堂へ向かう。
ランチラッシュ先生が朝早くから作ってくれた朝食は、既に寮に配膳されている。
業務用スープジャーに入った味噌汁をお椀によそっていると、口田くんや障子くん、常闇くん、耳郎くん、八百万くんがやってくる。
朝の挨拶を済ませてから、それぞれ和食と洋食、好きな方を選び席に着く。
すると僕の前に座った耳郎くんと八百万くんがあくびをした。
普段この時間には起きている二人があくびとは、珍しいな……
「どうしたんだ、寝不足か?」
「んー……昨日ちょっとさ」
「昨日? 何かあったのかい?」
僕が尋ねると、二人はハッとしたような顔をした。
「き、昨日……夜遅くまで本に夢中になってしまったものですから……」
「あー……ウチは音楽聴いてて……」
そういう二人の会話は、どこかぎこちない。
すると隣の座っていた常闇くんが、咳払いをしてから口を開く。
「……やはり、朝食は和食だな」
朝食……?
あぁ、そうか、こんなに美味しい朝食なんだ、感動するも当然だな。
朝食を綺麗に完食した僕は、「ご馳走様」と手を合わせてから、一足早く寮を出た。
高く聳え立つ校舎へ向かい、歩いていく。
◇◇◇
教室に着いた僕は、思わず顔を顰める。
所々、椅子が乱れている。
椅子の乱れは態度の乱れ。椅子は学校の備品なのだから、丁寧に扱わなくては。
そう考えながら、僕は教室の掃除をした。
皆や先生方に気持ちよく授業をしてもらう為の、僕の朝の日課だ。
綺麗になった教室で、僕は自習を開始した。
ふと時計を見ると、朝礼の三分前を指している。
「みんな、遅いな……」
いつもなら皆とっくに来ている時間だというのに、今日は誰一人来ていない。
いつも遅めに来る上鳴くんや氷叢くんは兎も角、口田くんや障子くんまで来ていないとは、どういう事だ……?
流石に心配になってきて、様子を見に行こうと席を立とうとした、ちょうどその時。
廊下から大勢の足音が聴こえ、僕を除いた全員が教室に駆け込んできた。
「ま、間に合った……っ」
「ちょ……朝から全力ダッシュはキツイ~ッ」
「ちょい、六花ちゃん起きて!」
「ねむい…………」
皆が、教室の扉の前でゼェゼェと息を切らす。
氷叢くんに至っては、半分寝た状態で蛙吹くんと葉隠くんに担がれながら教室に入ってきた。
「何をしてたんだ? もう少しでホームルームが始まる時間だぞ!?」
僕が心配して尋ねると、皆の表情が一瞬強張り、そしてぎこちなく言い淀む。
何かあったのだろうかと首を傾げていると、麗日くんが前に出て言った。
「……Gが出たんよ」
麗日くん曰く、キッチンにゴキブリが出て、皆で退治していたらしい。
そういう事だったのか、そういう事なら僕も寮に戻って手伝えば良かったな……
「それは手伝えなくてすまなかった! みんなも大変だったな!」
僕がそう言うと、皆はなぜかため息をついて席に座った。
僕も自分の席に向かったその時、氷叢くんが寝ぼけて船を漕ぐ。
「ふわぁぁ……」
氷叢くんは、ようやく起きたかと思うと大きなあくびをした。
皆眠そうにしていたり寝癖がついたままだったりしているが、特に氷叢くんは、髪を梳かすのを忘れたのか、寝癖で髪が鳥の巣のようになっている。
時間前行動がなっていないな、全く!
「氷叢くん、寝ぼけたままではいけないぞ。雄英生たる者、朝から万全の状態で授業を受けなければな!」
「んぇ……? あぁ、ごめんなさい……」
「それにしても、みんな眠そうにしているが、昨日夜更かしでもしていたのか?」
「えーっとぉ……それは、イーダさんの……」
「ん? 俺がどうかしたのかい?」
氷叢くんが何かを言おうとすると、近くの席の八百万くんと耳郎くんが、慌てて氷叢くんの前に来て口を開く。
「さっ……参考書! 飯田さんがお勧めしてくださった参考書で勉強していましたのよね、氷叢さん!?」
「そ、そうそう! それで六花、すごく勉強が捗ったみたいでさ! だよね!?」
「ん……? えー……あ、はい……そうです……」
二人が念押しするように言うと、氷叢くんはきょとんとした様子で頷く。
そういえば前に、普段使っている参考書を八百万くんに聞かれた事があったな。
「そういうことだったのか。勉強するのはいいことだが、夜更かしは良くないぞ」
「……ん……ごめん、なさい」
僕が注意をすると、氷叢くんは目を逸らしながら頷く。
今日は会話のテンポが悪いな……
本当に反省しているのか……?
色々気になる事はあるが、もうすぐ授業が始まる。
今は、授業に集中しなければなるまい。
◇◇◇
午前中の授業はあっという間に終わり、昼休み。
僕はいつものように、緑谷くん、轟くんと一緒に、『ランチラッシュのメシ処』に向かった。
列に並びながら、三人で話をする。
寮生活が始まってランチラッシュ先生も大変だろうという話から、ランチどころじゃないからヒーローネームを変えるのかという話になった。
そんな話をしている間に、僕達の番が来た。
いつものようにビーフシチューとオレンジジュースを注文して、席に着く。
するとだ。
「なぁ俺達も一緒にいいか?」
「ぇと……わたしも……いい、ですか……?」
砂藤くんと氷叢くんが、僕達の前に来た。
僕達が頷くと、二人は向かいの席に座る。
それにしても、砂藤くんと氷叢くんか……珍しい組み合わせだな。
僕はビーフシチューを食べながら、今朝脱衣所が乱れていた事を思い出し、皆に解決案の提案を求めた。
張り紙をする、勝手に元の位置に戻るように籠に磁石を貼るなどの案が出る中、氷叢くんが口を開く。
「……イーダさんっていっつもビーフシチューとオレンジジュースですよね。好きなんですか?」
「ん? ああ、ビーフシチューは好物さ。オレンジジュースはエンジンの燃料なので、いつも飲むようにしている」
「…………へぇ」
僕が答えると、氷叢くんは視線を横に逸らしてからズゾーッと蕎麦を啜った。
するとその時、砂藤くんが思い出したように言った。
「そ、そういえばよー。飯田って食べられないものってあんのか……?」
「嫌いな食べ物ということか? いや、好き嫌いは特にないが」
「……それじゃあアレルギーとかは?」
「いいや、そういうのも特にない。強いて言うなら、炭酸はエンジンがエンストしてしまうので、飲まないようにしているが……」
僕がそう言うと、砂藤くんは安心したような表情を浮かべた。
「ところで、なぜそんなことを訊くんだい?」
僕がそう聞くと、皆がビクッと肩を跳ね上がらせて固まった。
轟くんが「それはお前の」と言いかけたが、緑谷くんが轟くんの口を手で塞いでしまい、最後まで聞けなかった。
そういえば今朝から皆、様子がおかしかった。
皆やけに眠そうにしていたし、耳郎くん、八百万くん、氷叢くんは三人揃って夜更かしをしていた。
氷叢くんに至っては、僕と視線を合わせようとしない。
それに皆、やけに会話がぎこちない。
……もしかして僕は、気付かないうちに何かしてしまったのか?
氷叢くんがさっき言いかけた言葉や、今轟くんが言いかけた言葉が、『それはお前のせいだ』と言おうとしたのではないかと考えてしまう。
僕は、皆から避けられるような事をしてしまったのか……!?
……いや、思い当たる節が無いわけではない。
思えば、普段から僕は、皆に色々と口うるさく説教をしていた。
僕は良かれと思って言ったが、皆にとっては鬱陶しかったのかもしれない。
「飯田くん? あの……大丈夫?」
「……いや、なんでもない。大丈夫だ!」
いけない、僕とした事が、クラスメイトに要らぬ心配をかけてしまった。
確たる根拠もないのに皆を疑うなど、委員長として恥ずべき事だ。
きっと、俺の気のせいだろう。
◇◇◇
「緑谷くん、昨日言っていた必殺技のことなんだが、寮に戻ったら……」
「あっ、えっと……ごめん飯田くん! 僕、これからやることがあるから! 行こう、轟くん!」
「……おう」
放課後、僕は緑谷くんを必殺技の特訓に誘ったのだが、緑谷くんは慌てた様子で轟くんと一緒に先に寮へと走り去っていってしまった。
気のせいだと、昼休みの時は思っていた。
だが今日一日皆の態度を見て、疑念が確信に変わった。
午後から皆次第によそよそしくなっていき、普段は賑やかな上鳴くんや切島くんまでもが、明らかに口数が減っていった。
授業の間の小休憩の時も、僕がトイレに行っている間に皆が何かを話していたようだが、僕が来るなり慌てて席に着いて露骨に視線を逸らした。
やはり僕が何かしてしまったのか……?
僕は委員長として、皆をいい方向へ導こうと努力してきた。
だが僕がそう思っていただけで、皆に疎ましがられていたのか……?
「おい、メガネ」
僕が一人で教室を出ようとすると、いきなり爆豪くんが扉の前に立ち塞がってきた。
僕が爆豪くんを避けて教室を出ようとすると、爆豪くんは扉に肘をついて道を塞いでくる。
何がしたいんだと思っていると、爆豪くんが話しかけてくる。
「てめェ、この後何か用事あるんかよ」
「いや……いつものように、寮に戻って明日の予習とエンジンの手入れをするだけだが……」
「だったら、俺の特訓に付き合え。今日は演習が無かったから暴れ足りねンだよ」
そう言われて、思わず困惑してしまう。
別に、爆豪くんと一緒に特訓をするのが嫌というわけではない。
だが、爆豪くんの方から僕を特訓に誘ってきた事がなかったので、返答に困ってしまったのだ。
「訓練に付き合うのは構わないが……何故俺なんだ?」
「てめェが寮にいると邪魔なんだよ。いいから黙って俺に付き合えや」
「なっ……!? 君はどうしてそういう言い方を……!」
『邪魔』と言われて、思わずカチンときて言い返そうとした。
だがその時、皆のぎこちない態度が脳裏を過った。
皆には邪魔だと思われているのだろうか。
「……あ、いや……わかった……」
僕は強く言い返せず、そう答えるしかなかった。
◇◇◇
爆豪くんに呼ばれ、体操服に着替えた僕は、TDLに向かった。
僕がTDLの扉を開けると、先に来ていた爆豪くんが準備運動をしていた。
僕が爆豪くんの提案に乗ったのは、彼の言う通り、今寮に戻ったら皆に迷惑をかけてしまうかもしれないと思ったからだ。
そうでなくとも、クラス委員長として、クラスメイトの頼みを聞くのは当然の事なのだが。
「来いや。サンドバッグにしてやらぁ」
僕と目が合うなり、爆豪くんが掌から小さな爆発を出しながら煽ってくる。
本気でかかってこい、という事だな……
「いくぞ、『レシプロバースト』!!」
僕は、“個性”を発動し爆豪くんに向かって突進すると、右の上段回し蹴りを放った。
すると爆豪くんは、上に跳んで僕の蹴りを回避すると、空中で身を翻して俺の視界の外へと飛び込んだ。
そして……
「っらぁ!!」
爆豪くんが、死角から煙幕を放ってきた。
一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直し、そのまま振り向きざまに回し蹴りを放つ。
だがそれも、あっさり見切られて軽く受け流されてしまった。
◇◇◇
特訓を開始してから、30分が経過した。
僕は結局、一度も爆豪くんに攻撃を当てる事すらできなかった。
僕は最初から最後まで本気で試合に挑んでいたというのに、爆豪くんは新技とやらを一度も使わずに僕を圧倒してきた。
「弱ぇな、てめェ。新技撃つまでもねぇわ。やる気あんのかよ」
「くっ……」
「殺す気でやらなゃ特訓にならねぇだろうが。余計なこと考えてんじゃねぇ」
爆豪くんは、僕が全力を出せていなかった事を見抜いてきた。
僕が全力を出せなかったのは、皆に嫌われているのではないかという考えが頭の片隅に残っていたからだ。
そのせいで注意が散漫になり、単調な攻撃しかできなくなっていた。
このままではいけないと思い、僕は思い切って爆豪くんに話しかけた。
「……爆豪くん、君の意見が聞きたい。俺は、迷惑なのか……?」
「……あ?」
「今日は何故だか、みんな俺を避けているようなんだ。緑谷くんや轟くんも、俺と目を合わせてくれなくて、さっきも、俺が話しかけた途端に二人で帰ってしまって……思い当たる節が無いわけではないんだ。思えば俺は今まで、みんなに色々と口うるさく注意をしてきた。俺はみんなの為を思って言ったつもりだったが、もしそのせいでみんなが疎ましく思っているのだとしたら、そのことをきちんと謝りたい。だが、いざ謝ろうと思うと、どんな顔をして謝ればいいのかわからないんだ……」
僕は、今思っている事を正直に爆豪くんに打ち明けた。
緑谷くんや轟くんにも打ち明けられなかった事なのに、何故か爆豪くんにはすんなり打ち明けられた。
仲良くもないクラスメイトなのに……いや、仲良くないクラスメイトだからこそ言えたのかもしれない。
僕の話を聞いて、爆豪くんは馬鹿にしたように顔を背けた。
「ハッ、くだらねぇ」
「くだらないだと!? 俺はみんなのことを真剣に考えて──」
「だったらてめェは、デクや半分野郎に迷惑だって言われたんかよ」
「いや……そういうわけではないが……」
「だったら、てめェがどう思われてるかなんてわかんねぇじゃねぇか。んなことでウジウジしてんじゃねぇ。大体てめェの説教なんざ、今に始まったことじゃねぇだろが」
それを聞いて、僕は思わずハッとした。
僕が思い悩んでいた時に心配してくれた緑谷くんの態度は、本心から来るものだった。
緑谷くんは僕を心配してくれていたのに、僕はずっと嫌われているのかもしれないと思い込んで……
「暴れたらスッキリしたわ。帰る」
「あっ、おい!」
爆豪くんは、散らかった体育館を片付けずに先に出て行ってしまった。
結局、体育館の掃除は僕一人でやる羽目になった。
爆破で床に散らばった煤を払い、爆風で吹き飛ばされた備品を元の位置に戻す。
爆豪くんと特訓をして、話をした事で、ようやく自分の中で決心がついた。
たとえ皆にどう思われていたとしても、僕はクラスの皆の事が好きだ。
これからも皆と一緒にやっていきたい。
その為にも、まずは話し合わなければ。
僕は制服に着替えてから、皆が待っているであろう寮へ向かった。
寮の扉を開け、玄関で靴を脱いだその時、突然寮の明かりが消える。
「何だ、停電……?」
突然の停電に、僕は動揺を隠せなかった。
皆に何かあってはいけない。
まずは皆の安否を確認しなくては……
「キャア!!」
突然、談話スペースの方から女子の悲鳴が聴こえた。
この声は……麗日くん!?
「麗日くんか!? どうした!?」
「た、助けて飯田くん! 早く! こっち!」
「待ってろ! すぐ行く!」
僕は暗闇の中、麗日くんの声と自身の記憶を頼りに談話スペースへ向かう。
もしや
だとしたらどう対処するのが最善か……
いや、今はまず麗日くんを救けなくては!!
「麗日くん、どこだ!?」
「ここだよ」
普段の明るい声がしたかと思うと、次の瞬間。
パッと一階の明かりがついた。
「みんな……!?」
目の前の光景に、僕は思わず立ち尽くした。
そこにいたのは、爆豪くんを除く皆だ。
談話スペースが、バルーンや紙で作られた花などで鮮やかに装飾され、向かいの窓に下ろされたロールスクリーンには大きな文字が貼られていた。
全員が、笑顔でその文字を叫ぶ。
「「「「「飯田くん、お誕生日おめでとう~!!」」」」」
そう言って全員が、手に持っていたクラッカーを鳴らした。
唖然としている僕に、紙吹雪が舞い降りる。
「誕生日……そうか、すっかり忘れてた……」
だから皆、今日はやけによそよそしかったのか……
皆は、昨日夜なべしてサプライズの準備をしてくれていて、僕が爆豪くんの特訓に付き合っている間に装飾をしてくれていたらしい。
爆豪くん、皆が準備をする為の時間を稼ぐ為に、僕を特訓に誘ったのか……
この場には来ていないが、彼なりに僕を気遣ってくれたのだろう。
「今日の夕ごはんはね、ビーフシチューだよ!」
「ケロケロ、私とお茶子ちゃんで作ったのよ」
そう言って麗日くんと蛙吹くんが、テーブルの上に夕食を並べた。
今日の夕食は、ビーフシチューとポテトサラダだ。
二人が、僕の為に昨日の夜から仕込みをして作ってくれていたらしい。
皆でビーフシチューの入った鍋を囲って、和気藹々と食事を摂る。
今日この日の夕食は、いつもより美味しく感じた。
そして夕食が終わると、砂藤くんがキッチンへ行き、何かを手に持って戻ってくる。
それに合わせて、皆がバースデーソングを歌ってくれた。
砂藤くんが持ってきたのは、オレンジをふんだんに使ったショートケーキだ。
「100%オレンジジュースをたっぷり使った、特製オレンジケーキ飯田スペシャルだ」
「わたしとサトーさんでつくりました……」
「……こんな立派なものを……ありがとう」
僕の為にここまでしてくれた皆の優しさに、思わず涙ぐむ。
俺は、これからもA組委員長として、皆と一緒にやっていこうと意気込みながら、ケーキの蝋燭に灯った火を吹き消した。
飯田くんの誕生日パーティーを夕食の時間に合わせる為に、かっちゃんとのバトルシーンを挟みました。
雄英白書では、飯田くんの誕生日会は怪談より後でしたが、現実のカレンダーに照らし合わせると、
・仮免試験が9月で、一番早い9月1日だとしても、ヤオモモの「あと一週間もない」という発言から、デクが初めてシュートスタイルを披露した日は少なくとも8月25日以降
・その日は圧縮訓練開始から4日後なので、圧縮訓練が始まったのは8月21日あたり
・相澤先生の発言から、圧縮訓練の開始は入寮の翌日とわかるので、入寮は8月20日あたり
・B組の来訪は入寮後間もない頃(少なくとも部屋王決定戦以降)
・飯田くんの誕生日は8月22日で、入寮後
・怪談の日は休日(日曜日)
・その時点でデクが飯田くんに足技のコツを教えてもらっていたので、シュートスタイル披露の日より前と思われる
・怪談の翌々日の騒動の日の天気は曇り後大雨
・シュートスタイル習得の日の天気は晴れ
これらの条件を全て満たす時系列が、
・8月20日 入寮
・8月21日 圧縮訓練開始、B組来訪、誕生日会の準備
・8月22日 飯田くんの誕生日会
・8月24日(日曜日) 怪談
・8月25日 シュートスタイル習得(天気は晴れ)
・8月26日 騒動(天気は曇り後大雨)
しかないので、
飯田くんの誕生日と怪談騒動を前後させました。