No side
暗闇の中で、紫色の蝋燭の灯りが不気味に光っている。
数人が、まるで悪魔崇拝の儀式のように蝋燭を囲んでいた。
そのうちの一人、瀬呂が、おどろおどろしい声で話をしている。
「そこにいたのは……血まみれの男だったのさぁ!!」
「ぎゃああああああ!!」
さあオチですと言わんばかりの瀬呂の声に、峰田が悲鳴を上げながら障子の大きな腕に抱きつく。
その姿は、まるで大木にしがみついているコアラだ。
「峰田ちゃん、うるさいわ」
「ほんとだよ! 峰田のせいで怖さ半減!」
「ん……ミノルさんやかましいです」
「おっ、お前ら怖くねーのかよ! それでも女子か!」
「いや、悲鳴上げて抱きつくなんて、お前が女子か!」
「お前の怪談が怖すぎんのがいけねーんだろ!」
瀬呂のツッコミに、峰田が憤る。
寮生活にも慣れてきたある日曜、せっかくの休日だからという事で、瀬呂、芦戸、上鳴のノリのいいメンバーで怪談をする事になったのだ。
障子と蛙吹、そして六花は、誘われての付き合いだ。
ちなみに麗日、葉隠、八百万は、ホラー系が苦手なのでここにはおらず、耳郎の部屋で楽器を教わっている。
「これじゃ何の為に参加したのかわかんねえじゃねーかっ!」
「やっぱり暗がりに紛れて抱きつこうとかしてたんでしょ。全く峰田ちゃんは」
「え……そうなんですか、ミノルさん……」
「男はラッキースケベを常に探し続けるトレジャーハンターなんだよ!」
蛙吹と六花に図星を突かれると、峰田は開き直る。
どうやらビビりな峰田が怪談の誘いに乗ってきたのは、暗闇に紛れて女子に抱きつく為だったらしい。
だが女子達は峰田の隣になど座るはずもなく、峰田の隣には上鳴と障子が座った。
「でも今日からお風呂も安心して入れるもんね~」
「ん……サポート科の人にお礼ゆわないと……ですね……」
笑顔で話す女子達を見て、峰田はサポート科の発目に対して「余計なことしやがって!」と憤った。
入寮から今日で4日が経つが、峰田がこの5日間の間に4回も女子風呂の覗きを画策したので、女子達の総意で、サポート科の発目に頼んで防犯アイテムを設置してもらう事になったのだ。
女子達が峰田対策の話題で盛り上がり、それに対して峰田が「これ以上ラッキースケベの可能性を減らすな!」と焦る中、部屋の主である常闇が苛立ちを露わにする。
「全く……他の部屋でもいいだろう……」
勝手に自室を怪談部屋にされた常闇は、不機嫌そうに言った。
常闇の真っ暗で不気味なインテリアが飾ってある部屋は怪談にぴったりだという事で、いきなり押しかけられたのだ。
芦戸が笑いながら雰囲気満点だと言うと、常闇は怪談をする為の部屋じゃないと文句を言った。
その後も、怪談は続いていく。
次は芦戸がとっておきの怪談を披露するが、話し方がいつもと変わらないため、始終ビビっていた峰田以外には怖くないとハッキリ言われてしまった。
「ん……一回しゃべり方が気になっちゃうと、話が頭に入ってこないんですよね……」
「ええー? めっちゃ怖く話してたつもりなんだけどなー」
六花が言うと、自分の怪談に自信があった芦戸は、むぅっと唇を尖らせる。
だがその直後、何かを思いついたようにパッと笑顔を浮かべ、常闇の方を振り向く。
「ねえ、常闇も怪談話してよ! 常闇の超怖そう!」
「……ん、わたしも聞きたいです……トコヤミさんの話……」
芦戸に乗っかる形で、六花も常闇の怪談に期待を寄せる。
上鳴や瀬呂、蛙吹や障子も、常闇の怪談に興味を示していた。
峰田だけは、始終ビビっていたが。
皆に期待の視線を寄せられ、常闇は困りつつも、満更でもなさそうに小さく咳払いをしてから話し始めた。
「……怖いかどうはわからんが、祖父から子供の頃聞いた話ならある」
そう言って常闇が、怪談を始める。
それは昔、ある村で、若者達が集まって百物語をしていた。
百物語は、昔から伝わる怪談の作法で、百本の蝋燭に火を灯して百の怪談を夜通し語り合い、怪談を語り終えるたびに蝋燭をひとつずつ吹き消していくというものだ。
そして百本目の蝋燭を吹き消した時、怪異が起こるといわれている。
その村では、百物語は若者達の数少ない娯楽の一つだったが、本物の怪異が起こるのを恐れた若者達は、いつも九十九話目でやめていた。
だがある日、都会から長い金髪の女がやってきて、百物語の話を聞くと参加したいと言い出した。
若者達はいつものように怪談をしていくが、女はニヤニヤ笑っているだけで怖がるそぶりひとつ見せず、若者達は次第に気味が悪くなっていく。
そしていつものように九十九話目でやめようとしたのだが、女が百話目を語り始めた。
若者達はやめさせようとしたが、女は止まらず、百話目を語り終えてしまった。
その瞬間、最後の蝋燭の火がひとりでに消えた。
最後の蝋燭が消えても何も起こらなかったので、若者が蝋燭に火を灯してみると、いつの間にか女がいなくなっていた。
村人総出で村中を探しても、女は見つからなかった。
だが女がいなくなってしばらくして、村人達も女の事を忘れかけたある日、百物語に参加した若者の一人が、例の金髪の女を見たと言い出した。
見間違いだと誰も信じなかったが、翌日、その若者が死んでおり、首には金色の髪の毛が一本巻きついていた。
そして次の日以降も、百物語に参加した若者が次々と死んでいき、とうとう百物語に参加した若者全員が死んだ。
その村には、ある言い伝えがあった。
昔、ある夫婦の間に金髪の子供が産まれ、夫は妻の不貞を疑って妻子を山へ捨て、妻は夫へ復讐する為に子供を鬼に差し出したという。
村人達は、その金髪の子供が鬼になって、村人達の魂を喰らいに来たのだと怯え出した。
実は常闇の祖父にその話をした友人は、かつてはその村の子供で、大人になってから故郷に帰ってみると、そこは廃村になっていたという。
隣人の話では、流行り病のせいで村人全員が死んでしまい、村には金髪が落ちていたらしい。
だがその話には、まだ後日談がある。
常闇の祖父に話をした友人は、村から帰ってきてから様子がおかしくなってしまったらしい。
なんでも、例の金髪の女が、こちらを見て笑っていたらしい。
その友人は、その話を常闇の祖父にしてしまったから呪われたのだと怯え、その数日後に急死してしまった。
そしてその首には、金色の髪の毛が一本巻きついていた。
「えぇ……」
「これ、夜中に思い出すやつだ……」
常闇の話を聞いた芦戸、瀬呂、上鳴は本気で怖がっていた。
割と怖い話に耐性のある蛙吹と障子も、常闇の話は聞き応えがあったようだ。
そして一番怖がっていた峰田はというと、障子の複製腕の中にすっぽりと隠れており、しまいには一緒にトイレに行ってほしいと障子に泣きついた。
「怖いとかはよくわかんないですけど……おもしろかったです」
怖い話が好きな六花は、口元を押さえてクスクス笑っていた。
だが、本気で怖がっている他の皆を見て、常闇が、怨霊や怪異などの存在を怪談で面白がってはいけないと言った。
そういった存在は、案外近くにいて、今も話を聞いているのかもしれないとの事。
常闇のその意見に皆賛同し、怪談はそこでやめる事にした。
唯一六花だけは、その決定に不服そうにしていた。
「えぇ……もっとおもしろい話聞きたかったです……」
「六花ちゃん、みんなが怖がってるのに無理矢理続けるのは良くないわ。常闇ちゃんも言ってたでしょ、そういう話を面白がっちゃいけないって」
「んん……でもせっかくの休日だから、おもしろい話は聞きたいです」
「だったら後で一緒にホラー映画見ましょう。B組のレイ子ちゃんが寮でホラー映画見てるから、一緒に見せてもらいましょ」
「……です」
蛙吹が説得すると、六花はコクっと頷いて納得した。
その後峰田が怖い話の口直しと称してエロい話をしようとするが、女子全員に却下された。
そしてさらにその後、六花と蛙吹は、柳レイ子達B組女子と一緒にホラー映画を鑑賞した。
ホラー好きな柳は、せっかくの休日という事で、B組の寮でホラー映画鑑賞会を開催していた。
六花達もB組の寮へ赴き、そこに混ぜてもらう形で手に汗握るホラー映画を楽しみ、B組女子達との交流を深めたのだった。
◇◇◇
「んぅ……くぅ……ん、ふぅ……」
その夜、六花は冷蔵庫並みに冷えた自室の中で、畳の上に布団を敷いて眠っていた。
寝相の悪さのせいで、枕の上に左足が乗っていて、可愛らしいシマエナガ柄の寝間着ははだけている。
露わになった胸の谷間から、ポコポコと白い雪の塊が湧き出て、ユキちゃんが現れた。
どうやら、寝ている間に“個性”を発動してしまったらしい。
ユキちゃんは、翼を羽ばたかせて飛ぶと、六花の部屋の扉の前で止まる。
ユキちゃんは、しばらく扉の前で立ち止まってから、小さく首を傾げた。
「……チィ?」
◇◇◇
「ちょっ、なんでオイラだけ名前呼ばれたんだよ!? 誰か噓だって言ってくれえ!」
翌日、教室ではある話題でもちきりだった。
六花以外の怪談を聞いたメンバーが、夜中にヴィィィィ、という謎の音を聴いたというのだ。
そして何故か峰田だけは、扉をノックされ声をかけられたらしい。
「ねぇ、六花は聴いてなかったの!?」
「あー……ごめんなさい、昨日はぐっすり寝ちゃってて……」
芦戸が尋ねると、六花は少しぼんやりした様子で首を横に振る。
だが、六花が頭の上に乗せていたユキちゃんは、峰田達の方を振り向いて鳴いた。
「チュリッ」*1
ユキちゃんは、夜中に怪談を聞いたメンバーと同じ音を聴いていたという。
「本当か……!?」
「チュリッ。チュリリリチュリリリリ」*2
ユキちゃんは六花の“個性”なので、当然常闇が怪談をしていた時も一緒にいた。
熟睡してしまっていた六花を除けば、怪談を聞いていたメンバーは全員妙な音を聴いていたという事になる。
「……この面子だけが聴こえてたとなると……もしかしてあの常闇の話の呪いとか?」
「や、やめろよー」
冗談っぽく言う瀬呂に対し、上鳴も笑うが、二人ともその顔は引き攣っている。
砂藤がそんな二人を見て、笑い飛ばす。
「お前ら、本当にそんなの信じてんのかよ? 怖がりすぎて寝ぼけてたんじゃねーのか?」
「べ、別に丸々信じちゃいねーけどさ、マジで怖えんだって! 金髪の女がヤベーんだよ!」
「へー、どんな話なんだ?」
信じていない様子の砂藤に対して、上鳴が反論すると、切島が常闇の怪談に興味を持ったので、上鳴が話をする。
すると、それぞれ席に座っていた轟と爆豪がそれぞれビクッと肩を跳ね上がらせる。
「うるせえ! 人の後ろで、ヘンな話すんなや!」
爆豪が怒鳴りながらガタッと席を立つ。
やけに余裕がなさそうな爆豪を見て、六花が首を傾げながら尋ねる。
「……バクゴーさん、もしかして怖かったですか?」
「こっ、怖くねぇよ余裕だわ!! てめェらが後ろでヘンな話するから苛ついただけだクソが!!」
「……ぷっ」
六花が尋ねると、爆豪が強がる。
だが、よく見ると爆豪の肩は小刻みに震えている。
そんな爆豪を見て、六花は手で口元を押さえながら笑い出した。
「ふふふ、ふふふふっ、あははは」
「笑うな殺すぞクソ女!!」
六花が怖がる爆豪を見て珍しく大笑いしていると、爆豪が掌を爆発させながらブチ切れる。
だがその時、話を聞いていた耳郎が口を開く。
「…実はウチも聴こえた」
「……え?」
「ヘンなヴィーンって音……朝方まで続いてたよ」
耳郎の証言に、芦戸がきょとんとする。
どうやら音を聴いていたのは、常闇の怪談を聞いていたメンバーだけではなかったらしい。
「ほら! やっぱり本当にしてたんだよ! 変な音!」
耳が良い耳郎の証言を聞いた上鳴は、鬼の首を取ったように言った。
だが、本心では不気味な音など聞かなかった事にしたかったので、複雑な気持ちではある。
「でも待って、耳郎って怪談聞いてなかったよね?」
「え、怪談を聞いた人だけじゃなくて、身近にいる人にまで呪いが降りかかるってやつか……?」
「っていうかそもそもこれ、本当に呪いなんですかね……? ぶふっ、ふふふっ」
「いつまで笑っとんだてめェ!!」
「ご、ごめんなさい、だって怖がってるバクゴーさんおもしろくて……っ、あはははっ♪」
耳郎も音を聴いていたと聞き怖がる芦戸と瀬呂に対し、六花が笑いつつも冷静に言った。
しつこく笑っている六花に対して、爆豪が再びキレる。
するとその時、委員長の使命を帯びた飯田が、怖がるクラスメイトを見回してから、意を決して立ち上がる。
「しかし、呪いかどうかは置いておいて、複数人が謎の音を聞いたとなるとこれは由々しき事態だぞ。もしかしたら寮の欠陥の可能性もある。音の正体を確かめねばなるまい。ここは委員長である俺が、今日、責任をもって起きていることにしよう!」