筆が乗って修行編を書いていたのですが、時系列的におかしい事になったので。
No side
「『
飯田の誕生日会の翌日の土曜日。
爆豪は、朝早くからTDLを借りて六花と一緒に必殺技の特訓をしていた。
新技を撃つのに必要な新しいサポートアイテムはまだ届いていないが、仮免試験まで残り僅かな時間をただ浪費するわけにもいかない。
そこで、六花の力を借りて、先に必殺技の練度を上げておく事にしたのだ。
「おい氷叢ァ!! もっと火力上げろや!!」
「……ん、こうですか」
爆豪が言うと、六花は爆豪の体の周りを黒い氷で覆って温度を上げた。
六花は、普通の白い氷の他に、黒光りした氷を出す事ができる。
林間合宿で熱に耐える訓練をした事で、よく電気を通し、数千度の熱でも融けない性質を持つ黒い氷を出せるようになった。
地球上にあるはずのないその物質は、光の加減によって模様を変えながら、黒曜石のような美しい光沢を放っている。
六花が黒い氷の温度を上げて爆豪の周りに浮かせると、爆豪の体が温まり、少し動いただけで大量の汗をかく。
その状態で汗を粒状に圧縮して放つと、普段の数倍の威力の爆破が出た。
「だらぁぁぁぁ!!!」
爆豪は、六花が次々と生やしてくる巨大な氷柱を、圧縮撃ちで粉々にしていく。
六花の黒氷で爆豪の深部体温を意識を保てるギリギリまで高めながら、林間合宿で編み出した『
すると、爆豪の体の中で、六花はもちろん、本人すら想定していなかった変化が起きた。
「……ん?」
爆豪の体に起きた変化に、六花は僅かに目を見開く。
六花の黒氷で深部体温が極限まで高められた事で、爆豪の“個性”因子が活性化し、“個性”そのものが成長していた。
中でも一番大きな変化は、掌に汗を溜め続けて許容量を超えた結果、汗が出口を求めて出力器官が拡張された事だ。
六花の目の前には、
掌からの爆発ほどではないが、それでも加速して空中に留まるには充分な火力はあった。
爆豪は、その状態で高く飛び上がると、六花の生み出した巨大な氷像目掛けて急降下する。
足の裏だけではなく、爆豪の全身から流れ出た汗の粒が、僅かな時間差をつけて連鎖的に小爆発を起こし、爆豪の体を下へ押し出す。
その結果、通常の爆破の数十倍の加速が生まれた。
「喰らえ!! 『
爆豪は、その状態で『
だが、六花が生み出した氷像に当たる前に爆破が止まり、爆豪の体は不規則な軌道を描きながら不時着した。
「ぅぐっ……ハァ、ハァ……クソが……!!」
爆豪は、心臓のあたりを押さえ、苦しそうに息を切らしている。
どうやら、汗を圧縮しすぎて心臓に負担がかかっているらしい。
六花は、爆豪の体を『雪解け』で冷やしながらスタミナを回復させた。
「バクゴーさん、だいじょうぶですか……」
「うるせぇ、まだやれる……!」
「……や、この辺にしときましょう。これ以上続けると、脱水症状でぶっ倒れますよ。ムリして体壊して試験受けられなくなったら、元も子もないです」
そう言って六花は、空気中の水分を凍らせて氷を作り、それを熱氷で融かして作った水を爆豪に飲ませた。
体温が下がったのと、水分を摂取したからか、爆豪はすぐに回復した。
本調子に戻るまでの休憩中に、二人で特訓の反省会をする。
「やっと掴めてきたわ。早く俺の新境地『クラスター』を試してぇ」
「わたしも、バクゴーさんの特訓に付き合ってるおかげで、黒氷の操作を掴んできました」
爆豪が軽く運動をしながら言うと、六花も黒氷をふよふよと浮かせながら言った。
六花の物を冷やす“個性”と爆豪の『爆破』の“個性”は相性最悪だった。
だが、“個性”を伸ばし続けて黒氷を修得した事で、今は爆豪をサポートする事ができている。
ようやく足並みを揃えて前に進めたような気がして、六花は心がほんわかするのを感じていた。
思わず頬をほんのり染めながらふわふわした雪を体の周りに散らしていると、体育館の扉が開く。
「おーい、やってっか!?」
「……ん、エージさん、サトーさん」
体育館には、切島と砂藤が入ってきた。
「あ、ワリ! 取り込み中だったか?」
「あ、いえ……今ちょうど休憩中です。どうしたんですか?」
「休憩終わってからでいいんだけどよ、お前ら頼む! 俺を殴れ!」
「……はい?」
「頭イカレたんかてめェ」
切島がいきなり意味不明な頼み事をしてくると、六花と爆豪がきょとんとする。
状況が飲み込めていない二人に対して、砂藤が説明した。
「“個性”の特訓に付き合ってほしいんだとよ」
「必殺技の練習してんだけど、いまいち硬度が伸び悩んでんだ。爆豪、氷叢! 俺に必殺技を撃って追い込んでくれ!」
「あぁ、そういうことですか……」
切島の『俺を殴れ』発言に、六花はやばい趣味の人かと一瞬ギョッとしたが、“個性”の訓練とわかるとホッと胸を撫で下ろした。
一方で、一緒に来た砂藤には爆豪が話しかける。
「……んで、タラコ唇。てめェは何の用だ」
「あぁ、俺は必殺技のアドバイス貰いに来たんだ。俺もオールマイトに小細工抜きのゴリ押し技が良いって言われたんだけど、『シュガーラッシュ』以外の必殺技のイメージが湧かなくてよォ」
「技のイメージだぁ? んなもん勝手に浮かんでくるもんだろうが」
「出た、才能マン」
爆豪が当然のように言うと、砂藤が慣れた様子で返す。
爆豪は天才肌なので、誰かにアドバイスされなくても必殺技のアイディアが既に何個か固まっているのだ。
すると六花が、何かを思いついたように「あ」と小さく口を開く。
「プロレス技とかどうですか……? で、技の名前は好きなお菓子の名前にするとか……」
「なるほどな、考えてみるぜ!」
六花が提案すると、砂藤もしっくり来たようで、納得したように頷いてニカッと笑いながらサムズアップをする。
二人の訓練の方向性が決まったところで、ちょうど爆豪も回復してきたので、訓練を再開する。
まずは、切島の硬度の課題の克服のため、二対一で試合をする事にした。
「……それじゃ、割と本気でいきます」
「ぶっ殺したるわ、クソ髪」
「おう! 頼む!」
二人が切島の前に立って準備運動をすると、切島が自分の拳を打って全身を硬化させる。
「『白氷雪花』……『凍氷柱』」
六花は、無数の氷柱を生成すると、容赦なく切島目掛けて飛ばした。
大小様々な大きさの氷柱が、切島の硬化した体にぶつかって粉々に砕け散り、ダイヤモンドのようにキラキラ光りながら地面に落ちる。
「死ねやぁ!! 『
爆豪は、爆破で飛び上がって切島の頭上を取ると、切島に圧縮した爆破を浴びせた。
「ぐぁぁぁぁっ!!!」
二人の集中攻撃に、切島は何とか耐えていたが、二人が少しペースを上げただけで硬化を維持できなくなり吹っ飛ばされる。
体操着は爆豪の爆破で焼け焦げ、肌には六花の氷で赤い線ができている。
二人の攻撃でボロボロになりながらも、切島は立ち上がって再び全身を硬化させる。
「もっと……もっとだ!!」
◆◆◆
切島 side
――君の『硬化』なら、小細工考えるよりゴリ押し技の方が良いよ。
一昨日の圧縮訓練中に、俺はオールマイトにそうアドバイスされた。
俺は爆豪みてぇな中遠距離技は持ってねぇし、何やるにもパッとしねぇ。
このままプロになったとして、皆と張り合える気がしねぇって思ってた。
けど爆豪の一言が、そんな悩みを吹っ飛ばしてくれた。
――倒れねーってのは、クソ強ェだろ。
上げる!!
もっと!! もっとだ!!!
身も! 心も!! もっと硬く!!!
固めて、絶対倒れぬ壁となれ!!!
「『
俺は、限界を超えて全身を硬化させた。
全身が刺々しい姿になって、体から金属が軋むような音がする。
これが今の俺にできる最高硬度だ。
その状態で、爆豪の爆破と氷叢の氷を防いだ。
俺が攻撃を全部防ぎ切ると、二人は少し驚いたような顔をした。
二人の
「っしゃあ、できた!!」
初めて『
俺の周りに粉々に砕け散った氷の破片を見て、氷叢が僅かに目を見開く。
「……結構硬いですね、ちょっとびっくりしました」
「おう! この状態の時は、俺は絶対倒れねぇ!!」
俺がそう言うと、氷叢は目を輝かせながら俺の方を振り向く。
「じゃあわたしの必殺技の特訓にも付き合ってくれます? 『
そう言う氷叢の周りには、白い氷と黒い氷が浮いていた。
その後、俺は『
◆◆◆
砂藤 side
「『シュガーラッシュ』!!」
俺は、ポケットに入れたラムネのタブレットで素早くブドウ糖を摂取して“個性”を発動し、氷叢が訓練用に出してくれた氷像をひたすら拳で砕いた。
ソフィア先生のアドバイスと圧縮訓練のおかげで、強化倍率を8倍、“個性”の持続時間を最大で7分まで伸ばす事に成功した。
その状態で俺は、氷叢に貰ったアドバイスを参考に編み出した新技を繰り出す。
氷像を相手に、俺はその場で高く飛び上がり、体重を乗せて氷像の頭部にドロップキックを叩き込んで頭部を砕く。
「『キャンディドロップキック』!!」
名付けて『キャンディドロップキック』。
ドロップキックと、飴のドロップを掛けたネーミングだ。
そして最後に、氷像目掛けて全体重を乗せたタックルを仕掛ける。
「『ショコラアタック』!!」
名付けて『ショコラアタック』。
全体重を乗せて体当たりする技だから、ずっしり重いショコラケーキを連想させる名前にしてみた。
「よし!」
これで技の型はできた。
あとは仮免試験当日までに、必殺技の練度を上げとかねぇとな。
あと、コスチュームの改良も考えとくか……
◆◆◆
No side
「ゼェッ……ゼェッ……」
「エージさんだいじょうぶですか?」
「…………」
「……へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「勝手に殺すなよ……」
六花が、地面にうつ伏せに倒れ込んでへばっている切島に声をかける。
『
疲労で動けない切島に対し、六花が『雪解け』を発動して回復させた。
六花は切島を介抱しつつ、体育館の隅に置いてあるバスケットを指差す。
「……ところでサトーさん、さっきから置いてあるこのバスケット、何が入ってるんですか?」
「あ、いけね! 忘れてた! マフィン焼いてきたんだよ。朝練で疲れてると思ってよ。食「いただきます」食い気味……」
「俺も貰うわ……腹減った」
「爆豪お前も食え!」
「ケッ」
六花と切島は、1限目の授業に備えて、砂藤の持ってきたマフィンを口にした(なお、爆豪も無理矢理食わされた)。
「……さて」
マフィンを食べ終わった六花は、『黒白氷拳』の練習をしようとする。
掌の中で白氷と黒氷を混ぜ合わせ、温度差によって圧力波を生み出そうとする。
だがその時、六花の手の中で、一瞬だけパチッと火花が散った。
「わっ」
六花は、火花に驚いて咄嗟に手を開いた。
「…………」
六花の掌の中では、氷がパチパチと火花を放っている。
それを見た六花は、新たな必殺技を思い浮かべていた。
◇◇◇
そして放課後。
六花は、今度は寮の前の芝生の上で、緑谷の新技の特訓に付き合っていた。
緑谷はどうやら足技を修得したいらしく、普段から足を使っている飯田と、ミルコのもとで職場体験をしていた六花に師事を仰いだのだ。
「ぜんぜんちがいます」
「ご、ごめん!」
「足だけ動かすんじゃ力も速さも乗らないんだ。もっとこう、体全体を動かす感じで……」
六花と飯田が、実演を交えながら緑谷にアドバイスをする。
分析ノートを広げてメモを取る準備をする緑谷の前で、飯田と六花が蹴りを披露する。
飯田は、『レシプロバースト』で一気に加速し、六花が生やした巨大な氷柱を蹴り砕いた。
そして六花も、脚のバネを活かして高く飛び上がると、横回転しながら氷柱目掛けて落下し、足を振り下ろす瞬間に膝から下を硬い氷に変えて踵落としで氷柱を粉々に砕く。
飯田のパワーとスピードを活かした重い蹴りに対して、六花の蹴りは体のバネと回転を活かしたしなやかな蹴りだ。
だがどちらにも共通しているのは、きちんと腰を入れて蹴りを放っている事だ。
「……やっぱり腰の入り方が深いんだ。こうグッと乗せる感じで……」
緑谷は、二人の蹴りを見て要点をメモに纏めた。
一方で、飯田も六花の蹴りを見て感心したようで、興味深そうに観察しながら六花に話しかける。
「しかし氷叢くんは足腰の使い方が上手いな。普段からどんなトレーニングをしているんだい?」
「んー……特に何もしてないですよ? いつも通り過ごしてるだけですけど……あ、小さい頃からママの畑のおてつだいしてたからかもしれないです」
飯田が尋ねると、六花は少し考えてから答える。
すると緑谷が、いきなり六花の発言に食いついてきた。
「氷叢さん、今なんて言った!?」
「……え? 小さい頃からママの畑のおてつだいしてたって言いましたけど」
「そうか……! 道理で氷叢さん、足技を使う時の体幹が安定してると思った! 農作業は屈んだり重いものを持ち運んだりする作業が多いから、足技に必要な体幹や下半身の筋力、股関節や足首の柔軟性なんかの基礎体力を鍛えられるんだ! 筋トレだけだとどう考えても時間が足りないし、やっぱり日常動作に下半身に負荷をかける動きを取り入れた方がいいのか……「わぁ……」
緑谷が急にブツブツ言い出すと、六花が真顔でドン引きする。
六花は、ブツブツと口に出しながら考えている緑谷に対して、声をかける。
「デクさん、考えてるヒマあったら体動かしたらどうですか。頭でできても実践できなかったらイミないですよ」
「ごっ、ごめん!」
六花が尻を叩くと、緑谷は慌てて蹴りの練習を始めた。
それを見て、飯田も六花に話しかける。
「氷叢くん、俺も君の蹴りを参考にしたいのだが」
「いいですよ」
◆◆◆
飯田 side
「こんな感じでいいですか」
「ああ、ありがとう!」
僕は、氷叢くんに氷でコースと的を作ってもらって、必殺技の練習をした。
僕の蹴りは、氷叢くんとは違い、『重さ』に重点を置いた蹴りだ。
そこに氷叢くんのような『バネ』に重点を置いた蹴りを取り入れられれば……
「トルクオーバー『レシプロバースト』!!」
僕はまず、『レシプロバースト』を発動して、氷のコース上を駆け抜ける。
すると、50mほど離れた地点に大まかに人の形を模った的が出現する。
僕はその場で幅跳びをして、跳び上がった状態で加速し、的の頭上を取る。
そして、的目掛けて脚を振り下ろした。
「『レシプロアックス』!!」
的の頭部に踵落としを叩き込むと、的が粉々に砕け散る。
そのまま着地すると、また50mほど離れた地点に的が出現する。
今度は、体を回転させ、遠心力を活かして上段回し蹴りを叩き込む。
「『レシプロトルネード』!!」
的を蹴ると、体重を受け渡された的が粉々に砕け散り、氷の破片が横へ吹っ飛んでいく。
やはり、バネや回転を活かした動きを取り入れるだけで全然違うな。
だが、まだまだ改良の余地がありそうだ!
◆◆◆
緑谷 side
飯田くんと氷叢さんに蹴りを教えてもらった僕は、夜中まで必殺技の練習をした。
そして次の日も、早めに起きて昨日の続きに取り掛かった。
氷叢さんは、休日は芦戸さんと蛙吹さんに一緒に遊ばないか誘われてここにはいないけど、技の練習用の氷のステージを芝生の上に残してくれている。
「よしっ……」
しっかり準備運動をした僕は、『フルカウル』を発動した。
氷叢さんに錘を作ってもらって『フルカウル』を発動しながら負荷トレーニングを続けているおかげで、『ワン・フォー・オール』の出力も50%は維持できるようになった。
「『セントルイススマッシュ』!!」
僕は、近くに生えている氷柱を跳び上段蹴りで刈り取るように蹴りつけ、地面に叩きつけて蹴り砕いた。
「『マンチェスタースマッシュ』!!」
そして次は、氷柱の上に勢いよく跳び上がり、跳び上がりから急降下し、踵落としで氷柱を砕いた。
「やった!」
必殺技の威力をこの目で確認した僕は、ガッツポーズをして喜ぶ。
あとは、発目さんに頼んであるサポートアイテムが届けば、今の倍以上の威力が出せる。
それまでは、ひたすら練習して技の練度を上げなきゃ。
皆に追いつく為にも、頑張らないと……!
原作最終決戦で致死量の700倍の糖分を摂取してSDを覚醒させた砂藤くんがデクの元へ駆けつけプロレス技で死柄木AFOを追い詰めるシーンは胸熱でした(存在してほしかった記憶)。
今回は、原作最終巻の表紙でネタにされ、二次創作でも不遇な扱いを受けがちな彼にスポットライトを当ててみました。
今回出てきたオリジナル必殺技です。
・『キャンディドロップキック』
砂藤の必殺技。
『シュガードープ』を発動した状態でドロップキックを放つ。
ドロップキックと飴のドロップを掛けたネーミング。
・『ショコラアタック』
砂藤の必殺技。
『シュガードープ』を発動した状態で全体重を乗せたタックルを放つ。
ずっしりと重いショコラケーキを連想させるネーミング。
・『レシプロアックス』
飯田の必殺技。
幅跳びをして、跳び上がった状態で加速し、相手の頭部や肩に踵落としを叩き込む。
・『レシプロトルネード』
飯田の必殺技。
体を回転させ、遠心力を活かして上段回し蹴りを叩き込む。