地獄の氷叢さん家   作:M.T.

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第67話 氷叢さんのアップデート・3

No side

 

 ホームルームが終わった後、六花達はコスチュームに着替えてTDLに向かった。

 朝には怪談騒動があったが、ヒーロー基礎学の授業は、皆気持ちを切り替えて真剣に挑んだ。

 仮免試験まで、残り1週間を切っている。

 いつまでも騒いでいるわけにはいかないのだ。

 六花もコスチュームに着替えてTDLに行こうとすると、途中で轟が話しかけてくる。

 

「氷叢、ちょっといいか」

「……ん、なんですかショートさん」

「昨日、お母さんの見舞いに行ってきたんだ」

「……そうですか」

「それで、お母さんがお前と話したがってた。お前が良ければなんだが……仮免試験が終わったら、見舞いに付き合ってくれるか?」

 

 轟は、真剣な表情で六花に頼み込む。

 六花も養母の雪代が入院していて大変なので断られるだろうと思っているのか、轟の態度はいつもより少し慎重だった。

 だが六花は、意外にもあっさりと轟の頼みを聞いた。

 

「んー、いいですよ」

「いいのか?」

「だって断る理由ないですし」

「……悪いな」

「ん? 何がですか?」

 

 轟の『悪いな』という言葉に対して、六花は意味がわからずきょとんとする。

 その後すぐ、しばらく沈黙の時間が続く。

 二人の間に気まずさは無く、これがお互いにとってちょうどいい会話のペースなのだ。

 だが沈黙を打ち破るように、六花が「あ」と小さく口を開く。

 

「あの、話は変わるんですけど……ショートさん、一緒に練習しませんか?」

「え?」

「ほら、わたしとショートさん、“個性”が似てるじゃないですか。だからお互い練習相手になると思うんです。私も黒氷の練習したいですし」

「……そだな」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「『穿天氷壁』」

 

 轟は、地面に手をつくと、巨大な氷の壁を出す。

 体育祭の時に比べて規模や硬度が上がっており、多少は形状変化もできるようになっている。

 

「『膨冷熱波』」

 

 次に轟は、炎を出して温度差による圧力波を広範囲にわたって放つ。

 どちらの技も、圧縮訓練の時に比べて威力も練度も上がっていた。

 だが六花の反応は、意外にもシビアなものだった。

 

「んー、全然ダメですね。カスです」

「……!?」

 

 六花は、轟の技を見てボロクソに酷評した。

 流石にここまで酷評されるとは思っていなかったのか、轟は若干ショックを受けていた。

 

「威力はすごいとおもいますけど、訓練の前から全然成長してないです」

「どういう意味だ?」

「ショートさんの技、どっちも“面”の技じゃないですか。なまじ火力があるから、今までそれだけで何とかなっちゃってたんでしょうけど、”面”だけじゃなくて“点”の技も作ったほうがいいですよ」

「……それ、親父にも言われた。どうやればいいんだ?」

「そうですねぇ。じゃあお手本みせますね」

 

 そう言って六花は、右手から白氷を、左手から黒氷を出す。

 

「『黒白氷拳』」

 

 手の中で白氷と黒氷を混ぜ合わせ、温度差によって急激に膨張した空気を手の中で極限まで圧縮する。

 そして、厚さ1m程のセメントの壁に狙いを定めると、指を丸めて銃口のような形を作る。

 

「『煉(れん)』」

 

 六花がそう言った瞬間、手の中で圧縮された空気が圧力波として一気に解き放たれる。

 圧力波はセメントの壁を貫通して綺麗に直径4cmほどの穴を作り、そこから100m先の体育館の壁をも貫通した。

 轟の『膨冷熱波』に比べて広範囲制圧には向かないものの、射程と貫通力においては圧倒的に優っている。

 それを見た轟は、僅かに目を見開いて驚いていた。

 六花は、わかりやすいように今度はゆっくり溜めて実演した。

 

「手の中で空気を圧縮して“点”で放つんです。火山の噴火と同じ原理です。仮免試験に間に合わせるのはムリでしょうけど、ショートさん才能ある人なので、二学期が終わる頃には『溜めて“点”で放つ』ができてるおもいますよ。ショートさんの努力次第ですけど」

「……わかった。やってみる」

 

 六花が言うと、轟が素直に頷く。

 

「氷って、思ってるよりいろいろできるんですよ。たとえば、こんなことだってできちゃいます」

 

 そう言って六花は、今度は自分の両手を氷に変えてポキポキと指を鳴らす。

 すると指の先からバチバチッと青白い閃光がスタンガンのように放たれる。

 それを見た轟は、僅かに目を見開きながら六花に尋ねる。

 

「それ、どうやってんだ」

「……なんか氷を曲げたら電気ができるみたいです。バクゴーさんと特訓してたとき、いろいろやってたらできました」

「氷を曲げるのってどうやるんだ?」

「んー……根性?」

 

 轟が尋ねると、六花が首を傾げて適当に答える。

 六花も爆豪同様天才タイプなので、“個性”の扱いにおいては思いつきで何でも出来てしまう。

 実際のところ、あまりにも簡単に出来すぎて、自分でもコツがわかっていなかったりする。

 六花にとって必殺技の特訓は、技を使えるようにする為のものではなく、何となくで使えた技の原理やコツを見つける為の実験のような作業なのだ。

 

「じゃ……お互いがんばりましょうね」

「おう」

 

 六花は、一旦轟と別れて自分の必殺技の練習をした。

 六花の必殺技は、『白氷冷拳』、『白氷雪花』、『黒白氷拳』の三つに大別され、それぞれ派生した技がいくつかある。

 『白氷冷拳』は変形型と異形型の性質を利用した近接主体の技、『白氷雪花』は発動型の性質を利用した中・遠距離主体の技、そして『黒白氷拳』は普通の白氷に加えて林間合宿の訓練で修得した新境地、『黒氷』を使った技だ。

 どれかひとつに偏らないように、ひたすら反復練習をする。

 

 

「何緑谷! サラッとすげぇ破壊力出したな!」

「おめーパンチャーだと思ってた」

 

 その頃爆豪が新しいサポートアイテムを使って『クラスター』を放ったり、緑谷が新しいシューズでシュートスタイルを披露したりして、クラスメイトを驚かせていた。

 六花も負けじと練習を再開しようとした、その時。

 

「六花ちゃ〜ん!」

「ケロケロ、張り切ってるわね」

 

 近くで練習していた葉隠と蛙吹が、声をかけてくる。

 

「あ、トールさん……ツユちゃんさん……」

「コスチューム変えたんだねぇ!」

「あ、はい……あ、ツユちゃんさんもコスチューム変えました……?」

「ええ。蛙らしい必殺技に合わせてコスチュームを改良したの」

「へぇ……トールさんは……どっか変わってます?」

「変わってるよ! 私もニュースタイルにしたんだよ!」

 

 六花が尋ねると、葉隠はふんっと鼻を鳴らしながら、(見えないが)ドヤ顔をした。

 全裸だと色々とマズいので、ボタンひとつで透明になれる光学迷彩コスチュームをサポート会社に作ってもらったらしい。

 蛙吹も、よく見るとコスチュームの素材が変わっているようだ。

 そして六花のコスチュームは、蹴り技を放ちやすいように裾にスリットが入っており、靴もそれに合わせて改良してある。

 その変化を目敏く見つけたエロブドウが、セメントでできた足場の下で六花を視姦していた。

 

「うひょおおおお!! スリット!! 生脚!! ふんどs……へぶぉっ!!」

 

 峰田が六花を眺めていると、蛙吹が舌で峰田を引っ叩いた。

 するとその時。

 

「イレイザー!! 交代の時間だ!! 今からはB組がここを使わせてもらう!!」

「声うるっさ……」

 

 ブラドキングが、大声でTDLに乗り込んできた。

 あまりの声の大きさに、体育館中にキンキン鳴り響いていたので、六花は思わず顔を顰めながら耳を塞ぐ。

 予告なしに乗り込んできたブラドキングに対し、相澤はギロっと睨みながら口を開く。

 

「まだあと10分弱ある。時間の使い方がなってないな」

「ぅぐ……すまん、時間通りに交代を頼むぞ」

 

 相澤が言うと、ブラドキングが若干肩身狭そうに頼んだ。

 B組は、A組の生徒に補助講師のソフィアを紹介してもらった借りがあるので、あまり強気には出られないらしい。

 だがそんなのは関係ないと言わんばかりに、物間が口を開く。

 

「ねえ知ってる!? 仮免試験って半数が落ちるんだって! A組(キミら)全員落ちてよ!!」

 

(((((ストレートに感情ぶつけてくる)))))

 

「……どなた?」

 

 物間がストレートに煽ると、A組が心の中でツッコミを入れるが、六花は物間に興味が無いので存在ごと忘れており、あまりピンと来ていなかった。

 物間が『どっちが上かハッキリさせようか』などと言って笑っている中、上鳴が物間を指差しながら拳藤に話しかける。

 

「つか物間のコスチュームアレなの?」

「『“コピー”だから変に気を衒う必要は無いのさ』って言ってた」

「衒ってねえつもりか」

「しかし…もっともだ。同じ試験である以上、俺達は蠱毒…潰し合う運命にある」

「コドク」

 

 新しい必殺技『深淵闇躯(ブラックアンク)』を練習していた常闇が言うと、六花が常闇を見てポツリと呟く。

 

「だから、A組とB組は別会場で申し込みしてあるぞ」

「ヒーロー資格試験は毎年6月・9月に全国三ヶ所で一律に行われる。同校生徒での潰し合いを避けるため、ど(・)の(・)学(・)校(・)で(・)も(・)時期や場所を分けて受験させるのがセオリーになってる」

 

 ブラドキングが言うと、物間はホッとため息を漏らした。

 

「直接手を下せないのが残念だ!!」

「ホッつったな」

「病名ある精神状態なんじゃないかな」

 

 ホッと安堵しつつも高笑いしながらA組を煽る物間を、切島と上鳴が真顔で心配する。

 

「お互いがんばりましょうね……」

「おう、お互い全員合格しような」

 

 六花は、高笑いしている物間を無視して拳藤に話しかけていた。

 そんな中瀬呂と緑谷は、ブラドキングの発言を聞いて不安そうに呟いていた。

 

「“どの学校でも”…………そうだよな。フツーにスルーしてたけど、他校と合格を奪い合うんだ」

「しかも僕らは通常の習得過程を前倒ししてる…」

「1年の時点で仮免を取るのは全国でも少数派だ。つまり、君達より訓練期間の長い者、未知の“個性”を持ち洗練してきた者が集うわけだ。試験内容は不明だが、明確な逆境であることは間違いない。意識しすぎるのも良くないが忘れないようにな」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

芦戸 side

 

「フヘェェェ毎日大変だぁ…!」

「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」

「あと一週間もないですわ」

 

 私が葉隠と一緒にソファーでゴロゴロしながら言うと、ヤオモモも頷く。

 訓練が終わった後、六花以外の女子は寮の談話スペースで駄弁っていた。

 六花は、放課後も“個性”の特訓をしてて、まだお風呂に入ってるからここにはいない。

 今日の訓練の話になって、葉隠がヤオモモと梅雨ちゃんに話しかける。

 

「ヤオモモは必殺技どう?」

「うーん、やりたいことはあるのですがまだ体が追いつかないので、少しでも“個性”を伸ばしておく必要がありますわ」

「梅雨ちゃんは?」

「私はより蛙らしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもビックリよ。お茶子ちゃんは?」

 

 梅雨ちゃんが話しかけても、麗日はボーっとしてるのか答えなかった。

 

「お茶子ちゃん?」

「うひゃん!!」

「お疲れのようね」

 

 梅雨ちゃんが麗日を突くと、麗日は盛大に飲み物を吹いた。

 確かにここ最近訓練大変だからなー。

 ……いや、それとも……?

 

「いやいやいや!! 疲れてなんかいられへん、まだまだこっから! ……の筈なんだけど、何だろうねえ。最近無駄に心がざわつくんが多くてねえ」

「恋だ」

「ギョ」

 

 私が言うと、麗日は顔を真っ赤にして滝のような汗をかき出す。

 麗日は、思いっきり怪しい手の動きをしながら必死に否定した。

 

「な、何!? 故意!? 知らん知らん!」

「緑谷か飯田!? 一緒にいること多いよねえ!」

「チャウワチャウワ」

 

 私と葉隠が問い詰めると、麗日は“個性”で宙に浮いて空中で丸まった。

 

「浮いた」

「誰ー!? どっち!? 誰なのー!?」

「ゲロっちまいな? 自白した方が罪軽くなるんだよ」

「違うよ本当に! 私そういうの本当…わからんし…」

 

 私と葉隠の追及を、麗日は宙に浮きながら必死に否定していた。

 すると梅雨ちゃんとヤオモモが私達の間にはいる。

 

「無理に詮索するのは良くないわ」

「ええ、それより明日も早いですし、もうお休みしましょう」

「ええーー!! やだ!! もっと聞きたいー!! 何でもない話でも強引に恋愛に結び付けたいーー!!!」

「そんなんじゃ…」

 

 うぅー、毎日訓練漬けで、ちょっとは癒しが無きゃ寝れないよ!

 何でもいいから恋バナがしたいよー!

 なんて思っていると……

 

「ん……なんの話ですか」

 

 ちょうど六花が、牛乳パックを片手にお風呂から戻ってきた。

 

「あ、六花ちゃんいいところに! 今ねぇ、みんなで訓練のこととか色々話してたの!」

「へー……」

 

 葉隠が六花に話しかけて、六花がソファーの端に座る。

 ふっふっふ、ちょうどいいところに……!

 

「ねぇねぇ、六花はどうなのさ!」

「……は?」

「爆豪に貰ったピン、ずっと付けてるよねぇ!? やっぱ気があるんじゃないの!?」

「どうなのどうなのー!?」

 

 私と葉隠は、ターゲットを六花に切り替えて問い詰める。

 そんな私達を見て、耳郎が呆れたように笑う。

 

「んな無理に恋バナしなくても……」

「えー、だって最近訓練ばっかだもん、放課後くらいキュンキュンしたいよー! どうなのさ六花!?」

「いや、ないですよ。これはたまたま気に入ったからつけてるだけです。わたしバクゴーさんうるさいのでヤです」

 

 六花は、私達の追及にも動じずに牛乳を飲み干した。

 だけどその時、葉隠がハッと何かを思いついて、六花に詰め寄る。

 

「じゃあさじゃあさ! もし爆豪が他の女の子と付き合ったらどう思う!?」

 

 葉隠が質問した途端、六花の表情がごっそり抜け落ちる。

 

「……は? いやいやいやそんなことあるわけないですオールマイトを超えるNo.1ヒーローになるってゆってる人が女の子とイチャイチャするとかありえないですそんなことしてるヒマがあるなら敵(ヴィラン)をぶっ殺しに行けよって話ですし想像もしたくないですムリですきもいです一キモ二キモ三キモ五キモ十キモ百キモ千キモ万キモ億キモ兆キモ京キモ」

「六花ちゃん、原型なくなってるわよ」

 

 六花が膝から雪化してぐずぐずに崩れながら早口で言うと、梅雨ちゃんがツッコミを入れる。

 ここまで必死になるって事は、やっぱりクロですなぁ?

 

「やっぱり恋だぁ!」

「ねぇねぇ、いつから好きだったの!?」

「別にいつからも何もないです……てか牛乳飲みすぎて漏れそうなんですけど」

「逃げようったってそうはいかないよ! ほら、話しちゃいなよ! 恋、してるんだろ?」

 

 ぐずぐずに雪化した六花が逃げようとするけど、私と葉隠で阻止した。

 だけどその時、六花がじとっと冷ややかな目を私に向けてくる。

 

「……てかミナさん、人の話ばっかり聞きたがってますけど、自分はどうなんですか。エージさんとか」

「えっ!?」

 

 ……え、私!?

 

「中学、いっしょだったんですよね……?」

「な、なんでそれを!?」

「……さぁ、風のウワサで聞いたんです」

 

 私が切島の名前を出されて反応すると、六花が肩をすくめてとぼける。

 すると今度は、葉隠まで食いついてくる。

 

「え、三奈ちゃんどうなの!?」

「話すまで帰さないです」

「ちょっ……ホント何もないから!」

 

 二人に挟まれて、私はしこたま問い詰められた。

 特に六花は、さっき私が問い詰めた分のお返しと言わんばかりにしつこく問い詰めてくる。

 ホント、マジで何もないんだけど!

 

 

 

 

 




六花ちゃんの必殺技です。

・『黒白氷拳』
 通常の白く冷たい氷(白氷)と、黒く熱い氷(黒氷)を生み出し組み合わせる技。

 ・『煉(れん)』
  白氷と黒氷を手の中で混ぜ合わせ、膨張した空気を極限まで圧縮し、圧力波として解き放つ技。
  1mの厚さのコンクリートを貫通し、そこから100m離れた壁をも貫通する程の破壊力を誇る。
  轟の『膨冷熱波』と比べて広範囲制圧には向かないが、指向性と貫通力で勝る。
  爆豪の『徹甲弾(A・Pショット)』を参考にしている。

・『???』
 爆豪との特訓中に偶然編み出した技。
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