約束守って漂白者!!   作:曇らせの定期投下

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みんな暗い過去を抱えすぎだと思います。
だからもっと曇らせようと思います。


死んでまた生きる

 

 

 人は死ぬ時、最後に手放すのは何だろうか。それは思考?、記憶?、矜恃?、可能性?、曖昧に未来とも言えるだろうか。ここで考えるべき精神内の証明は不可能に近い。誰も彼もがただ1つ、自分という唯物的輪郭に宿っているので、『他人の気持ちはわからない』というやつだ。参照すべきものは何も無い、答はたった1つ、自分が死ぬその時、匣を開けてようやく理解する。ああ、これが自分の死の形なのかと。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 つい先程と比べ、随分と物静かになった街は酷く煙たい。風通しが良くなったせいで息が詰まりそうな圧迫感に襲われる。不安とは言い難い、俯瞰した思考が他人事みたいに自分を見る。あちこちから滲む血の色、とても無事とは思えない肢体があった。

 

「顔色も悪い。安全な場所まで行こう」

 

 目の前の黒い人が手を引いていく。小さな瓦礫を踏み鳴らしながら、燃え盛る建物の横を通って行く。足は痛むが歩みが止まることはなかった。それ以上に頭が割れそうなほど痛んだ。

 

「どうして?」

 

 私の言葉に黒い人は少し強ばった気がした。そんな気がしただけで、勘違いかもしれない。それは、あんな修羅場を潜り抜けた人がそんな弱い訳がないと決めつけたからだった。だから私は気にせず言葉の後半を付け足した。

 

「どうして私を助けたんだ?」

「そのために俺はここに来たから」

 

 先ほどの複雑に絡んでいた表情が解けて、単純で優しい口調だった。それからすぐに、街はずれの小屋の中で治療を受けた。有り余りのものだったが、丁寧な手際で処置をする彼の黄色の瞳は慈愛に満ちていた。

 

「何があったか覚えているか?」

「いいえ。何も……、何も覚えていません。私が誰なのかすら、私は覚えていないのです。私はきっと……あの場所で()()()のでしょう」

 

 死んだ……そう、私は死んだのだ。あの時、自分にあったのは他でもない、自身の死の残滓だった。勿論、全て感覚上の出来事だ。例えこの頭蓋を割ったとて、証拠というものは出てきやしない。自分でも不可思議なことだと承知しているが、それ以外言いようがなかった。一体どうして、自身の死など荒唐無稽なことを信じられよう。仮に死んだとして、私の体はこうして生きているではないか。

 

「そうか」

 

 そんな私の言葉を、それでも目の前の彼は受け止めた。隠喩か隠語か疑う余地はあれど、一先ずはと頷いた。

 

「記憶喪失か……。自分のことが分からないと言ったが、他のことで何か覚えていることはないか?」

「あの街のこと、暮らしていた人々のこと、自分のこと以外なら記憶にあるんです。でも、私が生きていた記憶だけが無い。まるで……()という存在が世界からくり抜かれたように」

 

 

「だから、私は()()()のです」

 

 話していくうちに理解が追いついてくる。死の輪郭が、本能が拒絶したその形が脳裏にベタリと粘着して離れない。そのあまりの恐ろしさ、悍ましさに身震いを起こし、訴えるように彼を見る。何も意味を込められていない空虚な視線を受けても目の前の黒い彼はしかし、目尻を柔らかくするだけだった。

 

「それで、あなたはこれからどうするつもりなんだ?」

「さあ、どうしましょう。貴方に救われたのですから、生きてみようとは思いますが……それ以外のことは何も」

「とりあえず、近くの街までは案内しよう。これからのことは、そこで考えればいい」

 

 良い人とは思っていたが、底抜けの善人だとは思いもしなかった。何も知らぬ、何も分からぬ者に対してそこまで手をかけてくれるのは感謝するが、私にはその在り方は危うく見えた。

 

「ありがとう」

 

 そして、その姿に憧憬を見た。

 

 


 

 

 包帯だらけの体を引きずって、親の後について行く幼仔のように彼の後ろに足跡を増やしていく。私が()()()ことになって早十日。私は他の街に身を置くことはなく、彼の後ろを歩き続けた。彼は私を突き放さなかった。

 

「貴方はこれからも1人で行くつもりですか?」

「……いや、1人だとできることが限られている。だから、いずれ頼れる仲間が必要になるだろう」

 

 悲鳴に襲われた街は私1人を残して灰燼に帰した。残った私自身も生きた記憶を失い、重傷を負った。その人の瞳は負い目があるのか少し濁っていた。少し滲み出たその雰囲気が、私に危険な予感を感じさせる。

 

「じゃあ私も連れて行ってほしい。あの時、私は確かに()()()んだ。力も行くあてもない私だけど、きっと役に立ってみせるから」

 

 この世界を救わんとする彼について行くことは困難を極めるだろう。危険なことを理由に彼が私を遠ざけようとするのは簡単に予想できた。だから……狡い手を使ってしまった。

 

「それに……私はもう、貴方に着いて行くしかない……」

 

 その時、振り返ったあの人の顔を見ることはなかった。言い訳の余地もない。私はただ、彼から離れてはいけない直感という自己中心的な動機によって彼を責めた立てたのだ。私自身があの街のことを割り切っていたとして、私の口からそのことを彼にぶつけるのは悪逆非道な行いに他ならない。彼の目から見れば、私は全てを失った被害者なのだから。

 

 

 それでも、彼から離れるわけにはいかなかった。そして、この非道が繋いだ意味を私は身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 

 救世主を背負う責任……その意味を。

 

 




少し訂正しました。
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