ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ 作:ウエストモール
“シロコ、君のお父さんは何者なの?”
ウルフが先に帰った後、先生はシロコにそんなことを聞いた。
「ん、お父さんは宇宙人だよ。キヴォトスに不時着したところをホシノ先輩が発見したんだって。そして、私はお父さんに拾われた」
“う、宇宙人!?もしかして、あのヘルメットの下にはエイリアンみたいな顔が?”
先生が思い浮かべたのは、彼があの特徴的なヘルメットを取るとグレイ型宇宙人の顔が出てくる光景だった。
「ううん。先生と同じような感じ。先生の前では外してなかったけど、食事の時や家にいるときは外してるよ」
なお、マンダロリアンの古い教義では人前でヘルメットを外してはならないことになっているが、今やそれを律儀に守っている者は多くない。いたとしてもカルト集団くらいだろう。
“そうなんだ。今度、食事にでも誘ってみようかな”
「だったら、アビドスにある柴関ラーメンがおすすめ。お父さんもそうだけど、私達もよく通ってるんだ」
“ラーメンか……今度、案内してもらえる?”
「ん、いいよ。ホシノ先輩達も一緒になると思うけど、交流に丁度いいかも」
二人は他のアビドス生達と合流し、帰路につく。彼女達は前哨基地から戦利品を持ち帰ることに成功したのだった。
ウルフはマンダロリアンの戦士である。彼はヴィズラ氏族の一員としてマンダロリアン・レジスタンスに参加し、銀河帝国に対する反乱活動に従事していた。
しかし、彼らの居住している惑星マンダロアは銀河帝国による大粛清に曝された。後に“千の涙の夜”と呼ばれるこの事件にて銀河帝国は容赦なく核融合爆弾の雨を降らせ、何百万もの命を奪い去ったのだ。
当時、ウルフは帝国軍を迎撃するために愛機を駆り、同胞達のスターファイター部隊と共にTIEファイターやTIEボマー、スターデストロイヤーと戦いを繰り広げていた。
しかし、奮戦も虚しくマンダロアの地は核融合爆弾により焼き払われてしまう。生存者の一人となった彼は帝国から身を隠すべく離脱し、ハイパースペースへと飛び込むのだが、ここで想定外の出来事が発生する。
なんと、核融合爆弾の影響で惑星の磁場が乱れており、それによりハイパードライブに不具合が発生し、全く未知の場所へと飛ばされてしまったのだ。
そして、超空間から通常空間へと戻ってきたウルフを待ち構えていたのは、人間が居住可能な大気を持つ大きな惑星だ。そこには学園都市キヴォトスが存在しており、彼は砂漠地帯に漂着した。
彼は小鳥遊ホシノと出会い、命の危機すら感じさせる交渉の末、アビドスに滞在する許可を勝ち取る。彼はそこで様々な人に出会い、絆を結んだ。シロコにノノミ、セリカ、アヤネ、柴関ラーメンの大将……そして、今度は先生と出会うことになった。
今や、彼は賞金稼ぎとしてキヴォトスを飛び回っている。知る人ぞ知る有名人であり、アーマーを狙う裏社会から賞金をかけられていたりする。
それでも、彼は戦いを続ける。たった一人の娘を養い、いつか宇宙へと帰り惑星マンダロアを取り戻すために。
「シロコ、俺はこれからミレニアムに行ってくる。ついでにいくつかの依頼を受けるつもりだ。もしかすると帰りは遅くなるかもな」
「ん、気をつけてね」
翌朝、ウルフはアビドスを離れてミレニアム自治区へ向かう。何度かシロコを乗せたことのあるサイドカーに飛び乗り、彼女に見送られて出発した。
ウルフの駆るサイドカーは、アビドス砂漠に埋もれていたものを掘り出してレストアしたものだ。内燃機関を備えた乗り物を弄るのは初めてだったが、機械弄り自体は得意なので何とかなった。
彼はジェットパックこそ装備しているが、やはり長距離飛行は効率が悪い。そのため、遠出する際は必ずこのサイドカーで移動していたし、シロコを隣に乗せることもあった。
「ミレニアムはこっちか」
アビドスの砂まみれの道路を駆け抜け、ミレニアム方面へと向かう幹線道路へと入る。サイドカーを走らせること一時間、目の前に近未来的な都市が見えてきた。
そこは、最先端技術の誕生する科学の学園、ミレニアムサイエンススクール。歴史の浅い新興の学園でありながら、三大学園の一つに数えられる程の影響力を持っている。
「ウタハ、来たぞ」
ミレニアムの町中を駆け抜け、ウルフは巨大なガレージの中へと乗り付ける。そこで待っていたのは、ミレニアムの制服の上に白衣を羽織った生徒だった。
彼女の名は白石ウタハ。エンジニア部の部長をしているミレニアムの三年生で、様々な工学に通じているモノづくりの天才である。
「やあ、ウルフさん。貴方専用の弾薬類は準備できているよ」
「助かる。ついでにジェットパックの整備も頼めるか?」
ウルフとエンジニア部の関係は、キヴォトスに来たばかりの時から続いている。ウルフは装備のメンテナンスや弾薬類の補給のために定期的に通っているのだ。
「何か不具合でもあったかい?」
「あぁ。ノズルの制御系が少しおかしくてな。墜落死なんて無様な死に方だけはしたくない」
「私達としても貴方に死なれたくないからね、ジェットパックのことは任せて」
ウタハにジェットパックの整備を任せている間、ウルフはガレージ内を歩き回る。以前に来たときよりも発明品が増えているような気がした。
「あ、ウルフさんだ」
やがて、エンジニア部の一人が帰ってきた。
「ヒビキ……久しぶりだな」
そこにいたのは、ダウナーな雰囲気の犬耳生徒だ。垂れ耳とゴーグルが特徴的な彼女は猫塚ヒビキといい、エンジニア部の一年生である。
「前はタイミングが悪かったけど、今回は会えてよかった。見てもらいたい試作品があって」
彼女は顔を僅かに赤らめており、まるでモップのような犬尻尾がブンブンと振り回されている。ウルフに会えて嬉しいのを隠しきれていなかった。
「いいぞ。ジェットパックをウタハに預けてしまっているからな」
「ありがとう、ウルフさん」
ウルフの腕を引っ張り、自らの作業台へと案内する。ヒビキは妙に積極的であり、密着といってもいい程の距離感で試作品について解説を始め、それはウタハが戻ってくるまで続いた。
「とりあえず、ジェットパックの不具合は治ったから安心していい。それと、ウルフさんの愛機のことだけど……」
「どうかしたか?」
「いや、問題はない。少なくとも、空を飛び回れる程に修復はできている。武装とシールドさえ治れば、引き渡しはできるよ」
「それなら良かった」
「ヒビキ、彼に現在の様子を見せてやってくれ」
ウルフはヒビキと共にガレージの奥へと移動する。そこには布が掛けられた大きな物体が存在し、取り去ると一機の戦闘機が出てきた。
それは、遥か彼方の銀河にてスターファイターと呼ばれる機種に分類される機体である。名はARC-170といい、旧銀河共和国軍にて運用されていたマルチロール機だ。
ウルフはそれを改造したものを愛機としており、銀河帝国軍のスターデストロイヤーに大きな損害を与えていた。
「ほぼ元通りといったところか」
「うん。この子のことは、エンジニア部の総力を挙げて修復しているから、近いうちに返してあげられるよ」
「そうか。もしも修復が完了した時には、後部座席に乗せてやる。きっと楽しいぞ」
「なら、もっと頑張らないと……!」
その後、ウルフは弾薬類の受領を終える。いくつかの依頼を受けるためにサイドカーや一部の荷物を預け、エンジニア部の元を後にした。
「お前達が疑似科学部か?」
しばらくして、ミレニアムの生徒会であるセミナーからの依頼を受けたウルフが押し入ったのはミレニアムの郊外にあるプレハブだった。そこには白衣を羽織ったミレニアム生徒達がいる。
彼女達は疑似科学部といい、ミレニアムの生徒でありながら科学的な根拠のないインチキ商売をしている詐欺集団だ。その悪行から予算を停止されたのだが、しぶとく活動を続けていた。被害者の中にはアビドスの生徒もいたりする。
ウルフが受けた依頼は、疑似科学部の拠点を潰すことだ。インチキ商売に使われる商品を破壊することも依頼に含まれている。
「セミナーからの命令だ。全員、その場を動くな。家宅捜索させてもらうぞ」
「待ってください!それは困ります!」
生徒の一人が掴みかかってくるが、あまり鍛えていないのか一瞬で突き飛ばされる。それを皮切りに疑似科学部は発砲してきた。
「う、撃てっ!!大切な商品に手を出させるな!!」
ヒョロヒョロの部員揃いとはいえ、狭い室内なので弾を外すことはないだろう。たった一人に向けて銃弾が殺到するのだが、ウルフは咄嗟に屈んで被弾面積を減らし、同時に右腕のガントレットから薙ぎ払うように火炎放射をお見舞いしてやった。
「アチチチチッ!?逃げろ!!」
室内は火の海に変わり、火達磨となった部員達が悲鳴を上げて逃げ出していく。小型火炎放射器の射程は数メートルに過ぎないが、室内なので最大の効果を発揮できた。
「これで静かになった」
背中に熱を感じながら、ウルフは奥へと足を踏み入れる。そこには倉庫が存在しており、身につけるだけで運気が上昇するブレスレットや怪しげな健康食品、飲料水が山積みになっていた。
「これが例の商品か……破壊する」
火炎放射を再び実施し、インチキ商品は瞬く間に火に包まれていく。仕上げに爆薬を投げ込んでスタスタと撤退し、外へ出て振り返るとプレハブが爆発で盛大に吹き飛んだ。
周囲では疑似科学部のメンバーが膝をつき、目の前で起こっている惨状に唖然としている。
「ああ……私達の夢が……」
「詐欺行為に夢などあるものか。お前達の行いによって努力を踏みにじられた者もいる。これを機に足を洗うことだ」
ウルフは正当な依頼であれば、相手が生徒でも容赦しない。今回は相手が詐欺集団であったこともあり、苛烈な方法を選択していた。
「ユウカ、終わったぞ。報酬はいつもの口座に」
『お疲れ様です、ウルフさん。分かりました、報酬は振り込んでおきますね』
ウルフはスマホでセミナーの人間に連絡を入れると、ジェットパックでその場を飛び去る。後に保安要員が駆けつけて部員を拘束したが、その惨状には同情してしまったとか。