ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ   作:ウエストモール

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今回はゲヘナ編です


問題児たち

 その日、ウルフは依頼を受けてゲヘナ学園へと赴いていた。ゲヘナは三大学園の一つであり、長い歴史を持つマンモス校だ。三大学園の一角、トリニティ総合学園とは歴史的に対立関係が続いていた。

 

 ゲヘナは自由と混沌が校風であり、キヴォトス全体を見ても類を見ない程に治安が劣悪になっている。それ故に統治は行き届いておらず、まともな授業も出来ていないような状況である。一応、一部の真面目な生徒が集まって勉強しているようだったが。

 

「相変わらずの治安だな……」

 

 早速、絡んできた不良をブラスターでぶちのめし、ウルフは先へと進む。今回の雇い主はゲヘナの風紀委員会。自由と混沌の世界に身を置きながらも、治安維持を諦めない者達である。

 

「よく来てくれたわね、ウルフさん」

 

 風紀委員会の本部に到着したウルフが通された先で待っていたのは、ホシノと同じくらい小柄ながらも強いオーラを放つ少女だった。その背中からは蝙蝠のような翼を生やし、頭部には複雑な形状の角が存在している。

 

 彼女は空崎ヒナ。ゲヘナ最強と謳われる生徒であり、風紀委員会の委員長である。彼女一人が出動するだけで、大抵の事案は解決するらしい。今回はそんな彼女からの依頼だった。

 

「貴方には今日一日、ゲヘナ風紀委員会の嘱託職員として治安維持に従事してもらう。そういう契約で良かったかしら?」

「あぁ、そうだ。風紀委員長殿」

「ヒナでいいわ」

 

 ゲヘナ最強の彼女が在籍する風紀委員会が部外者に依頼する必要などないように思われるのだが、ヒナが最強として名高いことが弊害を生じさせている事態がある。

 

 それは、ヒナが全く休めないということだ。ゲヘナ最強の彼女が不良達の抑止力になっているのは間違いないのだが、逆に彼女抜きの風紀委員会など怖くないという風潮を生み出した。彼女が休暇を取ると不良達が大規模に暴れ出し、結局ヒナが出張ることになるのだから。

 

 そこで、白羽の矢が立ったのがウルフだった。彼は賞金稼ぎとして活動する中で不良達から恐れられる存在となっており、以前には賞金首のテロリスト相手に風紀委員会と共闘をしたこともあった。彼ならば一日限りでも抑止力になってくれるのではないかと委員会内部で名が挙がったのだ。

 

「では、ヒナ。俺はこれから、一日風紀委員会として活動させてもらう。今日一日、ゆっくり休むといい」

「ありがとう、ウルフさん」

 

 彼女は目の下に隈を浮かべながらも微笑む。ウルフは彼女から風紀委員会の腕章を受け取ると、彼女の執務室を後にした。

 

「よろしくお願いします、ウルフさん」

「あぁ、よろしくな」

 

 依頼中、ウルフに付けられたのは一人の風紀委員だった。眼鏡と赤いタイツが特徴的な彼女は火宮チナツといい、医薬品が詰め込まれた巨大な鞄を肩から提げていた。

 

 チナツが同行する理由は単純だ。ウルフはヘイローを持たない大人であり、キヴォトス人よりも怪我を負う可能性が高いからだ。彼女は風紀委員会の中でも衛生兵に相当する立場なので、この人選となった。

 

「では、行きましょうか」

 

 風紀委員の運転するジープに二人は乗り込み、パトロールに出発した。

 

 

 

『本部より全風紀委員へ。ゲヘナ自治区xxx-x番街にて温泉開発部が活動中の模様。付近の部隊は直ちに急行し鎮圧せよ』

 

 それが伝達されたのは、パトロールを開始して数分も経たない頃だった。

 

「温泉開発部か……懲りない連中だ」

 

 温泉開発部はゲヘナのテロリスト集団だ。名前からは想像も付かないが、彼女らは住宅地でも校舎でも、商業施設であっても所構わず温泉開発を実施し、爆破するために警戒されていた。

 

「どうしますか、ウルフさん?」

「行こうか。久しぶりに面を拝みに行ってやろう」

 

 ウルフは以前、アビドスに侵入してきた温泉開発部と単独でやり合い、撃退したことがあった。彼女らが覚えていれば、必ず食いついてくるだろう。

 

「ハーッハッハッハッ!」

 

 更地と化した市街地の一角にて、高笑いが響き渡る。周囲では多くの風紀委員が倒れ伏し、残存している委員も遮蔽物に隠れて様子を覗うことしかできていない。

 

 声の主はゲヘナ学園の二年生で、温泉開発部の部長である鬼怒川カスミだ。彼女は現在、戦闘用に改造されて重武装かつ重装甲となった巨大ブルドーザーに乗り込んでいた。

 

「風紀委員会の諸君、あの空崎ヒナのいない今日こそ、我々はワクワク温泉大作戦を完遂する!そこで指を咥えて見ているがいい!ハーッハッハッハッ!!」

 

 ブルドーザーを遮蔽物として温泉開発部の部員達が展開する一方、戦いの果てに倒れ伏した風紀委員が転がり、無事な委員が遮蔽物に隠れて睨み合いを続けている。

 

 風紀委員会の弾丸や迫撃砲は重装甲の前では無力であり、多くの委員が搭載された機銃による掃射の餌食となっている。ヒナが出動しなければ解決できないような事態だ。

 

「おい、状況はどうなっている?」

「あなたは……賞金稼ぎウルフ。話は聞いています」

 

 やがて、ウルフが到着する。遮蔽物に隠れている風紀委員達の元へと歩み寄り、状況を確認した。

 

「温泉開発部の違法改造重機により怪我人が多数。こちらの攻撃は歯が立ちません」

「ならば、小手調べとでもいこうか」

「ちょ、ウルフさん!?」

 

 チナツが制止するのも聞かず、ウルフは危険地帯へと飛び込む。たった一人で温泉開発部の装甲マシンの前に立ちはだかった。

 

「よお、温泉開発部。元気そうで何よりだ」

「お、お前は、あの時の!?」

 

 カスミが動揺し、部員達の中からどよめきが起きる。明らかに浮き足立っているように見えた。

 

「だが、我々はあの時のは違う!今はこの、最強の温泉開発マシンがあるのだからな!!」

 

 唐突に火を吹いたのは複数の機銃だ。幾多の風紀委員を吹き飛ばしてきた機銃掃射の火線が迫るが、転がって躱すとブラスターを装甲マシンに対して何発か撃ち込む。

 

 案の定、それは装甲に弾かれたので近場に落ちていたパンツァーファウストを拾い上げ、ジェットパックで空中に飛び上がってぶっ放すも、それも効かなかった。

 

「これはかなりの硬さだな」

「ハーッハッハッハッ!!そんなものは温泉開発マシン一号には通用しない!」

「そうか。なら、本気でやらせてもらうぞ。ガキ共が」

 

 ウルフは地上に降り立ち、ヘルメット側面のレンジファインダーを下ろしてバイザーの前に持ってくると、目の前の装甲マシンをロックオンする。そして、まるで浅くお辞儀をするように前傾姿勢を取ると、とある武装のトリガーを引いた。

 

「くらえ」

 

 発射されたのはジェットパックの上部に装備されていた対装甲ビークル用のミサイルだ。勢いよく射出されたそれは、温泉開発マシンの装甲に突き刺さり……

 

ドガァァァン!!!

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 盛大に爆発した。爆音と同時にカスミや部員達の悲鳴が響き渡り、煙が晴れると大破した温泉開発マシンと、その爆発に巻き込まれたカスミ達が倒れている光景が広がった。

 

「そ、そんなぁぁぁ!?自慢の温泉開発マシンが!!」

「これで終わりだな。観念することだ」

「け、検挙ぉぉぉ!!」

 

 同時に、遮蔽物に隠れていた風紀委員が一斉に突撃を開始する。温泉開発部は総崩れとなり、部長のカスミ共々、大勢が検挙された。

 

「ううぅ、我々の計画が……畜生!」

「ほら、とっとと歩け!」

 

 まだ意識の残るテロリスト達が風紀委員会によって連行されていく中、サイレンの音を鳴らしながら一台の救急車が停車する。

 

 そこから降りてきたのは、クラシックなナース服に身を包んだゲヘナ学園救急医学部の生徒達であり、負傷者の回収に現れたのだ。

 

「死体……ではなく負傷者は救急車に積載してください。歩ける者は向こうに集結。気絶したふりをしている生徒には銃弾を処方しましょう。では、始め」

 

 指揮官と思われる生徒が指示を飛ばし、部員達が散り散りとなって負傷者の救護活動を開始する。早速、歩くのが面倒なので気絶のふりをしていた生徒が射撃を受けて本当に気絶していた。

 

 やがて、指揮をしていた生徒がチナツとウルフの方へとやって来て、話しかけてくる。どうやら、チナツとは知り合いのようだ。

 

「チナツ、今回はかなりの死体……負傷者が出たようですね」

「そうですね、セナ部長。ウルフさんがいなかったら大変でした」

 

 その生徒の名は氷室セナといい、彼女は救急医学部の部長をしている。負傷者を死体と呼ぶ癖があり、負傷者の管轄を巡って風紀委員に発砲することがあるなど、ある種の問題児でもあった。

 

「今日は貴方が雇われていたのですね。貴方のお陰で死……負傷者が減ったことに感謝します」

「まあ、こちらも仕事だからな」

「そうですか。では、私も仕事に戻ります。ウルフさん、怪我には気をつけてください」

 

 セナは救急医療の現場へと戻ると、気絶している負傷者をゴミ袋のように片腕で持ち上げ、救急車の中へと雑に投げ込んでいく。相手がキヴォトス人だから許されるやり方だった。

 

 これで温泉開発部の件は一件落着だが、ここはゲヘナである。それだけで事件が終わるはずがなかった。

 

『本部より全風紀委員へ。美食研究会により給食部部長が誘拐された模様。現在、給食部のトラックでゲヘナ自治区xx番道路を逃走中。付近の車両部隊は直ちに出動せよ』

 

「またフウカが拐われたのか……美食研も懲りない奴らだ」

 

 それはゲヘナで有名なもう一つのテロリスト集団、美食研究会の仕業だった。気に入らない飯屋を爆破し、美味しい食べ物のために給食部の部長を誘拐するなど、問題児だ。

 

「ここから近いな……行ってくる」

 

 ウルフはジェットパックを吹かして飛び上がる。知り合いの苦労人である生徒を助け出すため、マンダロリアンの賞金稼ぎは今日も空を舞う。

 

 その後、美食研は空中から移乗攻撃を仕掛けてきたウルフによってトラックから叩き落とされて仲良くお縄に付き、フウカは無事に救出された。

 

 

 

 なお、給食部のトラックは大破した。

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