ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ 作:ウエストモール
「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます」
アビドス廃校対策委員会。それは、たった五名しかいないアビドスの全生徒が所属し、廃校の危機や借金返済のために活動する部活動である。真面目な一年生、奥空アヤネの号令で定例会議がスタートした。
「本日はシャーレの先生にもお越しくださいましたし、特別にウルフさんにも参加していただくことになりました。いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」
参加者は七名。アビドス対策委員会に所属する三年生のホシノ、二年生のノノミとシロコ、一年生のアヤネとセリカ、大人である先生とウルフだ。
“あれ?ウルフさんは定例会議に参加したことがなかったんですか?”
「そうだ、俺は学園の運営には関わっていない。あくまでも主体は子供たちだからな」
「ウルフさんとは契約してるんだ。学園の運営や問題の根本的な解決には関わらないってね」
ウルフとホシノが結んだ契約では、彼の関わる内容は治安維持だけとなっている。借金の返済についても、彼の稼いだ賞金に対してアビドス側が手を付けることはない。
「まあ、その代わりに校内設備の修理や点検は無償でやっているし、子供たちには小遣いをよく渡したりしている」
シロコが通う学園ということもあり、ウルフは契約に規定されていない部分から支援をしている。ボランティアで用務員をしたり、まるで親戚の大人のように多額の小遣いを渡していた。
今回、ウルフが参加することになったのはシャーレの先生という部外者の大人に対するカウンターとし、同じ大人を投入することでバランスを取るためだった。
「早速議題に入ります。本日は私たちにとって重要な問題である、この学校の抱える負債の返済について議論します。ご意見のある方は挙手をお願いします!」
アビドスにおける重要な問題の一つは借金の返済である。かつてはキヴォトス最大の学園として名を馳せていたアビドスだったが、数十年前から砂嵐の頻発と砂漠化の進行が発生し、対策のために多額の資金を投入したが、事態が好転しなかったことから借金ばかりが膨らんだのだ。
現在は九億円にも及ぶ借金があり、相手は悪徳業者なので利子は法外なものだ。そのため、完済の見通しは立っていなかった。
「はい!はい!」
最初に手を挙げたのはセリカだった。
「はい、一年の黒見さん。お願いします」
「……あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど」
「せ、セリカちゃん……でも、せっかく会議だし……」
「いいじゃーん、おカタ〜い感じで。それに今日は珍しく先生やウルフさんもいるんだし」
「珍しいというより、先生とお父さんが来たのは初めて」
「ですよね!なんだか委員会っぽくてイイと思いま〜す☆」
「はぁ……ま、先輩達がそう言うなら……」
ホシノ、シロコ、ノノミの三人の発言により、名字呼びをセリカは受け入れる。そして、彼女は本題に入った。
「とにかく、対策委員会の会計担当としては、我が校の財政状況は厳しいとしか言いようがないわっ!このままじゃ廃校かもしれないわよ!」
ウルフのボランティアで校内設備は維持され、多額のお小遣いを貰っているので多少はマシな部類とはいえ、アビドスの状況が厳しいのは変わらない。
「毎月の返済額は利息だけで788万円!私たちも頑張って稼いでいるし、ウルフさんの支援もあるけど、正直利息の返済もギリギリよ。これじゃ埒が明かないわ!何かこう、でっかく一発狙わないと!」
「でっかくって、例えば?」
そうアヤネに聞かれ、セリカが取り出したのは一枚のビラだ。その内容に全員の目が向けられ、ホシノが読み上げた。
「どれどれ……“ゲルマニウム麦飯石であなたも一攫千金”ねえ……」
「そう!これでガッポガッポ稼ごうよ!」
セリカによると、以前に町で声をかけられて説明会に参加し、運気が上がるというブレスレットを買い、それを周囲に売ることで稼ぐビジネスを紹介されたらしい。俗に言うマルチ商法である。
「なあ、セリカ。完全に騙されているぞ」
「へ?どういうこと?ウルフさん?」
「そのブレスレットを売っていたのはミレニアムの疑似科学部という不良サークルだからだ。そいつらはミレニアムから賞金がかけられていてな、昨日焼き払ってきた」
“焼き払った……?”
以前、疑似科学部の拠点を潰したウルフだったが、連中は拠点の一つを失っただけで部長や一部の部員は健在だ。今度は碌な治安維持組織を持たない弱小校であるアビドスに狙いを定めていたのだが、ウルフがいたのが運の尽きだった。
「そうなの!?どうしよう、二つも買っちゃったんだけど!?」
「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」
「まあ、安心しろ。部長も捕まえてかなりの賞金が出た。それで補填してやる」
「ぐすっ、ウルフさぁん……」
セリカはウルフに泣きつく。負けじとシロコも対抗して同じことをしてきたが、アヤネにより強制終了させられた。
次にホシノからは生徒の数こそ力ということで、他校の生徒を拉致して生徒を増やす案が浮上してきたが、普通に考えて犯罪であり、他校との争いとなるので却下となった。
その次に手を挙げたのはシロコだ。
「いい考えがある」
「……はい、二年の砂狼シロコさん……」
ホシノのこともあり、何だか嫌な予感がしながらもアヤネは発言者の名を呼んだ。
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」
「確実かつ簡単な方法。ターゲットは市街地の第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートも把握してる」
「おい、シロコ……」
ウルフが何か言いかけたが、シロコの口は止まらない。
「五分で一億は稼げる。はい、覆面も用意しておいた」
鞄から取り出され、テーブルに置かれたのは五つの目出し帽だ。それぞれ異なるカラーであり、額には番号があった。ウルフもその存在は知らず、娘がいつの間にか用意していたらしい。
早速、シロコは青い覆面を被っていた。ノノミは緑の覆面を被って喜んでおり、ホシノは覆面こそ被っていないが、銀行強盗を促すような発言をしている。二人はノリノリなのだが、この男が犯罪を許すはずはなく……
「却下だ。シロコ、犯罪はダメだと教えなかったか?」
「ん゛ん゛っ!」
シロコは覆面を脱ぐのだが、その顔はふくれっ面となっている。どうしても銀行強盗がしたかったらしい。
「ふくれっ面をしてもダメだ、シロコ。見なかったことにしてやるから、その覆面はしまっておけ」
「ん……」
容赦なくシロコは撃沈された。
「だが、計画自体は見事だった。敵拠点に対する襲撃計画に応用できる。銀行を襲うのはシュミレーション上だけにするんだ。絶対に、絶対に実物を襲うなよ?」
「ん、分かった」
しかし、ウルフは単に注意するだけで終わらせない。それと同時に褒めるべき部分は褒めることにより、シロコの能力を伸ばすことに繋げるのだ。
(“絶対に?それってフラグなんじゃ……”)
先生は思った。いつか本当に銀行強盗をすることになってしまうのではないかと。
その後、ノノミからはスクールアイドルの案が出された。彼女はアイドルの決めポーズや名乗りも考えて来ていたが、おふざけと悪ノリの連続で真面目ではない話し合いになってしまった。
「あのう……議論が中々進まないんですけど……ウルフさんは何かありませんか?」
皆、議論の場でふざけてしまっているので定例会議は成り立っているとは言えない状態だ。そんな中、アヤネはウルフに助けを求めた。
「実を言うと、俺は砂漠で農業をできないかと考えている。アビドスに産業を興すんだ」
「アビドスで農業ですか?でも、オアシスはかなり前に枯れてしまいましたし、大きな川も離れているので難しそうですが……」
「解決策はある。俺がいた銀河では砂漠の惑星でも農業をする技術があってな。ミレニアムと共同で再現を試みているところだ」
ウルフのいた銀河にて、砂漠の惑星には水分農場というものがあった。水分凝結機で大気中から抽出した水分を利用して地下で水耕栽培をするというものだ。
「砂漠で農業ねえ……おじさん、考えたこともなかったよ」
「もしも農業ができるなら凄いです☆」
「でも、準備だけでお金がかかりそうだよ。会計担当としてはそこが心配かな……」
「ん、銀行強盗をしなくて済む?」
“シロコ、銀行強盗から離れようね”
「初期費用については心配するな。開発資金と最初期の購入資金までは俺が出し、アビドスに寄付させてもらう」
「ウルフさん、太っ腹だねえ」
「一応、稼いでいるからな。無駄に持っているくらいなら子どもたちに還元する方がいい」
ウルフは賞金稼ぎとしてキヴォトスでかなり稼いできた。彼とシロコだけで使い切れるようなものではないため、アビドスへのボランティアのために使っていた。
「取り敢えず、俺の家周辺に農場を作る予定だが、従業員として学籍のない生徒達を雇おうと思っている。見込みのある生徒をアビドスに編入させたり、分校でも作って所属させれば人数問題の解決になるだろう」
「もしもそれが実現したら、真っ当な手段で生徒を増やせますね!先生はどう思いますか?」
“それはいいと思う。学籍のない生徒への支援まではシャーレも手が回っていないし、そういった形で救えるならありがたいかな……”
「先生もこう言ってますし、ウルフさんの案を採用しようと思います。皆さん、よろしいですか?」
反論する者はいなかった。今後、ウルフは水分農場計画の進展について定期的にアビドスへと報告することになる。
「まさか、食事に誘われるとは思わなかったな」
“すいません、いきなり。貴方と一対一で話したかったので……”
会議の後、ウルフと先生の姿はアビドス自治区にあるラーメン屋〈柴関ラーメン〉の前にあった。ここはセリカのバイト先でもある。
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!」
扉を開けて中に入ると、セリカの元気な声と笑顔が二人を出迎えてくれた。
「何名様ですか……って、先生とウルフさん?」
「セリカ。俺達は二人だ」
“やあ、セリカ”
「おや、シャーレの先生とウルフさんじゃねえか。セリカちゃん、一番奥のVIP席に案内してやってくれ」
「はーい!席にご案内します!」
ここの大将である柴犬の獣人が、二人を特別な席に案内するようにセリカに指示を出す。そこは壁に囲まれた席であり、話し合いに最適だった。
「柴関ラーメンを二つ、頼む」
ウルフはラーメンを注文した後、自身の頭に手をかけてヘルメットを取り、テーブルを挟んで対面している先生に対して初めて素顔を晒す。
「それで、話というのは?」
そこにいたのは、歴戦という言葉を体現したような風格の男。戦いを生業とするために生まれ、戦いを続けてきた戦士の顔だった。
先生は思った。彼は自分とは生きてきた世界が全く違うのだと。
“実は、聞きたいことがありまして……”
こうして、先生と戦士の対談が始まった。
潰す相手として疑似科学部が便利すぎる