ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ 作:ウエストモール
“ウルフさん、貴方はどうしてアビドスのために力を貸してくれているのですか?”
それは、先生がウルフに対して投げかけた、たった一つの問いだった。
「……俺を受け入れてくれた恩もあるが、今思えば逆境の中で足掻き続ける姿に共感したというのが正直なところだな」
“共感、ですか……”
「あぁ。俺はかつて、マンダロリアンの一員として強大な帝国と戦うために同胞達と共に立ち上がった。しかし、結果は散々なものだ。圧倒的な戦力によって真正面から叩き潰され、故郷は焼かれ、多くの同胞を失った……」
ウルフが思い起こすのは、マンダロアが帝国軍による爆撃で焼き払われていく光景だ。彼はそれを宇宙から目撃していた。核融合爆弾から放たれた熱波と衝撃が地上を呑み込む瞬間を。
「故郷はどうなったのか、何人の同胞が生き残っているのか……今の俺には確認することすらできない。全て失ったも同然だ」
ウルフは拳を強く握り締める。帝国への怒りと、生き残ってしまった後悔、故郷や同胞のことを知ることのできない歯がゆさ。それらが混じり合った感情が拳には籠められていた。
“………”
その様子を見て、先生は言葉が出なかった。
「だが、アビドスは逆境の中で足掻き続けている。不条理への抵抗を諦めない彼女達の姿を見て、俺は力をもらえた。故郷に戻ることは叶わないが、お礼に手助けをしている」
“それが、アビドスを手助けする理由……”
ウルフは現状、マンダロアへと帰る手段を持ち合わせていない。遥か彼方の故郷とアビドスを重ね合わせた彼は、アビドスを手助けすることが自身の道であると定義したのだ。
「
“え?”
「マンダロリアンの古い教義にある言葉だ。今や厳格に守る者は殆どいないが、この言葉だけは使う者が多い。まあ、結束を意味するようなものだ。あんたもアビドスを助けたいと思っているのだろう?」
“ええ、もちろん……我らの道”
「使い方は完璧だな。我らの道」
先生とウルフは意気投合する。お互いにアビドスを助けるために行動することで一致し、大人同士の絆が結ばれた。
「お待たせしました!柴関ラーメン、二人分です!」
やがて、セリカがラーメンを運んできてくれる。二人は店の名を冠した特製ラーメンに舌鼓を打ち、存分に味わった。
しばらくして、VIP席の外がにわかに騒がしくなった。セリカが対応しているようであり、ウルフは念のため確認しに向かった。
「少し見てこよう」
“わ、私も行きます”
ウルフはヘルメットを被り直し、先生を連れてVIP席の外へと向かう。そこには四人の見慣れない生徒達が来ており、その一人がセリカに対して喚きながら何度も頭を下げていた。
(あいつらは、たしかゲヘナの……)
なお、ウルフは四人組のことを知っている。
「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」
それは、簡易的な軍服のような紫色の服を着た小柄な少女だった。そして、落ち着きがない様子だ。
「あ、い、いや……!別にそう謝らなくても……」
「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」
「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」
随分と自らのことを卑下して喚いていた少女だが、四人組の中で最も落ち着いた雰囲気の少女が出てきて、ハルカという名の少女を諭してくれた。
「なあ、セリカ。何があった?」
「ウルフさん。実は……」
セリカによると、この四人組はラーメン一杯分のお金しか持っておらず、一人前を四人で分けて食べようとしていたらしい。それにセリカが驚いたところ、今のようなことになったのだ。
「なるほどな……なら、俺の奢りだ。大将、こいつらに柴関ラーメンを四人前作ってやってくれ。代金は俺に請求してくれて構わない」
「はいよっ!」
ウルフは四人にラーメンを奢ることにした。大将に声を掛ければ、彼は一つ返事で了承してくれた。
「あ、あの……どうして」
「気にするな。俺の気紛れだ」
ウルフはハルカの頭を軽くポンポンする。その様子を例の落ち着いた雰囲気の生徒が警戒したような目で見ていた。
「では、ごゆっくり」
ウルフはその場から去っていく。目を輝かせて憧れのような表情を浮かべながら彼の背中を見送ったのは、四人組の中でもロングコートを羽織った女社長のような生徒であった。
“ウルフさん、さっきの生徒達は?”
あの四人に別れを告げてVIPルームに戻った後、共に様子を見に行った先生から質問があった。
「あれはゲヘナの便利屋68だな。風紀委員会から指名手配されていたはずだ」
“指名手配ですか?あまり悪い子達には見えなかったけど……”
「ゲヘナ自治区では起業は校則違反だからな。その上、自治区外で外交問題になるような騒ぎを何度も起こしたことで目をつけられたようだ。銀行口座も凍結されている」
便利屋68は金さえ貰えれば何でもするという集団だ。メンバーはたった四人で構成されており、二年生で社長の陸八魔アル、三年生で課長の鬼方カヨコ、二年生で室長の浅黄ムツキ、一年生で平社員の伊草ハルカという面々だ。
先ほど喚いていたのがハルカで、それを諭していたのが最年長のカヨコである。
以前、ウルフには便利屋68との交戦経験があった。当時、便利屋はターゲットの護衛として現れており、巧みな連携で一度はターゲットを取り逃す苦渋を舐めさせられていた。ちなみに、ヘルメット団の口封じに現れたのも彼女達である。
「彼女達は金次第でどんな勢力からも組織からも仕事を受ける。先生、便利屋68が何故アビドスに来たのか分かるか?」
“何者かに雇われた?アビドスに危害を加えるために?”
「察しがいいな。おそらく、ヘルメット団を差し向けてきた黒幕に雇われている可能性が高い。日雇いの傭兵でも引き連れて、すぐにでも襲撃に来ると見ていい」
“黒幕……”
「あぁ。ヘルメット団の装備が妙に整っていたり、市場に流通していないモデルがあったのも、その黒幕からの支援だろうな」
“アビドスの皆に伝えた方が良さそうですが、どうしてウルフさんは便利屋の子達にラーメンを?”
「子供が腹をすかせているのは良くないからな。例え次の瞬間に敵になろうとも、見て見ぬふりはできない……」
すぐに先生とウルフは襲撃の可能性があるという警告をアビドスに発した。代金を支払い、急ぎ戻って二人が常駐した上、急ピッチで防衛体制が整えられることになった。
「ふう、素敵な大人の方だったわね。太っ腹で余裕のある大人……あれこそ、私の目指すべきアウトローの姿よ!」
柴関ラーメンから出た後、便利屋68の社長である陸八魔アルはそんなことを叫んだ。しかし、それを見た課長のカヨコは頭を押さえており、室長のムツキはニヤニヤしていた。
「社長、あの大人が着ていたアーマーに気付いた?」
「え?あ、アーマー?それが何か?」
陸八魔アルには何のことだか分からない。一度戦ったことがあるはずのウルフと同一人物だという事実に気付いていなかった。そして、幼馴染のムツキから説明が入る。
「あの人、依頼主から話のあった要注意対象の賞金稼ぎウルフだよ?それに、あのバイトちゃんはアビドスの生徒だったし」
「なななな、な、何ですってーー??!!」
アルは白目を剥き、絶叫した。悪の女幹部のような雰囲気は何処かへと吹き飛んでしまっている。
「あはははは、その反応ウケるー」
「はあ……本当に全然気づいていなかったのか……」
「それって、私たちの敵ってことですよね?わ、私が始末してきましょうかっ!?」
「あははは、遅い遅い。どうせ、すぐに攻撃を仕掛けるんだし、その時暴れよっ、ハルカちゃん」
ムツキはノリノリだ。しかし、当のアルは完全に狼狽えてしまっていた。
「う、うそでしょ……あの優しい人達が?ターゲットだなんて……う、うう、何という運命のいたずら……」
何を隠そう、この陸八魔アルはアウトローを目指して悪のカリスマを気取っているのだが、圧倒的にアウトローに向いていない善性の持ち主なのだ。おまけにポンコツでもあり、意図せずして事態を悪化させることもあった。
「何してんの、アルちゃん。仕事するよ?」
「バイトのみんなが、命令を待ってる」
「本当に……?私、今から……あの人たちを……」
「あはは、心優しいアルちゃんにはちょっとキツいねー。でもさ、“情け無用”で“お金さえ貰えれば何でもやります”がモットーでしょ?」
「そ、そうだけど……」
アルは完全に参ってしまっている。しかし、いくら金欠の零細企業であっても社長という自負はあり、迷いを振り切ることを選択した。
「こ、このままじゃダメよ、アル!一企業の長として、このままじゃ!行くわよ!バイトを集めて!」
アルは付近で待機している大勢の傭兵バイトのところまで移動する。そこには作業服と工事用ヘルメットを着用した生徒達がいた。
「なんだよ〜遅かったじゃん」
「少し野暮用よ。準備はできているわね?」
「もちろん。何でもいいけど、残業はナシでね。時給も値切られてるし」
「細かいことは今は置いておいて!さあ、行きましょう!アビドスを襲撃するわよ!」
アルは社員達や傭兵バイトに号令をかけた。
「アル様!わっ、私、頑張りますから!一人残らず、ぶっ潰しちゃいます!」
アルの号令の下、便利屋68は予算の多くを使い果たして雇った傭兵バイトを引き連れ、アビドスへの襲撃を敢行した。
アビドス側でも敵兵力の接近が確認されていた。ドローンを飛ばしていたアヤネが気付き、即座に報告する。
「校舎より南十五キロメートル地点で大規模な兵力を確認!おそらく日雇いの傭兵です!ゲヘナの生徒らしき姿もあります!」
「やはり来たか、便利屋68……」
「この恩知らず……メッタメタにしてやるわ!」
セリカはブチギレモードだ。ウルフにラーメンを奢られた恩があるにも関わらず、問答無用で襲撃してくる便利屋にキレていた。
「まあまあ、落ち着きなよセリカちゃん」
「そうだ。向こうは仕事で来ているからな。その辺は割り切っているんだろう」
“みんな、アビドスを守ろう。ウルフさんもお願いします!”
「あぁ。シロコ、行くぞ」
「ん……!」
ウルフとシロコはヘルメットを被り、戦闘態勢を整える。やがて、便利屋とアビドスの間で戦端が開かれた。