ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ 作:ウエストモール
キーンコーンカーンコーン!!
アビドスにチャイムが鳴り響く。空を見てみれば太陽が地平線に近づいており、空がオレンジ色に染まっている。これが示すことは、便利屋との戦いが長時間に及んだということだ。
チャイムの音でアビドスと便利屋68の双方が一時的に戦闘の手を止める。そして、便利屋の雇っていた傭兵バイト達に動きがあった。
「今日の日当だとここまでね。あとは自分たちで何とかして。みんな、帰るわよ」
「は、はあ!?ちょ、ちょっと待ってよ!!」
なんと、雇われの傭兵バイト達がゾロゾロと帰り始めたのだ。慌ててアルが引き止めようとするのだが、その言葉が届くことはない。
金の切れ目が縁の切れ目ということだ。アルはなけなしの金の殆どを傭兵の雇用に投入していたのだが、アビドスを警戒してとにかく数を揃えるために時給をギリギリまで値切っていたことが裏目に出てしまった。
「こらー!ちょっ、どういうことよ!?ちょっと、帰っちゃダメ!」
「こりゃヤバいね。まさか、この時間まで決着がつかないなんて……アルちゃん? どうする?逃げる?」
こんな感じの便利屋だが、その実力はアビドスの面々に引けを取らない。アルのスナイパーライフルによる狙撃に、ムツキの爆弾、ハルカのタフネスと突撃力、カヨコの傭兵に対する的確な指揮が合わさり、ウルフや先生付きのアビドスと互角に戦ってみせた。
しかし、ここまで長時間の戦いは便利屋も想定外だったようで、低賃金の傭兵バイト達が定時で帰ってしまった。戦力的に便利屋が不利となり、戦いは強制的に幕引きだ。
「あ、うう……こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!」
「あはは、アルちゃん、完全に三流悪役のセリフじゃんそれ」
「うるさい!逃げ……じゃなくて退却するわよ!」
こうして、便利屋68との戦いはアビドスの勝利で終わった。しかし、決して無傷とは言えない。防御設備が損傷し、弾薬もかなり消費し、多少の怪我もしてしまったのだ。
「逃げられたか……相変わらず厄介な連中だ」
「うへ〜逃げ足速いね、あの子達」
『……詳しいことは分かりませんが、敵兵力の退勤……いえ、退却を確認。皆さん、お疲れ様でした。一度帰還してください』
“みんな、お疲れ様”
「お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。全て現金でお支払いいただきました。以上となります」
翌日の朝、アビドスの校舎前に一台の現金輸送車とロボ市民の銀行員が来ていた。それはアビドスが借金をしている相手のカイザーローンであり、今日がその支払いの日なのだ。
校門には全アビドス生が集まっており、銀行員が金を数えている様子を見守っている。なお、ウルフや先生もここにおり、大人として立ち会っていた。なお、先生だけでなくウルフにとっても立ち会いは初めてだ。
「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」
銀行員は現金輸送車に乗り込み、アビドスから去っていく。巻き上げられた砂煙が尾を引いている様子が見受けられた。
支払いを無事に終えたアビドスの面々の表情は浮かないものだ。最近は戦いの連続であまり稼げておらず、支払いがギリギリだったからである。
「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー。ウルフさんの支援が無かったらヤバかったよ」
「ん……完済までどれくらい?」
「309年返済なので……今までの分を入れると……」
「言わなくていいわよ、正確な数字で言われるとさらにストレスが溜まりそう……どうせ死ぬまで完済できないんだし!計算してもムダでしょ!!」
セリカは吐き捨てるように言う。昨日の便利屋の一件からストレスが溜まっており、逃げられてしまったので怒りをぶつける相手がいないのだ。
「ところで、カイザーローンはなぜ現金でしか返済を受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して……」
「ノノミ。もしかすると誰にも知られたくないところに金を流しているかもしれないな。ネットワークで管理されていればハッカーに頼めるんだが……」
アビドスが返済してきた金の流れは不明だ。そこだけオフラインで管理されているらしく、ハッカーに依頼したとしても突き止められない。
「シロコ、あの車を襲おうとか考えるなよ?」
「うん、分かってる」
「計画もするなよ?」
「うん……」
と言いつつも、シロコの目は走り去っていった現金輸送車の方向へと向けられていた。
「ま、とりあえず先に解決すべきは目の前の問題の方でしょ。とにかく、教室に戻ろうー」
「では、俺はこの辺で。シロコ、お父さんはこれから仕事に行ってくる」
「ん、気をつけてね」
数時間後、とあるターゲットを探しながら移動していたウルフの元にアビドスから連絡があった。
「何?これからブラックマーケットに行くだと?」
『ん、そう。ヘルメット団や便利屋を雇った黒幕の手がかりがあるかもしれない』
相手はシロコだ。愛娘によると、セリカ奪還作戦で交戦したヘルメット団の装輪戦車はすでに市場へ出回らなくなったモデルであり、そういったものが流通するブラックマーケットなら黒幕に繋がる可能性があるというのだ。
ブラックマーケットはキヴォトスを統治する連邦生徒会の力の及ばない治外法権がまかり通る地域である。独自の治安部隊や金融機関が存在し、完全に独立している。
その規模は一般的な学園自治区数個分に匹敵し、法外な値段だったり違法な物品の取引も行われる。学園を追われた不良生徒も数多くおり、犯罪組織も跋扈するなど危険な場所である。
そして、便利屋68がブラックマーケットで何度も騒ぎを起こしているという情報もあるため、その方面でも何らかの手がかりを得られる可能性があった。
「ブラックマーケットはあまり近づきたくない場所だ……俺のアーマーに賞金をかけた連中はあそこを根城にしているらしいからな」
アーマーを狙われているため、ウルフがブラックマーケットに近付くことはあまりない。たまに学園の依頼を受けて犯罪組織や不良サークルの拠点を強襲したり、逃げ込んだ賞金首を捕獲してすぐに離脱するくらいである。
「シロコ、必ず戻ってこい。それこそが、我らサンドウルフ氏族の誓いだ。我らの道」
『ん、我らの道』
ウルフはスマホをアーマーの内側に収納すると、付近にある廃墟地帯へと足を踏み入れた。
「あれがターゲットか……」
廃墟の屋上までジェットパックで上がってきたウルフは地上にいるターゲットの姿を視認する。そこにいたのは、狐耳で狐の面を着けた一人の生徒だった。
「七囚人、狐坂ワカモ……」
七囚人とは、先生が着任したその日に何者かの手引きによって矯正局から脱獄した七人の囚人達の総称である。かなりの凶悪犯だとされており、常に賞金が掛けられていた。
その一人、狐坂ワカモは〈災厄の狐〉と呼ばれており、無差別的で大規模な破壊行為の常習犯だ。不良を扇動したり兵器を扱う能力も高く、危険人物とされている。
「さて、始めるとするか」
ウルフはジェットパックで飛び上がり、地上にいるワカモを強襲する。空中からブラスターを数発撃ち込んでやった。
「っ!?」
しかし、ワカモの狐耳がピクリと動いたかと思えば、彼女は即座に反応して降り注ぐブラスターボルトを素早く避け、応射してきた。
彼女の得物はボルトアクションライフルだ。左右に動くことで最初の数発は凌いだものの、一発だけヘルメットに掠った。
「イカれた威力だ……!」
普通、この程度なら大したダメージになるはずがないのだが、彼の頭部に凄まじい衝撃が走り、揺さぶられた。
このキヴォトスにおける強者は、高い耐久性と身体能力を備えている。また、専用の武器を使うことで本来のスペック以上の力を発揮させることができた。各学園の最高戦力クラスに至っては常軌を逸した能力を持っていたりする。
ワカモは強者の部類に入る生徒だ。特に彼女の放つ銃弾は本来のスペックを超える程に強力無比であり、掠っただけで大ダメージになる威力である。
「どなたですか?」
「ただの賞金稼ぎだ。狐坂ワカモ、お前を捕まえに来た」
「そうですか……なら、そこでお亡くなりになりなさい!!」
次の瞬間、赤く輝く高速の六連射がウルフを襲う。ジェットパックで飛ばなければ、まともに全て受けてしまっていただろう。
また、強者は身体能力が高く近接戦闘で不利になる可能性があるため、ジェットパックで距離を取って翻弄する必要があった。それは対ジェダイの戦い方に良く似ていた。
「お返しだ」
空中を動き回って銃弾を回避しながら、ブラスターでの応射が続く。放たれたブラスターボルトの数発がワカモに直撃しているのだが、彼女が倒れることはない。耐久力もその辺の生徒の比ではないのだから。
(やはり、強者に対して正攻法は効き目が薄いか……)
「あらあら、私を捕まえるなんて言っておきながら、この程度ですか?」
ウルフの攻撃は不良や普通の生徒に対して一発だけで気絶させられるものなのだが、強者に対してはその限りではない。
強者であるワカモの耐久力はキヴォトスの中で上澄みに入るだろう。ホシノやヒナといった最高戦力クラスの生徒であれば要塞のような耐久力を持っていたりする。しかし、対抗手段はあった。
「搦め手を使わせてもらうぞ」
「っ!?」
突き出した右腕の火炎放射機から発射された炎がワカモに襲いかかる。慌てて射程範囲から逃れたものの、炎の壁で視界を塞がれたことで一瞬だがウルフへの注意が逸れ、隙を晒す結果となった。
パシュッ!パシュッ!
ワカモが再びウルフの姿を捉えた瞬間、彼が反対側のガントレットから発射したのは小さな矢のような二発の何かだ。どちらもワカモに直撃し、その身体に突き刺さっていた。
「あら、何ですかこれは?このようなものが効くとでも?」
「それはどうだか?」
それは数秒後のことだった。
「あがっ!?ぐっ、ぐうぅぅっ!?」
突き刺さった二発のダートから高圧電流が流れ、ワカモに苦痛が襲いかかる。筋肉が麻痺したことで彼女は動けなくなり、膝を着いて武器を取り落とした。
「すぐにでも引き抜くべきだったな」
ウルフが放ったのはエンジニア部のヒビキが開発したスタン・ダートだ。対ジェダイ武器のパラライジングダートがモデルとなっており、撃ち込んだ相手に高圧電流を流して行動を制限することができた。
これは一般的なキヴォトス人にも言えることだが、彼女達はその耐久力から防御や回避を軽視している部分があり、強者にもそれは適用される。そこで、ウルフはその油断を突くことにした。
キヴォトスで矢のような武器が使われるようなことはほぼ無いため、彼女達はそれを武器として認識できず、回避を疎かにしてしまう。高圧電流なら防御力も無視できるため、気付いて引き抜かれない限りは問題ない。
「くっ……」
ワカモは短刀を握り締めて立ち上がろうとしているが、力を上手く入れられずに膝をついたままだった。仮面で素顔は見えないが、殺意を向けていることだけは分かった。
「大人しくお縄についてもらうぞ」
ウルフはブラスターを身動きの取れないワカモに向け、何発も撃ち込む。ブラスターボルトが彼女の肉体を打ち据え、やがて彼女は気絶した。