ブルーアーカイブ:マンダロリアン&シロコ 作:ウエストモール
「ふう、やられるかと思ったな」
ワカモの両腕と両足を念のため縛り上げ、彼女を抱えてヴァルキューレ警察学校に引き渡すために移動しようとする。しかし、ウルフはとある路地にブラスターを向けた。
「誰だ?」
「クックックッ、お見事です。マンダロリアンの賞金稼ぎ、ウルフ・ヴィズラさん。まさか、神秘を持たぬ身で七囚人の一人を圧倒するとは……」
そこにいたのは黒いスーツを着用した謎の異形だった。肉体は真っ黒で無機質であり、のっぺらぼうの顔面の右目に当たる部分には白い発光体が浮かび、そこから稲妻のような線がいくつも走っていた。
「私はゲマトリアの黒服と申します」
「黒服……そのままだな。それで、何のようだ?」
「ククッ、貴方にこの世界……キヴォトスの真実を伝えに来ました」
いかにも胡散臭い奴だった。顔に走っている線の一部が口角の上がった口のような模様となっており、笑っているように見えるが実際の表情が分かることはない。
「どうでしょう。後日、ご自宅を訪問させていただいてもよろしいでしょうか?手土産もお持ちいたしますので」
「ほう、意外と律儀だな。気に入った。いいだろう、この世界について気になることがあるからな。午後なら空いているぞ」
黒服と名乗る男を不審に思いつつも、自身の知らない情報を持っていると察したウルフは、黒服を招待することにした。
「こちらも相応のもてなしをしよう。一応、そういった作法も心得ているからな」
「それは楽しみです。では、午後の二時頃はいかがでしょうか?」
「構わない。では、俺は急いでいるのでな」
「これは失礼しました」
ウルフはワカモを担いだまま移動する。数歩、歩いてから振り返るのだが、黒服の姿は空気のように何処かへと消えていた。
午後二時頃、ウルフの自宅に黒服が現れた。
「クックックッ、約束通り来ましたよ。こちらはお土産のどら焼きです」
「よく来た。とりあえず上がっていけ」
ウルフは黒服をとある部屋に通した。そこは畳の敷かれた部屋であり、掛け軸や陶器が飾られている。茶室のようなものだ。
「これはこれは……風情がありますね」
「百鬼夜行という学園があるんだが、そこの文化を参考にさせてもらった。マンダロアにも似たようなものはある」
ウルフは黒服の目の前で茶を淹れて黒服に差し出す。決してティーバッグなどではなく、マンダロリアン文化にある茶の作法に従って淹れたものだ。
黒服は器を受け取ると茶を飲むのだが、口の類がないというのに飲むことができており、謎の空間に吸い込まれているような状態だ。
「どうやって飲んでいる?」
「ククッ、企業秘密ですよ。ところで、そろそろ本題に入らせていただいても?」
「あぁ、そうだったな」
黒服がここに来たのは、決して茶会をするためではない。ウルフに色々と話すためである。
「ウルフさんは疑問に思ったことがありますか?どうして生徒達には親がいないのか、どうして銃弾や爆発に耐えられるのか、そもそも何故学園都市なのかと……」
「そうだな。キヴォトスには違和感を感じている部分もある。銃弾や爆発といった攻撃限定で耐えられることについてもな」
「実を言いますと、学園都市は本来のキヴォトスの姿ではなく、学園都市という名のフィルターが被せられているだけなのです」
黒服は語る。キヴォトスが学園都市となっているのは、あくまでも学園都市という設定が適用されているだけなのだと。
「太古の昔、キヴォトスには神性を持った存在が溢れており、互いに争っていました。そこで勝利した存在が世界の設定を弄る権限を持ち、望んだ世界に改変してきました。その覇者が変わる度に改変が繰り返され、現在の学園都市となったのです」
「では、生徒達の正体は?」
「神性が学園都市というテクスチャの影響を受け、生徒という皮を被って顕現した存在と見ていいでしょう。神秘を持つが故に銃弾にすら耐えてしまうアレは、子供であって子供ではないのです」
「何だと?」
ウルフがこれまで見てきた生徒達は、あくまで生徒という皮を被っただけの存在だったらしい。それは当然、シロコも例外ではない。
「シロコも何かしらの神性が変化したものなのか?」
「ええ、そうです。狼の神……いえ、シロコさんにも大元となった神性は存在します。我々の推測では、“死”を司る存在である可能性が高いかと」
死を司るなど随分と不吉である。しかし、ウルフ達マンダロリアンは戦闘民族であるため、“死”という概念は身近にあるものだったため、彼は動揺しなかった。
「ウルフさん。もしもシロコさんが何かの拍子に本来の側面を取り戻し、キヴォトスに滅びを齎すとしたら、貴方はどうしますか?」
「親として止めるに決まっているだろう。この命を賭けてでも、必ず止めてみせる」
「よろしいのですか?貴方の娘さんは生徒に見えているだけの神と言っても過言ではないのですよ?本来なら保護されるべき存在ではありません」
「その正体が何であれ、俺の娘であることに変わりはない。親は子を守り、やがて逆になるだけだ」
ウルフの信念が揺らぐことはない。シロコが本当に神様だったとしても、彼女のことは娘として扱い、子供の間は保護者として守っていくつもりだった。
「そうですか。貴方の心が裏返ることはなさそうですね。実を言いますと、我々ゲマトリアは神秘を手に入れるために実験体を探していまして、シロコさんは候補の一人になります」
「なるほど。俺の心を揺さぶり、シロコのことを引き渡すように誘導するつもりだったのか。残念だが、諦めることだな」
「ええ、私の負けです。しかし、親と子という関係性は厄介ですね。保護者によって子は守られ、その同意が無ければ子がした契約も無意味になるのですから」
キヴォトスの生徒達に親などはおらず、生徒のした契約は自己責任となる。しかし、シロコにはウルフという大人が保護者として存在しており、悪い大人のやり口が通用しないのだ。黒服の言い振りでは、シロコ本人に対しても何らかの契約を持ちかけるつもりだったのだろう。
「いいでしょう。シロコさんはあくまでも予備の実験体として考えていましたので」
「もしもシロコに契約を持ちかけたその時は、お前は冷たくなっているだろうな」
「おお、それは怖い。貴方との敵対は避けたいと考えていますので、警告は素直に受け取っておきます」
その後、黒服は特に何かするわけでもなく、潔く引き下がると去っていった。
「しかし、シロコは大丈夫だろうか……」
ウルフはブラックマーケットに向かっている愛娘のことを思う。怪我はしていないか、何かに巻き込まれてはいないか、銀行強盗をしていないかと。
本当にシロコ達の正体が神様だとしても、ウルフの接し方は変わらない。彼女達のことは子供として扱い、大人として保護者として守るのだ。
「我らの道……」
一方その頃、愛娘は……
「銀行を襲う」
「はいっ!?」
シロコは2番のプリントが施された例の青い覆面を被り、銀行強盗を宣言していた。それに驚いて声を出したのは、成り行きでアビドスや先生と行動を共にしていた他校の生徒だ。
名はヒフミといい、お嬢様学校であるトリニティ総合学園の二年生だ。とあるグッズを求めてブラックマーケットに来たところ、身代金目的で追われていた場面で助けられたのだ。妙にここに詳しかったため、礼を兼ねて協力していた。
結局、ウルフが懸念していたシロコの銀行強盗フラグは回収されてしまったのだ。
「だよねーこういう展開になるよねー」
「はいいいいっ!!??」
助けを求めてホシノの方を見てみれば、すでに1とプリントを施されたピンク色の覆面を被っており、悲鳴を上げてしまう。
「わあ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
「えええっ!!??ちょ、ちょっと待ってください!」
なお、緑の覆面を被ったノノミの言う通り、これから銀行を襲うのは、何も金を奪おうという目的ではなく、相手も犯罪の片棒を担いでいる闇銀行だった。
事の発端は、ブラックマーケットでとある闇銀行にやって来た現金輸送車を目撃したことだ。そこから降りてきたのが、今朝アビドスに来ていたのと同じ銀行員だった。さらに、車も同じである。彼はお金を闇銀行側に引き渡し、帳簿らしき何らかの書類も渡していた。
ヒフミによれば、カイザーローンはカイザーコーポレーションのグループ会社である高利金融業者なのだが、カイザーグループは合法と違法のスレスレで上手く振る舞っており、犯罪をしているという噂もある。トリニティでは生徒への悪影響を考慮し、生徒会〈ティーパーティ〉が目を光らせているとか。
ちなみに、闇銀行の方はブラックマーケットの中でも大きい銀行であり、キヴォトスにおける盗品の十五パーセントが集まり、犯罪で集められた財貨が違法な物品に変えられて新たな犯罪を引き起こすのだという。
おそらく、アビドスの返済した借金は闇銀行に流され、彼女らは意図せずして犯罪組織に資金を流してしまっているのだろう。その証拠を得るためには、引き渡されていた書類を入手する必要があった。
そこで、シロコが提案したのは銀行強盗を装って帳簿と思わしき書類を奪う作戦だった。それには先生も割とノリノリだったりする。
「ふぅ、それなら……とことんまでやるしかないか!」
『……はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし、どうにかなる、はず……』
セリカやアヤネも困惑しつつ、それしか方法が無いと悟ったのか覚悟を決めて覆面を被り始める。アヤネはオペレーターなので校舎にいるが、通信ホログラム越しに覆面の姿が映し出された。
「ごめん、ヒフミ。貴女の覆面は準備がない」
「うへー、ってことはバレたらトリニティのせいにするしかないね」
「ええっ!?そんな……」
なお、先ほど買っていた鯛焼きの紙袋に穴を開けることで即席の覆面とし、被ることで事なきを得た。一行は覆面水着団という謎の名前を名乗り、ヒフミをリーダーのファウストとして担ぎ上げ、銀行襲撃計画に着手した。
“みんな、銀行を襲うよ!”
ワカモは普通に捕まりましたが、すぐに脱獄するでしょう