全国のモテない男達をそう言わしめたゲームがあった。
数十万ものテキスト。
可愛らしい魅力的なイラスト。
実力派声優による名演。
もちろんゲーム自体のクオリティも高かった。
しかし、触れられもせず、有限なイラストパターンにセリフ。
それで、現実の恋愛から溢れた男達の心を癒せたという事実。
彼らはちゃんと恋をしたのだ。
この奇跡を我々は忘れてはいけない。
アプリ一つで簡単にヤレる女と知り合える現代だからこそ、
この素晴らしき清らかなる奇跡を、私は讃えたい。
「ラブプラスとコンビニが有れば俺たちは生きていける!」
かつて、日本中の恋愛に縁のない男子達に言わしめた
存在があった。
まだAIすら実用化されていない時代に
数十万に及ぶテキストとイラストのみで多くの男性を
魅了したその存在は、恋愛至上主義の世にあって、
『恋愛』にそっぽを向かれ、ささくれ立っていた男達の心を
柔らかに包み込み癒してくれた。
時代が変わり、AIが人々の生活の中に当たり前に
存在する様になると、ラブプラスに救われた人々が、
ラブプラスに使われた数十万のテキストやイラストと
AIを融合させ、最強の擬似人格を作り出した。
純粋で一途、
献身的なまでの愛を示すその存在は、
モテない男性だけに限らず、
恋愛に疲れた男性達をも魅了し、
敢えてオンラインにはせず、
起動以降はユーザー自身が好みの女性を育てるという
コンセプトがより男性達を夢中にしていく。
こうしてラブプラスをベースとした擬似人格は
一大ムーブメントを起こす。
この擬似人格の可能性に目をつけた人がいた。
医療従事者だ。
ただただ対象のみを見つめる一途さ、
間違った時はちゃんと嗜めてくれる真面目さ、
ひたすら対象の為に努力出来る献身さ。
そのどれもが、医療や介護の現場に必要なものだった。
それが、人手不足な上、一人の人間にかかりきりになれない、
そんな状況の改善に役立つのではと考えられたのだ。
その思惑は見事に当たる。
試験導入で取り入れられて以降、
患者や老人達のストレスによる暴言や暴力は
大幅に減り、現場の労働環境は改善される。
役に立つと判断されると、
固定式のモニターだったものが、
盲導犬の代用目的でタイヤがついて自走出来る様になったり、
患者が徘徊してもついていける様にドローンに搭載されるなど、
どんどん進化していった。
恋愛対象という枠に留まらず、
医療や介護の分野にも活用された事で
擬似人格自体も次々とバージョンアップしていく。
タイヤによる自律移動やドローンに擬似人格を
搭載したモデルも一般に流通する様になると、
街には、ドローンと恋人の様に話しながら歩く男性を
あちらこちらで見かける様になった。
その変化に社会も適用する。
軽量なら荷物の運搬も可能な大型ドローンへの
搭載モデルが発売されると、擬似人格に電子マネーを持たせて、
一定の金額以下なら擬似人格でも買い物ができる様に法も改正される。
元々独居老人や障がいのある人向けの処置だったが、
それ以外の人たちも大いに利用した。
それまで無関心…いや、むしろ苦々しい目で見ていた女性達も、
主婦を中心にその利便性に気が付き、
ついには擬似人格は人々から市民権を得るに至ったのである。
「なんだよ、じいちゃん。用事って?」
今年で中学2年になる横島忠夫は思春期真っ只中だ。
日々悶々としていたある日、近所に住む祖父から連絡があり、
用事があるから工房まで来る様に言われる。
祖父は自称発明家で毎日、彼が工房と称する家で
ガラクタを繋ぎ合わせたり、怪しげな薬品を混ぜたりしている
街でも有名な変わり者だった。
そんな変わり者な祖父と忠夫は馬が合うのか、
思春期になり親とろくに口も聞かなくなった今でも仲良く
やっている。
「おお!忠夫来たか!まあ、こっちに来てこれを見てみろ」
工房の奥の方から祖父の声が聞こえたので行ってみると、
30センチくらいの中型のドローンが置いてあった。
「なんだよ、これは?」
いつもおかしなガラクタばかり作っている祖父の事だから、
何かまたおかしなものを作ったのだろうと警戒しつつ、
祖父に尋ねる。
用心せずに近づいて酷い目にあった経験は
一度や二度では無いのだ。
恐る恐る近づきつつ、ドローンを観察してみると、
ドローンの正面あたりに大きなモニターが付いている。
その形状から、最近街でよく見る物を思い出し、
「えっ!?これもしかして擬似人格搭載型のドローン?」
と一応一定の距離を保ちながら尋ねる。
「正解じゃ!こいつはの、ワシが開発した擬似人格、その名も擬似人格バージョンNENEじゃ!」
じゃーんと口で言いながら満面のドヤ顔の祖父。
その様子に
「歳を考えなさい」
と冷ややかな目つきになる忠夫だったが、
「擬似人格の開発なんてじいちゃん出来たの!スゴイじゃん!」
と素直に驚く。
その質問に、
「い、いやーまあー今回はちょっとばかり協力して貰ったがの。ちぃーっとだけの。ちゃんとワシも色々いじったりなんやかやと頑張ったんじゃよ。」
となかなか歯切れの悪い祖父。
その様子から、
「なるほど、ベースは他の人にやってもらって、じいちゃんはちょっと手を加えた程度だな」
と察する。
それならよく聞く話だ。
擬似人格の流行に伴って、自分だけの彼女を作るべく、
好きなアニメのヒロインのセリフや考え方を予め組み込むという改造は
意外に簡単らしく、同級生の中にもやっている者はいると聞く。
「なら安心だな」
口には出さないが、失礼な事を考える忠夫。
これまでの経験があるので致し方ない。
「ん?なんじゃ?何か失礼な事を考えちゃおらんか?」
長年の付き合いだけあって、忠夫の安堵した顔に
孫の考えを感じとり、少しムッとした顔になる。
「まあまあ、それにしても擬似人格なんてスゴイじゃん!でも急になんで?」
祖父の発明が気になるのと、考えを読まれた焦りを隠す為に、
話を戻す。
「おお、そうじゃった。何故擬似人格だったのかは、ほれ、協力者がいたと言ったじゃろ。そいつとたまたまそういう話しになったからなんじゃ。それにほれ、お前、この前、『彼女欲しい!』って言っとだだじゃろ」
祖父の返事に、確かに以前、街を歩いているカップルを睨みながら
言ってだなぁと思い出す。
「通りがかりのアベックを睨みながらの。あの時の目つき…。このままじゃお前さん、街の恋人達を襲いかなんと危惧してあったんじゃ」
またしても、忠夫の心を読んだ祖父に茶化される。
「えっ!じゃあそれ僕にくれるの?」
茶化された気恥ずかしさもあったが、そんな事より、
目の前の擬似人格だ!最近評判のそれが貰えるのか?
がっつく様に祖父に聞いてみると、
「もちろんじゃ。既にユーザー登録は済ませておいたから、早く起動してみなさい」
となんとも嬉しい答えが返って来た。
「じいちゃん、ありがとう!」
礼を言うのもそこそこに早速起動ボタンを押してみる。
ブーンと言う起動の後、
モニターに女の子が映し出される。
一般的なアニメタッチのイラストとは違い、
実写風のそれは小学校の時好きだった女の子に少し似ていた。
「ぐぬぬ、祖父め!にくい演出しやがって!つか、なんで俺の小学校の淡い俺の恋を知ってんだよー」
と心の中で突っ込みながらも、
どストライクの容姿に早くもテンションが上がる忠夫。
モニターの女の子がゆっくり目を開ける。
そして、目の前にいる忠夫と目が合うと、
「あ!忠夫くんだ!やっと会えたね!ネネだよ。…へへ、今日から…彼女なんだよね…。えと、あ、ふつつか者ですが宜しくお願いします。」
と顔を赤らめながら、たどたどしくも一生懸命話すその姿に、
一瞬で忠夫のハートはネネに持っていかれる。
その日から忠夫の人生は一気に色づいた。
忠夫はどこにいくにもネネを連れていった。
出かける時はドローンを忠夫が持って移動した。
中型のドローンで飛び続けると20分程度で
バッテリーが空になってしまうからだ。
だから普段はドローンを手に持って、
モニターに搭載されているカメラをあちらこちら
興味のある方に向けてネネに色々な景色を見せる。
その度にネネは新鮮な感動を伝えてくれる。
些細な事でも喜んでくれる。
世の中がこんなに喜びで満ちていたなんて、
忠夫自身、知らなかった。
嬉しさのあまり、ネネに感謝を伝えようと、
「やっぱりネネは最高だね!リアルの女なんかクソだ!」
と言ってしまい、
「もう!女性をクソとか言っちゃダメだよ!」
と嗜められてしまい、
「ごめーん」
と謝ることになったが、それでも
「俺の彼女が世界一!」
と言う気持ちに嘘は無かった。
その日は、どこで聞いて来たのか、
忠夫が小学校の頃遠足で行った山へ行きたいとねだられ、
山に行く事にした。
「恐らくじいちゃんが俺のデータを入れたのだろう。
まあ久々だけど、所詮小学生で登る山だから」
と油断したのが運の尽き、
良いところを見せようと脇道を逸れた所で足を滑らせ、
そのまま崖に真っ逆さまに落ちてしまう。
落ちた時に必死にネネを守った忠夫は、
ネネの機体に損傷がないのを確認すると、
「俺、グッジョブ!」
と自画自賛する。
お陰で自分の足はちょっとおかしな方向を向いているが、
「まあ名誉の負傷さ」
と今は興奮しているせいかあまり痛みを感じていないので、
とりあえず、この件は深く考えない事にする。
「忠夫くん!無事?怪我とかしてない?」
腕の中でネネが俺の心配をしている。
「こんな時に真っ先に俺の心配をするなんて、なんて良い彼女だ。」
と思いつつも安心させようと、
「大丈夫!怪我なんて無いよ!お尻はしたたかに打ったけどね」
と笑顔で答える。
足は映らない様に動かしたからバレてないはずだ。
「本当?良かった。もう、びっくりしたよー。ここ、どこだろ?」
辺りを見渡すまでも無く崖の中腹に出来た、
出っ張りの様な場所に落ちた様だ。
下を覗き込むとかなり高い。
この場所に引っかからずに落ちていたら即死だったろう。
とりあえずラッキーだったと考えよう。
携帯電話を掛けようと見てみると落下の衝撃でぶっ壊れていた。
事態にネネも気付いたのか、
「私、飛んでいって誰かに助けを求めてくるよ」
と言ってくれるが、
「でも、ネネの滑空時間は最大で20分でしょ。バッテリー満タンの時で。今のバッテリー容量が74%だから、15分も飛べないよ。それで誰も見つからなかい可能性だってある。それにこの辺は木が多いから引っかかって墜落しちゃったら大変だろ?」
ネネに危険な事をして欲しくない為、必死で止める忠夫。
以前、公園でネネが飛んだ時、思いの外危なっかしい飛び方で、
ヒヤヒヤしたのも理由の一つだ。
ネネもその点は自信がない様で、少し考え、
「じゃあさ、紙とか布に『崖の中腹で遭難しています』ってメッセージ書いて、私、行けるところまで、登山道の本筋を戻ってみるよ!途中で人に会えればラッキーだし、ダメでも、誰かは通るだろうから絶対見つけてくれるよ!」
と新たな提案をしてくれる。
「いやいやそれってバッテリー切れたら誰かが拾ってくれるまで山道で転がってるって意味だよね?危ないよ。それにバッテリー切れちゃったネネの記憶とか無くなっちゃわない?悪い奴がそのまま持って帰っちゃうかもよ?そんなの俺、嫌だよ!」
最早ネネのいない生活など考えられない忠夫は、
ネネを失う可能性に怯え、必死に止める。
「大丈夫!ハードディスクは電力供給が途絶えてもそんなにすぐには消えないらしいし。あと…そう、ちゃんと定期的にバックアップ取ってるから記憶はもちろん、最悪この機体が無くなっても再生出来るから!」
と引き下がらないネネ。
何度か押し問答をした後、結局、
持って来てた着替えのTシャツを短冊の様に引き裂いて、
そこにマジックでメッセージを書いたものを機体に縛り付け、
ネネは飛び立って行った。
それから、異様に長く感じる時間を過ごした。
ネネは戻って来ない。
バッテリーはとっくに底をついただろう。
後は機体に巻きつけたメッセージを誰か登山客が見つけてくれれば、
そして、一刻も早くネネに充電をしてくれれば!
待っている時間、ずっとそんな事を考えていた。
「ネネはああ言ったけど、ハードディスクってそんなに持つのかな?バックアップなんて初めて聞いたけど、助けを呼びに行く為の嘘だったんじゃ…」
足の痛みがズキズキ痛む中、忠夫の頭の中は悪い想像で
いっぱいになっていた。
足の痛みがいよいよ耐え切れないくらいに痛み出し、
なんどか痛みで気を失っては痛みで意識を取り戻す
を繰り返していたその時、
「おーい!君ー!大丈夫かー!」
崖の上から何人かの男性が忠夫に声を掛ける声が聞こえて来た。
忠夫は朦朧とする意識の中、それでもはっきりと、
「俺のネネ…ドローンに充電を!」
と叫び、そのまま意識を失った。
忠夫が気がつくと、そこは病室の様だった。
すぐに辺りを見渡す忠夫。
ベット脇にネネが置かれているのを見ると、
すぐさま起動ボタンを押す。
「頼む!ハードディスク!無事でいてくれ!」
祈る様に叫びながら起動を待つ。
ブーンと言う起動音。
モニターが明るくなり、女の子が映し出される。
しかし、それはネネでは無く、アニメイラスト風の女性キャラであった。
呆然とモニターを見つめる忠夫に、
その女性キャラクターは、
「はじめまして、私は寧々。あなたの名前を聞かせて」
と話しかけて来た。
しかし、忠夫にはその言葉は届いておらず、
「間に合わなかった…」
と呟く。目からは大粒の涙が溢れる。
「ネネっ!」
そう叫ぶとガックリと項垂れる。
その様子にモニターの女の子が、驚いた様なイラストで、
「どうしたの?何かあったの?お名前教えて欲しいな」
話しかけてくるが、
「お前じゃない!ネネを!ネネを出してくれ!」
と叫びながら、ただただ涙を流しているのであった。
その時、病室に祖父が走り込んでくる。
忠夫とドローンのモニターを交互に見ると、
「しまった!間に合わなかったか!」
と叫んだ。そして、
「すまん!忠夫!これは違うんじゃ!」
とモニターを指差し、何やら弁明している。
呆然としながらも、祖父の剣幕に、
「…違う?…何が?」
と理解が追いつかない。
祖父もどう説明したら伝わるのか、
悩みすぎて言葉がうまく出て来ない様子だ。
それでも、なんとか、
「とりあえず、ネネちゃんは無事じゃ」
とだけなんとか絞り出す様に言葉にした。
その後、忠夫は車椅子に乗せられて、
同じ病院の別の場所に連れていかれる。
そこには集中治療室の様なものがあり、
部屋の真ん中で呼吸器や点滴やらたくさんの管に繋がれた
1人の少女が横たわっていた。
その子を指差し祖父は、
「あの子がネネちゃん、擬似人格バージョンNENEの正体じゃ」
と語る。
「え?え?どういう…え?」
と理解が追いつかない忠夫。
「ネネちゃんはな小学校3年生の頃に交通事故でな。一命はなんとか取り留めたものの、脳と体を繋ぐ神経が損傷して、脳以外は全く動かせない体になってしもうたんじゃ。それを不憫に思った、ネネちゃんの父親、椎名教授が何とか数年の月日を掛けて、脳と外界を繋ぐ方法をあみだした。それが擬似人格バージョンNENEじゃ。」
そういうと、ネネの起動ボタンを押す。
ブーンという起動音の後、モニターに女の子が映し出される。
ネネだ!
画面の中でしゅんとしていたネネは、俺を見つけると、
途端に青い顔になって、
「忠夫君!えっ?車椅子?あっ、足!えっ折れてるの?えっ、だっ、大丈夫?」
といきなり忠夫の心配をしてくる。
ネネだ!
間違いなくネネだ。その様子に忠夫は安心すら覚える。
「ははっ!大丈夫だよ。ちょっと折れてるだけだって、一ヶ月もすれば歩ける様になるってさ」
あまりに心配する彼女を安心させようと怪我の具合を
説明する。
「ちょ、ちょっとって!全然大丈夫じゃないよ!怪我してないって言ってたのに!」
と逆に叱られてしまう。
そのやり取りが嬉しい。
「大丈夫!ネネが頑張って助け呼んでくれたから、早めに処置が出来って。お陰で治ればちゃんと普通に歩けるってさ。ありがとうネネ!」
これは事実だ。
あのまま何時間も放置されてたら足が変な形に定着してしまい、
回復後の歩行に支障が出ていた可能性もあったらしい。
「なあ、ネネ」
忠夫は努めて感情的になら@ない様に気をつけながら
言葉を絞り出す。
「なんで自分の事、擬似人格のAIだって言ったんだ?」
これからもネネと一緒にいる為に今聞かなければならない事を
ネネに問う。
途端にネネはしゅんと俯く。
それでも、何かを決意したかの様に一度ギュッと唇を結んでから
ポツリポツリと話し始めた。
「本当はね。タイミングを見計らって、すぐに話そうと思ってたの。でも、その、ゴニョゴニョ」
ネネは気まずそうに何やら言い淀んでいる。
「大丈夫、聞かせて」
そんなネネに再度催促をすると、
「だっ…、ただ…ん、わ…し…付いて…し」
ボソボソと何か言っているが、声が小さくて聞き取れない。
「ごめん、もうちょい大きな声で」
と再度促すと、覚悟を決めた様で、
「だって、忠夫君、全然私の事、気付かないどころか、思い出してもくれないんだもん!」
と今度は大きすぎる声で叫ぶ。
その時、思い出す。
小学校の時の淡い恋の相手を。
小3の時、突然学校に来なくなった初恋の女の子。
その子の名前は確か、ネネだった。
「えっ?ネネはネネちゃんだったの?」
完全には理解できておらず、惚けた顔の忠夫。
「そうだよ。だからモニターの姿も私に似せて作ってもらったのに、全然気付かないんだもん。そりゃ、ちょっとは、ちょっとだけ綺麗に修正して貰ったけど…」
後半は声が小さくてあまり聞き取れなかったが、
そんな事より、誤解を解かなくてはいけない。
「いやいや!思い出してたよ!君の事!でも、じいちゃんがわざと俺の初恋の女の子の姿に似せて作ったのかなと思ったんだよ。まさか本物だったなんて!」
必死に弁明する忠夫。必死なあまり、
思わず、初恋の女の子に初恋でしたと告白してしまう。
その告白に、モニターのネネは顔を赤くする。
「は、初恋?私が?」
とおろおろと戸惑い始めるが、照れ隠しか、
疑いが拭えないのか、すぐに、
「本当かな〜。誤魔化してるだけじゃ無いかなー」
と疑いの目を向けている。
「ほんと!本当だって!」
と必死に弁明をする。
「でも、それで本当の事教えてくれなかったの?」
と再び疑問を尋ねる。
「もちろん、それだけじゃ無いよ…だって私こんなだから」
再び悲しそうな表情に戻り、泣きそうな顔で諦めた様に微笑む。
「えっ?こんなっ…て?」
いまいちネネの言っている意味が分からなかった忠夫。
本気で分からない様子の忠夫に困った様に、
「だって、忠夫くん。私の体見て、あれじゃ一緒にご飯も食べられない!陽だまりで暖ったかいねって同じ温度を感じることもできない!手だって…繋ぎたいよ!それに、…チュ…き、キスだって出来ないもん!」
モニターのネネが顔を真っ赤に、でも一生懸命伝えてくれる。
恥ずかしくても一生懸命、ネネの良いところだな、とか考えながら、
「俺は、そんなの必要ない。ネネが一緒ならそれで良い!」
と断言する。
その確固たる意思の表明に嬉しくなるも、
「リアルの女なんてって言ってたから、本当は私が人間だって知られたら嫌われるかもって…」
先日、忠夫が言った言葉を引き合いに出すねね。
しかし、、
「最高はネネなのであって、リアルかどうかなんて関係無い!」
とそれすらも突っぱね自分のネネへの想いを真っ直ぐに伝える。
最早、忠夫の想いは疑う余地もない。
そう実感しながらも、
「でも手も繋げないよ」
再度、確認せずにはいられないネネに、
「ネネがそばにいるだけで俺は幸せだよ」
何度でも言ってやるとブレない忠夫。
ネネは顔を真っ赤にしている。
かくいう忠夫も顔が熱くて仕方がなかった。
「私が繋ぎたいんだよ…」
モジモジしながら消えありそうな声で呟く。
その言葉に忠夫は鼻の穴を大きくして、
「大丈夫!俺が何とかする」
と宣言した。
「だから、ネネ、これからもずっと、一生!一緒に生きて下さい」
真剣に告げる忠夫に、
「はい…」
そう答えるネネの目には涙が光っていた。
後日、祖父の工房には
ゲームセンターのクレーンゲームのクレーンの様なアームが
追加装備されたドローンが宙に浮いていた。
ネネである。
そのアームの先は忠夫にしっかり握られている。
「どう?とりあえず手を繋いだ感、出てる?」
自分でもビジュアル面でかなり異様な光景なのを自覚してか、
先日の自信満々な様子は影を潜め、恐る恐るという感じで、
ネネに聞く。
あまりに不恰好なその様子に見かねたのか、祖父が、
「見てくれはそんなじゃが、油圧式で1kgぐらいの物なら持ち上げられる、優れものなのじゃぞ」
と横からフォローを入れている。
そんな二人にネネは、
「ふふふ。想像してたのとは大分違うけど、確かに手は繋いでるね」
と必死に笑いを堪えている。
その言葉に勇気をもらったのが、
再び、自信を取り戻し、
「やった!これで『手を繋ぐ』はクリアだね!これからも俺、頑張るから!」
とネネのモニターに顔を近づける忠夫。
「だからさ、ネネ!2人だけのルールを一つ作りたい!」
という忠夫に、
「ルール?」
突然の発言に戸惑うネネ。
「それは、これから先も、俺たちには普通に出来ない事が沢山起こると思う。でも、絶対に一人でどうせ出来ないって諦めない。ちゃんと2人でどうやったら実現出来るかとことん考えようよ!」
目を輝かせて提案する忠夫に、
「分かった。諦めないで私達だけの方法を見つけていこう!」
とつけてもらったばかりの腕で力瘤を作る様なポーズをしてネネが答える。
「では私も、私の知りうる限りの脳神経工学を君達に教えよう!」
と椎名教授が立ち上がる。
「なら、ワシもガラクタ作りの真髄を伝授してやろう!」
と祖父が便乗する。
3人と1台の希望に満ちた声が工房にこだまする。
後にロボットへの脳移植を成功させる横島忠夫博士の、
未来を決定づけた日の出来事だった。