『ズシン』
天からの青い雷光がその頭蓋骨を貫き、力を失った巨体は、大きな音を立てて地面へと倒れた。
グレーターリザードの身体がピクリとも動かず、完全に生気を失ったと分かった俺は、緊張の糸が切れたからか、大きなため息をつき、雷で俺のピンチを救ってくれた命の恩人へ礼を言う。
「ふぃ~。助かったぜルーエちゃん。」
安堵の表情を浮かべる俺とは違い、ルーエちゃんは怒りの形相を浮かべていた。
怒りの形相とはいっても、怒りの他に、安堵や心配などの色んな感情も一緒にブレンドされている事が分かる。
「なんであんなに無茶したんですか・・・・・・」
「う、うえ!! な、何でそんなに怒ってんだよ!?」
呆れられる自覚はあれど、怒られる自覚は無かった俺にとって、その反応は寝耳に水。正に予想外だった。
ルーエちゃんの怒りに任せて俺を責め立てる。
「何でって、あの状況で空中に回避する馬鹿がいますか!!」
「あの状況って・・・・・・ああ、〝暴風〟で空中回避したときか。」
「そうですよ。貴方は風魔法のおかげで機動力はグレーターリザードより上なんですから、あそこで接近戦する意味は無かったでしょう!」
「い、いや~なんかイケそうだったからさ・・・・・・やっちった。」
その反省というものを全くしていない俺の様子を、怒りの頂点に達しそうなルーエちゃんに見せるのは、火に油を注ぐようなものだったようだ。
「・・・・・・成程、貴方には一度、教育が必要なようですね。」
「へ?」
落ち着いたように見えるルーエちゃんだったが、彼女のはらわたではマグマの様な怒りが溜まっていることは明白であった。
そんな静かに怒る彼女を見て俺は思う。
『おいおい、死んだわ俺』
その後コッテリ絞られた。
~~~~~
それから数分後、商人のおっちゃんが戦闘の終わりを察知して馬車から降りてきた。
そして降りると同時に、目の前の光景を処理しきれていないような顔をした。
馬車から降りたらグレーターリザードの群れを殲滅されていて、その死体のすぐそばで、俺がルーエちゃんに怒られてるんだから、意味分からな過ぎて宇宙猫みたいな呆けた顔をするのも無理もない。
それから数秒の硬直が終わると、俺達の方へ近づき、このカオスな状況の説明を求めに話しかけに来た。
「お、おい、これはどういう状況なんだ?」
「どういう状況も何も、見たまんまですが?」
「いや、見たまんまじゃ分かんないでしょ!!」
怒られている立場にもかかわらず、彼女の余りに適当な説明に、思わずツッコミを入れてしまう。
「ふむ・・・・・・では、【私たちは無事に魔物を殲滅しました】コレでどうでしょう。」
「い、いやそれは分かったんだが、なぜヒヤマ殿が地面に正座しているんだ?」
「少しばかり、危険な事をしていたので、注意をしていただけですよ。」
「注意ってレベルじゃねえだろ・・・・・・」
「何か?」
「いえッ何も!!」
自分にしか聞こえないぐらいの小声で発したはずの独り言を、何故かしっかり聞き取られていた。地獄耳すぎんだろ。
これ以上、俺へのお説教の話は藪蛇だと思ったおっちゃんは話題をグレーターリザードへと逸らした。
「あ~~・・・・・・いや、凄いな嬢ちゃんたち。普通、グレーターリザードは一匹倒すだけでも白級の冒険者たちがパーティを組んでようやく渡り合えるぐらいだってのに。」
「白?」
銀とか銅とかのテンプレ階級では無い、聞き馴染みの無い冒険者階級を聞いた俺は、おっちゃんに思わず聞き返す。
「白級ってのは、階級で言う所の上から4番目、中堅とかベテラン、って呼ばれる冒険者たちの階級だな。」
「それって凄いの?」
「そりゃ凄いぜ。白級の人らがパーティーを組んで倒す魔物をたった二人で仕留めちまうってだけでも凄いのに、それを4匹まとめてだぜ。俺だったら5年はその話を擦るぜ。」
おっちゃんは、冒険者の白級の立ち位置を語った後、それは凄いことだと語る。
グレーターリザードは本来なら、ベテラン達が協力して狩るタイプの強力なな魔物だったようだ。
確かに、あの硬い鱗と馬車よりも速い足。
それに、直撃すれば前衛の剣士たちなら瀕死、後衛の魔術師なら即死になるであろう、強力な噛みつきだがある。安全に狩るなら、複合魔法が使えるか、属性相性のいい魔法が使える魔術師が必須となるだろう。
複合魔法の〝爆裂〟を使って倒した俺と、比較的通りの良い雷魔法で倒したルーエちゃんが見本だ。
ベテラン冒険者がパーティーを組んで戦うような魔物相手に、数的不利にもかかわらず勝利を収めた。
隣に残り三匹を倒した人がいるとはいえ、確かに一匹は一人で仕留めた。
その二つの事実に満足感と達成感を感じた。
「俺、結構強くなったんじゃない?」
俺の問いを聞いたルーエちゃんは、先ほどまで怒りから見せていた硬い笑顔を止め、フッと顔の力を抜いて、俺の力を認める優しい笑みに変えた。
「まあ・・・・・・そうですね。」
~~~~
その後、グレーターリザード達の亡骸から魔石と少しばかりの鱗を頂戴した俺達は、再び歩みを進めていた。実際に歩むのは俺じゃないけど。
魔物や盗賊の襲撃も無く、馬車の中で暇をしていた俺は、事前に買っていたこの付近の地図を広げる。
中世らしい羊皮紙に書かれているのは、大まかな地形や付近の町や村の位置、採取できる有用な植物の植生などの情報だ。
注目すべきは、俺達が進んでいる街道付近の地理情報。
街道付近は平らで崖もなく、穏やかな地形がこの先しばらく続いている事が分かる。
それから植生も穏やかで、薬草や果実に食用のキノコと幅広い。
そんな地理情報を処理していると、一つ、目を引く情報が地図に載っていた。
「この近くに村があるみたいだな。」
「ふむ・・・・・・・・・・・・」
「!?」
地図を眺めながら独り言を発すると、不意ににゅっと、ルーエちゃんが俺の背後から顔を出した。
いきなり後ろから声が掛かり、肩が跳ねる。
「では、その村で一晩するのはどうでしょう。」
驚いた俺に一瞥もすることなく、ルーエちゃんは幌から顔を出し、おっちゃんに村で一晩を明かす事を提案する。
その提案をおっちゃんは、上機嫌な様子で肯定する。
「ああ、この街道沿いの村だな。前に何度か来たことがあるからな、一応宿のあてもあるし、良いんじゃないか。」
「成程、それでいきましょう。」
「了解!」
まあ、そういうことで、村へ向けて梶を取ることになった。梶ないけど。
もう既に日は暮れかけているため、日が落ちるまでに村へたどり着くために馬を急がせるのであった。
~~~~
村に着くころには既に日は落ちて、辺りは真っ暗になっていた。
ド田舎の夜には光源は存在しないとは言うが、中世チックなこの世界だと、そのド田舎すら凌駕する暗さだ。光源のこの字も無い。
村への門をくぐりながら、ルーエちゃんに、こそっとそのことを伝える。
「すっげ~暗いんだけど。コレ人住んでる?」
「住んでますよ・・・・・・。村なんて大体こんなものですし。門番の二人がいたでしょう。」
「まっ、結構遅い時間だし、村人たちは大体寝てるんだろうな。明かりは貴重だし無駄遣いできん。」
俺の問いに旅慣れしてる二人は、村ってこんなもんだと答える。
確かに、明かりの燃料の薪や魔石だってタダじゃないし、暗くなったらさっさと明かりを消すのは、理屈としてはとても理にかなっている。
だが、だとするならば重要な事がある。
「村人寝てるんだろ? 泊めてもらえるかコレ?」
村人たちが寝てたら、俺らはどうすればいいんだ!
寝ている村人を起こすのは忍びないし・・・・・・
「別に村人全員が寝たわけじゃないでしょうし、今起きててなお親切な人に会えることを祈るしかありませんね。」
「まあ、村の敷地内なら見張りも要らないし、最悪は野宿でも良いか?」
~十数分後~
ダメだった。
みんな、すやっすやに眠ってた。
おっちゃんの言う『宿のあて』だった家も、もう既に明かりを消して就寝していた。
最後の足掻きで、一応の門番二人にも聞いてみたが、最大でも2人までで、3人全員が泊めてもらえることは出来なかった。
つまり、1人は外で野宿という事になる。
ここで、一悶着あるかと思いきや、おっちゃんが馬車に残って野宿すると、自ら志願した。
どうやら、グレーターリザードの相手をして疲れているであろう俺達を気遣ったのだろう。
一先ず今夜は、そのお言葉に甘えさせてもらった。
荷物を置き、ベッドへ寝転がる。
フカフカとは言い難いが、確かにある柔らかさに身を任せる。
サイコーだ。
「ふぃー結構疲れた。」
旅に出た初日程では無いが、かなり疲れた一日だ。
ドサッと荷物を地面に下ろし、ベッドに飛び込む。
もう身体を動かしたくない。
疲労困憊、もう限界だ。
だが、そんな身体を動かしたくない程の疲労が溜まった身体でも、見落とせないことがあった一日でもある。
『にしても、グレーターリザード・・・・・・何でアイツ等があんな所にいたんだ?』
グレーターリザード・・・・・・アイツ等は、ここから東にあるライセン大峡谷を生息地とする魔物だ。
此処は大峡谷から遠くはない・・・・・・むしろそこそこ近いが、あんな大型の魔物たちが大峡谷からわざわざ移動してくると考えるとまだまだ遠い。
稀に大峡谷から抜け出してくる『はぐれ』のグレーターリザードは極稀に来るだろうが、4匹の群れがライセン大峡谷からここまで、移動してきたってのは考えにくい。
実に奇妙だ。
だが、この奇妙な偶然を、必然にできる存在が居る事に気付いた。
『魔人族・・・・・・・・・・・・確か誰だったか【魔人族は魔物を使役できる】なんて言ってたヤツが居たな。』
【魔人族】、その単語が脳内に浮上すると、今まで整合性が取れず、バラバラだった点と点が結ばれ、線になった。
『もし、あのグレーターリザード達が魔人族に使役されていたんだったら、無理な大移動も可能だな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、考え過ぎか。
追放されてもう魔人族と戦わない俺に、わざわざちょっかいかける必要性ないもんな。』
もしかして、と一瞬は思ったが、結局は思い違いだという所に落ち着いた。
俺を確実に始末するなら、もっと強い魔物がいるハズだろうし、魔人族が変な舐めプでもしてない限り、この説は納得できない。
『あーあ、正解だと思ったんだけどなー。』
先ほどまでの、張り詰めた思考を振り払う様に、大きく寝返りを打ち、ベッドの上で大の字になった。
気のせいだと良いね~