「さて今回の作戦を確認する。標的はヒーロー殺しステイン。
目的は秘密裏な捕縛。
現在大まかな位置の特定を急いでいるため、確定次第そこに向かう」
サー・ナイトアイによる最終確認。
ヒーロー犇めく保須にて行われる秘密作戦。
表沙汰にはできないこの仕事に僕だって緊張を隠せない。
バブルガールとセンチピーダーは待機とサポート。強襲はルミリオン、僕、サー・ナイトアイ、グラントリノで行う。
個人には過剰戦力だが、それをせねばならない相手なんだ。
「急ぐぞ、嫌な予感がする」
確かにこの首の裏がチリチリする感覚には覚えがあった、まるで特異点Fで戦った時の様な。
ステイン捕縛のために集まったヒーロー達の意思だけではない、凶悪な意思を感じる。
「サー、グラントリノには待機してもらった方が良いかと思います」
その予感に従ってサーに進言する。
「うむ、確かにグラントリノにはトドメをお願いしているがステイン相手ならば直接の打撃は避けるべきだな。嫌な予感は私もしている。分かったそうしよう」
首に手を当てて思考したサー・ナイトアイだが、僕の提案に頷いてくれた。
グラントリノも同じなのか反論することなく、乗ってきたサー・ナイトアイ事務所用カスタムワゴン車にて待機してくれるようだ。
『見つけましたよ』
あらかじめ公安から渡された通信機から連絡が入る、ステインは裏路地にてパトロール時のヒーローを強襲する気のようだ。
市民安全のためのパトロール。
これは実績あるヒーローが役所から任命される仕事で定収入が確定するおいしい仕事だ。
だが反面、調べればヒーローのスケジュールが簡単に把握されてしまう。
ステインが狙ったのも大半がこのパターンで、ヤツとしては拝金主義のような仕事なのだろう。
そのヒーローが見て回るから犯罪を侵さない、その意識を持たせる大事な役割にも関わらずにだ。
『それともう一つ、雄英高校を襲撃したヴィランに酷似した連中も暴れまわってます。突然現れたことから例の黒モヤで転移するヴィランの仕業かと』
ヴィラン連合。あの手男も絡んでいるのか。
「すいません、手だらけの男がいたら決して手に触れてはならないと伝えてください。あと脳みそ剥き出しはまず身体能力が桁違いです」
『了解、直接は動けないけど伝える。エンデヴァーさんがいるからそちらになるべく情報を流すよ』
公安からの協力者はかなり有能なようだ。
音声こそ分かりやすいボイスチェンジャー声だがアテにはできそうだ。
「千載一遇の機だな。私達はヒーロー殺しに集中する。グラントリノにはそちらをお願いします。バブルガールとセンチピーダーはサポートに回れ」
「おう!」
「「了解!」」
「いくぞ、これ以上ユーモアある社会を台無しにされないためにな」
宙に舞う一枚の羽に誘導され、僕とサー・ナイトアイとルミリオンはヒーロー殺しへと向かった。
―――
「ハア、このルートだな」
ヒーロー殺しステインは獲物を待ち構える。
奇襲による一手から裁定。
彼の基準からしたらここを通るヒーローは失格だが、自らの攻撃を凌げるなら生かしてやっても良い、
オールマイトに頼り切り、作業のようなルーチンワークに甘んじて収入を得る輩は粛清対象なのだ。
正しき社会、正しき英雄。
その定義に気づき、その在り方の満ちた社会にならない限り、彼が血に染まる日々は終わらない。
「っ!?」
ステインは嫌な予感を感じ、すぐにこの場から離れようとするが、突然後ろから殺気を感じたステインはとっさに振り返ってナイフで防ぐ。
「女だと!?」
襲ってきた相手が、髑髏の仮面に褐色の肌、体を覆う黒衣が特徴的な少女だったことにステインは目を見開く。
その少女はステインに手に持った短刀を振るう。
「くっ!やるな!」
ステインは個性を使うために少女に切りかかる。少女は対応しきれないのか腕を浅く切られてしまう。
「!?」
「何処の誰かは知らんが女だろうが俺の邪魔をする者は粛清対象だ」
ステインはそう言ってナイフに付着した少女の血を舐める。舐めてしまった。
「が!?」
血を舐めたステインは突然痙攣を起こしてその場で崩れ落ちてしまう。
(なに……が!?)
突然の体の異常にステインが戸惑う中、少女は立ち上がる。
「動きを止めました。お願いします」
少女がそう言うと、地面からルミリオンが飛び出し、ステインの腹部に拳を叩きこむ。
「必殺、ファントム・メナス!!」
ルミリオンによる透過を駆使した強襲、屋内、路地、遮蔽物の有る場は彼の狩場。
透過という複数の手順のいる難解極まる個性を彼は使いこなし必殺の一手へと為す。
その攻撃を喰らって吹っ飛ばされたステインは更に追撃を喰らう。
ズドンッとサー・ナイトアイの戦闘用サポートアイテム超質量押印がステインの身体にのめり込む。
正確に打ち出す投擲技術にパワー、非戦闘向き個性にも関わらず、否だからこそサー・ナイトアイの戦闘技術はヒーロー屈指、彼はイレイザーヘッド、ミッドナイトに並ぶ近接戦闘最強格の実力者なのだ。
「語りあう言葉などない。それを拒んだのは他ならぬ貴様だ」
ヒーロー殺しステイン、彼が最後に見た光景は、こちらを見下ろす三人の姿だった。
―――
「お疲れ様です。サー・ナイトアイ、ルミリオン」
ステインを捕縛した二人に僕は労う。
「いや、俺達は大丈夫だよ。それよりもセクエンス・カルデア。君の方こそ大丈夫かい?」
「そうだな。予知ではこれが確実だとしても。仲間が傷つくのは気持ちの良いものでは無いからな」
「大丈夫ですよ。これくらいかすり傷です」
僕はそう言って手早く手当てした腕を見せる。
「しかし、ステインの個性を逆手に取って動きを封じるとは。君の個性は何でもありだね」
「ああ、まさか全身が猛毒になっている英霊が居るとは思わなかったぞ」
二人は感心した様に僕の姿を見る。
今回憑依させたのはイスラムニザール派の暗殺教団の教主「山の翁」を務めた歴代の暗殺者、『ハサン・サッバーハ』の1人であり、生前には【静謐のハサン】の異名を有した毒殺の名手
その肉体はありとあらゆる毒に耐え、同時に毒の塊でもある。自らの爪はおろか肌や体液さえをも猛毒として、王や貴族、将軍の命を閨で音もなく奪い去る。
弱体化されてその毒性が弱められていても、彼女の特性はステインの様な個性に対しては天敵とも言える存在だ。
「これで目的は達成した。他のヒーローが来る前にステインを公安に引き渡すとしよう」
「「はい!」」
こうしてここに長く続いたヒーロー殺しステイン 赤黒血染による凶行は途絶えることとなる。
秘密裏に公安に引き渡された彼はそのまま裁判もされることなくタルタロスへの収監が確定した。
だがこの後すぐ、サー・ナイトアイによるステインの予知にて最悪の未来を公安、ヒーロー達は知ることになった。
即ち、鉄壁の監獄タルタロス崩壊、受刑者の脱獄という未来を。
一段落ついたと思った彼らはその対策に忙殺されることとなる。