職場体験三日目、現在サー・ナイトアイ事務所は修羅場と化していた。
保須市ヴィラン暴走事件の後始末もそうだが、問題なのはステインで見た予知の内容。鉄壁の監獄タルタロス崩壊、受刑者の脱獄という未来は何としても回避しなければならない情報だからだ。
事務所内で皆が忙殺される中、僕も書類作成などを手伝っていた。
(これ職場体験なんだよね?)
そんな疑問が脳裏をよぎるが僕は無心で作業に没頭した。
―――
時は経って雄英高校。
職場体験、ヒーローという夢を抱く彼らが踏み出す第一歩。憧れを地に足つけた職業であると学ぶ機会。一週間のその期間にて彼らは多くのことを学んだのであった。
耳郎は敵退治の現場を体験し、蛙吹は密航者の捕縛、麗日は目的どおり格闘技を体感することができた。だが反面残念な目に合う者も少なからずいる、CMデビューしてしまった八百万と女性の私生活という深淵を覗き込んでしまった峰田などだ。
雑談する彼らだが、それでもあえて目を逸らしていた彼らに触れることにした。
自身の机にて突っ伏しピクリとも動かない緑谷出久。その顔はぐっすりと眠っており、その寝顔に誰も起こそうとせずそっとしていた。
「なあ、爆豪。緑谷、ぐっすり眠っているけど何かあったのか?」
切島が小説を読んでいる爆豪に話しかける。
「いや、聞いてねえな。あいつがこの時間に寝てるのは珍しいな」
爆豪は時計を見てそろそろ先生が来る頃だと気づく。
「……そろそろ、起こすか。個性を暴発させる前に」
「暴発?緑谷のか?何でまた」
「こいつは個性が発現してから何度か居眠りしたことがあってな。その時には必ず個性を発動させてんだ」
「ああ~、発動系の個性には良くあるからな、俺もやるし。緑谷の個性だと英雄の誰かになるのか?」
切島の問に爆豪は頷く。
「ああ、男系の英雄なら問題は無いが、女系に問題があってな。あいつ、女の英雄になると大体露出が多くなるんだよ」
「そういえばそうだな。でもそれがどうしたんだ?」
「あいつ、中学の時に居眠り中にとある女の英雄になったんだが、その姿を見た男子全員が鼻血を吹いて教室を血の海にしちまったんだ」
「「「……はい?」」」
爆豪が暴露した意味不明なエピソードに全員首を傾げる。
「え、教室が血の海って、緑谷何に変身したの?」
「当時のあいつが言うにはカーマっていう愛の女神の水着霊基って言っていたな」
「そのカーマさん?の水着姿ってどんななの?」
ここで麗日が聞くと、爆豪は当時の事を思い出したのか頭を押さえながら答えた。
「ほとんど全裸だった」
「「「……え?」」」
「一応一番大事な所は隠れてはいたが、本当にぎりぎり隠れている程度だった」
「「「ちょっと待って?」」」
「抑える物が無いからあいつが身じろきする度に「「「それ以上は駄目!!」」」ああ、悪い」
爆豪が話したカーマ(水着)の姿の説明に女子全員が止める。爆豪もこれ以上は不味いと思ったのか直ぐに止める。
「まあ、そんな訳であれ以降はあいつが眠そうな時、先生に報告して保健室で寝るように厳命された」
「「「なるほどぉ」」」
少し疲れた様子の爆豪にクラス全員は彼が苦労した事を察した。
因みに余談だが、カーマ(水着)姿の緑谷を見て一部の男子の性癖が破壊されるというとんでもないことが発生したりしたのだが、二人がそれを知る事はこの先無い。
「とりあえず、さっさと起こすぞ」
そう言って爆豪は緑谷を起こそうとした時、誰かがその手を止めた。
「……何してる?玉、アホ面」
止めているのは同じクラスメイトの峰田と上鳴だった。
「いやいや、爆豪の方こそ何してんだよ」
「緑谷、気持ちよさそうに寝てるしそっとしとこうぜ?」
二人の異様な雰囲気に爆豪は直ぐに察した。
「お前ら、あわよくばデクの女姿の裸を見たいだけだろ?」
「そ、そんなこと無いぜ?」
「お、オイラもだぞ」
露骨に目を逸らす二人に爆豪は爆破してやろうかと思ったその時。
――ミシミシ……べきゃ!
「ふぎゃ!?」
突然の破砕音と可愛らしい声に全員目を向ける。
其処には粉々に粉砕された机と、某剛毅を思わせる巨大な鉤爪の腕と、その豊満と言うのもはばかられるくらいの巨大な胸が特徴的な女性が床に倒れていた。
「いっつつ~、な、なにが……って、あれ!?また僕やっちゃった!?」
その女性、アルターエゴ【パッションリップ】に寝ぼけて憑依させた緑谷が飛び起きて目の前の惨状を認識する。
その姿を見た。クラスメイトは絶句していた。
「……え、何あの規格外な胸は」
「八百万を遥かに超えているだと!?」
「いや、それよりもあの馬鹿でかい腕に注目しろよ」
「「あばばばばばばば!?」」
「ちょ!?響香ちゃんとお茶子ちゃんがバグった!?」
「しっかりして!二人共!」
緑谷が憑依させた英霊のせいで周囲が騒がしくなる。
そんな中、近くにいた峰田は今の緑谷の姿をガン見していた。
「お、おい、峰田?さっきから黙っているけどどうした?」
「おい、玉。何考えているかは分からねえが、とりあえずやめとけ」
二人は様子のおかしい峰田に声を掛けるがそれを無視して突然飛び上がる。
「楽園はここにあったーー!!」
峰田は目を血走らせ、涎を垂らしながら緑谷の胸にダイブしようとする。
「むがっ!?」
その時、見覚えがある帯が峰田を拘束して教卓に乗せられる。帯の先には相澤が個性を発動させながら睨んでいた。
「何の騒ぎだ?お前ら」
相澤の睨みに全員が委縮する中、それに動じない爆豪が経緯を説明。
説明を聞いた相澤はとりあえず緑谷の憑依を解かせ、壊れた机を片付けさせて予備を用意した後、今後は保健室で寝るよう厳命された。
そして昼休み、昼食を終えた緑谷達は職場体験での話をしていた。
「そういえば、なんでか警戒されてたヒーロー殺しは出なくなったな」
「インゲニウム襲撃以降はパッタリ出てないらしいぜ。まだ数日だけどよ。って悪い飯田」
軽口を言う上鳴だが、実の兄を襲われた飯田に気付き謝罪する。
「大丈夫だ、兄は無事復帰したからな。ヒーロー殺しに関してはヒーロー達の中でも気になる話題らしい」
公にされていないヒーロー殺し捕縛。
ゆえに突然姿を消した扱いのヒーロー殺しのことを多くの者達が気にしていたのだった。
「それで緑谷、お前何で寝てたんだ?」
「珍しいよな。真面目なお前が居眠りするなんて」
とりあえず緑谷に尋ねて見れば、彼は苦笑いしながら言う。
「睡眠時間ロクにとれないくらいフルで一週間働いてた」
サー・ナイトアイ事務所フル稼働な一週間。酷使された緑谷は極限疲労にあった。実際三年教室にてタフなミリオもまた突っ伏していた、ねじれちゃんに質問されまくりながら。
「それ職業体験じゃなくね?」
「緑谷が倒れるってどれくらいだよサー・ナイトアイ事務所」
急を要する事態とはいえあまりに過酷な一週間であった。
「そういえばかっちゃん。ミルコの方はどうだったの?」
緑谷は爆豪に職場体験での事を聞くと爆豪は満足そうな笑みを浮かべる。
「ああ、色々と学べることが多くて有意義だった」
どうやら彼の職場体験は満足いくものだったようだ。
「ああ、あと。ミルコの奴、お前にも興味を示していたぞ?体育祭のメガネとの戦いで良い足技だって褒めてた」
「そうなんだ。機会があれば一度手合わせしてみたいな」
女性トップヒーローに褒められて満更でもない緑谷。
その後、午後の授業も真面目に取り組んだ後、皆で談笑しながら帰宅した。
こうして職業体験終了初日は終わった。