かっちゃんの指示により役割分担をしたクラスメイト達はその役目を果たしていた。
かっちゃんを筆頭とした囮チームは非常階段を駆け上り途中でフロアに続く非常用のドアを開いた。隔壁によりこれ以上直進ができなくなった以上、ここで目立ちヴィランを引き付ける。
「行け」
「うん」
かつては色々と語り尽くせないアレコレがあったがこういった時に誰よりも頼りになる存在であるとお互いに理解していた。だから言葉は少なくとも充分だった。
女性陣と峰田君と上鳴君は動きにくい格好とスタミナの理由でパーティー会場近くに身を潜めている。耳郎さんが周囲を知覚していればすぐに動き出すことが可能だろう。
恐らくそう時間が掛からないうちにヴィランがこの場に来る。雄英高校一年トップクラスの戦闘力を誇る三人は近づいてくる決戦に戦意を滾らせるのであった。
「これで30階。メリッサさん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ」
同世代の女性を背負っていても僕はかなりの速度で走っている。
今僕はギリシャ神話の英雄叙事詩『イリアス』における随一かつ史上最速の勇者、【アキレウス】を憑依させている。
彼の身体能力ならメリッサさんを背負ったまま素早く制御ルームへ行けるはずだ。
上った階が60階に差し掛かったところでシャッターが閉められていた。
「シャッターが!」
道を封鎖された僕達は直ぐに別の道に行く。
「ここは……庭?」
「植物プラントよ。個性の影響を受けた……」
僕が疑問に思うとメリッサが説明しようとするが中央に設置されているエレベーターが降りてくる。
「マズい!隠れよう!」
一同木々などに身を隠す。
エレベーターから出てきたのは会場にいた敵たちと同じ服装をしている二人組であった。
「ガキがこの中にいるらしい。」
「全く、面倒なことしやがって。」
小さい男に対し大きい男はイライラしていた。
「どうしよう。イズク」
「大丈夫。僕に任せて」
不安で震えるメリッサさんに僕は別の英霊を憑依させる。
「憑依召喚。アサシン【ジャック・ザ・リッパ―】」
選んだのは19世紀のロンドンを震撼させた連続殺人鬼。
だがその本質は堕ろされた胎児達の魂の集合体として産まれた悪霊のような存在。
怨霊の集合体となってロンドンの闇をさまよう「彼女たち」は自分の母になってくれそうな女性を殺し続け、この連続死が世間では「切り裂きジャック」なる存在の仕業とされた。
更にこの英霊は正確には「切り裂きジャックの正体は堕胎された赤子の霊」なのではなく、「彼女たち」はあくまでも「正体不明の切り裂きジャックの可能性のひとつ」であるところだ。
英霊の座に刻まれたジャック・ザ・リッパーの正体は無数に存在し、たとえ”その正体”が判明したとしても、「謎の殺人鬼ジャック・ザ・リッパー」の伝説が信仰されている限りジャックの姿は固定されず、召喚される場所・時代・マスター・クラスに依って様々な形を取る。
そんな英霊を憑依させた僕は早速、彼女達の宝具の一つ【暗黒霧都】を発動させてヴィランの視界を奪う。
「何だ?急に霧が……」
「!?しまった!」
二人組は霧が出てきたことに異常を感じたがもう遅い。
「ぐあ!?」
「ぬぐ!?」
僕は霧の中に紛れて体術で二人の意識を狩り取る。二人が気絶したのを確認すると宝具を解除する。
「行きましょう」
「ええ」
僕達は最上階へ目指そうとするが、そこである問題が生じた。プラントより上に通じる階段が閉じられていた。しかし救いなことに照明システムに通じるハッチがあった。外から入ればなんとかなる。
僕はメディアに憑依させて飛翔で飛び、扉を開けた。
そして100階以降は扉が開きっぱなしであった。
「メリッサさん、この先メインサーバールームは?」
「もう少しよ。135階にあるわ」
「今は129か……ここって警備システムに何使ってるの?」
「え?えっと……耐電・耐打撃・耐貫通に優れた警備ロボットを採用しているわ。ある一定の威力が無いと壊せないようにしているわ」
僕の質問にメリッサが答える。なるほど、斬撃なら効くか。
「分かった。メリッサさんは安全な所に隠れていて」
「ええ、気を付けてね」
そして130階に到達した途端、警備ロボットがウヨウヨしていた。
「憑依召喚。アサシン【河上彦斎】」
選んだのは幕末に恐れられた四大人斬りの一人にして、肥後国熊本藩出身の維新志士。
我流での居合術を得意としており、多くの幕府要人の暗殺に関わったとされることから「人斬り彦斎」または「ヒラクチの彦斎」 の異名で恐れられた。
「はあああ!」
憑依を終えた僕は彼女の刀で襲い来る警備ロボットを次々と切る。
一回の抜刀で瞬時に10回以上斬る、突きの動きと共に刀から光線を放つ、地面を抉り斬るほどの抜き打ち、空中での回転斬り、斬撃波を飛ばしてそれに追いつく形で×字に斬り裂く、六人に分身しての同時攻撃する。
そしてある程度減らすと残りが丁度一塊に並んでいたため、一気に叩くために宝具を放つ。
「抜こう、神を斬る剣を。この一太刀にて、虚空を開く……【抜刀・神威】!!」
片膝が地面につくほどの低い姿勢から抜き放たれる神域の抜刀術。
通常の物理法則を超えたありえない速度で放たれる抜刀は、文字通り、その刃を一つ上の高次元からの斬撃へと昇華させる。
放たれた斬撃は対象の存在する連続した時間の座標の流れに干渉し空間ごと斬り裂く。一時的に連続性を失った時間は時空間の裂け目という状態となり、対象はその裂け目における存在を失うために、結果的に両断される事になる。
あくまで一時的な時空間干渉ゆえに即時に空間の修正が起こるため、見ただけでは間合い外で急に両断されたようにしか見えない。仕組みとしてはあらゆる防御を無効化して刃を通す事が可能なため、受ける事は不可能な魔剣。
そんな宝具を受けた警備ロボット達は一体も残らず一刀両断された。
そして180階まで到達した僕はメリッサの案内である扉の前に来た。
「ここは?」
「風力発電システムよ。普通に進めば警備ロボに捕まってしまうわ。ならこっちから進んで非常階段に辿り着けば一気に進めるわ」
「分かった」
僕は再びアキレウスになって彼女を背負いながら非常階段を駆け上がる。
そして僕達は200階に到達した
「メリッサさん、制御ルームは?」
「中央エレベーターの前よ」
「あれ?メリッサさん、この開いている場所は?」
「確か発明品や資料を保管する保管室よ。どうして?」
制御ルーム前の開け放たれた保管室。それが気になり僕達は中を覗き込むと血にまみれ床に倒れ伏すサムさんを発見する。
「サムさんっ!!」
腹部から血を流し倒れ伏す彼にメリッサさんが慌てて駆け寄る。
「うう、博士を助け」
僕も即座に彼を救うためにナイチンゲールに憑依させて宝具を発動する。
「サム、しっかりしてっ?!」
「お嬢様、ご無事でしたか。私はいいから博士を。デヴィット博士をお助けください」
ヴィランに人質として連れていかれた二人。その知識と技術から博士の方を優先されたのか。
「でも、サムを放ってはおけないわ?!」
「いいのです、この事件は私のせいなのですから。私のようなヴィランはこのまま死なせてください」
タルタロスと同等とされる堅固さを誇るI・アイランドへの侵入。それは内部から手引きした者がいたから可能だったのか。
「なんでそんなことを」
罪の告白にショックを受けるメリッサさん。
「私は、あの偉大な研究が封印されることに耐えられなかったのです。博士との日々が無くなることにたえきれなかったのです」
だから罪人として死なせてくれとサムさんは告げる。そして彼のこの発言から僕は、今回の襲撃事件がデヴィット博士も関与しているのだと理解してしまった。だから彼は全ての罪を背負って死のうとしているのだと。
「貴方達に何があったかは分かりません。それでも僕は人として貴方を救います」
それでも僕のやることは変わらない。
「何が真実であろうと、貴方はデヴィット博士ともう一度話さないといけないんだ」
分かり合えないまま終わるということが、どれだけ悲しいのか僕は知っているのだから。
「すいません、すいません、博士、お嬢様、すいません。私は、私は」
「サム」
「行こう、メリッサさん」
傷は完全に治した、もう彼が死ぬことはない。
本当なら拘束しなければならないだろうけど、泣きじゃくりながら謝り続ける彼をどうこうする気にもならず、必要も感じなかった。
「サム、私もパパを支えてくれた貴方を大好きだったよ。パパもきっとそう思っている」
そう告げてすぐそばにある制御ルームに向かった。そこには暴行され傷つき拘束された警備員の方たちが無造作に転がされて、ヴィランは誰もいなかった。
「逃げたか、となると」
メリッサさんが警備システムを再変更している間に警備員さん達の解放と治療を済ませる。
博士達を連れてまで欲した研究、世界を変えるであろう技術を用いられたサポートアイテム、それを得た後の脱出路は空からだろう。
「ヴィラン連合の黒モヤがいなかったのがせめての幸いかな?」
もっともそれがいたらここまで大々的な騒動を起こす必要はないだろうが。
「終わったわイズクっ!!」
「流石です!!」
何をやっているかチンプンカンプンな操作、僕一人だったら無理だけど彼女は無事やりとげてくれたようだ。
「じゃあメリッサさんはここで待っていて」
「行くのね」
「うん。それに下から最高のヒーローが飛んでくるしね」
パーティー会場は拘束の解除されたヒーロー達がいるから平気だ。
ならば僕は博士を助けにいくだけだ。
―――
移動式の島の周囲には何もなく、星が煌めき美しい夜空。ヘリポートでは傷だらけのデヴィッドがヘリへと押し込められており、ヴィラン、ウォルフラムはトランクを片手に今日の作戦を評価していた。
「フン、まあいくつか手駒を失ったが成果は充分だな」
損得で言えば圧倒的に得だと、アタッシュケースを撫でながらウォルフラムは言う。
「私を、殺せ」
「生きるだ死ぬだは力があるヤツだけが言えんだよ。お前みたいな頭でっかちにそれを決める権利はない」
拘束され転がる博士、世界最高峰の頭脳を持つ商品を値踏みするように見る。
(とはいえ、相手はご都合主義みたいなクソッタレなヒーロー。備えはしておくか)
商品に手を付けるのは彼の流儀に反するが、ヴィランの天敵オールマイトを舐めてかかって全てを台無しにするよりはマシだと判断した。
「博士を返してもらうっ!!」
ホラ来たと、ウォルフラムが外を見ればそこには上空のヘリに飛びつこうとする女性、【メディア】を憑依した緑谷出久の姿があった。
(餓鬼?いや雄英生とかいうヒーローの卵か)
プロヒーローすら返り討ちにしてきたウォルフラムにとって子供など相手にならない。
だがそれに手間取ってオールマイトが到着されては面倒だと、ヘリのドアを開け座席に控えていた使えない方の部下を掴み上げそこから放り捨てた。
「なっ!!」
「助けるよな?ヒーローだもんな?」
咄嗟に抱きかかえて屋上に着地してしまう緑谷出久。ヴィランであれど助けられなければ批難されるのがヒーロー、ヒーロー自身の善性とヒーローとしての社会的立場ゆえの行動を、世界を股にかけるヴィランであるウォルフラムは熟知していた。
「外道が!」
「不自由なもんだなヒーローは」
馬鹿にするように鼻で笑い、ウォルフラムはヘリのドアを閉めた。
その時。
「大丈夫だ緑谷少年!! 何故って!? 私が来た!!」
世界で一番頼もしい声とすら称されるオールマイトの声が響き渡り、タワーの中から弾丸のように飛び出したヒーローがヘリに向かって突進する。
同時に振りかぶられた右拳がヘリの装甲を貫通し、内部に侵入したオールマイトは親友を抱えて爆発するヘリから無事脱出した。
「親友は返してもらったぞ、ヴィラン!!」
勝利宣言をするオールマイトを見ながらウォルフラムは憎々しげに呟いた。
「ち、大損だ」
そして入手したサポートアイテムを装着するのであった。