オールマイトとの出会いから数日後。
僕とかっちゃんは休みの日に海流の影響による漂着物と人々の不法投棄で荒れ果てた公園【多古場海浜公園】で日課であるゴミ掃除をしながらヒーローになるための訓練に勤しんでいた。
「おらぁっ!」
「はあっ!」
かっちゃんが繰り出す掌底を両腕を組んで受け止め、お返しに蹴り上げるが回避される。
「せいっ!」
今度は僕が攻めるがかっちゃんは僕の突撃を利用して背負い投げ、空中で体勢を立て直して着地するとかっちゃんの飛び蹴りが迫ってくる。
「ここっ!」
僕はかっちゃんの攻撃を逸らすと同時に顔面に掌底を繰り出す。対してかっちゃんは顔を逸らして回避し、通り過ぎた所で体勢を立て直して、再び突撃する。そんな攻防を数十分も繰り返す。
その後、何度か攻めたが模擬戦の結果はお互い息切れで引き分けとなった。
「くそ、今日も引き分けか」
かっちゃんは悔しそうな顔をしながらお昼ご飯の激辛明太子おにぎりを頬張る。
完全勝利に拘るかっちゃんは今日の結果に納得していなかった。
「でも、日に日に動きは良くなっているよ。僕も結構危なかった所があるし」
僕はそんなかっちゃんを宥めながら母さんが作ってくれたとんかつ弁当を食べる。
かつての僕が苦労して学んだサーヴァント達の格闘術を短時間で物にするかっちゃんの天才ぶりに改めて驚いていた。
僕は彼に置いていかれないよう。より一層鍛錬しようと思っているとかっちゃんは別の話に切り替えた。
「そういやデク。小説の方は進んでいるのか?」
かっちゃんの言う小説とはかつての僕が経験した旅の記憶を残そうと始めた物だ。
実はある日、かっちゃんがその小説を読んで「面白いな」と言ってくれ、更に「これをネットに投稿したらどうだ?」と言われた。
それを聞いた僕は物は試しで小説投稿サイトに投稿してみた結果、「個性が無い世界が珍しい」、「技が格好いい」、「設定が面白い」などの予想以上の高評価を貰ってしまった。
「うん、そっちの方は問題なく進んでいるよ」
「次は何の話だ?」
「次は古代メソポタミアの話だね」
かっちゃんに僕の小説の進み具合を話している中、僕達の元に複数の足音が聞こえ始めた。僕達は足音の方を見ると二人組なのだがその片割れに予想外の人が居た。
「HAHAHA!休みの日にゴミ掃除か!感心だな!緑谷少年、爆豪少年!」
私服姿のオールマイトが見知らぬ人を連れていた。これは流石に僕もかっちゃんも驚いた。
「オールマイト!?どうして此処に!?」
「実は緑谷少年、君にお願いをしたいという人が居てね」
オールマイトがそう言うと彼の隣に居る銀縁眼鏡に七三分けのスーツ姿の男性が前に出る。
「初めましてだな。緑谷出久君、爆豪勝己君。私はヒーロー、サー・ナイトアイ。かつてオールマイトのサイドキックを務めていた者だ」
彼、サー・ナイトアイは僕達に握手をしようと手を差し出すと僕達はそれに応える。
「えっと、それで僕にお願いというのは何ですか?」
「ああ、単刀直入に言うと緑谷出久君。君の個性でオールマイトの傷を癒して欲しい」
「オールマイトの傷?怪我でもしてるのか?」
サー・ナイトアイの言葉にかっちゃんが首を傾げる。だが見た所オールマイトは怪我をしている様子は見えない。
「そうだな、実際に見た方が早いだろう。オールマイト」
「ああ」
サー・ナイトアイの呼びかけにオールマイトが頷くと突然身体から煙が溢れ出す。
「「オールマイト!?」」
煙が晴れ、そこにいたのは先程までオールマイトが着ていた筈の服を骨に皮がついたような人が纏った姿であった。
「これは一体……」
「どういうことだよ……」
突然の事に動揺する僕達にサー・ナイトアイは説明する。
今から五年ほど前、とあるヴィランとの戦いで瀕死の重傷を負ってしまい。治療の甲斐あって何とか一命を取り留めたものの、その後遺症によって現在では見る影も無いやつれた姿になってしまったとの事。
因みにそんな状態でどうやって普段の筋骨隆々な身体になるのかというと、本人曰く「プールで腹筋を力み続けてる人」みたいなものらしい。いや、意味わからん。
そんな状態になってもヒーローを続けようとするオールマイトにサー・ナイトアイは付いていけなくなり、喧嘩別れの様な感じで去ってしまった。
だが先日、オールマイトがサー・ナイトアイの元に訪れ、彼に謝りに来たらしい。
かつてのわだかまりが消えた二人はこれまでの事や最近あった事を話し合った。
そんな時にサー・ナイトアイの個性【予知】が突然発動してある場面を見たとの事。
それは僕がオールマイトの傷を治すという未来だったらしい。
こんなことは今まで一度も無かった現象に驚くサー・ナイトアイだったがそれよりも見逃せない情報だった。
オールマイトの傷を癒せる者がいる。それを知ったサー・ナイトアイは居ても立っても居られなくなり、急遽全ての予定を急ピッチで終わらせて時間を確保して僕に会いに来たらしい。
「でも、僕達はまだ個性の使用は……」
「その点は大丈夫だ。既に根回しを済ませてある。国の上層部はぜひやってほしいと言っていたよ」
そう言って、サー・ナイトアイは僕に頭を下げる。
「頼む、緑谷出久君。どうかオールマイトを治して欲しい」
オールマイトを助けたい。そんな彼の必死な懇願に僕は。
「……分かりました。やってみます」
ここまで準備をしてくれた人の願いを無下には出来ないよね。
その時、話を聞いていたかっちゃんが僕の肩に手を置く。
「№1ヒーローの治療か。責任重大だぞ?デク」
「それでも助けるのがヒーローでしょ?」
僕が治療を了承するとサー・ナイトアイはホッとした様に胸を撫でおろす。
「ありがとう、緑谷出久君。早速場所を変えよう」
「はい」
僕達はオールマイト達が乗っていた車に乗ると直ぐに病院に向かう。
「今更だけど、俺も一緒に付いてって良かったのか?」
「HAHAHA!気にしなくてもいいぞ爆豪少年。所で緑谷少年。君の個性について聞いてもいいかい?」
車に揺られる中、オールマイトが僕の個性について聞いてきた。
「良いですよ。僕の個性は【英霊憑依】という歴史に名を遺した偉人や神話の英雄達の力をその身に宿す個性です」
「過去の偉人や英雄の力、それはとんでもない個性だね」
「ああ、他に類も見ない個性だ」
二人は僕の個性の規格外さを瞬時に理解したようだ。
「デク。今回は誰を憑依させるつもりだ?」
「うーん、アスクレピオスさんは確定かな」
僕が上げた英霊の名にサー・ナイトアイが反応する。
「アスクレピオスと言えばギリシャ神話で医神と呼ばれる半神半人じゃないか」
「はい、彼の宝具ならオールマイトの傷を治すことが出来るはずです」
「緑谷少年。宝具とはなんだい?」
今度はオールマイトが宝具について聞いてきた。
「宝具は英雄が持つ切り札であり、人間の幻想を骨子に創り上げられた武装です。彼らが生前に築き上げた伝説の象徴であり、物質化した奇跡なんです。まあ、わかりやすく言うと必殺技ですね」
「なるほど」
僕が英霊や宝具について説明をしてる中で突如車が止まった。どうやら目的の病院に着いたようだ。
「ここの病室を一室借りている。そこで治療をしてもらう」
「分かりました」
僕達はサー・ナイトアイに言われた通り借りた病室に入ると数人の医者と見知らぬ人たちが居た。
「あの、サー・ナイトアイ。この人たちは?」
「今回の事で協力してくれた方々だ」
「やぁやぁ!初めまして緑谷出久君!爆豪勝己君!ネズミなのか犬なのか熊なのか!その正体は雄英高校の校長、根津なのさ!こっちはプロヒーローのイレイザーヘッドなのさ!」
「……よろしく」
「私はヒーロー公安委員会の会長だ。こちらは公安直属のヒーロー、レディ・ナガン」
「……」
四人の紹介に僕達は応える。
「これで揃ったな。それじゃあ緑谷君、早速始めてくれ」
「分かりました」
僕はオールマイトの前に立ち、個性【英霊憑依】を発動させる。
思い浮かぶはギリシャ神話に登場する【医神】と呼ばれし医者にして、アルゴノーツの1人。
大賢者ケイローンの門下生にして医術に関する知識は師をも凌駕した天才。
医療の発展に心血を注ぎ。ついには死者蘇生の霊薬を作り上げるまでに至った英雄。
「憑依召喚。キャスター、【アスクレピオス】」
彼の名を口にしたとき、僕はアスクレピオスの姿へと変わる。
自分の姿が変わったことに周囲の人間は驚くが気にせず僕はオールマイトに対して宝具を使う。
「宝具【倣薬・不要なる冥府の悲歎】」
生前、彼が作り上げた死者蘇生薬、その模造品をオールマイトに使う。
その効果は絶大でオールマイトの失った臓器が復元し、傷跡が綺麗に消え去った。
「これは……失った臓器が再生されている!?」
「こんな個性が存在するのか?」
「奇跡だ……」
宝具使用後、オールマイトの容態を調べた医者が信じられないと言った様子で見ていた。
「ありがとう緑谷少年。おかげで体調がとても良くなったよ」
「それは良かったです」
まだ全盛期には程遠いがこれでオールマイトが苦しむことは無いはずだ。
「やったなデク」
「うん」
平和の象徴の復活に誰もが喜ぶ中、ヒーロー公安委員会の会長が僕に話しかけてきた。
「いやはや、素晴らしい物を見せてもらったよ緑谷出久君。まさかオールマイトの傷を癒すとはね」
会長は人の良い笑みを浮かべながら僕を称える。だがその目は笑っておらず僕を逃がさないという意思を感じた。
「それで本題なんだが、緑谷出久君。君を公安直属のヒーローになって欲しいんだ」
その言葉が出た瞬間、レディ・ナガンの身体が震えたのを見た。
「君の力は強大だ。君ならオールマイトに匹敵するヒーローに成れる。その手伝いをさせて欲しい。どうだろうか?」
会長はそう言って、僕に手を差し出す。だが僕はそれに答えず、代わりに先ほどから気になる事を聞いた。
「一つ、聞いても良いですか?貴方は彼女、レディ・ナガンに何をやらせたんですか?」
この問いに会長の笑顔が強張った。
「……何のことかな?」
「彼女から、血の匂いがしました。一人二人じゃ済まない程に濃い血の匂いが。そして彼女の雰囲気と貴方の立場から推測すると貴方は彼女に人殺しをさせていますよね?」
僕の言葉に周囲の人々が一斉に会長を見る。
「緑谷君それは本当なのかい?」
「間違いないと思います」
根津校長が鋭い目で会長を見ながら僕に聞くがそれを断言する。
「そうですよね?」
「……何を言っているか分からないね」
あくまでシラを切るつもりか、仕方ない。
「憑依召喚。アサシン、【マタ・ハリ】」
僕は19世紀から20世紀に実在したオランダ出身のダンサー兼スパイの彼女の力を借りる。
関係ない事だけど女性サーヴァントの力を借りている間は僕の身体が女性に変わってしまうという意味が分からない現象が発生している。これは彼女達の力を借りている仕様なのかバグなのか未だ分かっていない。
因みに僕の女性姿を見たかっちゃんは「どうなったらそうなるんだよ!?」と叫んでいた。
「な、何を!?」
「宝具【陽の眼を持つ女】」
僕は彼女の宝具で会長を洗脳して洗いざらい話してもらった。その内容はあまりにも真っ黒な内容だったため、オールマイトや根津校長など、周囲の人間は怒りを抱かせた。
「これからどうしますか?」
「この事は国の上層部に報告するのさ。彼らのやっていることは流石に許容できないのさ」
「私も手伝いましょう。こんなことはやめさせるべきです」
教師とヒーロー達がお互いやるべきことを話している中、僕はレディ・ナガンの元へ向かう。
「大丈夫ですか?レディ・ナガン」
「緑谷出久……私は何処で間違えたんだろうな……」
力なく笑うレディ・ナガンに僕はその手を両手で握る。
「!?」
「ゆっくり休んでください。今の貴女は休息が必要です。そしていつか、貴女が再びヒーローとして立ち上がるのを待っています」
「こんな……血に濡れた……私の手でもか?」
「それでも、僕達は待っています。それに闇を知っている貴女なら照らすべき方向は分かるはずです」
僕はそう言ってレディ・ナガンの手をしっかりと握る。
その後、教師陣とサー・ナイトアイはこれからの事を話すために残り、病院から出た僕達はオールマイトに車で家まで送ってもらった。
彼等の行動がこの先どんな影響が出るか分からないが少しでも良い方向になることを祈った。