My Hero Grand Order   作:BLUE@

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燃え尽きた先で

夏休み中の早朝、I・アイランドから戻った僕はいつも通りランニングをして体を動かしていた。

 

「うん、この時期ランニングするならこの時間帯だよね」

 

日差しが強くなる日中とは違い、冷たい風が頬を撫でる心地よさに浸りながら走る。

 

「ん?」

 

僕はふと通りかかった路地裏に何かが居るのが見えた。よく見るとそこに黒髪の男性が倒れていた。

 

「っ!大丈夫ですか!?」

 

僕はその男性に駆け寄る。

 

酷い火傷、それが第一印象だった。その男性は焼け爛れた皮膚をパッチワークのように縫い付けた外見をしており、本人の意識が無いようでグッタリとしていた。

 

「……誰だ?」

 

男性は意識があるのか掠れた声で話す。

 

「とりあえず救急車を「やめろ!」っ!?」

 

僕はスマホで救急車を呼ぼうとすると男性は突然青い炎を放つ。

間一髪避けた僕は目の前の男性に警戒する。

 

「一体何を!?」

「余計な事をするな。……俺の事は……放って置け……」

 

男性はそう言って手を放して気絶した。

 

「……放って置けませんよ」

 

僕は手にしたスマホを操作してある人に電話を掛けた。

 

 

―――

 

 

しばらくして、僕は警察署で火傷の男性の様子を見ていた。

 

「お待たせ緑谷君」

「お疲れ様です塚内さん」

 

オールマイト経由で知り合った警察官、塚内さんが来た。

その手には今、寝ている人のDNA鑑定の結果を記された資料を持っていた。

 

何故そんなことをしたのかというとこの人、身分証もサイフも持ってなかったのだ。それに不思議に思った僕は塚内さんに連絡したところ、ヴィランかもしれないといって調べることにしたのだ。

 

「それで、この人の事が分かりましたか?」

 

僕が彼の事を聞くと塚内さんは首を横に振った。誰か判明しなかったのかな?

 

「誰だかはわかったよ、ヴィランでも無かった。けど詳しく調べてからでないと彼の存在はご家族に伝えられないな」

「家族まで分かったのにですか?」

 

身分証まで持って無いなんて、ヴィランじゃないなら犯罪の被害者だと思ったのだけど。

 

「彼の名は、轟燈矢。数年前に山火事で焼死したナンバー2ヒーローエンデヴァーの長男さ」

「……え?」

 

僕は塚内さんの言葉に思考が止まった。塚内さんが言っていることが本当ならこの人は轟君のお兄さんってことだ。

 

そして死んだ筈の人物がこうして生きている。それにもかかわらず家族が知らないとすると。

 

「誰かに誘拐されていた?」

「その可能性が高いね。ナンバー2ヒーローの身内絡みとなると社会に影響がでるからヒーロー公安委員会が出張る前にある程度調べておかないと」

 

もうエンデヴァーに連絡して丸く収まる問題じゃないのか。どんな経緯で数年間行方不明だったか知らないと後で問題が起こりそうだからか。

 

塚内さんによるとヴィランの繋がりなどを内々に調べていたヒーローが不審死したり行方不明になる事例はかなりあるそうだ。警視庁としてはヒーロー公安委員会の関与を疑っているけど、政治家からの圧力で有耶無耶にされるとか。

 

次期ナンバー1ヒーローの最有力候補であるエンデヴァーをどうこうしたりはしないだろうけど、この燈矢という人を秘密裏に処分とかはあり得るのか。

 

「明らかに治療されたのに関わらずエンデヴァーに連絡がいってないのはおかしいからね」

 

轟君から個性婚までしでかしたクズと言われたエンデヴァーだけど、山火事の時に息子を助けようとして燃え盛る山に飛び込もうとしたのは事実だ。

 

身元不明な大火傷の人物がいるなんて情報を聞き逃したりはしないと思う。ただでさえ常日頃から炎の個性だからと皮膚関連の病院関係者とは懇意にしているのだから。

 

「しかし善意ではないなら、エンデヴァーの息子をヴィランが治療しますか?」

「やりそうな人物にアテがあってね」

 

何か心当たりがあるのか、塚内さんは考え込みながらそう呟いた。

 

「とりあえず、詳しく調べた後は燈矢さんはご家族と会わせますか?」

「そうなるかな」

「必要ねえよ」

 

その言葉は布団に横になる彼の口から聞こえた。

 

「あいつは焦凍を選んで俺を無かったことにした。母親は金目当てで愛情なんかねえ。だからもうどうでもいい」

 

そう言った彼、轟燈矢は投げやりになってそう言った。そして語られる内容はあまりにも凄惨なものだった。

 

自らが焼かれても父親に見て貰いたい息子、受け継がせてしまった個性で焼かれる息子にヒーローになって欲しくない父親、個性婚という弱みから息子に強く出れない母親、そんな彼らの思いが複雑に絡みあった悲劇だったということは理解できた。

 

そして、彼の生存にAFOとその部下である医者らしき存在が絡んでいた事実も。

 

何か行動の指針があれば、父親を否定するわかりやすい思想があれば別だったかも知れない、立ち上がり何かできたかも知れない。けど自分の位牌を見て、昔と変わらない末っ子しか見ない父親を見て、自分はもう何者ではないと、何者にもなれないと諦めてしまったのだ。

 

「結局俺は……ただの失敗作だったんだよ」

 

僕はその言葉にただ黙ってしまう。

 

無個性という要らないモノ扱いされる存在に生まれたにも関わらず母親から無償の愛を受けて育った僕には彼の境遇に何も言えない。

 

そして塚内さんは、民事不介入が原則の警官であるがゆえに何も言えない。立場がある彼はこれ以上の深入りが出来ないのだ。

 

けど、それでも。

 

「まだ分かりませんよ?」

「は?」

「ご両親の本音を聞こう。胸襟開いて腹を割って話そう。まずはそうすべきです、まだ何も分かってないから」

「状況から分かるだろ、俺のことなんて覚えてもいないだろう」

 

僕の言葉に戸惑いながら否定する燈矢さん。

 

「体育祭の時エンデヴァーと話した事があるんです。その時にこう言っていました「あの子の無念を果たす」って、そのあの子っていうのは貴方の事だと思いますよ」

「?!」

「貴方は居なかったことになんかされていないと思いますよ」

「だがっ」

「もう一度だけ、家族と話してみませんか?」

 

僕は迷いを見せる燈矢さんの目を真っ直ぐ見る。しばらくして燈矢さんは決心が付いたのかある条件を出す。

 

「一度だけだ。当時のアイツがどう思っていたのかも知りたいからな。だが結果が、俺が単なる失敗作だった場合は、金輪際、俺に関わらないと誓え」

「いや、それは」

「分かりました」

 

塚内さんが静止しようとするが僕は了承する。どんな結果になっても、ここから先は家族の問題なのだから。

 

「塚内さん、エンデヴァーとの繋ぎはお願いします」

「いや、ことはことだしマスコミにバレたらヤバい案件だってのにもう。分かったよ、根津校長経由でなんとか場を用意しよう」

 

一歩も引かない様子の僕に根負けして、塚内さんは了承した。

 

「君も協力してくれるよね?」

「勿論ですよ」

 

友人の身内なら無関係でもないし。ここまで関わって知らんぷりとかできないよね。

 

 

―――

 

 

そして翌日。

 

「根津校長先生、すみません。いきなり話し合いの場を用意してもらって」

「良いのさ!大事な生徒の家族の話し合いだからね」

 

雄英高校の炎対策された一室。僕、塚内さん、オールマイト、根津校長と共に居て、目の前には苛立ちを隠そうとしないエンデヴァーと彼を囲うように座る轟さん一家がいた。

 

燈矢さんは別室で待機中だ。

 

「それで?いきなり呼び出して一体何の用なんですか根津校長?」

「まぁまぁ君には悪いと思うけどね、これは必要なことなんだよエンデヴァー君」

 

椅子に座り長机の上で腕(前足?)を組みながら根津校長は言う。

 

「でも、一体何が」

 

長女である冬美さんが手を上げながら尋ねる、次男の夏雄さんはひたすら不快そうに顔を背けているが。

 

「必要なことだからさ。あと拗れに拗れた君達の家庭は一度本音で語り合った方が良いと判断したのさ」

「それは一体どういう――」

「俺が望んだんだ。冬美……」

 

ガチャリと扉を開けて現れた燈矢さん。現れた彼に轟家一同は絶句する。

 

因みに燈矢さんの火傷は根津校長に言われて治している。

 

「燈矢、なのか?」

「燈矢?」

「お兄ちゃん」

「兄貴」

「燈矢兄さん」

 

燈矢さんは少し躊躇いながらも僕達の元へを歩いていく。

 

「……久しぶりだな」

 

燈矢さんはそう言うとエンデヴァーさんは他に目もくれずに彼を抱き締めた。強く、生きていることを確認するように此処にいるのだと実感するために。

 

「捜したんだ当時の俺は、おまえが生きてると信じて」

「悪いな親父、その時はもう確保されてたんだ。意識も殆ど無かったしな」

 

その後、轟一家と燈矢さんによる話し合いが始まった。

お互いに自身の思いをぶつけ合い続けた結果、彼等とのわだかまりが消えていった。

 

そして。

 

「なあ親父、お袋、俺はいてもいいのかな?ヒーローにならなくてもオールマイトを超えなくても。あんたたちの子供でいて、見ててくれるかな」

 

彼のその言葉にエンデヴァーは、冷さんは、

 

「俺の方が先に死ぬ、親だからな。でも命ある限りお前達を見ていたい、幸せに生きるお前達を見ていたいのだ」

「資格がないと思い知らされてその目を直視できなかった。でももう逸らさない、貴方がいなくなって見ることが出来なくなる辛さを思い知らされたから」

「父さん、母さん」

 

エンデヴァーの過去、その心情を知り、轟家はようやく家族に戻れたのだった。

 

 

―――

 

 

轟さん一家のわだかまりがとけて家族に戻れてからしばし、

 

「さて、落ち着いた所で説明と今後の話をしても良いかな?」

 

椅子に腰掛け机の上で腕を組んだ根津校長が話を始めた。

 

「勿論です根津校長」

 

死んだ筈の息子、その再会の裏にある不可解な点は親としてヒーローとして確認しないわけにはいかないからだ。

 

「では、息子さんとの再会だけどそれは緑谷君が関わっているね。早朝のランニング中に路地裏で項垂れる燈矢君に声をかけたことが今回の件の始まりなんだ」

「そうなのですか?」

 

根津校長の説明に轟家が僕の方を見る。

 

そして今後の事について話した。まずヒーローの身内については護衛や警備を見直すことにするようだ。

エンデヴァーはヒーローが警備されることに本末転倒だというが校長は燈矢さんを拉致したヴィランの手際の良さ、おそらく転移系個性まで用いたことを考えるとその日たまたまではなく何日も監視されていたと見るべきだろうと結論付けた。

 

「そこまでするヴィランや裏組織が現在この国に存在すると」

「そうだね、本来ならあり得ることではない。なにせヤクザやマフィアといった裏社会の組織は個性発現により二度滅んでいる。既存の組織に個性という暴力が加わることによる内部崩壊、そしてヒーロー台頭による外部の圧力による崩壊でね」

 

多くの裏組織は暴力が物を言っていた。だが拳銃などを容易く上回る個性によって旧体制の維持が不可能になってしまったのだ。

ゆえに現存している裏社会の組織は全て個性発現期以降に改めて再構築されたものばかりなのだ。

そういった意味では日本のヤクザは奇跡的に組織を移行できた稀有な事例といえる。

 

諸外国のマフィアなどは攻撃性凶暴性こそ増したものの純粋な組織力では個性発現期以前とは比べものにならないほどに低下したのだ。

 

「都市伝説にある異能解放軍の残党でしょうか?」

 

個性発現期にて国家やヒーロー、AFO以外で個性持ちを思想にて一つの集団としてまとめあげた異能解放軍。首謀者の獄死にて崩壊したその組織だが闇に潜っているのではないかという説もあるのだ。

 

「いや、そちらではなく個性黎明期より暗躍していたヴィランであるAFOだね」

「大規模なヴィラン犯罪の裏にいるとされる超大物ヴィランですか?私は未だに遭遇したことがありませんが」

「数年前にオールマイトが討伐した筈なんだが、雄英高校襲撃を考えると仕損じたと判断すべきだね。おそらく保須市の騒動の裏にもヤツは関与していると思われるね」

 

根津校長は裏組織について粗方話すと今度はオールマイトに視線を移す。

 

「さてオールマイト、君とAFOの関係を説明して貰えないかな?」

「あのそれは、エンデヴァーのご家族の方にもよろしいのですか?」

「もはや無関係ではないからね。君達がヤツを警戒して秘密主義を貫いたことが別の箇所に問題をおこしているのではないかと僕は思うのさ」

「それもそうですね、分かりました」

 

そうして語られる個性黎明期から生き続ける一人の魔王の物語。ヤツに抗うために戦い散ったヒーロー達の敗北の歴史。オールマイトの代にて終止符を打った筈の語られることの無かった史実。

 

「そんなことが」

「ヤツは強大だった、下手に協力者を募れない程に。またどんなに強いヒーローでもヤツが個性を奪える以上無力化は容易く、こちらの損失は大きかったんだ」

 

それがオールマイトがトップヒーローに協力を要請しなかった理由だ。確かにオールフォーワンが最優先で倒すべき悪ではあったが、治安維持の要であるトップヒーロー達をその戦いで失うわけにはいかなかったのだ。いや、

 

「エンデヴァー、君がいたから私は安心してAFOとの戦いに身を投じていたんだと思う」

 

たとえこの命を散らそうと他に頼れるヒーローがいるからこの国は大丈夫だとそう思っていたのだろう。

 

「その事情はもっと早く聞きたかったものだな」

 

勝てぬわけだとエンデヴァーは納得した。おそらく自分以上に事態を把握していたであろうヒーロー公安委員会、彼らの定めるランキングにオールマイトによるオールフォーワン討伐の功績が加点されていたのなら如何に成果をあげようと上回れるわけがなかったのだ。

 

そしてオールマイト。

 

平和の象徴であり単独で犯罪率を下げる彼に、本心では頼られていたという事実をもっと早く知っていればここまでエンデヴァーは拗れなかっただろう。

 

「エンデヴァー、私は遠からず引退する。私の後継者はいるが彼がヒーローとして表舞台に立つのはまだ先のことなんだ。だから私の後にナンバー1ヒーローになるのは君しかいないと思っている」

「その座を貴様から奪えなかったことに屈辱を感じているがな」

 

目標であるヒーローに後を託されるのは誇らしい、だが超えたのではなく譲られたのではこの敗北感を拭うことは出来ないだろう。

 

けれどヒーローとして自らが背負うものの重みを改めて自覚して決意を新たに歩むことを決めたのだった。

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