特訓を始めて数時間、僕は襲い来るヒーロー達と戦い続けていた。
「行くぞ小僧!」
「はい!」
グラントリノが個性を使って空中で高速移動しながら繰り出す打撃を避けながら次の英霊を憑依させる。
「憑依召喚。アサシン【李書文】!」
僕は武術の全盛期である老境に差し掛かった頃の彼を憑依して柔剛・緩急織り交ぜた多彩な八極拳の技を駆使してグラントリノの攻撃を相殺させる。
「やるな、小僧!」
「いえ、まだまだですよ!」
軽口を叩きながらお互いを拳で撃ち続けると五分が経過したのか次はミルコが襲い掛かる。
「憑依召喚。アルターエゴ【メルトリリス】!」
僕は即座に英霊を切り替えてミルコの攻撃を迎え撃つ。
「踵月輪!」
空中で開脚してからの前方胴回し回転蹴りが放たれるがそれと同時に僕も回し蹴りで相殺。更に蹴り技の応酬が繰り広げられるが彼女は楽しそうに笑っていた
「ははは!体育祭で見た通り、良い足技だな!だがまだだ。お前はもっと強くなれるぞ!」
「ありがとうございます!」
女性トップヒーローのお褒めの言葉を貰って嬉しいがそろそろ五分に近づいてきた。次は。
「憑依召喚。ランサー【エルキドゥ】!」
次に選んだのは世界最古の物語である「ギルガメッシュ叙事詩」に語られる泥人形であり、神々の意志により、星の抑止力の力で作り出された兵器に憑依させた僕は大量の鎖を生み出す。
「先制必縛ウルシ鎖牢!」
シンリンカムイが腕から多数の枝を伸ばして僕を拘束しようとするが逆に鎖で弾き返す。
そしてまた五分後、今度は銃弾が通り過ぎる。レディ・ナガンだ。
「憑依召喚。アーチャー【ウィリアム・テル】!」
スイスの建国伝説や、それを題材とした戯曲に登場する猟師を憑依させた僕はクロスボウで彼女の弾丸を正確に撃ち落とす。
そうして撃ち合いながら僕は次の相手を冷静に分析して次の英霊の選択を済ませる。
その後、僕は夕方になるまで英霊を変えながらプロヒーロー達と戦い続けた。
―――
そして夕方、今日の特訓を終えた僕達は疲労困憊っといった様子でテーブルに置かれた夕飯の材料と調理器具を見ていた。
「さあ昨日言ったね、「世話焼くのは今日だけ」って!」
「己の食う飯くらい己でつくれ!!カレー!」
自分達も指導で動いているにも関わらずハイテンションなピクシーボブとラグドールの言葉に僕達は力なく返事をする。
「アハハハハ!全員全身ブッチブチ!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
ラグドールの言葉に飯田君はこれも訓練の一環と勘違いしたのかやる気を出してカレー作りに取り掛かる。それに続いて僕らも調理に移った。
そして夕飯。訓練でのこともあって皆勢いよくカレーを食べ続ける。
その中で切島君が野暮な事を言ったり八百万さんの個性の説明に瀬呂くんが酷い事を言って耳郎に制裁されたりと色々あった。
「ん?」
彼等の様子を見ていた洸汰君が別の所に行くのを見た。
気になった僕はあの子の足跡を追っていくと崖っぷちに洞窟と特異点で見たような光景に懐かしさを感じながら僕は崖の近くに座り込んでいる洸汰君を見つけ、話しかけた。
「すごい景色だね、洸汰君の秘密基地?」
「なっ出てけ!」
「いいところに作ったねぇ、こんなすごい場所を独り占めできるんだから」
文句を言われ、睨まれながらも僕は洸汰君に話しかけると酷く苛立たしくしており、今回の合宿についても否定的な言葉をどんどん吐き出している。
そして洸汰君の言葉が切れたタイミングで僕は聞きたかったことを聞いてみた。
「洸汰君のご両親はウォーターホース?」
「マンダレイか!?」
「うん、マンダレイから君の両親の話を聞いてね、情報的にそうなのかなって」
水の個性を持ったヒーロー、ウォーターホース、二年ほど前にヴィランと交戦の末に亡くなった夫婦のヒーローだ。二人を殺してしまったヴィランは未だに捕まっていないそうだ。
「頭いかれてるよみーんな、ヒーローだとかヴィランだとか言っちゃって殺しあったりして、個性とか言っちゃって。……ひけらかしてるからそうなるんだ、ばーか」
「……個性そのものが憎いんだね、君は」
洸汰君にとってはそうかもしれない、個性なんてものがあるからヒーローもヴィランも生まれてしまった。
ご両親は個性があったからそうして亡くなってしまったのだと思えば個性を憎んでしまっても仕方のないことであると思う。
個性を羨むものもいれば個性を憎むものもいる、当然のことであるけどヒーローを目指している人たちからしたら信じられない発言になってしまうかもしれない。
「個性のこと、憎んでも仕方ないと思う。それは洸汰君にしかわからないことだし同情すれば君が傷つくだけだ。でもこれだけは忘れないで、君の両親だってきっと悲しいってことを」
これ以上余計なことを言うのはよくないと思い、お腹の鳴っている洸汰君にカレーを置いてその場をあとにする。
個人の気持ちを理解しようとしたところで理解できるわけがない、洸汰君の悲しみを僕に理解できるはずがない。
―――
翌日、今日も夕方までプロヒーロー達に扱かれ、夕飯に作った肉じゃがで腹を満たした後。僕達(プロヒーロー達も含めて)は本日のメインイベントが開催されるのを待っていた。
「さて!腹も膨れた。皿も洗った。次は~?」
「肝を試す時間だー!」
「「「いえーい!!」」」
肝試しにはしゃぐ五人だが相澤先生により絶望へと叩き落した。
「その前に!大変心苦しいが補習連中は、これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!?」
相澤先生は涙を流しながら抵抗する補習組を捕縛布で拘束してズルズル引きずっていきながら連れて行った。
「まあ、これもひと夏の思い出と思えば」
「そんな思い出、オイラは嫌だぞ」
「「「うんうん」」」
僕の独り言に全員に突っ込まれる中、ルール説明が始まる。脅かす側先攻はB組で既にスタンバイ済み。A組は二人一組で3分置きに出発、ルートの真ん中に名前を書いた御札があるからそれを証拠として持ってくること。所要時間は十五分くらいかかるらしい。
そして組分けはくじ引きだったため僕は一人になったが数合わせとしてレディ・ナガンが組んでくれることになった。
「すいません、レディ・ナガン」
「良いさ。一人だと心細いもんな」
こうして、クラス対抗肝試し大会が始まった。