肝試しが始まって数分。
B組は入念に脅かす方法を考えたのかA組の悲鳴が木霊している。
「めっちゃ叫んでいるな」
「この声、耳郎と葉隠だな」
「つか、何か焦げ臭くね?」
切島君のいう通り何やら焦げ臭い匂いがしてきた。
突然の異臭に疑問を持った皆は周囲を見渡すとと遠くで黒煙が見えた。
「山火事!?何で」
「一体だれが……」
突然の山火事に皆が驚く中、ピクシーボブが何かに引き寄せられたがその場に居たグラントリノがキャッチした。
「大丈夫か?」
「ええ、一体何が」
引き寄せられた方向を見るとヴィランと脳無の集団が居た。
「っち、奇襲は失敗ね」
「プロヒーローが複数って情報と違うじゃねえか」
ヴィラン達はミルコ、レディ・ナガン、他数名のプロヒーローを見て文句を言い出した。
「くっ、お前ら!今すぐ避難しろ!行くぞレディ・ナガン」
「ああ!」
「虎!!ラグドールからの応答、襲いかかってきた脳無はミルコが撃退!山火事だけで無く毒ガスも確認、現在は合流した生徒達とマタタビ荘へ向かっている!」
「他でもかっ!?」
「ピクシーボブは土魔獣で迎撃!私達はマグネを押さえる!」
グラントリノとレディ・ナガン、それと他数名のプロヒーローが僕達を守る為に戦闘を開始。
彼等が戦っている間、マンダレイの個性で他のヒーロー達に異常事態を知らせると僕達に避難を言い渡す。
その時、僕は洸汰君が秘密基地に居ることを思い出す。
「洸汰君……!」
ヒーローを、個性を嫌う彼が酷く心配だ。マンダレイだってきっとそのはず、早く無事に保護をしないといけない。
僕は皆と別れて秘密基地のある崖の道を走っていると巨大ななにかが道を塞ぎ、その奥に震える洸汰君の姿が見えた。手段を選ぶ余裕はなさそうだとわかり僕は躊躇いなく個性を使う
「憑依召喚。バーサーカー【アタランテ・オルタ】!」
彼女を憑依させた僕は加速して洸汰君を抱えて離れる。
「洸汰君怪我は!?」
腕の中にいる洸汰君は涙を浮かべてはいたものの怪我はしていないようでほのかな安堵を抱いたが、すぐに目の前にいる存在に目を向ける。
異常ともいえるその巨体を覆う繊維のようなものと左目の義眼、その特徴と洸汰君の反応からすぐに相手は理解できた。
”血狂いのマスキュラー”筋肉増強という単純な身体強化の個性であるが危険なヴィランだ。
そして洸汰君の両親、ウォーターホースを殺した犯人だ。
「なんだぁ、お前?」
マスキュラーは突然乱入してきた僕を睨むが直ぐに気を取り直して個性を発動させる。
「まあいいや、おい女。緑谷出久と爆豪勝己っていう餓鬼を知らないか?」
(僕の事を探している?一体なぜ?)
僕が答えられずに居るとマスキュラーは勘違いしたのか襲い掛かってきた。
「……知らないみたいだな。なら死ね!」
マスキュラーは全身に筋繊維を纏うと拳を振るうが僕はそれを避け、爪でその肉の鎧を切り裂くが対してダメージを受けてなかった。
「ははは!無駄だ!」
そう言って再び筋繊維を纏うと更に激しい攻撃を振るう。
(くそ!本気で行くと洸汰君まで巻き込んでしまう。だったら)
僕はマスキュラーの攻撃を避けると洸汰君を抱えて森へ飛び降りる。
「おい!何処へ行く!」
―――
鬱蒼と生い茂る森の中、僕は隠れられそうな茂みに洸汰君を降ろす。
「洸汰君、此処で隠れてて。此処なら見つからないはずだ」
「ど、どうする気なんだよ……」
こんな所に連れてこられて不安そうに見上げる洸汰君に僕は微笑みながら頭を撫でる。
「僕はあいつを倒してくる。大丈夫、必ず戻ってくるから」
僕は洸汰君を茂みに隠すと来た道を戻る。
「見つけたぞ!!」
洸汰君からある程度離れると目の前からマスキュラーが怒りの形相で現れた。
「たく、ヴィランを前にして逃げるとはヒーローとしてどうなんだ?あ”あ”!!?」
「僕は最善の選択をしたまでさ。お前を倒すためにね」
「ははは!俺を倒す?寝言は寝て言え!女!」
マスキュラーは再び個性で強化した腕を振るう。僕はそれを避けながら木々を足場に高速で跳躍しながら爪で切り裂く。
「な!?」
マスキュラーは驚きながらも腕を振るうが高速で駆け抜ける僕には当たらず、逆に僕の攻撃で肉の鎧を削っていく。
「くそ!ちょこまかと」
僕の攻撃にいら立ったのか、更に筋繊維を増やして拳の速度を上げる。そんな攻防が続く中僕はわざと目の前で速度を緩めた。
「そこだぁ!!」
マスキュラーは個性を全開にして押し潰そうとするが直前に僕は後方に下がって避ける。
「カリュドーン、力を寄越せ!」
相手が晒した大きな隙を僕は見逃さない。
「燃ゆる影……裏月の矢……我が憎悪を受け容れよ!!【闇天蝕射】ッ!!」
この宝具はアルテミスから授かった『闇天の弓』を自身に取り込み、自身を矢として全魔力を注いだ弾道ミサイルの如き一撃を放つ。
その威力は例え個性で防御力を上げていても耐えられるものでは無い。
「がはっ!?」
全魔力を注いだ一撃を喰らったマスキュラーは岩壁に叩きつけられた。
しばらく警戒するが動かないのを見るに気絶したみたいだ。それを確認した僕は洸汰君の元へ向かい直ぐに抱きかかえて施設に向かう。
「洸汰君、君に頼みがある」
「え?」
「今、森に火を付けられている。あのままじゃ皆が危険だ。君の力が必要だ」
僕は戸惑う洸汰君に微笑みかけながら続ける。
「お願いだ。皆を助ける為に力を貸して」
「……分かった」
僕の頼みに洸汰君は頷く。
その後、僕は洸汰君を抱きかかえて森の中を走っていると、向こうから相澤先生が走っているのが見えた。
「相澤先生!」
「緑谷か!」
相澤先生と合流した僕は個性を使ったことを咎められるが事情を説明して洸汰君を渡す。
そして全速力でマンダレイの所に行って彼女に知らせる。
「マンダレイ!イレイザーヘッドからの指示!A組B組総員の戦闘を許可すると!それとヴィランの狙いは僕、緑谷出久と爆豪勝己!」
僕が伝えた相澤先生の伝言を聞いたマンダレイは直ぐに全員に伝えられた。
だが安心したのも束の間、突然地響きが鳴り響いた瞬間、山の様に巨大な脳無が現れた。
「なっ!?あれも脳無!?」
「なんて大きさだ……」
僕達はその異常な大きさに絶句すると超大型脳無は木々をなぎ倒しながらこちらに迫ってくる。
もう迷っている場合じゃない。
「憑依召喚。セイバー【アルトリア・ペンドラゴン】」
僕はすぐにアルトリアに憑依させ、宝具で目の前の超大型脳無に使う。
「宝具【約束された勝利の剣】!!」
放たれた光が超大型脳無を吹き飛ばした。その時。
「やっと、隙を見せたな?」
耳元で声が聞こえた瞬間。僕の意識は途絶えた。
―――
「「「な!?」」」
突然消えた緑谷にヒーロー達が絶句する中、一人のヴィランが姿を現した。
「どうも皆様、初めまして。私、Mrコンプレスと申します。この緑谷君は頂いていきます」
そのヴィラン、Mrコンプレスは手に持った球をヒーロー達に見せつけるとその中には緑谷が入っていた。
「お前!緑谷を返せ!」
レディ・ナガンはコンプレスに向けて銃撃するがコンプレスはひらりと躱した。
「予定は狂ったが、最低限の仕事は出来たな。開闢行動隊!目標を確保した!短い間だったがこれにて幕引き!五分以内に回収ポイントへ迎え!」
コンプレスは各地で戦っているヴィラン達に伝えると自身も黒霧が作ったゲートに向かう。
その後をヒーロー達が追おうとするが大量の脳無に憚れた。
「どけ!」
「邪魔だ!」
ヒーロー達は脳無をなぎ倒して追いかけるが追い付いた頃には黒霧のゲートに入るところだった。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
そう言ってコンプレスはゲートの中に消えていった。
雄英高校林間合宿襲撃事件。
林間合宿三日目の晩の敵連合による襲撃。
ヒーロー側は生徒40名の内ヴィランの毒ガスにより15名が意識不明、重軽傷者11名、無傷の者は13名、行方不明1名。
一方敵側は、プロヒーロー達の手によって数十名の現行犯逮捕と複数の脳無の確保。
少年少女が楽しみにしていた林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。
オリジナル脳無 超大型脳無
とあるヴィランの量産を目的として作られた試作型脳無。
出来るだけ品質の良い素体を使っているがそれでも制御不能の失敗作となり、廃棄処分の意味合いで林間合宿に投入された。