「クソが!!」
ヴィラン連合の襲撃から数日。爆豪勝己は苛立っていた。
「クソ!デクの奴。何まんまとヴィランに捕まってんだよ!」
沸き上がる怒りに歯ぎしりしながらも緑谷の安否を考えていた。
そんな時、スマホから着信が入り電話の相手を確認すると切島だった。
「どうした切島」
「あ、爆豪。ちょっと話があるんだ」
切島に呼ばれた爆豪は待ち合わせの場所に向かうとそこには耳郎、葉隠、八百万以外のA組の皆が居た。
「お前ら、何の集まりだ?」
「ああ、それはな」
切島は爆豪達に自身が考えている事を伝える。
その内容は緑谷を助けに行くことだった。
当然、切島の話にA組の皆は危険だというが切島と轟はそれでも助けに行きたいと言う。
「なあ、爆豪!今なら手が届くんだよ!幼馴染みなら――」
――ドガッ!!
そう言って爆豪に手を伸ばす切島に爆豪は突然殴る。それを見たA組の皆は目を見開く。
「な……爆豪?」
「少しは目が覚めたか?切島。言っとくが俺は反対だ。これはプロヒーローに任せるべきだ。俺達が出る幕じゃねえ」
「っ!?爆豪は助けたくねえのかよ!それでも幼馴染みか!」
「……誰が助けたくねぇって?」
切島は納得できないのか叫ぶが爆豪は切島の襟を掴で睨む。
「お前さぁ。俺がそんな薄情な奴に見えたのか?心外だな、俺はこの場に居る誰よりもあいつの事は知っているんだ」
その手は震えていた。
「……俺だってな!助けに行きてぇよ!今すぐにでも飛び出して探しだしてぇよ!けどな、それで俺達に何かあればアイツは自分を責める!そういう奴なんだよデクは!」
その表情は悔恨で歪んでいた。
「俺達はまだ弱い、そんな俺達が行っても足手まといが増えるだけだ!」
その目から涙が滲んでいた。
「だから、今は信じて待ち続けろ。ヒーロー達がアイツを取り返して来ることを」
爆豪は己の心の内を吐き出すと掴んでいた手を放す。
「……悪かった爆豪」
「……そうだな。俺達は焦り過ぎた」
切島と轟は焦りで我を忘れていた事を自覚すると申し訳なさそうに謝った。
(……頼むぞ、オールマイト。無事でいろよ、出久)
爆豪は青空を見上げ、今ヴィラン連合の捕縛に動いているオールマイトの力を信じながら緑谷の無事を祈っていた。
―――
背中に感じる硬さと人の声が五感を刺激し、僕はゆっくりと瞼を開けた。
動かそうにもなにかによって固定されてしまっている体では碌に周囲を確認できないが、辛うじて動く首を動かし、状況を見ると室内のようだ。
「……ここ、は」
「ヴィラン連合のアジトさ、緑谷出久」
ヴィラン連合のアジト、その言葉にぼんやりとしていた意識は一気に覚醒をし、体を動かそうとしたがそれは叶わない。
『やはり雄英の管理体制に問題があると言わざるを得ません。私の子供がヒーロー志望だとしても雄英に入れようだなんてとても……』
顔を手のような飾りをつけているヴィラン……死柄木弔がニュースを消して嬉しそうにしている。
「ヘヘッ……俺らのことを盛大に宣伝してくれてホントありがたいよ。なぁ?そう思わないか?緑谷」
そう言って愉快に笑う死柄木。
「不思議なもんだよな、何故ヒーローが責められてる?
奴らは少~し対応がズレてただけだ。
守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つはある。
お前らは完璧でいろって?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなぁ」
そして再びテレビをつけると僕に雄英高校の記者会見を見せる。
「人の命を金や自己顕示に変換する異様……それをルールでギチギチと守る社会……敗北者を励ますどころか責め立てる国民。
俺たちの戦いは”問い”……ヒーローとは、正義とは何か?
この社会が本当に正しいのか?一人一人に考えてもらう。
俺たちは勝つつもりだ、君も勝つのは好きだろ?」
死柄木はそう締めくくる。
確かに正論だ。正論ではある……けど。
「それは君達ヴィランが問うことではなく市民が問うべき事だ。今の社会が歪なのは僕だって知っているよ。
でもそれ以上に自分の名誉を捨ててでも誰かを守らなきゃいけないのもヒーローなんだよ」
僕の答えに死柄木は不気味な笑いを浮かべていた。
「ああ、お前ならそう言うだろうな。全く、相変わらず反吐が出る」
「……僕をどうする気だ?」
「まあ、そう焦るな。お前はこれから先生に全てを奪われるのさ」
死柄木はそう言うと目の前にワープゲートが開きその中から漆黒のドクロを模した金属質のマスクを装着している男が現れた。
「始めまして。緑谷出久君」
この男から感じるプレッシャーから僕は彼が何者なのか気づいた。
「貴方が……AFO」
「おや?オールマイトから聞いたのかい?なら自己紹介は不要だね」
AFOはゆっくりと僕に近づいてくる。マスクで表情は読み取れないが何やら楽しそうだ。
「君の事は調べさせてもらったよ緑谷君。とても素晴らしい個性だ。君の個性ならあのオールマイトを超える可能性を秘めている」
AFOのとても楽しそうに笑う姿を見て僕は不気味で仕方が無かった。
「聞いても良いですか?貴方の目的は何ですか?」
「目的か、単純だよ。昔コミックに影響されてね。その悪役は世界中から恐れられていた。何でだと思う?」
「……悪い事をするからじゃないですか?」
AFOの問に僕はこう答えると彼は首を横に振るう。
「一般的にはそうだね。でも僕は違う」
そう言って両腕を広げながら続ける。
「悪い事とは?文化も価値観も無数に広がるこの世界で誰もが顔を顰めて嫌悪する行為。それは思い描く未来を阻む事。だから僕はね、世界中の未来を阻みたい。ただそうありたいと願っただけさ」
AFOの話を聞いて僕は顔を顰める。これほどの濃密な悪意はあの第七の人類悪に引けを取らない。コレはあってはならない、人の世に居てはならない存在。
「……反吐が出ますね」
「君に理解してほしいとは思っていないよ」
そんな存在が僕の顔面を掴んできた。
「君はオールマイトから信頼されている。その君をここで潰せば奴は後悔するだろうな」
その言葉で僕の個性を奪うつもりだと分かり、逃れようとするが強い力で引き離せない。
「その個性。僕が最大限有効活用させてもらうよ」
その掌の孔へ僕の中の何かが吸い出されようとした時。
脳内に誰かの声が響いた。
『先輩!』
その懐かしい声に僕の中で何かが弾けた。
―――バチィッ!!
「っ!?」
突然紫電が走り、僕を掴んでいたAFOの右腕を弾いた。
「先生!?」
突然の出来事に死柄木は驚くが、直ぐに僕の異変に気付く。
「何だ、あれは?」
ヴィラン達の戸惑う声が聞こえる。当然だ。今、僕の胸から魔法陣の様なものが現れたのだから。
そして僕は沸き上がる衝動に流されるまま、ある言葉を告げる。
「――――告げる」
その言葉が紡がれる度に魔法陣が、その輝きを加速度的に増していく。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
二度に亘る、聖杯探索。
今や懐かしき記憶を思い出しながら、更に続ける。
「聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ」
その手応えは、僕の憑依召喚の比ではない。
まるでトップサーヴァントを召喚する際の如き手応えを感じられた。
「汝、星見の言霊を纏う七天」
そして、最後の一節が紡がれる。
「降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」
眩いばかりの光の内より、ぼうっと何かが浮かび上がる。
外見をほとんど普通の人間と変わらない。
だが違う。明らかに。
この世界でみた個性などとは比べ物にならぬほどの、人間を超越した力。
触れただけで蒸発しそうな、圧倒的なまでの力の滾り。
それが体の内に渦巻くのが、嫌でも感じ取れる。
だが、そんなことは今更の話でしかない。
「――今なら、印象的な自己紹介ができると思います」
他の誰よりも、大切で特別な存在であった彼女が。
「先輩」
もう二度と、会うことはないと思っていた彼女が。
「サーヴァント、シールダーパラディーン。マシュ・キリエライト、召喚に応じ参上いたしました」
そこに、いたからだ。