オールマイトの傷を癒してからまた数日が過ぎた。
その間、僕達は紹介されたオールマイトの師匠の一人であるグラントリノと鯛焼きを食べながら組み手したり、サー・ナイトアイと彼が連れてきた現雄英高校2年の通形ミリオ先輩と一緒にユーモアについて語ったり、かっちゃんに最新刊の絶対魔獣戦線バビロニア編についての感想を聞いたりしながら過ごした。
思い返せば一瞬だったように感じるくらいに時間は早く過ぎたけど、それは今までの日々とは違う、とても充実した時間だった。
そして僕は何となくテレビをつけると番組にオールマイトが映っていた。
『――それではオールマイト。よろしくお願いしますね』
『HAHAHA!よろしく!』
番組の司会に笑顔で答えるオールマイト。元気そうで良かった。
『早速ですがオールマイト。ファンから最近活動の頻度が低いだとか、メディア対応が短くなってるとか、色々な噂があったのですが何かあったのですか?』
司会の人、いきなりぶっこんで来たな。確かに気になる内容だろうけど。
『ああ、ちょっと色々あってね。最近になってやっと余裕が出来たのさ!』
『そうなのですか?その色々というのは?』
『実は、ある悩みを抱えていて、それに四苦八苦していたことがあってね。どうしようか困っていた時にとある二人の少年と出会ったのさ』
とある少年達というのは僕達の事なのだろうな。
『その二人は強力な個性を持っていてね。私から見ても彼等はトップヒーローに成れる素質を持っていたんだ』
『オールマイトがそこまで言うとは、一体どんな個性なんですか?』
『HAHAHA!すまないがそれは教えられないよ。それでその少年二人の内一人は珍しい事にあまりヒーローに興味が無い様子だったんだ』
僕の事だ。
『私はそれが気になってね。聞いてみたら耳に痛い言葉を頂いたよ。「今のヒーローは誰かを助けるのを二の次にしている気がする」とね』
『それは……なんとも……』
『そしてこうも言われたよ「どんなに困難でも誰かを助ける為に全力を尽くす。そんな勇気がある人がヒーローと呼ばれる者だと思う」とね。私も彼の言葉には考えさせられたよ』
オールマイトは僕達の出会いを思い出したのか感慨深そうに続ける。
『そしてもう一人の子がこう言ったんだ「お前が背負えない物は俺が背負う。一人で助けられないなら皆で助ける」とね。その言葉を聞いて私は新たな光を見出したんだ』
本当にオールマイトは悩みが消えたのか普段とは違う晴れやかな笑みを浮かべる。
『彼等と出会ってから私は思い切ってかつての恩師と友に会いに行って話し合ったよ。おかげでかつてのわだかまりが消え、再び私に力を貸してくれることになった』
オールマイトはそう言うとカメラの方に向ける。
『画面の前の皆もぜひ心に刻んで欲しい。「どんな困難が降りかかっても皆で協力すれば必ず乗り越えられる」と。”君達全員が新たな平和の象徴”になることを願っているよ』
そう締めくくると番組は終わり、ニュースへと切り替わる中、僕はオールマイトが言った言葉を心に刻む。
「ちょっと走るか……」
僕は運動用の服に着替えると家事をしている母さんにジョギングをする事を伝えて家を出た。
―――
「ん?」
ジョギングを始めて数分、僕は近くの公園に通りかかると一人の少女が陰鬱な雰囲気を出しながらブランコでゆらゆらと揺れていた。
何故か気になった僕はその少女に話しかけた。
「君、大丈夫?」
「……貴方は?」
「僕は緑谷出久。君の名は?」
「……渡我被身子です」
僕は彼女、渡我被身子の話を聞く。
彼女は至って普通な家庭で生まれたが、他とは違うものを持っていた。
彼女は個性の影響で幼少期から小鳥などの愛着のある対象の血液に興味を示し、血まみれのスズメに直接口をつけて吸血するなど猟奇的な行動を取っていた。
それを見た両親が『異常者』としてトガの将来を不安視して矯正を試みた。
しかし、彼女は表面上それを受け入れつつも、社会の「普通」を押し付けられる事に、内心では鬱屈した思いを抱いていた。
今日までは何とか本性を押し隠していたものの、吸血衝動が日に日に強くなっていき、ついには自分で抑えきれなくなってしまっているらしい。
「君の個性ってどんなの?」
「私の個性は相手の血を吸うことでその人に変身できる個性です」
「じゃあこれは個性の反動かな?」
僕は彼女の話を聞いて個性の反動だと予測する。真面目に聞いている僕に渡我さんは少し戸惑いながら聞いてきた。
「出久君は私が怖くないの?」
「実は僕の個性にも君と似た能力があるんだ」
僕は彼女に【英霊憑依】に存在する彼女と似た吸血に関係する英霊、カーミラとヴラド三世の話を聞かせる。
すると渡我さんは少し安心したような表情を浮かべる。
「そっか。私だけじゃなかったのですね」
「君の個性とは異なる能力だけど吸血という点では一緒かな」
そして更に詳しく聞くと彼女が愛着のある生き物の血に執着する理由が分かった。
それは他者、つまり好きな人になれる『個性』の影響で、『その他者になれる力の源である血への執着』という特殊性癖を持つようになってしまったのだ。
しかしその社会の「普通」とは違う感性は家族からも他人からも到底受け入れられるものではなく、現在では両親からは「人間じゃない子」とまで蔑まれたらしい。
「そうか。今も辛い?」
「辛いです。自分らしく生きられないのが」
「……そっか」
彼女の辛そうな表情を見た僕はある事を思いつき、それを実行するために話しかける。
「渡我さん、君のカバンに刃物はある?」
「え?刃物?鋏くらいしかないです」
「ちょっとそれを借りても良いかな?」
僕は渡我さんから鋏を受け取るとそれを使って自分の腕を傷つける。そして傷つけた所から血が滲むのを確認するとそれを彼女の前に差し出す。
「はい、これで少しは収まるはずだよ」
「……良いの?」
僕のこの行動に気付いた渡我さんは目を見開きながら聞いてくる。
「うん、君の吸血衝動を無くすことは出来ないけど和らげることは出来るから」
僕がそう言って笑いかけると、渡我さんはようやく笑みを浮かべた。
「ありがとう。出久君」
そう言って渡我さんは僕の血を吸った。時間にして数分だろうか?ようやく満たされたのか口を離した。
「ごちそうさまです、出久君」
「お粗末様でした」
吸血衝動が収まり、幾分か楽になった渡我さんに僕は笑顔で答える。
そのあと僕は渡我さんの事をスマホで根津校長に報告して彼女の環境をどうにか出来ないか相談した。
事情を聴いた校長は即答で何とかすると言ってくれたので、もうこれ以上彼女が苦しむことは無いはずだ。
その後、彼女は根津校長の手腕により保護された後、雄英高校の看護教諭リカバリーガールの元に身を寄せることになった。