僕と麗日さんは二階へと上がり三階へと続く階段へと向かう廊下を歩く。
「この先の階段を昇れば三階、そこを超えたらもう半分やね。爆豪君たち、いつ仕掛けてくるかな」
麗日さんはそう言いながら周りを見る。
その顔は初のヒーロー基礎学の授業ということもあり緊張している様だったが、それと同時にあくまでも授業であるという油断も孕んでいた。
その麗日さんを僕が右手で制止した。
「……かっちゃんだ」
そこで麗日さんは初めて階段から足音が近づいていると気が付いた。
「足音で見分けんなよ。どんな聴力してんだお前は」
そう言いながら階段からかっちゃんは姿を現す。
「正面から来るなんて、随分余裕だね」
「ハッ、奇襲こそテメェが最も警戒してる事だろうが。テメェがカウンター用意してんの分かってんのに態々飛び込む訳ねぇだろ」
僕はかっちゃんと軽口を叩きながらも、お互いの間合いを探っていた。
今まで幾度となくやり合った相手ではあるが、そこに新たにコスチュームという未知数の要素が加わった事で今や相手の手の内は己の知るものから変わっているとお互いに理解しているが故に。
(正直この狭い通路なら奇襲を受けても即時対応できる自信はあった。最上階に核を設置しているという設定上、あまり派手な攻撃は出来ないから建物を貫通しての攻撃は選ばないだろうし。
けど、正面から来ることを想定していなかった訳ではないし、かっちゃんが飯田君を残して来た事は寧ろ想定内。
ここは上手く麗日さんを通して、それからどうにかかっちゃんを抑えて僕も最上階へ昇る。
今考えられるのはそれくらいだ)
僕は考えを纏め、腰に差していた”刀”を手に取る。それと同じくかっちゃんも僕に構えを取る。
そして僕は地面を蹴り、かっちゃんは爆破による加速で迫る。
「麗日さん!走って!」
「メガネ!手筈通りだ!」
僕は空間跳躍の域にまで達した非常に高い機動力と瞬発力で迫りながら刀を振るい、かっちゃんはそれを左腕の籠手でガードしつつ右手を僕に向けて爆破させる。
僕はそれを回避して後ろを取って切りかかるが、かっちゃんは爆破で横に避ける。
それを数回繰り返した後、お互い距離を取った時、かっちゃんが口を開く。
「刀って事はクラスはセイバー、格好は日本の英霊か。その異常な俊敏性と剣技。さらに特徴的な”羽織”」
かっちゃんは鋭く睨みながら個性【爆破】を発動させる。
「てめぇが憑依させてんのは幕末の頃、京都を中心に活動した治安組織【新選組】の誰かだろ?」
かっちゃんは僕が憑依させている英霊を言い当てながら爆破を浴びせるが直前で回避して、再び切りかかる。
かっちゃんのいう通り、僕は幕末の京都にその名を轟かせた新選組、その一番隊隊長、【沖田総司】。彼女の力を借りた。
彼女のスピードと剣技なら建物を壊さずに相手を無力化出来ると考えたからだ。
「流石に分かるよね!」
「日本じゃ、有名な組織だからな!まだ誰かは特定できてねぇが!」
かっちゃんは牽制に小規模な爆破を巻きながら僕の接近を妨害する。
「それにてめぇに対抗するために世界中の歴史や伝承を片っ端から読み漁ったからなぁ!」
そして再び始まる超高速戦闘。剣撃と爆破が入り乱れる中、僕はかっちゃんに話しかける。
「麗日さんを止めなくていいの?」
「どうせそうやって意識が逸れた所を狙う気だろうが」
「そうとも限らないんじゃない?」
「そもそもあの丸顔をここで止めるメリットも大してねぇ。ならテメェ一人抑えればあとはあのメガネが丸顔抑えて終わりだ」
勝己の冷静な分析に、出久は冷や汗を浮かべた。
(分かってはいたけど、やっぱりそこまで読んでるよね。
でも読まれてる事も想定内。
その上で、確実にかっちゃんを仕留める!)
僕は再び縮地でかっちゃんへと迫る。
かっちゃんはそれを再びバックステップで、今度は爆破を用いた牽制を行いつつ躱した。
そして手のひらをやや下に向け裏に返し、出久の真上へと一瞬で移動する。
その時、カチッという音が鳴るのと同時にかっちゃんは僕の背後へと爆破で急降下し、僕はそちらに気を取られた。
攻撃のモーションに入る勝己へと振り返りその勢いを利用して刀を構えた僕は突然悪寒を感じた。
「っ!?」
僕は攻撃を中断して全力でその場を離れる。その時、僕が居た場所が爆発に飲み込まれた。
「ほう、良く避けたな」
そう言ってかっちゃんは再び爆破で加速して襲い掛かる
その目に慢心は微塵もなく、全ての攻撃を有機的に機能させ確実に僕を追い込んでいく。
「ぐっっ!!!」
腹部への攻撃を受けながら僕は後ろへと転げることでどうにか体勢を立て直す。
「あの時と逆だなデク」
僕が顔を上げると、そこにはこちらを射抜かんとする程の鋭い目付きのかっちゃんが立っていた。
「覚えているか?お前が個性に目覚めた時、俺がお前に喧嘩を売ったのを」
「覚えているよ。あの時はいきなりだったからびっくりしたよ」
「お前にぼろ負けした時、俺はまだ弱ぇって思い知らされたな」
かっちゃんはそう言いながらゆっくりと歩く。僕は立ち上がり構え直す。
「だが弱いってことは悪い事じゃねぇ、見方を変えれば俺はまだ強くなれるってことだ。
だからお前を始め、オールマイト、他のプロヒーロー、この一年で出会った強ぇ奴から俺は学んだ。
全ては№1ヒーローになる為だ。プライドを捨てた訳じゃねぇ。
だが、それに縋っているだけじゃ今より先には進めねぇんだよ」
そう言って勝己は両手から火花を散らす。
こちらはいつでも始められると、そう宣言するかの様に
「俺は常に前に進む。今は俺の踏み台になれ、デク」
その言葉を聞いて僕は、かっちゃんの放つプレッシャーに表情を強張らせた。
けどその後すぐに緊張を和らげるために体から力を抜いた。
「デク、か…」
小さく呟き、そして僕は今までの人生を思い返していた。
「デク。僕達が子供の時に、君が僕に付けた名前だ。力もない役立たずの木偶の坊。その癖、誰かを助けるのを諦めなかった命知らず。そんな馬鹿な事をやっていたから君は僕をなんとか諦めさせようとして虐めてたんだよね」
僕はゆっくりと深呼吸をし、強くかっちゃんを見据える。
「僕はこの1年間で、色々な人と出会った。
あの日”あの記憶”を取り戻していなかったら、きっと起きなかった出会いばかりだ。
君とだって、今の様な関係じゃなかったかもしれない。
そしてその出会いの先で出会った人がいる。
その人が、僕の名前に新しい”意味”をくれたんだ」
僕は刀を強く握り、そして再び構えをとった。
「いつまでも君の後ろは追いかけない。かっちゃん、僕は”頑張れ!!”って感じのデクだ」
その宣言で、僕の心を縛っていたプレッシャーは消え去る。
そして互いの視線がぶつかり、次の瞬間には僕はかっちゃんに襲い掛かった。
「ハァ!」
「食らえ!」
僕達はお互いに個性を用い、高速の攻防を繰り広げる。
高速の剣技を回避や防御でしのぐかっちゃん、襲い来る爆破を高速で回避する僕。
何時までも拮抗した戦いに流石にかっちゃんは煩わしくなったのか建物を破壊するぎりぎりを見極めて強力な爆破を放つ。僕はそれを見切って避け、がら空きとなった胴体に彼女の宝具を使う。
「しまっ!?」
「宝具【無明三段突き】!」
隙を見せたかっちゃんの胴体に三連続の刺突を叩きこむ。
この宝具は沖田総司の超絶技巧とスピードが生み出す必殺奥義であり史実における得意技。
『平晴眼』の構えから踏み込みの足音が一度しか鳴らない内に3発の突きを繰り出す。超絶的な技巧とスピードが織り成す必殺の「魔剣」。
平晴眼の構えから“ほぼ同時”ではなく“全く同時”に放たれる平突きで、放たれた「壱の突き」に「弐の突き」「参の突き」が重なっている。
つまり、放たれた三つの突きが同じ位置に、同時に存在しており、この「第一の突きを防いでも同じ位置を第二、第三の突きが貫いている」という矛盾によって、剣先は局所的に事象飽和現象を引き起こし、二重の防御すらたやすく突破して標的の核心を突き砕く。
それは事実上防御不能のまさに必殺技であり、結果から来る事象飽和を利用した対物破壊に優れる。
「がはっ!?」
これを真正面から喰らったかっちゃんはそのまま壁に叩きつけられて気絶した。その時。
『勝者!!ヴィランチーム!!!』
オールマイトの終了の合図と同時に鳴るタイムアップの音に今回の訓練は終了した。
「今回はかっちゃんの作戦勝ちか。悔しいな」
僕は今回の事を反省して気絶したかっちゃんを背負って上の階へ向かった。
―――
そしてモニター室。
僕は三人の傷を治した後、オールマイトは僕達の訓練の評価を始めた。
初戦から高水準の激戦にクラスメート達は興奮していた。
勝ったのはヴィランチームだが全員がベストを尽くした戦いだったとの事。
ヴィランチームは巡回と警備の役割を分けきっちり敵になりきり、ヒーローチームは足止めと突破と対応した。どちらが勝ってもおかしくない戦いだった。
無用な破壊をしなかったのも高評価。いかに敵退治のためとはいえ建物を破壊したら、某巨大化ヒーローのように借金だらけになってしまう。
ベストが選べない訓練だったよとオールマイトは言った。
ただ、かっちゃんはより強くなると誓い、麗日さんは今後の課題を見つけ、飯田君は得るものが多い訓練だったと言っていた。
その後気合の入ったクラスメート達により苛烈となったヒーロー基礎学の戦闘訓練は終了した。
放課後、僕らは教室にてクラスメート達とあらためて自己紹介をし訓練の反省会をした。
その中で僕はクラスの皆に自分の個性を根掘り葉掘り聞かれ、かっちゃんは僕に負けた事を慰められてブチギレたりしたけど和気あいあいと楽しい時間を過ごした。