月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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かぐやの誕生日に合わせて今回から原作開始です。
基本的は小説版を参考にちょこちょこ映画の要素を入れます。


原作
第24話 Girl Meets Baby


 ――今は昔……。

 

 

 

 季節は過ぎ、運命の七月。私はそわそわしながら毎日を過ごしていた。そう、今月こそ『かぐや』が月から落ちてくる。全ての始まりであり、ヤチヨが待ち望んだ未来の入り口だ。

 

「……」

 

 だが、いつまで経っても来ない。てっきり、七月の頭に落ちてきて彩葉と出会うと思っていたのだが、何も起こらないまま、七月の中旬に差し掛かってしまった。更に明日から三連休だ。どんな風に『かぐや』が落ちてくるかわからないがおそらく街中で出会うことになるはず。だが、問題の出会う側である彩葉だが――。

 

「よーし! 今度の三連休はバイト、勉強、睡眠三昧! そのための買い物も済ませてたから家を出るのは最低限でオッケー! もしかしたら白野、おつかい頼むかもしれないからよろしく!」

 

 これが数日前に行われた彩葉との会話である。うん、外に出る気ゼロ。今月、私は可能な限り、彩葉を外に連れ出しているのだが、あれは誘っても断るだろう。それほどの熱量だった。

 

 

 

 ――では、なくて。

 

 

 

「……はぁ」

 

 ヤチヨの描く未来。その詳細を聞いていないせいでこちらから動こうにも動けない。もしかして、私がいたせいで『かぐや』が落ちてこない未来になってしまった?

 

 

 

 ――超未来だったり。

 

 

 

 いやいや、それはあり得ない。『かぐや』は月に住む思念体。地上で私がどれだけ大暴れしても彼女の行動に影響はないはずだ。ない、よね?

 

 しかし、否定しきれない要素がある。月の聖杯戦争。結局、一年以上経った今も私はその手掛かりを掴んでいない。もし、その戦争が『かぐや』に影響を与えている可能性もある。

 

 

 

 ――月で行われた聖杯を巡る戦争だったり。

 

 

 

 そこまで思考を巡らせ、私は静かに否定した後、左手の甲に視線を落とす。傷一つない若々しい女の手。あの聖杯戦争の参加権を意味する赤い痣――令呪は刻まれていない。

 

 

 

 ――いやいや、大昔でも超未来でも聖杯戦争でもなくて。

 

 

 

 結局、こちらに情報がない時点で『かぐや』と聖杯戦争を繋げる意味がないのだ。今は考えないようにしよう。

 

 

 

 ――今とあんまり変わらない、少しだけ未来の地上の世界。

 

 

 

「うーん、うーん」

 

 『かぐや』はいつ、落ちてくる? 今日、明日、明後日? それとも来週? 月末? 本当に落ちてくるのか。私のせいでめちゃくちゃになってしまったのではないか。そんな不安が頭を過り、思わず呻き声を漏らしてしまった。

 

 

 

 ――腕を組んでうんうん唸っている普通の女子高生ありけり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっつ~、白野ー」

「おっつー」

 

 うんうん唸りながら彩葉たちと共に登校し、いつものように学校生活を終えた放課後。私はスマホでヤチヨからメッセージがないか確認しつつ、廊下に出ると真実が待ち構えていた。

 

「どうしたの? 彼氏は?」

「今日は何も約束してなーい。一緒に帰ろーぜー」

「大丈夫」

「やったー、彩葉と芦花も誘っちゃおー」

「彩葉は先生に呼ばれてたから時間かかるかも」

 

 確か進路のことで呼ばれたと言っていた。まだ進路を決めかねているため、少し時間がかかるかもしれない。

 

「お待たせー。お、白野もいたんだ。一緒に帰ろー」

「うん、いいよ」

「よーし、じゃあ、職員室前で彩葉を待ち伏せだー」

 

 そこへ芦花も合流。そのまま三人で職員室に向かっていると不意にスマホが震えた。チラリと画面を見るとヤチヨからメッセージが届いたらしい。

 

「ちょっとメッセージ返すから先行ってて」

「はーい」

 

 ヤチヨからメッセージがある時は緊急なことが多いため、すぐに確認する習慣が付いていた。芦花と真実を見送り、壁際に寄ってメッセージを確認する。

 

『この前言ってたプログラムの本、見つけたよ! ただ少し遠めの本屋さんにしかないっぽい? 残りは少ないから今日行った方がいいかも! それと来週の火曜日までアシスタント業はお休みね! 早めの夏休み、ごゆっくり~♪』

 

 そんなメッセージと共にプログラムの本の在庫がある本屋の名前と地図が添付されていた。それにしても三連休なのにアシスタント業を休んでいいというのは引っかかる。彼女のことだからリスナーたちを楽しませるために面白い企画配信を用意していると思っていた。もちろん、アシスタントである私も巻き込まれるだろうと身構えていたのだが、拍子抜けだ。

 

「……」

 

 まぁ、ヤチヨにも考えがあるに違いない。私は了解の旨を送り、職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり日が落ちた帰り道。無事に本屋でプログラムの本を買えた私は考え事をしながら歩いていた。もちろん、考えるのは7月に月から落ちてくるはずの『かぐや』について。

 

 現状、こちらからアクションができない。しかし、ヤチヨにそれとなく聞いてもはぐらかされる。可能であれば今のうちに何かしらの対策を立てたり、準備をしておきたいのだが、情報がなければ何もできない。そんなもやもやを抱えたまま、7月を過ごしていた。

 

「あれ、白野?」

 

 どうしたものかと考えている、偶然にも彩葉と出くわした。どうやら、彼女はバイト帰りのご様子。少し疲れたような顔をしている。それでも目の下のクマはほとんど消えており、一年前に比べたら遥かに健康的だった。

 

「彩葉、お疲れ」

「うん、ありがと。そっちは? こんな時間に出歩いてるの珍しいね」

「プログラムの本が欲しくて少し遠めの本屋に行ってたの」

 

 魔術(コードキャスト)の開発でどうしても術式(プログラムコード)が思いつかず、ヤチヨに相談していたのだ。買う前にさらっと中身を読んだが参考になりそうだったため、即買いした。さすがヤチヨである。

 

「そうだったんだ」

「そっちはどう? 明日から三連休だけど」

「ふっふっふ……準備は万端だよ。我ながら用意周到過ぎて恐ろしい」

「へっへっへ、さすがは彩葉さん。おつかいがあれば何でも言ってくだせい」

「はっはっは、もっと褒めるがよい!」

 

 学校では完璧優等生を演じている彼女だが時々、変なテンションになる。そういう時はとりあえず、ノッておく。この一年で学んだことの一つだった。

 

『神々のみんなー、元気してるー? 月見ヤチヨです! ツクヨミで待ってるよー!』

「あ、ヤチヨ」

 

 周囲の人に迷惑にならない程度に高笑いをしている彩葉を微笑ましく見ていると不意に彼女は立ち止まった。視線の先には大きなモニター。そこにはヤチヨがこちらに手を振って笑っていた。そして、その後ろにダサい犬の着ぐるみを着た怪しい人が立っており、『登録ユーザー一億人突破!』と書かれたプラカードをブンブンと振っている。

 

「登録ユーザー一億人だって。すごいよねー」

「……そうだね」

 

 彩葉の言葉に相槌を打つ。そう、あの着ぐるみこそ、ヤチヨのアシスタント・ザビ子――私だ。この前、ヤチヨに騙されるような形で撮影させられてしまったのだ。

 

「流れ星!」

「流れ星だ!」

「え?」

 

 モニターに映っているヤチヨとザビ子を見ていた彩葉だったが近くを歩いていた通行人の声に空を見上げた。私もその視線を追いかけると確かに夜空を駆ける一条の光。確かに流れ星だ。こんな都会で見られるほど大きなそれは珍しい。

 

(そういえば、お願い事するんだっけ?)

 

 ヤチヨが待ち望んだ未来が来るかどうかわからない。私のせいで全てが台無しになるかもしれない。だからだろうか、私はほぼ無意識で胸の前で腕を組んでそれを心の中で唱えた。

 

 

 

(ヤチヨたちがハッピーエンドに辿り着けますように)

 

 

 

「か、金……」

「……」

 

 隣から聞こえた守銭奴(いろは)の震える声は無視した。お金は大事だ。うん、現実的な彼女らしい、夢も希望もない女子高生らしくない大人(くそ)みたいな願い事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私たちは適当な話をしながら家に向かって歩き、アパートが見えたところで気づいた。街灯とは違う、明らかに異常な発光体。そう、それは七色に光る竹――ではなく、電柱。名づけるならゲーミング電柱だった。しかも、なにやら観音開きしそうな扉も見える。更に雰囲気満点のスモークのおまけ付き。

 

「……」

「……」

 

 私たちは茫然とその電柱を眺め、お互いに顔を見合わせた。気のせい? 気のせいじゃない? 気のせいじゃないか、と一年以上の付き合いで身に付いたアイコンタクトで意思疎通を行い、同時に頷く。どうやら、考えていることは一緒らしい。

 

「それでさー、三連休の予定なんだけどー」

「うんうん」

 

 わざとらしく会話をしながらその場から華麗にエスケープ。光るとはいえ相手はただの電柱。触らなければ問題ない。そう思いながら彩葉とアパートの方へ歩き出した時、軽快な音楽と共に電柱の扉がゆっくりと開き――。

 

「ふんっ」

 

 ――彩葉が飛びついて強引に閉めた。その動きはまさに電光石火。しかし、彩葉、それは悪手だ。無視するなら最後まで無視するべきだった。どれだけ軽快な音楽が流れようと明らかな厄介ネタが独りでに開こうとしても知らぬ存ぜぬを貫くべきだった。

 

「く、こいつ……白野、手伝って!」

「……はぁ」

 

 案の定、ゲーミング電柱は獲物を見つけたと言わんばかりに扉を開けようとする。それを何とか押さえつけようとする彩葉だが、圧倒的に筋力が足りておらず、押され気味だ。仕方ない、私も加勢しよう。筋力E--(女の子)の力を見せてやる。

 

 夜に七色に光る電柱の扉を押さえつける二人の女子高生。うん、傍から見たら怪しすぎて通報待ったなしである。

 

「いや、力つよっ」

「さすがに無理」

 

 しかし、私たちはか弱い女の子。残念ながらゲーミング電柱の扉を押さえつけることはできず、バインとそれは開いてしまった。

 

「たい♡」

 

 その扉の向こうで待っていたのは――満面の笑みを浮かべた赤ん坊だった。柔らかそうなマットの上で横になり、手足をバタバタさせて生きていることをこれでもかとこちらにアピールしてくる。うん、ハロー、ベイビー。君はどこの誰ちゃんなのかな?

 

「……」

「べっくしゅ……きゃっきゃ」

 

 隣に立つ彩葉はあまりの事態に茫然としており、そんな彼女を見て赤ん坊は笑った後、くしゃみをして唾を彼女の頬に飛ばし、更に笑い声をあげた。

 

 しかし、これはなんだ? なんで、赤ん坊が七色に光る電柱の中にいる?

 

 私も彩葉のことは言えない。現実離れしすぎたこの光景を前に変なことばかり考えてしまう。冷静な性格だと思っていたのだが、どうも自分を過大評価していたようだ。

 

 

 

 

 

 ――今は昔……では、なくて。

 ――今とあんまり変わらない、少しだけ未来の地上の世界。

 ――ゲームをしている普通の女子高生と腕を組んでうんうん唸っている普通の女子高生ありけり。

 ――名をば、酒寄彩葉と岸波白野となむいいける。

 ――彩葉、白野って呼ぶべし♪

 ――彩葉と白野が家につくと、なんと、もと七色に光るゲーミング電柱なむ一筋ありける。

 ――あやしがりて寄りて見るに、電柱の中光りたり。

 ――それで彩葉と白野はこう言ったの。

 

 

 

 

 

「ん??????」

 

 

 

 こうして、七色に光る電柱の中にいる赤ん坊を見ながら私と彩葉は赤ん坊を前にしてほぼ同時に間抜けな声を漏らしたのである。






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