月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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原作が始まりましたが話のキリがいいところで区切る予定です。
そのため、一話の長さに差がありますのでご了承ください。


第25話 Protection

「ねぇ、白野。私、疲れてるのかな。なんか七色に光る電柱の中に赤ちゃんが見えるんだけど」

「きゃっきゃ!」

「おっかしいなぁ……なんか楽しそうな声も聞こえてくる。この三連休が楽しみすぎて幻聴も聞こえ始めちゃった」

「現実見なよ」

 

 一向に現実を見ようとしない彩葉の肩に手を置いて小さくため息を吐き、ついでの彼女の頬に付着した赤ん坊の唾をハンカチで拭いてあげる。

 

(これはまた……)

 

 何故だろう、どう足掻いても巻き込まれるビジョンしか浮かばない。ただでさえ『かぐや』が落ちてくるかもしれない7月にこんな超常現象が起こるのは予想外だ。この後、どうすれば――。

 

「これ、どうする?」

 

 ――そんな思考を遮るように彩葉が私の方を見て問いかけてきた。このまま放置はできないだろう。少なくともこんな住宅街のど真ん中に置いていくのはあまりに良心が痛む。

 

「そうだよね、一旦、電柱から出すか。うわ、これどう持つんだ」

 

 そう言って彩葉はそっと電柱の中に両腕を差し込み、赤ん坊を回収。すると、『お疲れ~』と言わんばかりに電柱の扉が閉まり、そのまま消えてしまった。

 

「え、すみません! 忘れ物ですよー!」

 

 まさか扉が消えてしまうとは思わず、赤ん坊を抱えたまま電柱を叩く彩葉。電柱もすっかりその役目を終えたように七色の輝きが消えている。残ったのは必死に電柱を叩く彩葉とどうしたものかと困惑する私。そして、光が消えてもなお、きゃっきゃと楽しそうに笑う赤ん坊だった。

 

「ね、ねえ! これ、どうしよう!」

「どうしようね」

「他人事!?」

 

 本当にどうしようか悩んでいるのだ。ゲーミング電柱が消えた今、警察に言っても悪戯だと思われるだろう。せめて、写真を撮っておけばよかったか。いや、合成写真だと判断されるか。

 

「一旦、保護するしかないんじゃない?」

「でも、私たち一人暮らしだし、赤ちゃんを育てるお金だって――」

「もうどうなってもいいんだぁ!」

「ひぃ!?」

 

 彩葉が悲鳴のような声を漏らした時、どこからか酔っぱらいのサラリーマンの絶叫が響いた。更に犬の鳴き声やガラスの割れる音、車の急ブレーキ音が立て続けに私たちの鼓膜を振るわせる。

 

「ふえぇ」

「あ、ちょ、駄目!」

 

 もちろん、赤ん坊も例外ではなく、突然の騒音に驚いたのか泣き出してしまった。慌てて彩葉が赤ん坊を揺らしてあやすも効果はなし。そのまま、助けを求めるような目でこちらを見た。

 

「……まずは家に入ろう。このままだと通報されるかも」

「っ! 急ごう!」

 

 わんわん泣いている赤ん坊を抱きかかえ、彩葉はアパートの階段に向かう。私もそのあとを追い、そのまま彼女の部屋に入った。

 

「よーしよし……駄目、全然泣き止まない」

「ちょっと調べてみる」

 

 彩葉が今にも死にそうな顔で必死に赤ん坊をあやすが上手くいかない。こんな時こそ、文明の利器。助けて、ネットの人!

 

 だが、スマホでポチポチと検索しているといきなりドン、という鈍い音が部屋に響く。俗に言う壁ドンだ。隣の人が赤ん坊の泣き声に耐えられなくなったのだろう。

 

「うわっ……初めて壁ドンされた……」

 

 部屋主である彩葉はショックを受けたような顔で肩を落とす。彩葉のお隣さんは私のお隣さんでもある。少し申し訳ないことをした。明日以降、顔を合わせたら謝っておこう。

 

「白野、何かあった?」

「……子守唄?」

 

 お隣さんのためにも急いで赤ん坊を泣き止ませないとならない。そこで私が見つけた方法は子守唄だった。

 

「え、子守唄なんて知らないよ!」

「ヤチヨでいいんじゃない?」

 

 ん? ヤチヨ?

 

 何気なく答えた私の脳裏で何かが引っかかる。超常現象を前にして戸惑っていたからこれまで結び付けられなかったがタイミング的にもバッチリ。

 

「えぇ……じゃあ――」

 

 相当、焦っているのだろう。私が首を傾げたのに気付かず、彩葉は『Remember』を口ずさんだ。すると、何をやっても泣いていた赤ん坊は一瞬で泣き止み、すやすやと寝息を立ててしまう。

 

「ヤチヨすげー」

「……」

 

 気持ちよさそうに眠る赤ん坊を見下ろして彩葉はヤチヨパワーに脱帽していた。そんな中、私の疑念は更に大きくなっていく。

 

(いや、でも……)

 

 ヤチヨは言っていた。彩葉と過ごした時間は数か月しかなかった、と。しかし、目の前で眠るこの子が件の『かぐや』だとしたら計算が合わない。まさかこの子、竹みたいに一晩で急成長する?

 

「えっと……この子、どうしよっか」

「……とりあえず、晩ご飯食べる?」

 

 いや、今は置いておこう。まずはこの赤ん坊の処遇だ。困り果てた顔で意見を求めてくる彩葉に対し、私は決断を先送りにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤ん坊の様子を見ながら手分けして晩ご飯の用意を済ませ、お腹を満たした後、私たちはこの子の処遇を話し合った。

 

 警察は頼れない。超常現象(ゲーミング電柱)のことを素直に伝えても信じてもらえないだろうし、何より証拠がない。どうにもならなくなるまで連絡はしない方がいいだろう。

 

 しかし、保護しようにも私たちは学生。明日からの三連休はまだしも学校が始まってしまったら赤ん坊をどこかに預けなければならない。夏休みが近いとはいえ、交代で休もうにも内申に大きく響くだろう。奨学金を狙っている彩葉は大打撃だ。

 

「……彩葉?」

「すぅ……すぅ……」

 

 あーでもないこーでもないと話し合っているうちにバイトで疲れていたのか彩葉がダウン。いつの間にか赤ん坊を守るように寄り添って眠っていた。その光景が幼い妹の面倒を見る姉のようで自然と笑みが零れる。

 

「……」

 

 そんな彼女たちを置いて私はそっと部屋を後にして自分の家に戻った。そして、スマコンを手に取って目に装着。そのままツクヨミにログインしていつものミーティングルームへと向かった。

 

「お、こんばんはー。偶然だねー」

 

 そこにはすでにヤチヨがいた。特に約束もしていないのにミーティングルームで鉢合わせるわけがない。そもそも暇さえあれば配信をしているため、何もせずに時間を潰すのは彼女らしくなかった。つまり、私がここに来るとわかっていたのだろう。

 

「質問したら答えてくれる?」

「ざんねーん! 今日のヤッチョは意地悪ヤッチョなので教えませーん!」

 

 それなら話は早いと質問しようとしたのだが、それすらも駄目らしい。彼女は腕で×を作り、ケラケラと笑った。だが、少なくともヤチヨがこちらの事情を把握しており、特に問題なく事が進んでいることは判明したので良しとする。

 

「そっか。じゃあ、私は成り行きを見守るけどそれでいい?」

「オッケー! あ、アドバイスなんだけどベビー用品は数日分で大丈夫だよ!」

「……」

 

 どうやら、私の予想通り、竹みたいに急成長するらしい。しかし、あの子が『かぐや』か。成長したらどんな子なのだろう。いや、待て。あの子が成長した姿こそヤチヨなのだとしたら――。

 

「んー? どしたー?」

「……何でもない」

 

 ――正直、こんな風には育ってほしくないな、と失礼ながら思ってしまった。







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