『やった! やたやた! やったー! やったああああ! やったああああああああああ!』
花火大会に誘われたかぐやの反応がやばすぎたので一旦、落ち着かせようとしたがそれでも
「かぐや、急ぎすぎ」
「だって、彩葉から誘ってくれたの初めてなんだもん!」
私の手を引きながら振り返って笑うかぐや。その太陽のような笑顔に私は思わず目を細めてしまう。ああ、本当に――眩しいな。
私たちが最初に向かったのは手ぶらで入店OKを売りにしている和服レンタル屋さん。せっかくだから浴衣を着て花火大会に行こうとかぐやの提案に乗った形である。
「ねーねー彩葉、かぐやが彩葉の浴衣選ぶからさぁ、彩葉はかぐやの選んでー?」
「え、良いけど」
「きゃっほー! い・ろ・は・に・に・あ・い・そ・う・な・の・はー♪」
思わず頷くとかぐやは店内にも関わらずるんるんと歌いながら浴衣を選び始めるかぐや。うーん、かぐやに似合いそうな浴衣か。十分ほど店内を吟味して二人とも選び終えた。似合いそうなの、と考えながらも私の好みが入ってしまった浴衣を『せーの』で見せ合った。
「あ、彩葉、ひまわり選んでるー!」
「かぐやも?」
私が選んだのは紺色に淡い黄色一色でひまわりが描かれた落ち着いた浴衣。かぐやが選んだのは白地に大輪のひまわりが描かれた元気な印象の浴衣だった。
「私、あんまひまわりっぽくなくない?」
「えー? 独りで真っ直ぐ立ってて、綺麗で、彩葉っぽいよー?」
そういうかぐやだったが上を向いていて、明るくて、目を引く彼女の方が似合っていると思うのだが。
とりあえず、浴衣選びが終わったので着付けとヘアメイクをしてもらう。あまりこういう機会はないのでちょっと緊張してしまった。
「あーあ、ここに白野がいればなー。ほんと、なんでロンドン行っちゃったんだろ」
お揃いの髪飾りを付け、お店の前にある大きな鏡で二人並んで撮影したところでかぐやが残念そうに白野の話を出した。確かにいつも一緒にいた白野がいないのは少し違和感を覚える。
(もし、白野の浴衣を選ぶなら……)
何が似合うだろうか。そう思いながら適当な花を思い浮かべた。そして、思い出したのは彼女と出会った春。その季節を象徴する花は――。
「――桜かな」
「――白野は桜っぽくない?」
ほぼ同時に桜を口に出し、私たちは顔を見合わせる。そして、ぷっと笑った。ああ、そっか。かぐやも同じことを考えていたのか。
「なんで桜なの?」
「ザビ子の時、黒鬼たちをばったばったと倒してたから! アバター撃破したら桜の花びらが舞うじゃん?」
「おい」
確かに白野が『KASSEN』で戦えば桜の花びらがたくさん舞うのは確かだ。その印象が強烈だったのだろう。しかし、さすがにツッコんでしまった。
「もー、冗談だってばー。ほんとはね、白野は……うん、なんていうかさー。今にも消えちゃいそうなんだよね」
「え?」
予想外の言葉に私は思わず声を漏らしてしまう。まさか彼女が白野に対してそんな印象を持っていたと知らなかったからだ。
「だって、白野ってさ。自分のこと、何にも言わないんだよ? ただかぐやの傍にいてくれて、苦笑を浮かべながら助けてくれて、どんなことでも解決しちゃう。でも、自分のことだけは何も教えてくれない。どんなこと考えてる、とか。こういうことをしたい、とか。なーんにも言ってくれないの」
「かぐや……」
「だから、桜! 派手な感じじゃないのに自然と人が集まるっていうのかな。静かに咲いてみんなを見守ってくれる感じ! それに春って出会いと別れの季節って言うじゃん?」
「確かに……そうかも?」
意外と白野のことを見ていたらしく、桜を選んだ理由は納得できるものだった。
(でも、消えちゃいそう、か)
確かに白野はフッと消えてしまいそうな印象を受ける。今だってそうだ。勝手にロンドンに行ってしまい、こうやって私たちを混乱させている。本当に困った人だ。
「彩葉なんで桜だったの?」
「それは……あ、ほら、そろそろ行かないと夏祭り始まっちゃうよ」
「あ、話逸らしたー。え、マジで行くの!? ちょっと待ってよー!」
初めて会ったのが春だったから。そんな単純な理由だったのが恥ずかしくて私は誤魔化すようにそう言って歩き出す。そんな私をかぐやが慌てて追いかけてきた。
会場までは電車で行くことにした。改札を抜けるまでは浴衣を着ているのが照れ臭かったが車内にも何人か浴衣の子がいてくれて少しだけ安心する。
「見て、彩葉!」
問題は隣のお姫様だった。よほどテンションが上がっているのか、初めて電車に乗るわけでもないのに子供のように座席に膝を乗せて窓を覗き込んでいた。
「すごーい、早ーい! うわ、ぶつかる、こわっ!」
「……駅に着く時は前向いて座ってね」
注意しようと思ったがこんなに嬉しそうにしている彼女を止めることはできず、苦笑を浮かべながらそう言うしかなかった。きっと、子供を連れ出す親の気持ちはこんな感じなのだろう。
それから目的の駅で降りて会場までの道を歩く。本当なら浴衣を着るのなら草履の方が合うのだが、慣れていない上、かぐやが騒ぐだろうと予測して二人とも普段の靴を履いている。そして、予想は的中して道中の道のりでかぐやはあっちへふらふら、こっちへふらふらと気になるものがある度に駆け出していた。草履を履いていたら何度も転んでいただろう。
「うっはー!」
そして、花火の打ち上げ会場を下見した後、少し時間があるので時間の許す限り、屋台を見て回ろうという話になり、屋台が数多く連なるエリアに到着。その頃にはかぐやのテンションはMAXになって私の手を引いて目を輝かせた。
「彩葉、銃あるよ! 銃撃とう!」
最初に見つけたのは射的。二人で並んで挑戦したのだが、私は一発も当てられなかった。エイムに自信はあったのに、これは銃が悪い。
「かぐやは当たったもんね~」
「はいはい。次行くよー」
次にかぐやが発見したのは蟹釣り。蟹は海に遊びに行った時、大群で襲われたので少し苦手意識ができてしまった。私は見ているだけにしよう。
「二匹釣れた!」
そう言って私に釣れた蟹を見せつけるかぐや。そのままおもむろに蟹に指を差し出して小さなハサミで挟まれてしまう。
「見て見て、指食べようとしてるー」
「痛くないの、それ」
それから蟹を小さなビニール袋――金魚袋というらしいそれに入れてもらい、連れて行くことに。待って、その子たち、家で飼うの? どうやって?
「やっぱ、現実さいこー!」
「私はツクヨミも好きだけどね」
「じゃあ、どっちもさいこー! あ、次! 次はどうする?」
まだ屋台を回るつもりなのか、私の手を引きながら笑うかぐや。しかし、すでに屋台を回り始めてそれなりに時間が経っている。そろそろ場所を取らなければ立ち見になってしまうだろう。
「ヤバッ! ご飯買わないと! たこ焼きと焼きそばとかき氷と唐揚げとじゃがバターに焼き鳥、牛串とフルーツ串ときゅうり串と……あとはー」
「え、それ全部買うの?」
それ、本当に全部回ることになっちゃうから止めて。
止めてくれなかったので両手にずっしりと重い戦利品を持ち、レジャーシートに下ろす。真実の言うとおり、本当にほぼ全種の屋台を巡ることになるとは思わなかった。
「ひょえ~、楽しすぎー!」
そんな私の内心など気にする様子もなく、かぐやはニコニコと笑っている。こんなバタバタすらも楽しめるのはもはや才能だ。
「楽しキングダム!」
そして、突然、国ができた。彼女のテンションに釣られ、私も真似をして両手を高く空に掲げる。
「うぇーい、彩葉真似っこ~。あ、写真撮って白野に送ろ!」
「やだっ」
こんなはしゃいでいる姿を白野に見られるのはさすがに恥ずかしい。そして、その写真を見れば彼女なら気づくだろう。私が抱えている悩み――いや、気持ちに。
「……ねぇ、かぐや」
「んー?」
花火大会が始まる前の喧騒の中、僅かに掠れた声で彼女の名前を呼ぶ。予想以上に小さくなってしまい、聞こえないかもと心配したがかぐやの耳にはしっかり届いていたようで不思議そうにこちらへ視線を向けた。
「……いつも着けてるよね、それ」
もごもごと口の中で言葉が詰まり、誤魔化すように漏れたのはかぐやが常に手首に着けている銀のブレスレットのことだった。ツクヨミにログインしても反映されるアクセサリー。コラボライブ前の控室でかぐやがヤチヨにあげようとしたそれはかぐやが地上に落ちてきた時からあったものだ。
「あー、なんか落ち着くんだー。故郷って感じ?」
「そっか、故郷か」
「うん」
「……」
駄目だ、言葉が続かない。本題に入れない。そのまま不意に発生した沈黙を埋めるように花火大会決行の号砲が上がった。いよいよだ、と見物客が期待にざわつく。
「はー、楽しキングダム最高だよねー」
何も言えない私の代わりにかぐやが訳の分からない軽口を引き受けた。その姿はまるで話したくなるまで待つよ、と言っているようで胸がキュッと締め付けられる。
「月ってさ、味も温度もなくてマジつまんないの。決められた役割をずーっと繰り返すだけなんだよね」
そして、私が話したい内容すらも見透かしたように月の話を口にした。