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この世界では学生でも講習を受ければ喫煙と飲酒が可能です(筆者が喫煙者なのでそこら辺甘いです。苦手な方はご注意下さい)。
初っ端イジメ描写から入ります。苦手な方はご注意下さい。
――
ある晴れた日の、学校の昼休み。
校舎の屋上にて、黒い髪に黒い狐の耳と尻尾を生やした金眼の少女が、青い短髪に青い瞳をした女生徒に殴られていた。
「このッ!!」
「ひィ!?」
――何故私は殴られているのだろうか?
黒い狐耳の少女――月出里 茜(すだち あかね)が考えれば考える程に、彼女自身の生まれの悪さ、出来の悪さに気付かされた。
「ほんっとうに真っ黒で気味が悪いわ、その生意気な目も気に入らない!」
――何故、私の髪と尻尾は黒いのだろう?
「獣人だっていうのに残念ねぇ。その様子じゃ、体育は赤点、ね!」
――何故、私は獣人の身なのに運動が苦手なんだろう?
「知ってる?ここ蹴られるとものすごく痛いの、よ!」
茜が右の太ももの外側を蹴られて、痛みで立っていられなくなる。
倒れ込んだ彼女の腕や体に、蹴りが入る。
屋上のフェンスに何度も茜の体が叩きつけられる。口内を切ったのか、鉄の味がしている。
青い女生徒と、茜の目が合った。
青色の目が、少女を見下していた。
でも、青い瞳の、その奥に見える感情は、ひどく虚勢を張っているようにも――
「何、で、――その目で私を見つめないでよ!?」
激昂した女生徒に、茜の頭が蹴飛ばされる。
茜の脳が揺らされて意識が一瞬飛ぶ。
バチリと、茜の目の奥で何かが光ったような気がして、気づけば茜は、屋上の床に倒れ伏していた。
「貴女みたいな子、本当に合わない!自分が恵まれてるとも知らずに、よくのうのうと生きてこれたわね!」
腹を蹴飛ばされて、呼吸ができなくなり、思わず茜の口からぅぐ、と声が漏れた。
過呼吸になることすら許されず、意識を手放しそうになる。
(あぁ、私はここで死ぬんだ……)
一瞬、茜はそう思った。
その時だった。
屋上に唯一繋がるドアがきぃ、と音を立てて開いた。
「……?」
女生徒がそちらに振り向く。
「……五月 晴女(いつき はるめ)さん……と、月出里 茜さん、これはお取り込み中ってことでいいんだよな?」
ドアの向こうから現れたのは、この学校の制服を着て、同学年の校章を付けた、ひょろ長い男だった。
校則スレスレの長い銀髪に、色白の肌。そして血のように赤い瞳。
意識が朦朧とする中でも、茜はそれを視認できた。
「ぅ……誰……?」
「ったく、俺は屋上でタバコ吸いたかっただけなんだがな。面倒なことになった」
そう言いながら、男はスマホを操作して、茜と女生徒――五月 晴女の方に向けた。
パシャリと音がして、一瞬スマホのカメラの下が光った。
「……あ、貴方ねぇ!」
「五月さんが月出里さんをイジメてる決定的瞬間は確保した、俺はこのまま先生達に報告しても良いんだがな。さて、どうする?」
「……消させるわ、文字通り何をしてでも!」
ダッと、床を蹴って晴女が男へと翔ける。
それを見た男はスマホをしまうと――
「――全く……、女に手をあげる趣味は無いんだが、な!」
スマホをしまうところまでは見えた。
だが、その後何が起こったのか一瞬わからなかった。
しかし、ドスンと音がした次の瞬間、気づいてみれば、立っていたのは男の方だった。
「……体育で柔道を習っていて助かったな、まぁ俺は受け身の取れない投げっぱなししかできない訳だが」
晴女は床に倒れ伏したまま動かない。
ぽりぽりと後頭部を掻きながら、銀髪の男は言う。
「一瞬にして勝負あり、だな。どうだ、攻撃する側だと思ってたら一瞬にして形勢を逆転された気分は?」
「……何で、なんで私の事を知っているの……?」
晴女が、倒れたままで苦々しげに話し始める。
「そりゃあお前、俺と同じクラスだろ?ほら、俺後ろの窓側の席だからあんま印象無いけど」
その言葉を聞いてハッとしたのか、驚いたように晴女が言う。
「……!貴方、月読(つくよみ)、月読ルナね……!」
「正解。ちなみにさっき撮った写真は家のPCのフォルダに転送済んでるから、スマホの方消しても無駄だぞ」
さて、と、月読ルナと呼ばれた男がこちらに向き直ると、コツ、コツと足音を立てながらこちらに歩き始めた。
そして茜の目の前で止まると、様子を見るようにしゃがんだ。
「大丈夫か?……やっぱり、月出里さんで合ってたか」
「……なん、で、名前を知ってるんですか」
「何度かお前の神社に行った事があるからな。それに、前2クラス合同の実習の時顔を見たし」
「あ……」
言われてみれば、神社の手伝いをしている時に、銀の長い髪をした誰かがお賽銭を入れている所を見たことがある。
それに合同実習の時、後ろの方で一人でその時、似たような人がいた気がする。
――あれが、月読ルナだったの?
「しかしひどい怪我だな……」
そうルナが言うと、茜の腹部に右手をかざした。
「あいにく低級の回復魔法しか使えなくてな。ちと治りは遅いが勘弁してくれ」
ぽう、とルナの右手が優しい緑色に光る。と同時に、体全体の痛みが少しづつだが、確実に引いていく。
「ッ……!何故、何故なのよ!!」
後ろで晴女がそう叫びながら立ち上がると、ドアを蹴飛ばすかの勢いで屋上入り口から出ていった。
「全く……。イジメにも困ったもんだな、月出里さん?」
「あの、助けてくれてありがとう……月読君」
「下の名前でいい、君付けはご自由に。……よし、これで大丈夫だな」
気づけば、茜は全身傷ついていた体が驚くほどになんともなくなっていた。血も、口の端から吹き出したもの以外無いし、口の中も鉄の味はしない。
それを確認してルナは立ち上がると、ポケットからタバコの箱を取り出して、そこから紙巻きを一つつまみ、フィルターの部分を持って口へと運んだ。
「あ、あの……校内はタバコ禁止じゃなかったっけ?」
「だから屋上に来たんだろうが。ここならとやかく言う奴はいないだろ」
そう言うとルナはライターを取り出して火を付け、大きく息を吸い込んだ。
……案の定変な所に煙が入ったのか、大きくゲホゲホとむせた。
「……カッコつけたかったんだけどなー……。あ、この後ヒマか?」
「えっと、午後は授業あるけど……もしかしてサボり?」
「傷は治ったとはいえ、ボロボロになった制服洗わなきゃだろ。一旦家帰って着替えてこい」
「ダメだよ、授業はちゃんと受けなきゃ」
それを聞いてルナはやれやれという感じでこう言った。
「模範的なのは悪いことじゃないんだが……。お前、イジメの主犯格と一緒にこの後授業受けろって正気か?次体育だぞ?二人組になったら気まずいだろ」
「……あっ」
言われてみれば、確かにそうだ。
「……というわけでだ、俺と月出里は今日は家庭の事情により早退する、ってことにしとけ。飯、この様子だと食ってないだろ?ハンバーガーでも食おうぜ」
「わかった、先生にはちゃんと伝えるんだよ?」
「はいはい……」
――これが、月出里 茜と、月読ルナの、最初の出会いだった。
――
月出里 茜の家は神社の近くにある一軒家だ。
暴行を受けた件を両親に知られたくない。
そう思った茜は、二人に気づかれることなく自宅に帰り、こっそりと洗濯機に制服を紛れ込ませて、自室で着替えを済ませた。
月読ルナを名乗った男も近所のマンションで一人暮らしをしているらしく、同じく制服から着替えてくるということだ。
午後2時に、二人の家から近いハンバーガーショップで、お互い私服で落ち合うということになってはいたのだが……
(……水色のブラウスに、ちゃんと膝が隠れるくらいのスカート、学校指定のタイツ、ベレー帽……軽く髪梳かしてきたし、ローファーも軽く磨いてきたし、大丈夫だよね……?)
現在の季節は春で、茜はそれに合ったコーディネートにしたつもりだったが、茜にはまだちょっと不安があった。
ちょっと化粧すべきだったかなぁ、でもそれだと気合入れすぎかなぁ、ご飯食べるだけだからすっぴんでも、でも相手男の子だしなぁ……。
悩みながらハンバーガーショップ入口の透明なガラスに映る自分の姿を茜が確認していると、
「……あー、月出里、さん?」
後ろから声をかけられた。
先ほども学校で聞いた声だ。
「ル、るるるるルナ君!?ごめんね、待たせちゃって!」
振り返ってそこにいたのは、青みがかった灰色のカーゴパンツに、白いパーカーを着た月読ルナだった。
「待ってないぞ、さっき来たからな」
「そ、そう……。んじゃ、入ろうか?」
「ああ」
二人で揃って入店すると、お昼時を外した事で他のお客さんはまばらで、テーブル席は2、3卓ほど空いていた。
その内の1つに鞄を置いたルナは財布をポケットから取り出すと、
「じゃ、注文してくるから待っててくれ」
そう言って、ルナはレジに並ぼうとする。
茜は慌てて自分の分を買うために並ぼうとしたが、
「……悪いが席、取っといてくれないか?」
と言われたので、大人しく待つ事にした。
10分もしないうちにルナが戻って来たので、気になっていることを聞いた。
「……ねぇ、なんで助けてくれたの?」
「表現が難しいけど、このまま放置してたら、きっと良くない結果になる、って思ったからかな」
「どういうこと?良くない結果って?」
「例えが難しいが、要するに誰も幸せにならない結果になる、そういう確信……じゃないけどな。お、来たみたいだ」
すると、ルナ君が注文した商品が店員によって運ばれてきた。
「お待たせしました。こちらビッグバーガーのポテトLサイズのセットと、ダブルチーズバーガーのセット、サラダお2つになります」
セットの量を見て、茜は困惑した。
(……ルナ君一人で食べるには、量が多くない?)
あきらかにこのセットの量は二人前だ。
「あ、ダブルチーズバーガーの方はそっちで、サラダ1つも」
とルナ君が言うと、私の方にダブルチーズバーガーとポテト、ドリンク、恐らく白ブドウジュースとサラダが置かれた。
あ、そういうことか……と納得しようとしたが、茜には別の疑問が生まれた。
「……って、私の分まで買ってくれたの?」
「ああ、別に金に困ってる訳じゃないし、誘ったのは俺だしな」
ちゅー、と自分の方に寄せたトレイから飲み物、恐らくコーラであろう黒い液体を飲んで、ルナ君は答える。
「悪いよそんな、せめて私の分くらい払わせてよ」
「いいんだって。それより、食わないと冷めるぞ?」
「はぐらかさないでよ!全くもう……。いただきます」
茜は諦めて、ダブルチーズバーガーを口に運ぶ。
チーズの濃厚な旨味、牛肉の食感と脂、ケチャップの酸味。
それらをバンズが纏めていて、とても美味しい。
正直、体には悪いんだろうけど、それがいいと感じた。
ルナも、美味しそうにバーガーをかぶりつきながら、ポテトを手に持って口へと持っていっている。
「やっぱ美味いよな~。安いし早いし美味い」
「そうだね。話は変わるけど、屋上に来る時に弁当とか持ってなかったよね?最初からタバコ目的?」
「んー?確かにタバコを吸うという目的は合ってるんだが、飯は本来学食で食べようと思ってたんだ。でも、屋上へ行く階段にたむろっていた人たちがいてな」
「それがどうかしたの?」
「変だったんだよ、屋上へ行かれたくないみたいな感じだったから。近くにいる奴らから話を聞いたら、奴ら五月さんのツレみたいで、今日ばかりは本気でヤバいだの言ってたから、つい逆張りで行ってみたらこうなった」
一瞬、茜が考えてから、ルナに聞いた。
「……もしかして、ある程度最初から助けるつもりで来てくれたの?」
そう問うと、ルナ君はちょっと照れくさそうにしながら、
「……そう、なるかな。余計な手出しが無用な感じだったらすぐに校内に戻るつもりだったけど、そうじゃなかったからな」
と言った。
「……ふふ、ありがとね、ルナ君」
思わず、茜の口から笑みがこぼれる。
それを見て、ルナが口走る。
「ああ。――女性は笑顔でいるのが一番だからな」
「え"?」
茜は言葉の意味を変な方向に理解してしまう。
(――私、口説かれた?)
茜が固まっていると、
「あ、いや違う!変な意味合いは無い!母さんの受け売りだよ!」
手をぶんぶんと振りながら否定するルナの様子が面白くて、また茜は笑う。
「あはははは!」
「そんなおかしいこと言ったのか俺!?」
「いや違うよ、あんまりにも必死に否定するからおっかしくて!ふふふ!」
「そ、そうか……?まぁ、月出里さんが楽しいならいいんだけどさぁ……」
ずず、と照れを隠すようにルナがまた飲み物に口を戻す。
茜も、今度はサラダにドレッシングをかけ、食べる準備をしている。
――そんな感じで、お互い食べ終わる頃には、二人はすっかり打ち解けていた。
――
「いやぁ、食った食った。毎回の事ながらビッグバーガーは食いごたえがあるなぁ」
腹を撫でながらルナは感慨深そうに言う。
時刻は午後3時頃。
二人は今しがた店を出て、お互いの帰路に着く所だ。
「ごちそうさまでした。ごめんね、奢らせちゃって」
「いいんだ、……金だけはあるからな」
そう言って、ルナはちょっと悲しそうな表情を見せた。
「そっか……今日は本当にありがとうね、ルナ君」
「……いや、褒められるような事はしてねぇよ。やったことといえば盗撮まがいに、女投げ飛ばして、タバコ吸って、同級生と飯食っただけだ」
「そんなことないよ!ルナ君来てなかったら、私死んでたかもしれないんだよ?」
「そうかなぁ。五月さんがもし本気で殺そうとしてたら、魔法なりなんなりで攻撃してただろう。それをしなかったって事は、ただ茜を甚振って楽しんでたんじゃないか?」
――でも、そうだとしたら。
あの時の虚勢を張ったような目の色は、なんだったんだろうか?
茜が考えにふけりながら歩いていると、丁度お互いの家路の分岐点になった。
「ここまで来れば、家も近いか。今日はありがとな」
ルナが小さく手を振って帰ろうとするので、茜は引き止めた。
「あ、あの!……もし、良かったら、ルナ君が良かったらなんだけど――」
――連絡先を交換しない?
そう言いかかったところで、ちょっと騒々しい音楽がルナの方から響いた。
いわゆるハードコアだろうか。音量自体はそれほどじゃあないのだが、聞いている感じがちょっとうるさくもある。
だからこそ音量を下げて調節しているのかもしれないが。
「あ……しまった忘れてた。もしもし?」
慌ててルナが携帯の着信に応じる。
「……悪かったってラン姉ぇ、今日に関してはどうしても早退しなきゃいけない理由が……。……はい……はい……」
気丈に振る舞っていたルナの声のトーンが、段々と低くなっていく。
「はい……すみませんでした……。飲み、付き合わさせていただきます……はい……。それでは今から向かいますので、はい……」
そう言ってルナが電話を切ると、申し訳なさそうに茜に向き直って頭を下げた。
「悪ぃな、ちょっと急用ができた。また学校か帰り道か、もしくは神社で会おう」
「え、ちょっと待って、まだ話の途中なんだけど……」
「ごめん、すぐ行かなきゃだから!また今度会おうな」
そう言うと、ルナは自らの家路とは別の方向へと走っていった。
「……連絡先、交換しそびれちゃった……」
――結局茜は家に帰った際にサボりがバレた上、芋づる式に暴行を受けたこともバレてしまった。
しかし、月読ルナという男子生徒が助けてくれた事を茜が言うと、すぐに納得したようだ。でも、それ以上に別の心配をしているようで、茜は母親からこう言われた。
「あの子、結構うちの神社にお参りに来るのよ。たまにお賽銭に1万円札が入ってるでしょう?大体は月読さんのものよ」
続けて、父親が言う。
「ああ。お金は持ってるって常日頃から言っているんだが、理由を聞いたら両親を亡くしていて、残った莫大な遺産と、遺族年金で生活中らしい」
「そう、なんですか?」
だから帰り道で、あんな悲しそうにしてたのか。
母の受け売りというのは、もういないから、そういう言い方になったのか。
父親はこう続けた。
「正直言って、心配だよ。子どもの内からあんな金の使い方をしていることもそうだが、ここに来る同級生達から話を聞いてみたら、学校では近寄りがたい雰囲気を放っていて、そのせいで浮いてるらしいじゃないか」
母親もそれに続けて、
「貴女が関わりを持ってくれるというなら、私達はだめとは言わないわ。むしろ、気にかけてあげて」
そう両親が言うのを聞いて、茜はルナをほっとけない人だなぁ、と認識を改める事にした。
――結局、連絡先交換できなかったな。
そう考え始まると止まらない。
(ルナ君、普段の食生活大丈夫かな?一人暮らしって言ってたけど、お姉さんがいるなら大丈夫なのかな?そもそも、信用できる人?)
気になって、茜はしばし悩んで、結論を出した。
(――助けてくれたし、バーガーも奢ってくれた。悪い人じゃないし、むしろいい人なんだろう。だからこそ、お姉さんの誘いも断れなかったんだろうなぁ……)
そう思いながら、茜は床についた。
遠くない再会を信じて。
そして、連絡先の交換を次こそと願って。
次の話と外伝のR18IF1話までが、ほぼ同内容のものとなります。
3話はもうある程度できているので、後から投稿します。