月読ルナとその周辺   作:月読ルナ(作者の方)

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ここからはハーメルンのみでの連載になります。よろしくお願いします。

この辺りから、流れは元の2話(非公開済み)へと繋がっていきます。

途中から俺の趣味で某物語音楽のパロディー入ってます。最近ハマったもので……(とか言いながらエリュシオンとRomanしか聞いてないという)


Lの非日常と日常、そしてHは男と出会う

 ルナが学校に着いたのは、そろそろ朝の集会が始まろうかという時だった。

 

「……セーフ、おはようございます」

 

「おはよう、月読さん。ほら、さっさと席に着いて」

 

 担任の女教師が、急かすように誘導する。俺は窓際の奥の席につくと、鞄を横にかけて、席に座った。

 

「では出欠を取ります。――五月さんは、家の用事で午後から来るそうです」

 

 それを聞いて、ルナは心配をしていた。

 

 (昨日の件、引きずってないといいが……)

 

 ルナは昨日、五月さんが月出里さんに暴行を働いている現場に遭遇し、止めるためにまた暴力を使った。

 

 そのせいで、とは言いたくないが……。

 

 出欠確認はつつがなく進み、ルナの番になった。

 

「――月読さん」

 

「はい」

 

 正直寝すぎで逆に眠い。コーヒーを飲んだため眠る事はないだろうが、とルナが考えていると、教室の扉がノックされた。

 

「失礼します、月読ルナさんはいますか?」

 

出てきたのは、校長先生だった。自分の名前を呼ばれたので、ルナは答える。

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「昨夜発生した事件の件で、警察が来ています。事情を聞きたいらしいので、校長室まで来て下さい」

 

 ざわざわと教室内がどよめくのを、担任が制する。

 

「静かに!……月読さん、行けますか?」

 

「……わかりました、すぐ向かいます」

 

 ルナは席を立ち、校長先生と校長室へと向かった。

 

 ――

 

 校長室で、ルナは警察の事情聴取を受けていた。

 

 曰く、『昨日発生した魔族通り魔事件で、被害者である吸血鬼クローネ・アーカードを連れ去って助けた者がいる』とのことで聞き取りをした結果、ルナに行き当たったそうだ。

 

 (ここで反抗しても意味が無いな……)と考えたルナは、素直に答えることにした。

 

「義姉にバーに連れられた後、途中解散になったので一人で帰っていたところ、騒ぎを見つけました。見てみると、女の魔族が血を流して倒れていたのを発見しました。時間は午後5時を過ぎた辺りです」

 

 男性の刑事――40台程度だろうか、がつぶやき、メモしながら聞く。

 

「時間帯は確かに午後5時頃、連れ去りの目撃証言とも合致する。……それで、君はどうしたんだい?」

 

「周りに人がいましたが、それぞれが『通常の病院で手当てをできるのか?』という点で救急車を呼ぶのをためらっていました。早く助けないと手遅れになるかもしれない、と思ったので、連れ帰って回復魔法による応急処置を行いました」

 

 それを言うと、若い女刑事が目を細めた。

 

「その後、どうしたの?」

 

「はい、彼女がお腹を空かせていたのと、血液不足でふらっとしていたので、食事と、彼女の好物である血を提供しました」

 

「血を……?」

 

「彼女は吸血鬼で、求められて仕方なく、というのもありますが。……吸血鬼というだけあって、吸血した後は元気を取り戻していました。その後朝起きると、彼女は手紙を残して魔界に帰っていました。手紙の内容は、『昨日はありがとう、私は一度魔界に帰ります』とのことです」

 

「君が起きたのは何時頃だい?」

 

その質問に対して、ルナはこう答える。

 

「朝の7時頃です。その頃には、影も形もなく」

 

「……早朝の4時頃、この地域の上空に魔界へのゲート反応がありました。おそらく高位魔族である彼女によるものかと」

 

「ふむ……」

 

 警察の二人が顔を合わせて何やら話し合っている。

 

「――俺が経験したことはこれで全てです。バーにいたことは義姉である桐生 嵐とそこのバーの店員達が知っています」

 

 それを聞いて、男刑事が目を見開いた。

 

「桐生 嵐が義姉……ってことは、君があの事件の生き残りか。災難だったろう」

 

 ルナは思い出したくもないことを思い出しかけたが、努めて冷静に答える。

 

「いえ……、それほどでも。他に何か聞きたいことはありますか?」

 

「いや、特に無い。今日はもう大丈夫だが、後で手紙だけ確認させてくれ」

 

 それを聞いて、女刑事が男刑事に耳打ちする。

 

「……大丈夫ですか?彼、他になにか知っているかも……」

 

「桐生 嵐、及び彼女の所属する桐生組には、警察は恩があるんだ。無下にはできまいよ……」

 

「桐生組って、ヤクザですよね?本当に大丈夫ですか?」

 

 それを女刑事が聞くと、男刑事は肩をすくめながらこう言った。

 

「……ちょっと前までの法律だと、警察は魔法犯罪や魔族の取り締まりには無力だった。それに対して街を守ってたのは、他でもないヤクザ者達なんだよ」

 

「あー……戻って、いいですか?」

 

 ルナは聞く。流石にこの話を長引かせるのは嵐にとって良くないかもしれない、と思ったからだ。

 

「ああ、構わんよ。……クローネ・アーカードは魔界のお姫様だ。助からなければ、親人間派の魔族達がどうなっていたか……。礼を言う」

 

 男刑事は立ち上がり、ルナの肩を軽く叩いた。

 

「学校側にはこちらから伝える。……義姉さんによろしくな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ルナは礼をして、校長室から出る。そこには、校長先生がいた。

 

「……大丈夫だったかい?」

 

「ええ、誤解があったようなので解いてきました」

 

 それを聞いて、彼は胸を撫で下ろす。

 

「それは良かった。担任の先生には言っておくよ」

 

「あー……すみません、時間を確認しますね」

 

 スマホを見ると、10時半を過ぎたあたりになっていた。

 

「……すみません、ちょっと友人との約束があるので、午前中は受けます。ですが、警察が来るので、お昼休みが終わり次第、帰らせていただいてもいいですか?」

 

「わかりましたよ。無理はしないように」

 

「ありがとうございます」

 

 礼をして、ルナは教室に戻る。教室は丁度2時限目の休み時間のところで、ルナは教室の顔見知りの人達から質問攻めにあった。

 

「ねぇ、警察が来たって何やらかしたの!?」

 

「顔がいいからって、なんかやったんだろ?」

 

「あー、私も月読くんに刺されたい……」

 

 ……今、猟奇的な思考を持っている奴がいなかったか?

 

 それらに対して手を振り、軽く答える。

 

「ちょっとした事情聴取。魔族助けて礼言われた、それだけだ」

 

 席に戻り、3時限目の授業の準備をする。

 

 さて、茜になんて説明しようか?ルナはそればかり考えて、3時限目と4時限目の授業の中身が入ってこなかった。

 

――

 

「――買えた買えた。最後の1個だったな、メロンパン」

 

 ルナは購買で買ったビニール袋を確認した。

 

 牛乳に、ベーコンエピ(ベーコンの入ったフランスパン)、そして先程言ったメロンパン。

 

 この学校の購買のパンは、パン屋から仕入れているもので、味は折り紙付きだ。

 

「どこで食おうかな、教室はさっきの奴らが鬱陶しいから、また屋上行くか」

 

 ルナは今日に関しては、特段理由もなく、屋上で食べることに決めた。

 

 ……食べた後にタバコが吸えることもルナの理由にあったが。

 

 階段に近づくにつれ、人がまばらになっていき、階段を登り切る頃には、誰もいなかった。

 

「さて……。今日は面倒事が起こらないといいが……」

 

 ルナは屋上へと繋がるドアを、ゆっくりと開ける。

 

 ルナが外へ出ると、快晴の青空と、一人の獣人の少女――月出里 茜が、フェンス際のところで座っているのが目に入った。

 

「お、月出里さんいたのか」

 

「ルナ君、ここでタバコ吸うの好きそうだったから、待ち伏せしちゃった」

 

 えへへ、と笑う彼女は、年相応でかわいい、とルナは思った。

 

 ルナは茜の隣へと歩み寄ると、フェンスを背もたれにあぐらをかいた。

 

「昼飯、食ったか?」

 

「ううん、まだ。一緒に食べよ?」

 

「ああ。……そういえば、昨日茜が言えなかったのって、連絡先の交換のことか?」

 

 そうルナが聞くと、茜は驚いたように目を丸めた。

 

「どうしてわかったの!?」

 

「いや、なんとなくだ。今朝気づいて、帰りに神社に寄ろうと思ってたんだが、手間が省けて助かるよ」

 

 そう言いながら、ルナと茜はメッセージアプリを起動し、お互いの連絡先を交換した。

 

「これでよし。ありがとね、ルナ君」

 

「こちらこそ、だ。これからよろしくな」

 

 さてと、ルナがビニール袋からベーコンエピと牛乳を取り出すと、牛乳を開けてストローを刺した。

 

「茜の昼飯はなんだ?」

 

「お母さんのお弁当。私のお腹が丁度いいくらいの量だから助かっちゃう」

 

 そう言いながら、茜が弁当を巻いたスカーフの縛りを解き、蓋を開けると、そこに出てきたのは二段に重なった、色鮮やかなお弁当だった。

 

 茶色く、手作りのように見える唐揚げに、ふんわりとした卵焼き、そして緑色が鮮やかなブロッコリーと香ばしい匂いの金平牛蒡がバランス良く詰められていた。ご飯には梅干しが1つ日の丸のように載せられ、ごまがパラパラとかかっている。

 

「おー、美味しそうだな。唐揚げは手作りみたいでいい匂いがするし、栄養価もちゃんと考えられてる。さすが茜のお母さんだ」

 

 ルナは感心する。毎日このクオリティの弁当を作るのは骨が折れるだろう。

 

「でしょー?流石私のお母さん。憧れちゃうなぁ……」

 

 茜は笑う。それを見て、ルナは思う。

 

 それをやってくれる茜の母親は、きっといい人に違いないとルナは思った。

 

「……俺の母親も、昔はこういう弁当を作ってくれたんだ」

 

 ルナが遠くを見たのを見て、茜がやっちゃった、という顔をして、しゅんとした。

 

「……あっ、ごめんね?ルナのお母さんは――」

 

「――いや、大丈夫だ」

 

 そう言ってルナは作り笑いをする。心から笑うには、ルナにはまだ何かが足りない感覚があった。

 

 茜はそれを見て、落ち込んだ表情がすこし和らいだようにルナには見えた。

 

「それじゃ、食べるとしますかね。……いただきます」

 

「……うん、そうだね。いただきます」

 

 二人で、静かに食べ始まる。

 

 ルナがベーコンエピの麦の穂部分をかじる。フランスパンらしく硬く、ベーコンの塩気のある食感が、食欲を促進する。

 

 口の中が乾いてきたところで、牛乳を一口。

 

 すっきりとしていながら、濃厚な甘さが、口の中を洗い流す。

 

「……やっぱ牛乳は無調整だな」

 

「だね。低脂肪乳はちょっと味気ない感じがするよね」

 

 そんな他愛もない会話をお互いにパンと弁当を食べ進め、ルナがベーコンエピを食べ終わったあたりで、急に茜がこちらを向き、すんすん、と匂いを嗅いだ。

 

「……どうした急に?」

 

 ルナが牛乳のストローを咥えながら言うと、茜が声色を低くして言った。

 

「さっきから思ってたんだけど……。ルナ君、女性と血の匂いがするなーって」

 

 ルナが飲んでいた牛乳を吹き出しかけ、ストローを離す。

 

「んぐッ!?」

 

「あ、ごめんね!?大丈夫!?」

 

「あぁ、悪い悪い、そんな鼻利いたのな月出里さん」

 

 ルナは自分を落ち着かせながら、牛乳を床に置いた。

 

「私、狐の獣人だからね。鼻は犬の獣人の人達より利くんだ。……あと、1時限目が始まる前に、校長先生と一緒にルナ君がいるの見えたんだけど、関係はある?」

 

「そこまで知ってるのか……」

 

 はぁ、とため息をつきながら、ルナは答える。

 

「……昨日、魔族を狙った通り魔事件があったのは知ってるか?」

 

「うん、テレビニュースで見たよ。それがどうかしたの?」

 

「それの被害者の魔族を助けてた、ラン姉ぇの知り合いだったからな」

 

 それを聞いて、茜がぽんと膝を叩いた。

 

「あ、そういうことだったの?被害者が連れ去られた、ってニュースでは言ってたけど、アレ、ルナ君だったんだ?」

 

「ああ。血の匂いがしたのは、彼女吸血鬼でさ?『俺の血寄越せー、でないと貧血で動けなーい』、って言うから仕方なく」

 

 (……ごめんクローネ、ちょっと盛った)

 

「え、それは大丈夫だったの?ニュースでは結構な出血だったって」

 

「1回ごくって飲んだだけで十分だったらしい。まぁ、本人は一度魔界に帰るって手紙を残してたし、俺もすこぶる元気だし、大丈夫だろ」

 

「ふーん、だといいけど……」

 

 (キスと同衾、そして将来の婿入りの件は、言わない方がいいだろうな……。)

 

 そう思いながら、ルナは言う。

 

「で、校長に連れられてたのは、それに対する警察の事情聴取があったんだ。一応、授業はやれるだけやったが、部屋が見たいって警察が言うから、午後は今日俺帰るからな」

 

「わかった、でも2日連続で午後休んじゃって平気?」

 

「大丈夫だろ、卒業まで3年、時間はあるんだ」

 

 そう言いながら、床に置いた牛乳を持ち直し、再びストローを咥えた。

 

「……ま、なるようになる。人生ってのはそういうもんさ」

 

「そうだね……。……ん……?」

 

 茜が今度は狐の耳をぴくぴくとさせ始めた。

 

「……今度は何だ?」

 

「……誰かが、多分女子生徒一人が、走って階段を登ってくる。すぐにドアを開けると思う」

 

 (……そういえば、聴覚も優れているのか)と、ルナが感心していると、ドアがきぃ、と音を立てて開いた。

 

 現れたのは――

 

「――五月、さん?」

 

 息を荒くしながら現れたのは、青い短髪に青い瞳の女生徒、五月 晴女――

 

 ――茜に暴行を働き、ルナに投げ飛ばされた、張本人。

 

「はぁ、はぁ……。さ、探したわ、すだ、月出里さん、と、つく、よ、読さん……いえ、ル、ルナ」

 

 晴女の声は明らかに震え、息が上がっているせいもあり、ところどころ言葉が詰まっていた。

 

「……」

 

 ルナの隣で、茜が固まる。それもそのはずで、彼女が昨日負った心の傷は、未だ癒えていないだろうから。

 

 ルナは茜の前に立ち、手を広げて彼女を守る体勢を取る。

 

「……何の用だ、茜には指一本触れ「違うの!」」

 

 晴女が必死に叫ぶ。その顔は、ひどく後悔しているようにも見える。

 

「……わ、わた、私、ほん、本当はね、本当に、す、月出里さんと、と、とも、友達になりたかっただけなの!本当に……、本当にごめんなさい!!」

 

 晴女が、深く腰を折って、頭を下げた。

 

「「!?」」

 

 衝撃的な告白、そして謝罪に、ルナと茜は顔を合わせて息を飲んだ。

 

(一体全体これはどういうことだ!?五月さんは茜をただいじめたかっただけじゃないのか!?)

 

 ルナはそう一瞬思ったが、晴女の肩が小刻みに震え、荒い息遣いをしているのを見て、これは恐らく本心だ、と思った。

 

 同時に、彼女は本来、少しどもりやすいのだろう、とも。

 

「……五月さん、落ち着いてくれ。……少なくとも俺は、それを心から言ってる、と信じるよ」

 

 それを聞いて、ぴくりと晴女が反応する。

 

「だが、階段を駆け上って、息が上がった状態で無理に喋ろうとしても、辛いだけだろ?ゆっくりでいいから、ちょっと深呼吸してくれないか」

 

「……は、はい」

 

 晴女がゆっくりと顔を上げ、数度、深呼吸をした。その瞳は青く、潤んでいる。

 

 それを見届けてから、ようやく当事者の茜が口を開いた。

 

「……訳、わかんないよ。昨日、気味が悪いとか、合わないとかいってたのに、いきなり友達になりたかったっていわれても!ちゃんと説明してくれないと、納得できない!」

 

 最後の方で茜が声を荒げたので、ルナはどうどう、と制した。

 

「茜も落ち着いてくれ、多分五月さんは嘘は言ってない。昨日の言葉が嘘だったんだと思う」

 

「でも!私、殴られたり、蹴られたり……!」

 

「……せつ、せつめ、説明するから!き、きい、聞いてくれる?」

 

 晴女が口を挟んだので、ルナと茜のの諍いも止まる。

 

 ルナは茜に目配せすると、しょうがないな、と言いながら茜は頷いた。

 

「……聞かせてくれないか、なぜあんなことをしたんだ?」

 

 ルナが晴女に聞くと、晴女は一呼吸置いてから喋り始めた。

 

「……あの、私、家に伝わる魔術による占いで、よ、予知夢を見ることができるの……。それで、ルナと、す、すす、月出里さんが」

 

 晴女が言葉に詰まる度、身体を震わせているのは、ルナと茜から見ても明白だった。

 

「ゆっくりでいい、落ち着いて」

 

 ルナが言うのを晴女が聞くと、彼女は頷いて、深呼吸をもう一度してから言った。

 

「……ルナと月出里さんが、仲良くする予知夢を見て、それは嫌だって、思っちゃったの。だからその未来を変えたくて、あんなひどいこと言ったし、殴ったり、蹴ったり……。本当に、ごめんなさい!」

 

 晴女が、肩を震わせながらもう一度頭を下げた。

 

「ツッコミどころは色々あるが……。茜、どう思う?」

 

 ルナの問いかけに対して、茜は努めて冷静に、という感じでルナに耳打ちした。

 

「……確かに、占いを魔術と組み合わせて、未来を予知する魔法ってのは、今では禁術扱いだけど、たしかにあったはず。でも……」

 

「なるほどね。……で、なんで俺と茜が仲良くするのはダメなんだ?」

 

 ルナが晴女に聞くと、再び顔を上げながら、彼女は言った。

 

「……私、ね、ルナが多分好きだったんだと思う。この学校に来る、ずっとずっと前から」

 

「冗談は止してくれ、だいたい俺と五月さんはこの学校で初対面だろう?」

 

 眉間にシワを寄せながらルナが言うと、彼女の顔が痛ましい程に曇り、こう呟いた。

 

「……そう、ルナは思い出せないのね……。あんなにも愛し合っていたのに……」

 

 その呟きは、途中から突如吹いた突風により、ルナには届かなかった。

 

「だから、思い出すも何も――「――」」

 

 ルナが言い終わる前に、晴女は詠唱する。髪に魔力を流し、髪の毛に変換する魔法だ。

 

 次第に彼女のヘアースタイルは、シンプルなショートカットから、肩のあたりまで伸びる綺麗な青色のミディアムヘアーになっていた。

 

「……前より、私が5、6歳の時よりかは短いけど、これで思い出せる?」

 

「……」

 

 静寂が、屋上を包んだ。

 

 (……確かに、俺は幼少期の、特に例の一件以前、5、6歳辺りまでの記憶が無い。だが、それ以降の記憶には、この髪の色と長さの人の記憶は――)

 

 ルナが無言で考えているうちに、晴女は小さくため息をついた。

 

「はぁ……。コレでもダメ、かぁ……」

 

 晴女は微笑みながら――しかしその笑みに、痛々しい程の儚さを秘めながら、言った。

 

「……じゃあ、お『幸せ』にね。二人とも……」

 

 そう言って、晴女は後ろを向いて屋上のドアを開けると、そのまま出ていこうとする。

 

 その横顔に、一筋の涙の粒が流れたのを、ルナと茜は確かに見た。

 

「……ッ!?」

 

 瞬間、ルナを激しい頭痛が襲った。

 

 視界が歪み、幻聴が、聞こえてきて――

 

 『――幸せよ、お揃いで』

 

「ぐゥッ……!あたま、が……」

 

 ルナは思わず頭を抱えて膝をつく。その様子を見て、茜が駆け寄る。

 

「!?大丈夫ルナ君!?」

 

 その間に、晴女は静かにドアをくぐって、屋上から姿を消していた。

 

 そして、それを認識すると同時に、ルナは意識を手放した。

 

――

 

 ――一面の白詰草の花畑。

 

 そこでルナは目を開けた。まだ意識がぼんやりとしている。

 

 きょろきょろと見渡すと、ゆるやかな丘の方に少女がいたので、ルナは足を踏み出し、近づいていく。

 

 5、6歳程だろうか。青い、腰まであるロングヘアーに、綺麗な青い瞳。

 

 頭には、そこら中に生えている白詰草の冠が乗っていて、まるで妖精のようだ。

 

 思わず、ルナはつぶやく。

 

「……ハル?」

 

 その言葉を聞いて、少女はニコリと満面の笑みを見せながら、

 

「……お揃いね。私達」

 

 ――そう、聞こえた次の瞬間。

 

 世界が、色を喪っていき――

 

「――ッ!」

 

 ハッ、と、ルナは目を覚ました。空はすっかり曇模様だが、雨の降りそうな気配は無かった。

 

 ふと気がつくと、後頭部に柔らかい、そして温かい感触がある。どうやら茜に膝枕をしてもらっていながら気絶していたようだ。

 

「ルナ君……!大丈夫?いきなり気を失ったから心配したよ?」

 

 茜が覗き込んでくる。心配そうに、狐の耳がぴくぴくと揺れている。

 

「ああ……。大丈夫だ、頭はもう痛くない。ありがとうな、膝枕までしてくれて」

 

 ルナがゆっくり身体を起こす。頭痛はすっかり消えたようだ。だが、夢で見たあの少女が、ルナはどうしても気になった。

 

(――あの少女、夢で見たということは記憶があるはず……。5、6歳以前の記憶か?もしかして、アレが五月さんか……?)

 

 顎に手を当ててルナが考えているのを見て、茜がそっと尋ねた。

 

「……ねぇ、何か思い出したの?」

 

 ルナは少し間を置いて、答えた。

 

「少しだけ、な。……っと、時間何時だ?」

 

 聞きながらルナがポケットからスマホを取り出し、時刻を確認すると、時間は12時45分程だった。

 

「まだ少しだけ5時限目まで時間はあるよ。どうする?」

 

「……茜は授業に戻った方がいい。俺は予定通り、家に帰る」

 

「わかった。……晴女さんの件は、ちょっと考えさせて……」

 

「ああ」

 

 答えて、ルナは立ち上がり、身体を確かめた。ふらつきは無く、思考もクリアだ。両腕両足も、問題なく動く。

 

 ルナはそれを確認すると、茜に手を振った。

 

「明日は学校休みだから、また来週。またな、月出里さん」

 

「うん、またね。何かあったら連絡するから」

 

――

 

 ――所変わって。

 

 晴女は、学校の裏門から、自宅である孤児院への道をとぼとぼと、力なく歩いていた。

 

 (当然だよね……。あんなに月出里さんにも、ルナにも迷惑をかけて、ひどいことして……。やっぱり、仲良くなるなんてできないんだ、私には)

 

 涙が頬を伝って落ちる。それを晴女は慌てて拭う。

 

 (それに、ルナは何も覚えていなかった……。私のことも、誓いあったあの約束も……。実ることのない、恋だったんだ……。)

 

 晴女はつぶやく。

 

「これで、よかったんだ……。」

 

「――そんなことはないさ!」

 

 後ろから陽気な声をかけられる。

 

 びっくりして晴女が振り向くと、そこにいたのは――

 

Bonjour,Mademoiselle(こんにちは、お嬢さん)!そんな浮かない顔をして、何事かお悩みかな?」

 

 ――2m近い長身に、黒いマントと、灰色の仮面を被り、口元に笑顔の張り付いた、いかにも胡散臭い男だった。

 

「……不審者!?」

 

「いや違うよ!?私はしがない占い師さ!君が浮かない顔をして道を歩くものだから、気になって声をかけただけのただのおじさんだよ!」

 

 ハハハ、と大げさに笑いながら、仮面の男は続ける。

 

「どうだいお嬢さん、今回はタダにするから、1回、私に占われてみるのは?」

 

 (……私を、心配してくれてるのかな……?占い魔術なら私の得意分野だから、嘘だったらすぐ見抜ける。……大丈夫、だよね?)

 

 そう思った晴女は、警戒しながらも少し考えてから頷いた。

 

「……はい。恋の悩みでも大丈夫ですか?」

 

「いいとも!むしろ、私の十八番さ!」

 

 そう言うと仮面の男は嬉しそうに手を叩いて振り返り、歩き始めたので晴女はそれについていく。

 

 ――そうしてたどり着いたのは、路地裏の一角。古びたテーブルと椅子が置いてあり、その上で水晶玉がぼんやりとわずかに光を放っていた。

 

「ここが私の店だ!では早速始めようか!」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

 手前側の椅子に晴女が座り、奥の椅子に仮面の男が座ると、晴女はすこし時間を置いて、ぽつぽつと喋り始めた。

 

 幼馴染で想い人だったルナのこと。友だちになれるはずだった茜のこと。その二人を傷つけたこと。

 

 それらはもう叶わない、私はどうすればよかったのか、これからどうすればいいのか。

 

 話している間、仮面の男は黙って、うんうんと頷いて時折相槌を打っていた。

 

 そして、喋り終わったあと、少し仮面の男は考える素振りを見せて――

 

「――確かに、このままでは君の恋も、友情すらも叶わないだろう。謂わば、それが問題だ」

 

 そう仮面の男が言うと、机の下をごそごそと漁り、黒い装飾に、赤い柄と鞘をした短刀を取り出した。

 

「そんな君に、これを授けよう。銘を「赤き口づけ」という匕首だ」

 

「……少し、触ってもいいですか?」

 

 そう晴女が聞くと、仮面の男は大げさにうんうん、と頷いた。

 

 晴女は恐る恐る匕首を持ち上げて鞘から抜き、刀身を見る。

 

 反りはほとんど無い。きらびやかな銀色に、少し赤が混じっていて、綺麗だ、と晴女は思った。

 

「――美しいだろう?」

 

「……えぇ、美しいと思います」

 

 (あれ、私今、なんて……?)

 

 晴女がそう思いかけた時、パン、と音が響いた。仮面の男が両手を打ち鳴らしたのだ。

 

 晴女が驚いていると、仮面の男はこう言った。

 

「……その匕首は魔剣でね。想い人に使うと永遠に結ばれるという効果があるのさ。これを然るべき時にそのルナ君とやらに使えば、君たちは永遠に『一つ』になれるだろう」

 

「……それは、とても、魅力的、ですね」

 

 晴女の意識が、徐々に宙に浮き、回るような感覚を覚える。

 

 愛しい。愛しい。憎い。愛しい。憎い。愛しい。憎い。憎い。憎い――。

 

 (……あれ?なんだろう、なんか頭がふわふわしてきた……)

 

 赤い霧が、晴女の脳内を満たしたような感覚。

 

「さぁ、涙を拭って。今日はもうお帰りになるといい。君は君の、楽園を目指して――」

 

 その言葉を最後に、晴女の意識が途切れた。

 

 ――気づけば、晴女は自身の部屋のベッドに寝転んでいた。

 

「……。」

 

 もうすっかり暗くなり、月の光が差し込む部屋。

 

 晴女の右手には、先程の匕首がしっかりと握られていた。

 

「……ふふ……」

 

 晴女の唇から笑みがこぼれる。

 

 (コレを使えば、ルナと永遠に幸せになれる……。これを、ルナに刺して、私も――)

 

 晴女の頭の仲は、それで一杯になっていた。

 

 (……でも、今すぐじゃあだめ……)

 

 晴女は目を細める。

 

 ――全ては、ルナに全てを思い出させてから。

 

 「……来週が楽しみね……ルナ、そして茜さん……」

 

 週明けに、ルナと茜に、残酷な真実を告げる。

 

 そう決めた晴女は、その時を楽しみにしながら、眠りについた――。




裏設定:この学校の女子生徒は夏場でも冬場でもタイツです。作者の趣味です。あとは魔法で蒸れるのを防ぐ中敷きとかあります。
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