月読ルナとその周辺   作:月読ルナ(作者の方)

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4話です。関係の進展とか書くの難しいですね……。

本来書くつもりだった話から結構逸れたので、5話からは想定の話になると思います。


LとKの再会、Lは悪夢を見る

「――で、こちらがその手紙になります」

 

 ルナは家に来た警察の一人にそれを見せると、警察の人は中身を確認した後頷いて、こう言った。

 

「なるほど。内容としては聞いていた内容と合致しますね。……婿入りだのどうだの、の話は、伏せておくことになりますが。一応、追記の所にある瓶も見せてもらっても?」

 

 それを聞いてルナは、用意していたその瓶を見せる。

 

「これですよね?中身としては自分も確認していないのですが……、これは預けた方がよろしいでしょうか?」

 

 そう言うと、警察の人が瓶を開けて匂いを嗅ぎ、答えた。

 

「……ああ、これはクローネさんの血液だろうね。人間とは別の血の感じがする。でも、これは多分、君がクローネを助けたことへの対価や報酬のようなものだろう。君が持っていなさい」

 

 吸血鬼の血。飲めば強力な肉体と魔力への賦活効果を与える、人間にとってはRPGゲームで言うエリクサーのような効果を持った代物だと、ラン姉ぇからそう聞いている。

 

 それを与えるというのは、吸血鬼にとって最大級の感謝の表れなのだろうと、ルナは解釈した。

 

「そうですか……。わかりました、冷蔵庫で保管をしておきます。今日はありがとうございました」

 

 ルナが頭を下げると、警察の人達も帽子を脱いで一礼した。

 

「いえいえ、ルナ君。君のおかげで、日本政府と魔界の間に亀裂が生まれなくて助かった、と思っているよ」

 

「そんな大げさな……。そもそも、こういった事例に対しての周知が徹底されていたら、俺はソレに従っていたでしょう。彼女がそれで助かるならいいのですが、今後は徹底をお願いします」

 

「ははは、貴重な意見として、受け取っておくよ。――しかし、君も災難だったね。あれからずっと一人暮らしかい?」

 

 それを聞いて、ルナはちょっと眉間にシワを寄せた。

 

 (その件の話を深堀りされるのはお互いのためにならないな……。)とルナは考えた。

 

「……。いえ、15歳までは義姉のところで。それ以上はちょっと答えたくないので、すみませんが、今日は帰っていただいてもよろしいですか?」

 

「あの事故は、警察にとってもいまだ心残りの1つなんだ。……とはいえすまないね、古傷を抉るような行為だった。今日はこれで失礼するよ」

 

 と言い残し、警察の人は去っていった。ルナはそれを見届けると、玄関を閉めて鍵をかけた。

 

「心残り、ねぇ……」

 

 アレに関しては、報道では俺は被害者として扱われていた。

 

 だが――

 

 そう考え始めた時、ルナのスマホから音ゲーの曲(激しいドラムンベース)が鳴った。着信だ、相手はラン兄ぃ(もしくは姉ぇ)。

 

 慌ててスマホの画面をスライドし、ビデオ通話で応答する。

 

 すると、腰に片手を当てながら、いかにも「ぷんぷん!」という擬音が似合うふくれっ面で、嵐は応答した。

 

「もしもしラン兄ぃ、ごめん、そっちに警察行ってるか?」

 

『今あしらい終わった所だよ~。もー、連日騒ぎを起こすのは勘弁してよねー?』

 

「コレに関してはラン兄ぃも一端担ってるからな?ちゃんとクローネを自分でバーまで案内してたら警察沙汰にはならなかったし」

 

『でも助けようと思ったのはルナだよ?おにーさん心外だなー……』

 

 よよよ……と大げさに泣くフリをし始めたので、ルナは話を変える。

 

「……ところで、ラン兄ぃが今いるそれ、どこだ?」

 

 画面に映る嵐の背景を見ると、小洒落たカフェのような場所だった。

 

『んー?米田(よねだ)珈琲だよー。久しぶりに来たけど、ここのコーヒー美味しいよねー』

 

「だよな。量が多いのも助かる。というか、今の時間からそこにいるってことは、夕飯想定か?」

 

 ルナのスマホの時刻は、16時過ぎあたりを示していた。

 

『仕事忙しくてサボってたら警察来て、こんな時間になったからなー。夕飯どうしようね?』

 

「俺に聞くな。また一緒に食ってもいいけど?」

 

『うんにゃ、やっぱり今日は遠慮しておくよ。思い出したんだけど、今夜は会合があるから、そこで食べてくるね』

 

「そう、か。んじゃ、またな」

 

 ルナが電話を切ろうとすると、待って、とばかりに嵐がスマホに顔を近づけてから言った。

 

『待って。――次、警察沙汰起こしたら、『コレ』だからね』

 

 そう言って、嵐は口から舌を出して指で輪っかを作りながら前後に動かす露骨なポーズをとった。

 

「ブッ!?……あのなラン兄ぃ、一応店内で人の目があるんだからそれをそこでやるなよ……。はしたない……」

 

『それはルナ次第かなー。じゃ、またねー』

 

 ビデオ通話が切れた。

 

 まったくあのエロ兄ぃ……、と思いながら、ルナは玄関からキッチンへと行く。冷蔵庫を確認するが、ほとんど何もない。

 

「んー、買ってくるか……。今日の俺は何の腹なんだろうな……」

 

 そう言いながらも、ルナの腹の虫はコレだ、と言って聞かないので、ルナは炊飯器の釜を洗い、米を研ぎ始めた。

 

「……肉、そういえばちゃんとしたの最近食ってないからな。買い出しついでで買ってくるか」

 

 ルナは明日の分を考え、3合の白米を研いで、炊飯器の炊飯予約を18時に設定した。

 

「これでよし……と。あとは買い出しだな」

 

 スマホと買い物袋を手に、ルナは玄関の鍵を開き、外へと繰り出していった――。

 

――

 

 「――ったく、余計なものまで買った気がするのは気の所為か……?」

 

 ルナが買ってきたもの。

 

 ステーキ用牛の肩ロース肉、袋入りの千切りキャベツ、インスタントの味噌汁、ここまではいい。

 

 切れそうだった塩、胡椒と、刻み大蒜のチューブ、それにバター。これもまだいい。

 

 だが、菓子類やアイス、炭酸飲料は余計じゃあないか?

 

 好物ばかり取っていると太る、というのは定石ではあるのだが……。

 

「どんだけ食っても太らない身体ってのも、意外と苦労するもんだな……。これ以上痩せると身体に悪影響ってのは辛いな」

 

 ルナの場合、食った物がだいたいそのまま魔力へと変換されてしまうのだ。

 

 それのせいで、180cm台前半のルナだが、体重は62、3kgくらい。

 

 BMIで言うとギリギリ普通らしいが、それもちゃんと食べないと下回る、と前に健康診断を受けた時に言われた、とルナは記憶している。

 

「幸いにも俺は食う方だからいいけど、これ女性だったらどうなってたろうな……?まぁいいや、調理開始だ」

 

 ルナは常温に戻した牛肉に塩コショウをし、フライパンにバターとチューブの大蒜を入れ、中火で熱する。

 

 そこにステーキ肉を入れると、じゅう、という音が耳に心地よい。

 

「~~♪」

 

 久しぶりのステーキに、ルナは心が躍ってつい鼻歌(これも音ゲーのものだ)を口ずさむ。

 

 両面を2分と少し焼いた後、アルミホイルで包み休ませる。その間に皿の用意をしていると、肉を休ませて5分経過のタイマーが鳴った。

 

「よし、これでできたな」

 

 ステーキが焼き上がり、皿に盛って包丁で切り分け、断面を見ると、綺麗なピンク色のミディアムレアになっていた。

 

「火入れ完璧!あとはこれを……っと」

 

 ルナはフライパンに残った油に醤油を垂らし、ソースにするとステーキにかけ、そこに先ほど買ってきたキャベツを添えた。

 

 茶碗に既に炊けていた米をよそい、味噌汁椀にインスタント味噌汁とお湯を注いで、ルナは自分の机にステーキとともに置いた。

 

「んじゃ、いただきます」

 

 ルナは手を合わせてから、ステーキを箸で持ち白米の上に置いてから、口の中へ放り込む。

 

「ん、美味い……。やっぱ肉は赤身だな……」

 

 思わずルナが目を細める。赤身特有の歯ごたえに、丁度いい量の脂が口の中を包み込む。

 

 そこに白米を口に含む。バター醤油は、やはり米との相性が最高だ。

 

 ここで味噌汁を一口啜るともう堪らない。

 

「ふー……。ステーキの量とか考えると、こりゃあ米のおかわり必須だな……」

 

 味変にわさびを用意すべきだったなぁと考えていると、ルナのスマホの通知が鳴った。

 

 相手は茜だ。開くと、彼女の夕飯の画像――カレーと、このようなメッセージが添えられていた。

 

『金曜日のカレー、美味しいですよね。おかわりしたくなっちゃいます』

 

「あー……カレーもアリだったなぁ……明日も食えるし……」

 

 そう思いつつも、ルナはスマホでステーキの写真を撮ってメッセージアプリに投稿した。

 

『こっちは久しぶりにステーキ焼いてみた、火入れ完璧』

 

 返答を待つ間に、ルナは食べ進める。

 

 ステーキが残り3分の1あたりになって、合間におかわりした米と、味噌汁椀の中身が無くなったところで、スマホが返答が来ましたよとばかりに鳴った。

 

『いいですよね、ステーキ。私はいっぱいは食べられないけど。というかルナ君、料理できるんだね』

 

 (……あれ、いつも買い食いしてると思われてる?いやまぁコレも買い食いの類だけど)

 

『一人暮らししてたらそんくらいはできないとな。自炊もまぁ楽しいし。たまにはお母さんに言って、自分で夕飯とか作ってみたらどうだ?』

 

 ルナはそう返信して、残りを食べ進める。さっさと食べて、茜とのやりとりに集中したいと思っていたからだ。

 

 そうして食べ終わってごちそうさまと呟いてから、皿をシンクに置く。これを洗い終わってから、スマホはまた見よう。

 

――

 

 皿洗いが終わり、ルナはスマホを見る。丁度、茜から返信が来ていた。

 

『私は調理実習は結構上手いって言われるんだけど、お母さんが心配性であんまり厨房使わせてくれないんだよね……。でも、少しづつ手伝いはしてる!今日は玉ねぎの皮剥いた!』

 

「『なるほど、月出里さんは料理できる方なのかもな。手伝いをしているのは立派だよ』……と。さーて暇になったな……」

 

 入力を終えて送信し、ルナは椅子の背もたれに寄りかかって大きく伸びをする。

 

 一人でゲームをやって夜中まで時間を潰すのもいいが……。

 

 考えたルナは、パソコンの電源を付けてブラウザを開くと、ホーム画面にしているポータルサイトのニュースに、気になるものを見つけた。

 

「……ん?『元魔界のお姫様、危うく外交問題か!?』か……。開いてみるか……」

 

 ルナはクリックして内容を確認する。どうやら先の魔族を狙った通り魔事件で刺されたのが、ようやくクローネと判明した、とのことだ。

 

 コレに対してアーカード伯の対応としては、『魔族差別に対しては毅然とした対応を取る。それはそれとして、愛娘を救ってくれた人間に感謝を』、とのことだ。

 

「あー……、こりゃアーカード伯にも俺の事バレてんのかなぁ……」

 

 考える。クローネが『私は刺されたけど、優しいアルビノの男性に救われた』とでも言っていれば、まだギリギリ俺だとバレてはいないだろう。

 

 だが、ルナの名前は既に割れているので、それを言っているのであれば、恐らく近い内に俺の元に魔界からの使者でも来るんだろう。

 

「めんどいなぁ……。これでまたクローネでも来て今すぐ魔界に来いとかでもなったらちょっと面倒だn「呼んだかしら?」」

 

 聞き覚えのある声が後ろからした気がした。ルナが恐る恐る振り向くと――

 

「――来ちゃった♡」

 

 ルナの一気に血の気が引く。そこにいたのは、他でもないクローネ・アーカードだったからだ。

 

「……あの、玄関は鍵をかけていたはずですが?」

 

「私の魔術よ。血を鍵穴に流し込んで中身を把握して、あとは血を固めて回すだけ、簡単でしょう?」

 

「それ人間界では不法侵入って犯罪だぞ!?何やってんだお姫様ァ!?」

 

 ルナから思わず大声が出た。クローネが耳を塞いだのを見て、ルナの口から「あっごめん……」と声が漏れた。

 

「うるさいわね……。今日は用事があって来たのよ」

 

 (用事?先ほども思ってた魔界へ行く用事なら避けたいが……。)

 

 ルナは椅子から降りて、彼女に向き直り聞く。

 

「用事?人間界になんの用事だ?」

 

「……ルナ、いますぐ私と身を固めるつもりはないのね?私、どうしても貴方の血が忘れられなくて……」

 

 それを聞いて、ルナの脳裏には、学校のことや、嵐、晴女、そして茜の顔が浮かんでいた。

 

「……。クローネ、俺にはまだ人間界でやるべきことが色々あるんだ。学校もあるし、友人や気にかかっている人もいる。それらを置いていますぐ、というのは無理だ。すまない」

 

 深々と、ルナが頭を下げる。それを聞いて、悲しそうにクローネは目を伏せた。

 

「そう……。優しいのね、ルナは」

 

「別に、俺はやりたいことがやれればいい。逆に言えば、それができないのはちょっとな、と思っただけだ。それに――」

 

 頭を上げて、ルナはクローネの方に、握手をしようと右腕を伸ばす。

 

「――これから、友達から始めていけばいいじゃないか。魔族がどうなのかは知らないが、人間ならそうするもんだよ、クローネ」

 

「……いいの?私、これでも貴方を押し倒したのよ?」

 

「そのくらいがなんだ。生きている以上、誰にでも間違いはある。それをどう正していく、ってのは大事だぞ?」

 

 それを聞いて、クローネがおずおずと右手を差し出したので、ルナは少し強引に彼女の手を引き寄せて握手をした。

 

「……ほら。こうして握手できた。それだけでも、一歩前進、だろ?」

 

「……ええ、そうなのかもしれないわね」

 

 彼女が微笑んだのを見て、ルナもはにかむ。

 

「それに、血なら俺が死なない程度なら提供するぞ?前みたいに襲われかけるのは勘弁だがな」

 

「掘り返さないでよ、あの時は私も恥をかいたんだから!」

 

 もう!と言いながら、彼女が手を離す。そこで、ルナはちょっと気になっていた事を聞いた。

 

「ところで、こっちに来るつもりなら、スマホは持っていた方がいいぞ。何かと便利だし、俺とも連絡が取れるようにした方がいいだろう?」

 

 そういうと、クエスチョンマークが頭に浮かんだような顔をして、クローネは言った。

 

「え?私スマホ持ってるわよ?持ち歩かないだけで」

 

 聞いてルナはいやいや、とツッコミを入れる。

 

「いや持ち歩けよ……。携帯電話ってのは持ち歩くためにあるんだぞ」

 

「でも充電気になるじゃない?」

 

「それは……あー、魔界とこっち行き来してるとそういうこともあるか。スマホのモバイルバッテリーと、電話番号渡しておくから、次こっち来る時はスマホ持ってこい」

 

そういうと、ルナは机の引き出しを開けて、黒いモバイルバッテリーと付属ケーブル、そしてメモ帳を1枚破って自分の電話番号を書くと、それらをクローネに渡した。

 

「ほらよ、お下がりだけど、充電すればまだ使えるはずだ」

 

「ありがとう、ルナ。こっちに来ることがあれば真っ先に電話するわ」

 

「出れない時もあるから、そん時はショートメッセージでも入れてくれ。……しかし、そうなるとアレだな。責任の取り方考えないと」

 

 ルナが椅子に座り、思い悩み始めたので、クローネは顔を覗き込んで言う。

 

「え?いずれ私と結婚するんじゃないの?」

 

「あくまでこのまま良好に関係が進展したら考えるよそれは。ただ、今の段階だとそれはちょっと考えづらいかな……っと」

 

 と言っていると、スマホが通知を鳴らしたので、ルナは慌てて確認する。

 

『ルナ君、明日の夜暇ですか?両親にルナ君の食事を見せたら、『そんな食事毎日していたら、体調が心配です。私達作るから、一緒に食べませんか』とか言い出したんだけど』

 

 と、困った顔の顔文字と共に茜からのメッセージが送られてきた。

 

「えぇ……?このタイミング?」

 

「誰から?もしかしてさっき言ってた友達?」

 

 クローネがスマホの画面を覗き込むので、ルナは慌てて画面を隠すと、彼女はニヤニヤしながら口を出す。

 

「隠すって事は……かわいいかわいい女の子でしょ~?」

 

「ぅぐ、確かにそうだけど、関係あるか?」

 

「だって、こんなにかっこいいルナの友達だもの。周りに女性侍らせててもおかしくないでしょ?」

 

「あいにくと繋がってるのはこの送り主と義姉、それとお前だけだよ。学校じゃ話しかけられる事はあっても、そこまで仲いい奴は少ないんだ」

 

「え~残念~。私寛容だから、側室は何人いてもいいわよ~?」

 

「お前なぁ……、まぁいいや。クローネ、お前は明日どうするんだ?明日の夜の件に誘う訳にはいかないから、ここに残るなら留守番と買い物くらいしかやること無いぞ」

 

 ルナがそう言うと、彼女は大げさに泣くフリをして言った。

 

「うっうっ……私を置いて別の女の所へいくのね……」

 

「お前……、前の発言思い出せよ……」

 

「……バレたか。私はそれでも構わないわよ。その代わり、その女友達と少しやりとりさせて。私、その子とも友達になりたいわ」

 

 クローネがスン、と真顔に戻りながらそう言うので、苦笑しながらルナは言う。

 

「はは、それは茜次第かな……。んじゃ電話かけるから待っててくれ」

 

 ルナはスマホを操作し、茜へと電話をかける。数コール待った後に、彼女は電話に応答した。

 

『も、もしもし?どうしたの?』

 

「月読だ。さっきのメッセージの件、本気にしていいのか悩んでてな」

 

『それなんだけど……。もう夜なのにお父さんもお母さんも買い物に出かけちゃって……。本気みたいだから、明日の夜来てくれる?』

 

「いいぞ。丁度冷蔵庫の中身が切れてたから、買い物しなきゃなぁと思ってたところだったんだ」

 

『いいの?そんなあっさり決めて。お義姉さんとかはどうするの?』

 

「ラン姉ぇなら今日は用事だかで外で食ってるし、明日も多分自分で何とかすると思う。もういい大人だしな。というわけで、明日の件はよろしく伝えといてくれ」

 

『う、うん。待ってるからね』

 

「あ、あと、それとは別に、紹介したい人が来てるんだが、電話変わってもいいか?」

 

『うぇ?どうしたの急に』

 

「それは本人次第かな……代わるぞ」

 

 そう言って、ルナはクローネにスマホを渡した。

 

『も、もしもし……?』

 

「こんばんは、茜さん、で合ってる?」

 

『……えーと、ランさん、ですか?』

 

「私はクローネ。クローネ・アーカード。アーカード伯爵の一人娘で、ルナの友達よ」

 

『クローネさん!?昨日通り魔に遭って、ルナ君に助けられたって、あの!?』

 

「そうよ、その時はルナに助けてもらって、感謝してるわ」

 

 ね、とクローネがルナの方を見て言うので、俺は思わず頷く。

 

『そうなんですか……。なんというか、友達が人を助けたって聞いて、ちょっと誇らしくなっちゃって。雲の上の存在だと思ってたので、声だけでもやりとりできて嬉しいです』

 

「それは良かったわね。そうだ、今度一緒に、ルナと3人で、食事でもどう?明日は流石に無理でしょうけど、予定が決まったら、ルナを通じてお知らせするわね」

 

『えぇ!?いいんですか!?魔界のお姫様とお食事なんて恐れ多い……!』

 

「いいのよ、ルナの友達同士、仲良くしたいと思っていたところなのよ?」

 

『わぁ……!嬉しいです!ありがとうございます!』

 

「それじゃ、ルナに代わるわね。お話できて楽しかったわ、ありがとう、茜さん」

 

『はい!こちらこそ、ありがとうございました!』

 

 クローネがスマホをルナに渡す。それを受け取って、ルナは応答を再開する。

 

「……というわけだ。今度俺、茜、クローネで食事ってことで、決まったら俺に伝えるそうだ」

 

『……緊張した~……。まさかクローネさんと友達だったとは、私知らなかったからビックリしたよ?』

 

「なったばかりだけどな……。んじゃ、また明日な、月出里さん」

 

『うん!楽しみに待ってるね!』

 

 そう言って、ルナは電話を終了し、クローネに向き直ると、呆れたように言った。

 

「……人を勝手に巻き込んで予定を作りたいなら、先に言ってくれ。忙しい訳じゃないけど、いきなりは難しいぞ」

 

「ごめんなさいね。茜さんと会う口実を作りたかっただけなの」

 

「ならいいけどさ……。そういえばクローネ、お前その食事会、どこにするつもりだ?」

 

 そう聞くと、彼女は首をかしげながら言った。

 

「んー……魔界にご招待するのはダメかしら?」

 

「だと思ったよ……。ついででご両親に紹介するつもりだったろお前」

 

 バレたか、という顔をしながらクローネが後ずさったので、ルナははぁ、とため息をついた。

 

「全く……。まぁお前の両親が来ない、かつ茜の食事代がクローネ持ちだったら俺はいいぞ。俺は兎も角、茜も払うとなると相当店を選ばないといけなくなる」

 

「ふふ……。そんな事言わないで、私に奢られなさいよ」

 

「男には面子ってもんがあるんだ。そこは譲らないぞ。……というか、魔界の通貨って円か?」

 

 ルナがクローネに聞くと、彼女は答えた。

 

「円、使えるわよ?5、6年くらい前から普及してるわ」

 

 それを聞いてルナは、今度は安堵の息を漏らした。

 

「相当融和してるんだな、魔界と日本は。心配事が減って助かるよ」

 

「これも、お父様のおかげなのよ。もし会う事があれば、感謝の言葉の一つでも差し上げてね」

 

「はいはい……。で、クローネは今日泊まるのか?そうなら、今度こそ俺はホテルかネカフェにでも泊まるぞ」

 

 ルナが財布を取ろうとすると、それをクローネが慌てて手を重ねて止めた。

 

「……ごめんなさい、実は私、近くに誰かいないと眠れないの……。屋敷ではメイドが見張りをしていたけど、ここだとルナしか頼れないの。だから、ね……?」

 

 彼女が上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

 その赤い瞳は少し潤んでいるようにも見えて、ルナは思わず目を逸らした。

 

 (えぇ……?また何か企んでるんじゃないのかこの吸血鬼……でも頼れるの俺だけって言われたら弱いなぁ……)

 

 ルナは半信半疑で彼女に向き直った。

 

 彼女は視線を逸らさず、少し唇を噛んでいるように見えたので、ルナは(あっこれガチのやつだ)と思い、仕方なさそうに言った。

 

「……。しょうがないな、いいぞ。ただし寝込みを襲うなよ、したら友達関係も将来の結婚もナシだ」

 

「本当!?ありがとう!」

 

 彼女が年相応の笑顔で喜ぶのを見て、はぁ、とまたルナはため息をついた。

 

「(本当になんも企んでないよな……?)寝る場所は……。俺が部屋側、クローネが窓側でいいか?前回の時はそうだったが」

 

「ええ、それで大丈夫よ。あ、寝る前に少しだけ血を頂けないかしら?」

 

「寝酒感覚で血を飲むのかお前……。いいけどさぁ……」

 

――

 

 その夜。クローネは窓側に、俺は部屋側に寝転び、1つの布団を共有し眠りについた。

 

 ――深夜。

 

 ルナの寝息が、急に荒くなった。

 

 ――夢の中で、ルナは森の中、月明かりの下にいた。

 

 ルナが立ち尽くしていると、足元から声がした。

 

「――何故、お前――る」

 

「――せない」

 

「――が――い――」

 

 次第に、その声は鮮明になっていく。

 

「何故、お前だけが生きている」

 

「許せない、許せない」

 

「お前が全て悪いのに」

 

 その声は、紛れもなく、ルナの母親の声をしていた。

 

「やめろ……」

 

 ルナはつぶやくが、声は一向に止まない。

 

「――お前だけ」

 

「それ以上、母さんの声で言うな……!」

 

 呼吸が荒くなっていくのを、ルナは感じた。

 

「お前だけ、死ねば良かったのに」

 

「やめろ――!!」

 

 そう叫んだ瞬間、ハッとルナは目を覚ました。

 

 全身に嫌な汗をかいている気がする。心臓の音が、どくんどくん、とうるさくルナに騒ぎ立てる。

 

 (……また、か)

 

 ルナが起き上がると、クローネがこちらに寝ぼけ眼で話しかけた。

 

「ん……。どうしたの……?」

 

「……なんでもない……。」

 

 そう言ってルナがベッドから出ようとした時、ルナの手をクローネが掴んだ。

 

「……手、びっしょりじゃない。悪い夢でも見たの?」

 

「……まぁ、そんなところだ。水飲んでくるだけだから、大丈夫だ」

 

 ルナが手を振り払おうとするが、クローネの力が強く、離れる事ができなかった。

 

「……離してくれ」

 

「や……。今夜はもう大丈夫だから、一緒に寝ましょう……?」

 

 それを聞いてルナは仕方ない、とばかりにクローネに背を向けてベッドの端に寝ころんだ。

 

 すると、後ろからもぞもぞと音がしたかと思うと――。

 

 ――ルナの首に細い腕が回ってきて、背中から抱きしめられた。

 

 とても柔らかい2つの感触を背中に受けて、ルナの身体が強張る。

 

「……クローネ?」

 

「大丈夫……。今夜は私がいるから……。だから安心して、ね?」

 

 彼女の吐息の匂いが、少しだけルナの鼻に届く。わずかに血の匂いと、どこか安心感を覚えるような匂い。

 

 その匂いを嗅いで、ルナの緊張がどこかへと行った、ような気がした。

 

「……。ああ、おやすみ、クローネ」

 

「……おやすみ、ルナ」

 

 ルナは静かに目を閉じた。

 

 彼女の体温と、とくん、とくんという規則正しい心音と、少し遅れて聞こえてきた寝息の音。

 

 その全てを触覚と聴覚で感じながら、安心感を覚えたルナも再び眠りについた。

 

 




自分の趣味の影響で、ルナの着信音と鼻歌は大体某K◯NAMIの音ゲーの曲になっています。わかったらすごい。

次の話も、近い内に書き始めると思います。よろしくお願いします。
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