「ルナ君、次はコレとかどうかな?」
「ルナ~?こっちもいいと思うけどなぁ?」
……ルナは、とあるコスプレショップにて、茜と嵐、二人の着せ替え人形になっていた。
(……どうして、こうなった……?)
――時間は、数時間程前まで遡る。
昼に起きたルナは、クローネに買い物のメモと買い物をする店の地図、幾ばくかの現金を渡してから、こう言った。
「ここに書いてあるリストのものを買ってきてくれ、場所は地図の通り。金は余るはずだから、それで昼飯でも食ってこい」
そう言うと彼女は了承したので、ルナはシャワーや着替え等の身支度をして外食で昼食を済ませ、茜のいるであろう神社へと向かった。
神社の参道で、巫女服を着た茜が掃き掃除をしているのを見ると、ルナは声をかけた。
「よう、茜。調子はどうだ?」
「ルナ君!まだ夕飯には早いけど、どうしたの?」
「それまで暇だから、時間を潰そうと思ってな。これから暇か、って聞こうと思ったけど、ちょっと忙しそうだな?」
「そんな事無いよ?私、これくらいしかお父さんお母さんの役に立てないし、他は勉強とスマホのゲームくらいしかやることないから……」
そう茜が目を伏せながら言うので、たまらずルナは言う。
「……決まりだな。んじゃ、着替えてこい。ゲーセンでも行こう」
「え?いいの?」
「他にやること無いんなら、そっちの方が楽しいだろ?」
そう言うと、ぶんぶんと尻尾を振りながら、茜は嬉しそうに答えた。
「うん!ちょっとお父さんに伝えてから着替えてくる!」
「ああ、その間俺は普通にお参りしていくわ」
ルナはそう言い、参道の端を通って拝殿に向かうと、手水舎で手を洗ってから、二礼二拍手一礼をして賽銭箱に5000円札を入れ、お参りをした。
(茜とクローネが、仲良くなれますように。あと、晴女との関係を思い出したいので、できればお願いします、と)
そうやってお願いをしていると、奥から金色の狐耳と尻尾を生やした、大人の女性が出てきた。
「毎回毎回、高額なお賽銭、ありがとうございます、ルナさん」
「……まぁ、こうでもしないと使いきれないので。それに、今晩の夕飯を用意してくれるので、それのお礼でもあります。月出里さんのお母さん」
「まぁ!嬉しいわ、これからも茜と仲良くね」
そう言ってにこやかに微笑む彼女に、礼をしながらルナは言う。
「そのつもりですよ。そうだ、茜とこれから出かけてきますね」
「そうなのね?二人ともいってらっしゃい」
そうやって他愛もない会話をしていると、着替えた茜が戻ってきた。
「ごめんおまたせー!どうかな、動きやすい服装にしたんだけど……」
上は淡いピンク色をしたオーバーサイズのTシャツに、パーカーを腰に巻いている。
下はちょっと丈が長めのホットパンツからは黒いスパッツがちらっと見え、足にはスニーカーを履いている。
頭には前回出かけた時と同じベレー帽が乗っており、バッグも今どき女子らしい、機能性がありつつもかわいいものを持っていた。
「……うん、似合ってるぞ。動きやすそうだし、ゲーセン行くにはもってこいだ」
思わず心の中で思ったかわいい、という言葉を飲み込んでから、ルナが面と向かっていうので、茜は恥ずかしそうに赤面した。
「えへへ……。それじゃお母さん、行ってきます」
「そういうことなんで、行ってきますね」
そう二人が言うと、茜のお母さんは手を振りながら、
「いってらっしゃい」
と、見送ってくれた。ここまではよかったんだが――
――
「あれ、ルナじゃん、やっほー」
ゲーセンに行く道の途中にあるコスプレショップの前を通った時、ルナは聞き覚えのある声で呼びかけられた。
「……げっ」
そこにいたのは、ショップの宣伝看板を持った嵐だった。
「そんな嫌そうな顔しないでよー、おねーさん達姉弟じゃん?」
「この人が、ラン姉ぇ、さん?」
茜がルナに聞くので、ルナは答える。
「ああ、桐生 嵐、俺の義姉だ」
そう説明すると、茜はぺこりと嵐に向かって礼をした。
「こんにちは桐生さん。私、月出里 茜です。ルナ君とは助けてもらってから友達で……」
「嵐でいいよー。ルナと仲良くねー」
「……ところで、なんで今ここにいるんだ?」
「忘れたの?ここ、おねーさんのアルバイト先なんだけど?」
(そういえばそうだった……!ということはアレを聞かれるのはマズ――)
「――ところで、今日はゲーセンだよね?いつもみたいにコスプレして行かないの?」
「え、ルナ君コスプレの趣味があるの……?」
茜に聞かれるので、ルナは慌ててはぐらかす。
「……いつもではない。たまにはするけど今日はしないぞ」
「そんなことないでしょー?ゲーセン行く時は3回に2回はうちでコスプレしてから行くもんねー?」
何かを察した嵐が、ニヤニヤとこちらに詰め寄って囁く。
「……友達の女の子の前で、女装するのはそんなに恥ずかしいかい?」
「なッ……!?当たり前だろ!?」
「そんな取り乱さなくてもいいじゃない、そーれーにー。たまには別の姿のルナ、茜ちゃんは見たいよね?」
そう言って嵐は茜の方に向き直る。茜は少し俯いて考える素振りをした後、こう言い放った。
「……。ちょっと、見たい、かも」
「月出里さんまで!?」
「決まりだね、んじゃ、2名様ごあんなーい!」
「勝手に決めるな!?待て、フードを掴むんじゃあない!はーなーせー!」
――そうして、ルナは半ば強引に試着室に詰め込まれ、現在に至る。
「……で、最初はソシャゲのキャラ、ですか。確かにこのキャラ自体は知ってるけどさぁ」
ルナが着せられたのは黒いセーラー服にロングスカートだが、そのスカートには左側に大きなスリットが入っており、サイハイソックスとガーターストラップが露出している。
「うん、ルナ君の身長から考えるとコレがいいかなって思ったんだけど、足綺麗だね!」
「褒めるところソコかよ……確かに毛は処理してるけどさぁ……」
茜が手を叩きながら喜び、嵐がニヤニヤと笑う。
「ほうほう、いいね!次はおねーさんの番!」
二人に試着室に押し込まれ、嵐は用意していた服を試着室に放り込む。
数分後――。
「おねーさんがゴスロリだから、ルナは対比になるように甘ロリにしてみたんだけど、どうかな?」
淡いピンクと白を基調にした、ふわりとしているロリータドレス。胸元には大きなリボンがついており、スカートにはフリルとレース、そして今度は小さいリボンが複数ついて、大変かわいらしかった。
ご丁寧にティアラまで付けたルナは、長身ながらもどこかのお嬢様かお姫様を思わせる風貌だった。
ルナが少し身じろぎする度に、銀色の長髪と、スカートがゆらゆらと揺れるのを見て、茜と嵐はぱちぱちとまた手を叩いた。
……着ているルナは少し不満げだが。
「……これで満足か?」
「いーや全然!まだまだあるよー?」
「似合いそうな服、まだあるから試そうよ!次はコレ!」
茜に手渡された袋の中身を見て、ルナは絶句する。
「……これを、本職の前で?」
「そうだよ?いやー、私楽しみだなー!」
茜が言うのを聞いて、ルナは諦めた。
「はぁ……。もう好きにしてくれ……」
さらに数分後、着替え終わったルナの姿は、今度は巫女服、というより、それをモチーフにしたキャラクターのコスプレだった。
赤いノースリーブの上着に、白を基調に赤い線の入った服とは別についているスリーブ、赤を基調に白のアクセントの入ったスカート。
ルナの頭には大きな赤いリボンが結わえ付けられており、ポニーテールのようになっていた。
「……これ、元のキャラは黒髪なんだけど……」
ルナが漏らすと、茜は首を振って否定しつつも両手を合わせて喜んだ。
「でも似合ってるよ!本物の巫女さんみたい!」
「ルナ、意外と巫女さんの才能あるんじゃない?」
「それはない、でも本職から似合うと言われたら悪い気はしないかな……」
ルナが苦笑しながら言うと、今度は嵐が別の衣装を持ってきた。
「次はコレにしようか!おねーさん楽しみだよ!」
ルナが袋を受け取り、中身を見ると、これはちょっと髪のセッティングがわからないと思ったので、嵐に助け舟を求めた。
「……これは、ちょっとラン姉ぇ、手伝ってくれないか?主に髪の結い方がわからん」
「いいよぉ!」
それを聞いて、茜が目を輝かせた。
「次はどんな衣装なの?」
「それは見てのお楽しみ、ってことで!」
――十数分後、試着室のカーテンがゆっくりと開いた。
ルナの姿は、華やかで色気のある花魁を思わせる、豪華な衣装へと変わっていた。
鮮やかな赤と金の打掛が長身を包み、裾には豪華な刺繍が施されている。
髪は嵐の手によって高く結い上げられ、大きな簪や花飾りが贅沢に挿され、首筋から背中にかけて優雅に流れ落ちていた。
白い肌と銀色の髪が、派手な衣装の中で異様な美しさを放っている。
コスプレ用の煙管を持ちながら、ルナは言った。
「……この服、思ったより重いな……」
茜は思わず息を飲んで手を叩いた。
「わぁ……!すごすぎて言葉が出ないくらい綺麗だよルナ君!」
嵐はふふん、と(無い)胸を張った。
「どう?歌舞伎では女形ってのがあるから、それをイメージしたんだけど」
それに対してルナは、裾を持ち上げながらボヤいた。
「いやこれは明らかに遊女だろ……。動きにくすぎるし、暑いし、ゲーセン行くには向かないだろ……」
それを聞いて二人は、ハッとした表情で言った。
「っと、そうだったね。ゲーセンに行くのであれば、こんなの着せてる場合じゃなかった」
「忘れてた……。そうだ、私達ゲームセンターに行くんだった」
「となると……やっぱいつもの、がいいな。ラン姉ぇ、持ってきてくれないか?」
ルナがそう言うと、嵐は「はいよー」と言いながらその衣装を持ってきた。
――数分後。ルナはクラシカルなメイド服へと着替えていた。
黒のロングドレスに、白いフリル付きのエプロン。シンプルながら、白いブリムを付けたルナの風格からは、上品さが溢れ出ていた。
「やっぱこれだな、スカートの稼働幅が大きいから、案外動きやすいのもいい」
「これも綺麗……!ルナ君、よくコレ着てるの?」
「まぁ、な。コレ以外だと地雷系とかもたまに着るんだが、その場合はダンスゲームができないんだよな……。で、だ」
ルナは嵐と茜を交互に見て、こう言った。
「嵐は仕事があるし、そもそもそれが普段着だからいいとして、月出里さんも、俺にあんだけコスプレを着させたんだから、着るべきなんじゃあないか?」
「えぇ!?そんな、私なんかが着ても似合わないよ!」
茜がそう言いながらブンブンと手と首を横に振るので、ルナはまーまー、となだめながら続けた。
「それを判断するのは俺と嵐だからな?遠慮するな」
嵐が、それなら、と口を挟んだ。
「なら、お揃いにするのはどうかな?といっても女性用だから、スカートは短くなるけど」
「う、うーん?黒のタイツ、あります?」
と茜が嵐に聞くので、嵐はあるよ、と答えた。
「なら、お願いしてもいいですか……?」
「りょうかーい、んじゃ、これに着替えて!ほらルナ、試着室から出る!」
「はいはい」
ルナと入れ替わるように、茜がメイド服とタイツの入った袋を持ちながら、試着室に入った。
――数分後。試着室のカーテンが、ゆっくりと開いた。
茜が顔を真っ赤にしながら、試着室から出てきた。
濃紺を基調としたメイド服で、白いエプロンの端にはフリルがたっぷりとついていた。
スカート丈は膝上数センチ、といったところで、彼女の足は黒いタイツで覆われ、光沢を帯びていた。
茜はもじもじとスカートの裾を握りしめ、ルナと嵐に助けを求めるような目線を交互に向けた。
ルナは思わず息を飲む。
「……これは、想像以上に似合ってるな、月出里さん」
嵐はぱちぱちと手を叩きながら言った。
「うん!足も綺麗だし、ブリムも似合ってるよ!初めてのコスプレとは思えないくらいかわいい!」
「え、えへへ……。そう、かな?……でも、恥ずかしいよ……」
茜は顔を真っ赤にしながらも、二人に褒められて嫌な気はしないのか、少しにやけていた。
「でも、これで踊るのは流石に恥ずかしいよ……。ルナ君は恥ずかしくないの?」
茜がルナに聞くと、ルナは少し思案してから答えた。
「俺は……。恥ずかしいけど、それ以上に楽しいと思うな。非日常をこんな簡単に味わえるんだから」
「そう、なのかな……」
そういったやりとりをしていると、嵐がスマホを持って来た。
「二人ともー、写真撮るよー!」
「うぇ!?私はいいよ、恥ずかしいし、そもそも衣装とかはお金取るんでしょ?」
踏ん切りがつかない茜に、ルナと嵐は助け舟を出す。
「コスプレのレンタル、実はそこまで高くないし、最悪俺が誘ったようなもんだからそこは払うよ。それに、写真もサービスだしな」
「だいじょーぶ、レンタルで外を練り歩くのも、写真を撮るのも、ここの宣伝になるからね」
それを聞いた茜が、観念したようにつぶやく。
「うぅ……。ネットには、上げないでね……?」
「はい言質とりましたー、んじゃ、笑って笑ってー!ピース!」
ルナと茜、二人で並んで、少し離れた場所から嵐が写真を撮った。
ルナは慣れた指ハートを両手で、茜は恥ずかしがりながら右手で小さなピースをそれぞれ作った。
「……はいおっけー!綺麗に撮れたから、二人ともスマホに共有するねー。あ、茜ちゃんは初めてだから、ついでに連絡先交換しよっか」
「はい……。よろしくお願いします……。」
「綺麗に撮れてるな……。待ち受けにしたいくらいだ」
ルナがそう言うと、茜は消え入りそうな声で恥ずかしがった。
「それはやめて……」
――
「――さーて、ゲーセンに着いたぞ」
「うぅ……。周りの目が痛かった気がする……」
店を出て、二人は近くの大型のゲームセンターに到着した。
1Fの外から大きく見える位置に、ルナのお目当てのゲームはあった。
「コレだな。俺が先に手本を見せるから、その後月出里さんが簡単めなのを踊るって感じでどうだ?」
「う、うん……」
ルナが慣れた手つきで1曲目に選択したのは、和風ながらも英語の歌詞で歌われる曲だった。
すると、ルナはいきなりステージで正座をした。
「え、なんで正座?」
「ゲーム内振り付けが正座から始まるんだよ。っと、始まるぞ」
曲が始まる。ふすまを開け、閉める仕草をしたルナが立ち上がると、いきなり画面内にマーカーが現れる。
そのマーカーを、ルナは踊りながらも処理していく。
途中、刀を振り下ろす動作や、お辞儀をする動作を見せながら、ルナはまるで本物のダンサーのように華麗に踊る。
次第に、二人の元に人だかりができ始める。
「おい、あの背の高い方のメイドさん、上手くね?」
「かっこかわいい~!」
そして、曲が終わり際、ルナがステージ上で土下座をすると、周囲からはパチパチと拍手が巻き起こった。
「……上手く踊れたのはいいが、なんだこの人だかりは。いつもはこんな集まらんぞ」
「……かっっっっっっこよかったよルナ君!!」
茜も、それに混じってパチパチと拍手をした。
「ありがとな。……こんだけギャラリーがいるとなると、次はかっこいい曲にするか」
そう言って次にルナが選曲したのは、ヒップホップのような、でもそれにしてはテンポの早い曲。
「大丈夫?コレ結構早そうだけど……」
「これは踊り慣れてるから平気だ。いくぞ」
ルナが右手をステージ上で上げ、曲が始まる。
声ネタやスクラッチ音に混じり、大量のマーカーが来るのを、ルナは的確に捌く。
途中の高速回転する地帯でルナがターンすると、メイド服のスカートがふわりと広がり、ギャラリーからおお、と声が漏れた。
「……かっこいい……!」
茜の口からも、思わず称賛の声が出てくる。
曲の最終盤になり、最初のフレーズに戻ると、ルナは決めポーズをして、曲が終了する。
ギャラリーの数は先程よりも増え、歓声が巻き起こった。
「上手いぞ―!」
「かっこいいー!」
ルナはカーテシーをしながら一礼すると、茜に向き直った。
「さて……。最後の1曲は何にする?茜が選んでいいぞ」
「え!?このゲーム自体初見だからあんまり曲知らないんだけど……。あ、この曲いい感じだからこれにしない?」
茜が選んだのは、ちょっと懐かしさを感じるようなユーロ調の曲。
「あーこれか、これ後ろから始まって後ろ向いて終わるんだよな。やってみっか」
ルナが後ろを向きながら手を上げると、曲が始まる。
愛は君を救ってくれるかい――そんな意味の歌詞が、周りに響く。
途中、ターンやステップを挟みつつ、ルナは的確にマーカーを捌いていく。
――そして最後、ルナが決めポーズをしながら後ろを振り向くと、大歓声がルナと茜を出迎えた。
「素敵―!!」
「最ッ高にかっこいいー!!」
「いいぞー!もう1回!」
アンコールの声がどこかから聞こえた瞬間、他の人達も一斉にアンコール!と叫びだした。
……歓声を上げる人達の中には、店員も混じっていた。
再びカーテシーをしたルナは、茜に耳打ちした。
「……これ以上このゲームを今日やるのはダメだな、流石に人が多すぎて店の邪魔だ」
「……すごいもの見せてくれて、本当にありがとうね、ルナ君。で、どうするのこの人だかり」
「流石にお帰り願おう、店員さーん」
そう言って店員さんを呼び出すと、人混みの中からルナの顔馴染みの店員が現れた。
「すみませんねこんな人だかり作っちゃって。平日だとこんなにはならないんですけど」
「いえいえ、店の宣伝になるんで大丈夫です!」
「で、今日はもう別のゲームやるんで、プレイしない人はお帰り願っても大丈夫ですか?」
「了解です!今日はメイドのダンサーさんは終わりだそうです!盛り上げてくださったダンサーさんに大きな拍手をお願いします!」
店員がそう呼びかけると、20人はいるであろうギャラリー達から大きな拍手が巻き起こった。
「ありがとー!」
「いいもん見れたわー!」
「今日寝れるわー!」
「結婚してー!」
(……途中の声、求婚されなかったか今?)
(求婚、されてたね……)
二人で小声で喋りながら、人混みを抜ける。
そうしてエレベーターの前に到着し、中に入った。
「次、何やる?」
「ルナ君、アレがメインでやってるゲームだったの?すごい練度だったけど」
茜が小首をかしげながら聞くと、ルナは否定しながら言った。
「いや、別のゲームだ。アレは結構前に俺のメインとコラボしてな、その時にだいたい覚えた」
「なるほど……。じゃあ、そのメインのゲーム見せてよ!」
「了解。今度は一緒にプレイするか。あれは2人プレイもできるんだ」
そういった会話をしていると、エレベーターが目的の階に到着し、扉が開く。
「さて、ここは2台あるんだが……あー、両方プレイ中の人がいるな」
ルナと茜が音ゲーブースに到着するが、先客がプレイしているようだった。
並んでいる人はいないようだが、ルナが両方とも覗くと、2曲目の中間あたりだったので、少し時間に余裕があることがわかった。
それを確認して、ルナは順番待ちのシートにLと書いて茜に向き直った。
「んじゃ、順番待ちの紙書いたから、月出里さんはここで待っててくれ。先に終わった人がいたら、このゲームチュートリアルがあるから、受けといた方がいいぞ」
「わかった。ルナ君はどうするの?」
「さっきのダンスで喉乾いたから、飲み物を買ってくる。茜は何飲む?」
「じゃあコーラで。ルナ君も多分そうだろうし」
「了解。買ってくるわ」
そう言ってルナは茜から離れ、離れた位置にある自動販売機に1000円札を入れると、コーラを2本買った。
その片方を1口飲んで、ルナはほっと一息ついた。
「……ふぅ、流石に土日はコスプレはやめとくべきだったな……ラン姉ぇにもそう言っておこう」
呟きながらルナが音楽ゲームブースに戻ると、茜が丁度チュートリアルを受けている真っ最中だった。
そして、もう片方の台が空いていたので、ルナはそちらにゲームカードをかざすと、パスワードを入力して、プレイを始めた。
――10分後。
一足先にプレイが終わったルナは、茜の音楽ゲームのプレイを見ていた。
(意外と上手いな……。こりゃすぐ段位まで行けるだろう)
茜のプレイが終わり、ルナへと声をかける。
「ふー、おまたせー。初めてだったけど、上手くできた気がするんだけど、どうだった?」
「初めてにしちゃ上出来だ。なんせギリギリとはいえレベル4のノーマル譜面を捌いてたんだからな」
コーラを茜に渡しながら、ルナは彼女を褒めた。
「チュートリアルを除いて、2、3曲目はレベル2と3のビギナー譜面を選んだんだけど、ちょっと物足りなくて……。じゃ、次は一緒にプレイしよっか」
「そうだな、折角だし、俺の好きな曲をプレイしよう」
そう言って、ルナが1P側、茜が2P側に立つと、プレイを開始した。
「最初は……。これだな」
ルナが選んだのは、先程のダンスゲームで最後に選んだ曲。
「へー、こっちにもあるんだ」
「というか、初出はこっちだ。難易度はノーマルが3だけど、大丈夫か?」
「うん、というか、ハイパーもいけるかも」
そう茜が言うので、ルナは苦笑しながら止める。
「流石に同時押し多いから、ノーマルにしとけ。んじゃ、スタートだ」
ルナはアナザーより上の難易度、茜はノーマルで、プレイがスタートする。
聞いたことのある楽曲だからか、茜はノリノリでボタンを叩く。
ルナは、この程度朝飯前、という感じで、的確にノーツを捌く。
終わってみれば、茜のスコアはBなのに対し、ルナは――
「――おお、AAが出た」
「すごいね、横目でちらっと見たけど、結構難易度高くなかった?長いノーツも降ってきてたし」
「まぁ、運指ってのがあるからなこのゲーム。んじゃ、次は……。これにするか」
ルナが選んだのは、パンクロックのような、でも歌がちょっとオペラのような曲。
「この曲、好きなんだ。俺があまり上手くなかった時にお世話になった曲でな。でも、ノーマルの譜面がレベル5だからなー……」
「私は大丈夫、4クリアできたから、5もいけるかも」
ほんとかー?と言いつつ、ルナはアナザーを、茜はノーマルを選曲し、曲が開始される。
ノーツの速さに最初はテンパっていたが、なんとかついていく茜と、問題無くバシバシと打鍵するルナ。
曲が終わってみれば、茜はCランクでなんとかクリア、ルナはスコアがAでクリアとなっていた。
「お、自己べが出たな」
「結構キツいね、レベル5……。でも楽しい!」
「だろ?さて最後だが、ちょっと難しいのをやろうか」
そうして選曲されたのは、ルナがダンスゲームにて2曲目に選曲していた、早いヒップホップ調の曲。
「これ、ターンテーブルの動作が多いから注意な」
そう言いながらルナがアナザーを選曲しようとするので、茜は言う。
「……この曲、アナザーが最高難易度のレベル12だけど本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、俺このターンテーブル操作には自信あるから。茜こそ、特殊操作の多い、レベル6だけど大丈夫か?」
「頑張ってみるしかないねー、それは」
そう言いながら、茜はスタートしようとするので、慌ててルナはオプションを変える。
「あっぶね、この曲はたしか譜面を逆にするのが有効なんだよ」
「そうなんだ?てっきりさっきまでやってた普通の譜面でやるものかと」
「基本的には譜面をランダムに崩す方が練習にはなるんだけどな。んじゃ、始めるか」
そうして曲が開始される。
曲中通して降ってくる赤いノーツを、ルナはターンテーブルを手首を擦るようにして、茜は片手を使って捌いていく。
だが途中、ルナがターンテーブルを回す回数を間違えたのか、画面にBADの文字が連発し、ゲージが削れていく。
「ッ!」
しかし、ルナは一旦ターンテーブルを回すのをやめると、すぐに落ち着きを取り戻す。
道中で削れたゲージが、徐々に赤いクリアラインへと登っていき――
「――よし!なんとかクリア!」
「うえぇ、難しいよターンテーブル!」
茜のスコアは先程と同じCだが、ゲージはギリギリクリアラインに乗っておらず、逆にルナはスコアがBランク、ゲージは少し余裕を持ってクリアしていた。
「こういうのは小指を使って回した方が基本はいいんだ、俺は運指の関係でしてないけど。メジャーな運指だとだいたいそうしているしな」
「さっきも言ってたけど、運指があるんだね……覚えるの大変そう……」
「大変だけど、一度覚えてしまえばあとは上達するだけって面がある。このゲームに限らず、音ゲーは過去の自分を超えていくゲームなんだ」
「へぇ……」
そう言うと、茜は最後の曲に対して、いかにも、というボス曲を選曲した。
「じゃあ、これはできる?」
「流石に無理だ、このゲームの段位の一番最後の最後に待ち構える曲じゃあないか。ハイパーができるくらいだ」
「えー、さっきレベル12ができてたし、本当はできるんじゃないの?」
「このゲーム、難易度内で格差があるんだよ……。こっちにしてくれ」
そう言ってルナが選曲したのは、アナザーがレベル12で、その上の難易度も12の曲だった。
「これのアナザーがやっとって感じだからな……。流石にコレで勘弁してくれ」
「むー、このゲームどのくらい難しいの?」
「最高難易度をクリアするだけだったらまだ簡単な方だが、その中でも難しいのをやるとなるとアーケードの中では3本の指に入るくらいかな」
「そうなんだね……。んじゃ、これでもいいよ。ノーマルのレベルが7だから、流石に私もビギナーにしよっと」
ルナがアナザー、茜がビギナーの譜面を選択すると、曲が開始される。
雨を思わせるようなテクノ調の曲で、ルナは途中混じるターンテーブル操作や、長いノーツをある程度捌く。
茜も、楽しそうにノーツを捌いていく。
――終わってみれば、両方ともクリアラインを余裕に超えたクリアだった。
「……ふぅ、おつかれ、どうだった?」
「楽しかった!でも流石に自分の力不足を感じたなぁ……。」
「そこはおいおい上手くなっていけばいいさ、まだ2回しかプレイしてないんだろ?」
「うん、そうだね!」
茜が笑ったのを見て、ルナも少しはにかむ。
「っと、そういえば時間見てなかったな……え、もう17時?」
ルナがスマホを確認すると、午後の5時をとうに過ぎていた。
「え、もうそんな時間なの?コスプレ返さないとだし、早く行かないと」
そんな時、二人に声をかける者がいた。
「ヘーイそこのメイドさん二人ー。一緒に俺と食事しなーい?」
そこに現れたのは、いかにもチャラいです、という風貌の男だった。
((誰……?))
ルナと茜が顔を見合わせていると、チャラい男が言った。
「大丈夫、俺の友達も連れてくるからさー?ほら、二人一緒にどうだい?」
「え、えーと、私達、これから家族で食事があるので……」
茜が遠慮がちに去ろうとするが、チャラい男は引かない。
「家族で食うなんていつでもできるじゃん?この出会いは1度きりなんだしさ、後悔はさせないからさぁ?」
チャラい男が茜の手を握ろうとしたのを見て、思わずルナが間に入って、ドスを効かせた声で言い放った。
「……悪いが、誰とも知らないような男に、俺の友達を連れて行かせるわけにはいかないな」
すると、チャラい男が素っ頓狂な声を上げた。
「……へ?男?」
「そうだぞ、俺は女装してるだけの男だ。わかったらとっとと失せろ」
そのままルナは茜の手を握り、後ろを振り向かずにエレベーターに乗り込んだ。
「……ふぅ、なんとかなったな」
そう言うと、茜がうつむき加減でつぶやいた。
「……ごめんね、また助けられちゃった」
ルナは、気にするな、と茜の頭を右手で撫でながら言った。
「いいんだ、こうするしかないと思ったしな」
ルナはそのまま左手で1Fのボタンを押して、エレベーターのドアが閉まった。
エレベーターの窓を見ると、呆然と立ち尽くしたチャラい男がぱくぱくと口を動かしながら何かを言っていたようだが、その言葉はルナと茜には届かなかった。
――
「いやぁ……今日は色々あったな」
コスプレ姿からいつものパーカー姿に戻ったルナと、同じく普段着に戻った茜は、神社へと行く道を二人で歩いていた。
「今日はありがとね、ルナ君。ほんと色々なことがあったね……」
「……でも、楽しかったろ?」
ルナは足を止め、茜に向き直って問う。
それに対して、茜も足を止めて答えた。
「――うん、すっごく楽しかった!」
満面の笑みで、茜が言うものだから、ルナはちょっと顔を逸らした。
「(やっぱこいつの笑顔はいいな……)さて、ご両親達はもう飯作り終わってんのかな」
「あ!ねぇ、なんで目ぇそらすの?」
茜が顔を覗き込むので、ルナは慌てて歩きだす。
「なんでもねぇよ、ほら、遅れるぞ!」
「あ、待ってよルナ君!」
茜もそれに続く。
――そうして、ルナと茜は茜の家に到着し、茜がインターホンを鳴らす。
「ただいま、戻ってきたよ」
『おかえりなさい、茜。ルナさんも待ってましたよ。手を洗ってから、一緒に夕飯にしましょう』
「ありがとうございます、お邪魔します」
そう言って、ルナと茜は家に上がり込み、手を洗ってからリビングへ行くと、既に唐揚げをメインとした献立メニューが並べられていた。
茶色の醤油味と白っぽい塩味の2色のからあげ、それに添えられている千切りキャベツは市販のものではないのか、すこし切り方にばらつきがある。
天ぷらはアスパラやたけのこ、菜の花等、春野菜が目白押しで、ポテトサラダからはハムときゅうり、花の形にくり抜かれたにんじんが覗いている。
味噌汁には豆腐とわかめとわけぎが浮き、白米はつやつやと光り輝いているようにも見えた。
「こんばんは、お邪魔します。今日はこんなに豪勢な食事会に呼んでいただいて、ありがとうございます」
ルナが茜のお父さんとお母さんに、ぺこりとおじぎをする。
「いやいや、むしろいつも高額なお賽銭、ありがとうルナ君」
「昨日のメニューを見てたら、ちょっと心配になったから、私、腕によりをかけちゃったのよ。さ、席に座って。遠慮せず、食べていいからね?」
茜のお母さんが席に着くよう促すので、その席に座ってから、全員が座るのを待って、全員で「いただきます」と言い、食事が開始された。
ルナは最初に醤油唐揚げを一口頬張り――
「――ッ、これ、すごく美味しいです」
一瞬涙ぐみながらも、美味の声を茜のお母さんに伝えた。
「まぁ、涙が出る程美味しいなんて感激よ!どうしたの?」
「いや、唐揚げは自分で作ることがあまりないので、冷凍か市販のものしか最近食べてなかったので……。ご飯が進みますね、これ」
「嬉しいわ、いっぱいあるから、いっぱい食べてね!」
茜も、アスパラの天ぷらを塩を付けて一口かじる。
「ルナ君、これも美味しいよ!」
「そうか、んじゃ俺は菜の花のやつをっと……ん、これも美味いな。揚げたてサクサクだ」
「ははは、うちの母さんは揚げ物が特に上手くてな、ついつい食べすぎてしまうんだ」
茜のお父さんが笑いながらそう言うので、ルナは頷いて白米を口に運ぶ。
ルナ達がそうやって団欒の時を過ごしていた途中、ふと気になったのか、茜の母親がこう口に出した。
「――そういえば、今日のデートはどうだったの?」
「「ぶッ!?」」
それを聞いたルナは飲んでいた味噌汁を吹き出しかけ、茜は白米を喉につまらせかけた。
「んぐっ!?み、水……」
「げほっ、げほっ、なんてこと聞くんですか月出里さんのお母さん……」
「あっ、ごめんね?つい気になっちゃって……。はい茜、お水」
そう言って茜のお母さんは水を差し出し、茜はそれを受け取ると、ごくごくとそれを飲み干して、顔を真っ赤にしながら言った。
「ぷはぁ……。お母さん、私達、まだまともに出会って3日目だよ?そこまで進展してるつもり無いって」
続けて、ルナも言う。
「今日に関しては、茜が退屈そうにしてるのを見て耐えられなかっただけだ……。俺もデートだとは思ってませんよ」
そう言うと、茜のお母さんは残念そうに言った。
「あらそう?てっきりもう付き合ってるものかと」
「母さんは気が早いなぁ。まぁ、俺もルナ君と茜は付き合ってるものかと思ってたが、口には出さなかったぞ」
それを聞いて、ルナは思った。
(俺と月出里さん、そんな風に月出里さんの両親から思われてたのか……。うーん……)
そうルナが考えていると、茜が言った。
「……でも、連れ出してくれて、とても楽しかったよ。それは本当」
「だな。今日はいろいろなことがあったしな……。」
コスプレに、ダンスゲームに、音楽ゲーム。
いろいろあって、楽しかったのは俺も同じだ、とルナは思った。
――そんな会話がありつつも、つつがなく食事は進み。
気づけば、全ての皿が空になった。
「――ふぅ、ごちそうさまでした。今日は本当にありがとうございました」
口周りをハンカチで拭きながら、改めてルナが茜の両親に礼をする。
「お粗末様でした。こちらこそ、今日は来てくれてありがとうね、ルナさん」
「また困ったことがあれば、いつでもうちの神社に来なさい。相談に乗るくらいはしてあげられるよ」
茜のお母さんとお父さんがそう言うので、ルナは席から立って言う。
「ええ、また機会があれば、ご一緒に食事しましょう」
「ルナ君、今日は本当にありがとう」
茜がルナに対して礼をして言う。
ルナはリビングのドアを開けてから、また一礼して言う。
「では、今日はこれで。月出里さん、また今度、な」
「うん!またね!」
「夜道は暗いから、気をつけて帰ってね~!」
茜と、その母親から声をかけられながら、ルナはリビングのドアを閉め、玄関で靴を履いて外に出た。
――
場所は変わり、時刻は20時。茜はお風呂に浸かっていた。
「はー……。落ち着くぅ……」
茜は肩までお湯に浸かりながら、今日一日を振り返っていた。
(午前中はいつも通りで、午後からルナ君と出かけて、コスプレさせたり自分もメイド服着てみたり、ルナ君のダンスは凄かったなぁ……。一緒に音ゲーもしたし、ナンパされた時はどうなるかと思ったけど、また助けられちゃった……。その後はみんな一緒にご飯も食べて、楽しかったなぁ……)
そう考えていくうちに、次第にルナの事について、気になる事があった。
(ルナ君、いつものって言ってたけど、やっぱりコスプレ慣れてるのかなぁ?だからこそあんな遠慮のないダンスができたんだと思うし……。というか、手、握られちゃったな……。その後頭も撫でられたし……)
彼の手の感触が、今でも茜の手と頭に残っている感触があった。
細いけど筋肉はついてて、大きくて、安心感のある手。
その手に触れられて、嫌だとか、恐怖よりも、もっとずっと、安らぎや安堵、嬉しいという感情が茜の中にあった。
「……。そういえば、ルナ君、あんまり心の底から笑わない気がするんだよね……」
ふと思う。ルナが笑う時は、いつも心から笑っていないような気がする。
コスプレの写真を獲った時も、ゲームセンターにいた時も。彼は心の底から笑っていないように思えた。
どこか、寂しそうな顔をしているようにも。
「……やっぱり、両親がいないってのは、そんなに辛いのかな……」
天井を見ながら、茜は思う。
(……デート、かぁ)
茜は自らのお母さんに言われた事を思い出していた。
『――そういえば、今日のデートはどうだったの?』
確かに、今日やったことは、男と女の逢瀬、デートの範疇なのだろう。
(……私、ルナ君の隣に立てるのかな……。というか、私、ルナ君の事、好――)
そこまで考えて、茜は自分が何を考えているのかを自覚した。
「……ッ!?~~~!?!?」
風呂のせいもあってか、茜は肩から頭の先まで真っ赤だ。
(……え、私、ルナ君に好意を持ってるの!?確かに好きだけど、それはあくまで友達としての範疇のはずで、でも――)
――嫌じゃない。ルナ君に女性として見てもらいたい。
(違う違う!もっとそれは段階を踏むべきで……!)
――でも、触られるのは嫌じゃないんでしょ?
(スキンシップの範疇でしょそれは!?友達としても普通……だよね?)
――普通は、頭を撫でることは、恋人のやること。それが嫌じゃないんだから、私は――
(うぅ、雑念、どっか行ってよ~~!)
……そう頭の中でぐるぐると考えているうちにのぼせかけて、母親に救助されるのは、ほんの少し先の話。
――
――時を同じくして、ルナはクローネに頼んでいた買い物の内容の確認が終わり、シャワーを浴びていた。
部屋に帰ると、クローネは『今日は魔界に帰ります。買い物のお釣りで、ハンバーガーを食べてきました。レシートを確認して欲しいのだけれど、ちゃんと使い切っておきました』という内容の置き手紙を残して、魔界へと帰っていた。
(ふー……。クローネ、ちゃんと買い出しできていたな。後で礼を言わないと。まぁ、昼飯で丁度使い切ってきたとクローネは言っていたし、レシートもちゃんと持ってきたあたり、今後も来るのであれば、お願いできるな……)
41度のシャワーで髪の毛を含む全身を濡らし、一旦シャワーを止めてから、シャンプーを手に取り、髪の毛を洗い始める。
(……デート、か)
『――そういえば、今日のデートはどうだったの?』
ルナも、その言葉が頭の中に残っていた。
(確かに、傍から見たら俺達、デートしてたんだよな……。まぁ、茜とは結構仲良くなれたつもりでいるし、そういう関係も意識していかないと、って段階か……)
そう考えていると、ルナは不意に、茜の頭を思わず撫でてしまったことを思い出した。
(あー……あそこまでするのは、流石にスキンシップとしてダメだったかな……?嫌そうには見えなかったけど、でも、女性って何考えてるかわからない節があるからな……)
そうやって考えながら洗っているうちに、自身の長髪を全て洗い終わっていることに気づいたルナは、慌ててシャワーを浴びてその泡を流す。
そうして流し終わった後に、コンディショナーを大量に手にとると、均一になるように髪の毛全体へと塗りたくる。
(……。コスプレ、楽しかったけど、あんなにギャラリーがいるとは……。やはり、次からはコスプレげーせンは平日だけにしよう……)
塗り終わったコンディショナーの次は、ボディソープを手に取り泡立てると、そのまま身体を洗い始める。
(……茜、かわいかったな……)
普段着である、シャツとホットパンツ姿と、コスプレの時のメイド服。そして、帰り際の笑顔。
どれも、とても素敵だった。茜は足が綺麗だよな、笑顔もかわいいし、と思いつつ、全身洗い終わったので、ルナはシャワーで全身の泡と髪の毛のコンディショナーを流し始める。
「……ッ!」
不意に、ルナを頭痛が襲った。
思い出すのは、昨晩の悪夢、怨嗟の声。
『お前だけ、死ねば良かったのに』
振り払うように、ルナは温度調節のつまみを一気に冷たい方へと回した。
冷水が、全身を包んで冷たく、寒い。
さっきまで浮かれていたのが、熱が引いていく感覚。
「……俺は、」
――俺は、幸せになっていいんだろうか……?
その呟きは、シャワー音に消え、誰に聞こえるまでもなく、消えていった。
途中ダ◯エボとか◯寺の要素を入れてみました。これらは(一部を除いて)JASRACとは関係のない曲ばかりだったはずなので大丈夫……だよね?
全部の曲がわかったらすごい。