――嵐との一件が終わって、昼食を済ませた午後。
ふとスマホで時計を見ると、まだ時刻は14時にならないくらいで、時間に余裕があった。
「茜の所行くまでまだ時間があるな……」
学校が終わるのは、早くても15時以降。
それを考慮すると、1時間以上の余裕があった。
ルナは、キッチンの換気扇のスイッチを入れると、廃油入れの瓶の横に置いてある、蓋付きの灰皿を開けた。
そして、一度部屋に戻り、タバコの箱とライターを手に取る。
様子を見ていた嵐が、声をルナにかけた。
「一服かい?おにーさんもいいかな」
「別に構わないが、持ってきてるのか?」
ルナが聞くと、嵐はポシェットの中から、ルナの吸っている銘柄とは違うタバコの箱と、ジッポーライターを取り出した。
「ほら、この通り」
「……見た目美少女か美少年なんだから、外で吸うのだけはやめとけよ。イメージが崩れる」
ルナが少し呆れながら言い、キッチンに向かい、タバコを口に咥える。
「別に?おにーさんが吸う場所は大体おにーさんの事わかってくれる人達のいる所でしか吸わないから、イメージもへったくれもないよ」
並んで、嵐もタバコを口に咥え、ジッポーをカシュ、カシュ、とフリントホイールを回し、火をつけた。
ルナもそれに習って、ライターのスイッチをカチ、カチ、と押すが、なかなか火がつかない。
訝しんだルナがライターのオイル残量を見ると、既に切れていた。
「……あー、ラン兄ぃ、悪いんだけどジッポー貸してくれ」
「ん?……貸さなくても、もう火ぃついてるでしょ」
そう言いながら、嵐は己のタバコの先端を、ルナのタバコの方へ向ける。
「……あぁ、そうだな」
ルナはそれを見て、自信の持つタバコの先端を、嵐のタバコの先端へと擦り付けるようにして火をつけた。
――所謂、シガーキス、というものである。
「何回やっても慣れねえな、コレ」
「フレンチキスなら何回もやってるのにねぇ?」
笑いながら嵐が言うので、俺も顔を綻ばせる。
次第に煙が換気扇に吸われるが、それでも余りある匂いが、キッチン周辺を包む。
ルナのタバコは、最近出た赤いパッケージの少し値段の安いもの。
対して嵐の吸っているソレは、昔ながらの赤い丸のマークが印象的なタバコ。
「ラン兄ぃはいっつもソレだよな。飽きないの?」
ルナが嵐に聞くと、嵐はこう答えた。
「別に?ルナこそ、色んな種類吸ってるみたいだけど、最近はソレが気に入ってるの吸っ?」
「あぁ。コレ、少しだけ紅茶の匂いがするんだ」
吸いながら、ルナは答える。
「へぇ?興味あるなぁそれは。一本あとで頂戴?」
「そんくらい自分で買え、今ならワンコインだ」
タバコを吸いながら、伸びる灰を少しずつ、トントンと灰皿に落とす。
嵐も、おっとっとと言いながら伸びた灰が床に落ちる前に灰皿へと。
何もない、ゆったりとした時間が流れていた。
……吸い始めて、3分程が経っただろうか。
不意に、ルナは玄関の方に知っている魔力が流れている事に気づいた。
「……クローネ?」
タバコの火を、灰皿に擦り付けて消して、玄関へ向かう。
「え?どうしたのさルナ?」
「クローネが玄関前にいる。呼んでくる」
そう言ってルナは早足で玄関へと向かった。
玄関の覗き窓を見ると、外側にクローネが立っていた。
慌てて玄関の鍵を開け、開く。
「いらっしゃい、どうしたんだ今日は?というか、玄関の鍵くらい開けられるんじゃなかったのか?」
「……茜さんとは別のヒトっぽい匂いがしたから、入るのを躊躇っていたの。女性とも、男性ともとれない、不思議な匂いだったからなおさら、ね」
そうか、クローネにはあまり嵐の話はしていなかったな、と思いながら、ルナは部屋へとクローネを招き入れた。
すると、嵐がクローネに話しかけた。
「ども、ルナの義兄兼義姉やらせてもらってます、桐生 嵐です。改めてよろしくね、クローネさん」
「あ、そういうことだったのね。私はクローネ・アーカード。一応だけど、ルナとは友達……ではないわね。一方的とはいえ、好意を伝えたのだから」
それを聞いた嵐は目を輝かせた。
「へぇ?まだ会って数日だろう?そこまで進展していたとは、ルナも隅にはおけないね」
「別に、俺はただ、茜とクローネには過去を話して、それで今後の身の振り方をどうするか、って話をこれからするって段階なだけだ」
ルナはそっけなく嵐に言うと、廊下を歩くクローネに声をかけた。
「そういえばクローネはタバコ平気か?換気扇はしてるけど、さっきまで吸ってたから匂いキツかったらごめんな」
クローネはそれに対して、ふふ、と微笑みながら返した。
「それは気にしないわ。何せ私もだから」
そう言いながら、クローネはバッグの中から、オレンジ色のタバコの箱を取り出した。
「なんだ、それなら心配無用だったな。なら、これからは俺に言ってくれれば換気扇と灰皿くらいは用意するぞ」
「ふふ、ありがとね。では、お言葉に甘えて一服させてもらおうかしら」
そう言うと、クローネは箱から1本茶色いタバコを取り出すと、換気扇の下まで移動し、指先に青い炎を灯した。
(……その手があったかぁ)
クローネがやったのは、ごく低級の火炎魔法で、詠唱も無しにできるということは、相当に使い慣れている、ということでもある。
俺もできなくはないのだが、たまに炎を大きくしすぎてしまうため、ライターを使うことにしていた。
「そういえば、そのタバコは珍しいな」
オレンジ色の箱をして、巻紙も茶色い。そして、煙からは少しチョコレートのような甘い匂いがする。
「そう?コレ、フィルターの部分の巻紙に香料が使ってあって、チョコレートの味がするのよ」
「確かに、匂いもチョコ風の匂いがするね。……甘党なの?クローネさんは」
嵐が聞くと、クローネは首を縦に振った。
「甘い物、大好物よ。特にミルクジェラートなんか大好物。何皿でもいけますわ。あと、クローネで構いませんわ」
「いいのかい?結構高貴な身分なんだろう?」
そう嵐が聞くと、クローネは衝撃的な事を口走った。
「ええ。――いずれ、お
「ぶッ!?」
ルナは思わず吹き出した。確かに将来クローネは俺を婿にするとは言っていたが……。
「……へぇ?それはそれは、ルナもやっぱりやればできる男じゃあないか」
「……まだ確定事項じゃないことを軽々口に出さないでいただけないですかねぇ……?」
ルナが言うと、クローネはよよよ、と嘘泣きを始めた。
「うう……あんなにも情熱的な夜を過ごしたり、2度も同衾しておいてその言い草はひどいですわ……」
「嘘泣きなのはバレてるから。あと同衾以上のやましい事はしてないからな、俺」
そう言うと、今度は嵐が素っ頓狂な声を上げながら言った。
「えっ!?同衾を2度もしておいてヤってないの!?それはよくないよルナ~?」
「無茶言うな……」
――そんなこんなで3人で打ち解けながら、時間は過ぎていき、気づけば15時を過ぎた辺りだった。
「――っと、そろそろ茜の所行かなきゃ。行ってくるわ」
ルナが立ち上がりながら言うと、クローネは手を振った。
「あら、もうそんな時間?行ってらっしゃい」
「ああ、宿題を取りに行かないといけないし、何より茜を含めた4人で、話がしたいんだ」
そのために茜を呼んでくる、とルナは財布等の必要なものをポケットにしまいながら言った。
「いってらっしゃい、留守はおにーさんとクローネに任せておいて」
「任せた、行ってきます」
そのまま、ルナは嵐とクローネに見送られながら、玄関から外へと出ていった。
近い将来、8話も書ければなぁと思っています。間が空いてしまい申し訳ありません。
気長にお待ち頂けると幸いです。