「良いか、ベル」
声が聞こえる。いつも英雄譚を読み聞かせてくれた今はもう亡き大好きな祖父の声。
「もし、英雄に成る為の資格があるとするならば…」
ここは何処だろう。なぜだか指一本体が動かない。
「それは剣を執った者ではなく、盾をかざした者でもなく、癒しをもたらした者でもない」
心地よいぬるま湯に包まれているかのように酷く安心している。
「己を賭した者こそが、英雄へと至れるのだ」
己の記憶に光をかざす。今日もダンジョンにリリと冒険に来たはずだ。
「想いを貫き、誓いを果たせ。」
モンスターの気配が無く、警戒をして慎重に歩を進めた先で僕らは出会ってしまった。
「──それが、一番格好のいい
そうか。僕はあのミノタウロスに……負けたんだ。
ベル・クラネルにミノタウロスの脅威から逃してもらったリリルカ・アーデは、遠征を開始したばかりのロキファミリアへと協力を仰ぐ。その要請を受けロキファミリア幹部達は決戦の地へと急行する。
彼らが…否、魔法の行使によりいの一番、異次元の速度でアイズ・ヴァレンシュタインが間一髪の場面に到着する。
ベル・クラネルは罅の入った壁に背を張り付かせ、足を放り、意識は曖昧の夢うつつ。そんな彼にミノタウロスが上段から大剣を今にも振り下ろそうとしていた。
突然の闖入者にミノタウロスは処刑を取りやめ、アイズ・ヴァレンシュタインへと向き直す。
ベル・クラネルの呼気を感じ、命断たれることを阻止したアイズ・ヴァレンシュタインは安心し、一呼吸する。
そしてミノタウロスへと剣先を向け、彼を安堵させるため声をかける
「もう大丈夫。助けに来たよ」
声が聞こえる。今度は己の内ではなく、外からのものだと妙に確信する。
声は己に安堵するよう、労わるような優しさに満ちたものだった。しかしそれを受ける彼の心はしこりが、棘が、澱が、生まれ苛んでゆく。
うつらとしていた彼の意識が覚醒していく。
走馬灯により思い出した祖父の言葉「英雄の成り方」。その言葉が真実であればこのまま寝て、すべてが終わってようやく目を覚ますなど英雄の様ではない。冒険をし、新たに道を拓くのでなければ冒険者とも言えない。
胸に火を灯す。激しいものでも、聖なるものでもない、ただ暖かく周囲を笑顔にするような主神の炎を。
下腹に力を込める。ミノタウロスへ立ち向かうため、今日ではなく明日を生きるために!
彼から呻き声がする。彼と壁の間にあった石や砂が音を立てて落ちてゆく。体重移動により衣擦れや鎧の擦れる音が生じる。
それらが広間にいやに響く。違和感を抱えるとその時ようやっと異常に気付く。
ミノタウロスの呼吸が穏やかなのだ。さらに剣を下ろし、視線は私ではなく彼に注がれている。本当に静かだ。静かすぎると言って過言ではないだろう。心音すら聞こえる。彼のものが加速し、時々痙攣しながら立ち上がり、ナイフを構えるまで、いや構えた後も私もミノタウロスも身じろぎ一つしなかった。
そうして彼は叫ぶ。吠える。
「もう、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられるわけにはいかない。僕はお前に勝って英雄に成る!」
「勝負だ」
ベル・クラネルが駆け出しミノタウロスが迎え撃たんと全身を強張らせた頃、アイズ以外のロキファミリア幹部達が広間に辿り着く。
「アイズ、今どうゆう状況?」
何をすべきか知るために当然の質問が出る。
しかして、アイズは返答しない。返答できない。目線は広間の中央へ傾いたまま。
疑問を浮かべ、彼女の目線を追う。そこには驚くべきことが起こっていた。
振るわれた大剣をすんでのところで躱し、右手のナイフを固い表皮へと斬り上げる。しかし残念な事に切り裂く事能わず、心の内で舌を打つ。相手の一振りは当たれば必死、こちらの攻撃は意味をなさず。心に後悔の色が染まっていくのがありありと実感できた。
自分は英雄の器ではないと己を否定する。命を賭すだけで終わる者を英雄とは呼べないと憧れを持って祖父の言葉を否定する。戦い以外の考えが思考に混じり、一瞬反応が遅れる。隙を見せれば死ぬ状況でそれを晒し命を繋げたのはひとえに運であった。
ベル・クラネルがなんとか攻撃をナイフで受けることに成功し、壁に激突した痛みのうめきを聞き一同は一息つく。救援に間に合っていたはずなのに相手を死なせてしまうなどロキファミリアの誇りにかけて許されない。彼を今すぐ救おうと誰かが嘯く。
そんな時、彼の声が聞こえる。聞こえてくる。その誓いを聞きアイズ・ヴァレンシュタインが首を横に振る。彼らは、縦に振ることを返答とした。
瀕死のベル・クラネルの脳裏にあったのはやはり祖父の姿。主神ヘスティアやリリルカ・アーデなど今の家族が浮かんだとしてもおかしくはなかったが英雄の都<オラリオ>に来てひと月と少々。人生のほとんどを共に過ごした存在には敵わなかった。そんな彼の胸中はささくれていた。大好きな祖父の言葉を否定してしまったから。それでもその考えをさらに覆すような答えは彼には思い至らなかった。
アイズさんは手を出さないだろうなと確信する。それが良いことか悪いことか僕には分からないけれど、ただ死にゆくだけであっても今を大切にしたい。感じる合間にも過去へと移り変わる今を。
そんなことを考える彼にひらめきが一つ。
「過去に取り残されないよう今を走り続ける」
過去命を賭した、そこで止まっていたのが先ほどまでの自分。
ならば今命を賭し続けようとすれば何か変わるかもしれない、と簡単に希望を湧かす自分の姿に少しあきれ苦笑する。
しかして希望が湧けば勇気が染み出す。
目を開こう。耳を澄ませよう。肌で感じよう、鼻で深く嗅ごう、空気すらも味わおう。今を生き続けるために。
さあ、声に出して誓おう。
「僕は冒険する。英雄に成るためではなく、英雄で在るために!」
そこから先の戦いは見るものによっては互角に見えたかもしれない。ある意味ではそれも間違いではないのだろう。しかしベル・クラネルもロキファミリアも果てはミノタウロスすら勝負の行く末を同一のものと確信した。
ミノタウロスの必殺の一撃を躱し、裁き、受け流す。皮膜を貫くまで切りかかり、刺し、柄を殴りつけ、魔法を行使、刃の角度、入り方を都度修正する。今を駆け続けるベル・クラネルにミノタウロスの為す術はない。
正答を見出せたならば残りはミスが許されないだけの作業だ。流血により貧血でふらつき、疲労により気を緩めれば今にも失神してしまうだろうし、受けた衝撃は手足の芯に未だ残る。それがどうした――と彼は笑ってみせる。そして決着の時が来た。
「ファイアボルト――!」
胸に付けた十字の傷に手を添えて唱える。生まれた爆炎は中から熱し燃やし尽くす。
ミノタウロスも最後まで勝とうと藻掻いているが端から灰へと変じてゆく。その光景に心が掻き立てられる。気づけば思いが溢れていた。
「ありがとう。君のおかげで僕は英雄で在れる。――試練でいてくれてありがとう」
「僕と出会ってくれて本当にありがとう」
はたして聞き届けられたのか、そも届いたとして意味は伝わるのか、答えを知る者はいない。
それでもきっとその行いに意味も意義もあったのだ。
張り詰めた意識を緩めたベル・クラネルは前後不覚、垂直に立つことも満足にできない。バランスを取ろうとやじろべえの様に交互に揺れ、その拮抗は崩れ去る。前へと受け身をとることも叶わず激突してしまう…ところでアイズ・ヴァレンシュタインが彼を抱える。
「お疲れ様」
と彼女が声をかけると笑顔で意識を手放した。
こうして彼の人生にまた記述が一つ。
彼は今日英雄、冒険者その末席に真の意味で着いたといえるだろう。
そしてその席から離れる事はない。
愚物と蔑まれ、誰からも認められず、世界が敵にまわったとしてもだ。
自分でつかんだ答えは死んでも放さない。
その事を彼の祖父は知っていたのだろう。
あとがき
ベル・クラネルの一ファンとしてひねた嫉妬に彼が晒される前に活躍を綴りたかった。
彼は見事な冒険を成しえた真の冒険者なのだ。
大切な人から大事なことを学び、その先の答えへと己の足でたどり着く。それを繰り返した先に物語に綴られる英雄へと至れるというのが主題。
もし最新の英雄譚を見て自身も英雄で在りたいと思う人がいれば作者として感無量であります。
この作品はノンフィクションです
しかし筆者の想像で一部補足されています。
題材となった人物・組織・地域に迷惑をかけるのはご遠慮下さい
「ふぅー」疲労を排出するように一息つく。めちゃ難だった。二度とやりたくない。が書いておくべき要項は満たしているはず。
1,英雄は選ばれた人物が成るだけの存在じゃないこと。夢かなわずにいた冒険者の再起や界隈の自治をするものが現れる効果が見込める。
2,試練を踏破する方法。前へ進む、つまり冒険をすること。冒険者が冒険しないなんて言ってられないのだ。そもそも楽にルーチン回す奴を冒険者というのは変では?
3,試練に出会うのを尊ぶこと。逃げる以外の選択肢が頭の片隅にでも住み着いてくれるだろう。そうすれば逃げても仕方ない時きぃんと戦えるだろうう。
うむ。余は満足じゃ。推敲清書して寝よう。しかし初めてとはいえこの量でここまで疲れ、時間も係るとは。作家とはエネルギー炉心でも取りつけてる化物のことをいうのか。
広場やバベルの前といった人通りの多い場所でその本は売られ始める。小説というより絵本と呼ぶべきほど挿絵が大量に入り混じっていたからかぽつぽつと買っていく存在が現れ、噂が生まれ、話題が話題を呼びひとまず500部はけた。識字率は高めで人口も多く、景気がいいと、諸要素からむしろ当たり前だと言われるかもしれないがそれでも嬉しい。街に出てそれとなく感想を聞いて来よう。
Q 新しいえいゆうたん?があるらしいけどどうでしたか?
「俺か?カッコよかったと思うぜ。負けたとこから立ち上がって、吠えて、逆転勝利までしちまう。坊主ぐらいのころに夢見た英雄そのものだ」
「あーん?あんなもんくだらねーよ。人はあんな訳もなく強くなったりしねー。レコードホルダーについての本だからって無駄金使っちまったな。ケっ」
「こいつはすげーぞ、坊主。何が凄いかって?ランクアップ発表からまだ10日もたってないんだぜ。すげーよな。文字書いて、絵ぇ描いて、たくさん写して。レコードホルダーといい新たな時代の到来ってかんじだ」
ふむ、町人や一般冒険者はこの三つだな。特に変わり種はなさそう、というかこれだけで積極的になりすぎても困るし…まあ順当に一歩進めた感じだな。それより分布が30人中11,6、13。
質問者が子供だから2つ目は言いにくいだろうに不愉快を隠しもせず行ってくるんだもん。6人も。まあステイタスに関しての抜け道や裏技なりを期待していたのだろう。本の内容はその真逆。そこで素直に地道に努力するしかないと思えれば…、いや彼らが求めるのは豊かになる事だ。強くなることが主目標じゃない。楽に強くなり暴力を得て、それを活用し立場や金を得る。
「力の最も強い部分は別の力へと変換できるところ」ということかな。…このセリフどこかで使おう。18階層でのリンチの件をほどよく改変して使うと良さそうかな、説教と激励が混じる感じで。
おっと次作の構想の前に神連中にばら撒いた結果のヘルメスによる報告書を読まないと。えーっと
「おいおいヘルメス。こんなに大量に作るなんて天界の技術つかっちまったかー?」
「いやいや神秘スキル持ちなら楽に使える印刷機なんてラクショーだろ」
「それよりもなんでわざわざ
「そうそう、お前の好み的に…お前どんな癖してたっけ」
「アルゴノゥトみたいな英雄一直線なタイプだろ。だからおかしくないんじゃねーの」
「話を戻すぞ。レコードホルダーが確定してからじゃ時間的に厳しいだろ。なんか注目ポイントあったのか?」
「ふっ、今はまだ語るべき時ではない」
「探偵気取りかよ、いてー」
「ヘルメスはどうでもいいから本の中身について話そうぜ。俺としては祖父の言葉を疑っちまったのが哀愁漂ってて好きだぜ」
「私は英雄とは在るものだって言い切る場面ね。成れなかったと腐るどころか土壇場で再定義して立ち上がるなんて惚れちゃいそう」
「いいや成長し続けるところだろJK。覚醒する前にダメージ負ったせいで圧倒的有利じゃなく五分五分の戦いになって、そんなボロボロでもきちんと勝つ。ザ主人公だろ」
「唐突な強敵を相手に感謝がでるとかこれが男も惚れる男か」
「うちの子もこんな風に冒険してくれると見てて面白いんだけどねー」
「まあ何年も同じ夢抱えられるやつはいねえとは言わねえけど少数派だもんなー」
・
(以降も似たような会話が続く)
・
掛け合い形式だったり、語調の感じからしてほぼまんまだな。神々の中にどんな奴がいて、それがどんな割合なのかを遠回しに伝えているのか?それとも本の中での会話の調子がおかしかったから参考にしろと?会話の雰囲気からヘスティアやロキ、フレイヤはいないっぽいか?考えがよくわからない。
それよりも次作は何を書こうか。暗黒期は地雷率高すぎて今の力量じゃ書けないし、ベル君はシルバーバッグはなー。今鍛冶師に発破かけてもギルド筆頭に集られるだけだろうし後回しかなー。想いで成長が早くなるのは伝えるべき重要事項だけど彼の人柄を知らないと妬むだけだろうし。ソーマファミリア関連はギルド辺りにも効果ありそうだしいいかも。助けられて、その姿に憧れるのをリリ視点から書いてみようかな。黒竜は最初以外は何時でもいいけど強さもいまいちわからないのが痛いな。ゼウス・ヘラ隆盛記でも書いてみようか。取材相手は探せばいるだろうし。
まずは希望を育まないと、絶望の到来に潰れちゃう。
これを意図せず完璧にやり遂げるわけだから主人公ってやつは本当にすごい。
でもこの世界はきっと、原作よりもっと豊かで、もっと被害が少なくて、もっと熱を持った素晴らしい大団円を築いてみせる。
上手く書けなかったので下書きということにしました。
完成形は皆さんで想像してください。