俺の個性はサイキョー   作:鈴木颯手

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第三十一話

「っ!!??」

 

 緑谷は今回の襲撃において最も健闘していると言えるだろう。ヴィラン連合開闢行動隊による襲撃開始時、彼は居場所が分からない洸汰君を助けるために彼が秘密に特訓している場所に向かい、マスキュラーというヴィランと交戦した。

 このマスキュラーは洸汰がヒーローを嫌う理由となった両親を殺害したヴィランであり、同時に高い戦闘能力を持った危険な男であった。緑谷は両腕をボロボロにする代償にマスキュラーを降す事が出来、その際に聞いた情報から彼らの狙いが爆豪であることを突き止めていた。

 そこから洸汰を状況把握の為に出てきた相澤先生に預け、自らはマンダレイの元に戻り、洸汰の保護とヒーローとして相澤先生が戦闘を許可するという事を伝え、更に爆豪が狙われていると全体に通信するに至った。

 彼がいなければこの襲撃はヴィラン連合の良いように終わり、最悪の場合、死人が多数出ていただろう。

 そんな彼はマンダレイに伝えた後に爆豪の元へと向かうが途中で暴走した常闇と負傷した障子と合流。ダークシャドウのコントロールが効かない常闇を誘導して爆豪たちの元へと向かわせ、たまたま会敵していたムーンフィッシュというヴィランを倒すことにも成功した。爆豪を後方に据え、索敵能力の高い障子に広範囲攻撃の出来る焦凍、更に攻防に長けたダークシャドウを従える常闇と共に施設に戻るために森の中を突っ切っていたのだがそこで道に出たが異様な光景が広がっていた。

 

 肝試しのスタート地点からも見えた蒼い炎が周囲の木々を燃やしており、少しずつ火災が広まりつつあった。更にその中心部には業火が立っており、足元には女子高生らしき女性が転がっている。戦闘をしたのか二人とも傷を負っているが女性の方は全身が焼けており、炎の縄で拘束されていた。

 

「業火、君……?」

「……緑谷か。無事だったんだな」

 

 背を向けていた業火へと声をかけた緑谷は一瞬のうちにその選択を後悔することになった。緑谷へと顔を向けた業火は嗤っていた。まるで今の状況が楽しくて楽しくて仕方ないと言わんばかりに。それはまさに狂気とも呼べてしまいそうな程恐ろしい何かがあるように見えたのだ。

 

「……葉隠さんは?」

「先に逃がしたよ。俺はこいつを抑えるために残った。道を通って施設に向かったはずだ」

 

 戻った先ではマンダレイがヴィランと交戦中だが先にスタートした彼は知らないのでそう指示を出してしまうのは仕方のない事だろう。下手に森の中を移動させるよりは安全だと業火は判断したのだ。

 

「……緑谷も施設に行くのか?」

「っ! そ、そうなんだよ! 今かっちゃんを皆で護衛してて……」

「爆豪? ……俺には見えないが?」

「え? 何を言っているんだ? かっちゃんなら後ろに……」

 

 緑谷が後ろを振り返ればそこには直前まで一緒にいたはずの爆豪の姿は何処にもなかった。それを理解した緑谷の顔から熱が一気に引く。何故? どうして? 何が? そんな疑問が溢れてくるがそれを解消するように上の方から見知らぬ声が聞こえてきた。

 

「爆豪君なら、貰っちゃったよ」

 

 それは黄色いコートにシルクハット。変な仮面をかぶった男だった。そいつは右手でビー玉くらいの玉を転がしながらそんなことを言ってくる。状況から察するにそのビー玉に爆豪が閉じ込められていると判断した緑谷の表情は一瞬で険しくなった。

 

「彼はヒーローになるには惜しい人材だ。俺たちがもっと輝ける場所へと連れて行ってあげるのさ」

「返せ!!!」

「返せ? 爆豪君は誰の物でもないぞ? エゴイストめ」

「返せよ!!」

「どけ!」

 

 動けずに吠える事しか出来ない緑谷の代わりに焦凍が動く。氷結を繰り出し仕留めようとするがそのヴィラン、Mrコンプレスは俊敏どころか重力さえ感じさせない軽々とした身のこなしで楽に避けて見せた。

 

「我々はただ、凝り固まった価値観に対し、それだけじゃないと道を示したいだけだ。今の子らは価値観に道を選ばされている」

 

 それはコンプレスなりの社会の現状を現した言葉だったのだろう。しかし、ヴィランの主張に声を傾ける者等この場には誰もいない。ただ一人を除いて。

 

「っ! おい! 常闇もいないぞ!?」

 

 その時、障子が爆豪の後ろにいた常闇もいない事にようやく気付いた。爆豪だけではなく常闇も攫われるという事態に益々危機感が募ってくる。

 

「後ろの二人を音もなく攫ったのか……! 一体どんな個性だ」

「常闇君ね。彼はアドリブでもらっちゃったよ。先程彼が倒した男、ムーンフィッシュというのだが死刑判決控訴を何度も棄却される程の根っからの殺人鬼でね。そんな彼を一方的に倒す暴力性。常闇君も良いと判断させてもらったよ」

 

 そう言うと右手に持った玉を転がし、それを二つに増やして見せた。それらに爆豪と常闇が入っていると見せているのだろう。業火はコンプレスの舐めた態度に険しい表情を向ける。

 

「……態々姿を見せてペラペラと。爆豪じゃないけど随分と舐めプを仕掛けてくるじゃないか」

「もともとエンターテイナーでね。悪い癖さ。……ああ、そうそう。轟業火君。君はヴィラン連合のスポンサーから偉く嫌われていてね。ヴィランに相応しいけどいらないから殺して良いと言われているんだよ」

「……へぇ? ならここでやるか?」

 

 業火は好戦的な笑みを浮かべてレーヴァテインを生み出して構えるがコンプレスは肩をすくめるだけだった。

 

「俺は逃げ足と欺く事だけが取り柄でね。戦闘は得意じゃないんだよ。なのでここらで幕引きとさせてもらおう!」

 

 そう言うとコンプレスは高く飛び上がりどこかへと向かって行ってしまう。慌てて全員で追いかけるも相手の方が速く、追い付く事は難しかった。一番早く動ける業火もトガヒミコを拘束している為に動きに制限をかけられていた。

 

「障子! 緑谷と一緒にこいつも頼む!」

 

 そこで業火はトガヒミコを障子へと押し付けると足裏から炎を出して一気に飛び上がった。

 

「爆豪と常闇君は俺が何とかする! 任せろ!」

「業火君!? 一人じゃ危ない……!」

「全員で仲良く向かっても手遅れになるだけだ」

 

 そう言うと業火は一気に飛んでいった。それはあっという間という言葉が似あう程早く飛んでいき、引き離されたコンプレスにあっけなく追い付いて見せた。

 

「なっ!?」

「悪いけど、眠っていてくれよ」

 

 驚きで一瞬固まったコンプレスの顔面目掛けてレーヴァテインの剣の腹の部分でフルスイングする。鼻がひしゃげ、顔の骨が砕ける音が響き、そのまま少し離れた開けた地点にたたきつけられた。

 仮面が割れ、素顔があらわになると同時に口から二つの玉が落ちてきた。それは先ほど捕らえられた爆豪と常闇であり、業火は地面に降り立つと二人を回収した。

 

「おいおい! 知ってる奴だ! 誰だこいつ!」

「あ?」

 

 場違いな程に明るい声。業火がそちらに顔を向ければ見たことのない二人組が立っていた。一人は全身タイツに身を包んだ変な言動をしたヴィランで、もう片方が全身が継ぎはぎだらけの男だった。

 

「ちっ、ここが合流地点か。少し遅かったか」

「コンプレスがやられたか。結局、残ったのはほとんど居なかったか」

 

 業火はその男、荼毘と対峙する。互いに何かしらを感じたのか視線を交差させるが動いたのは同時だった。互いに()()()を打ち出し、中間地点で絡み合い相殺された。

 

「山火事はお前が原因か」

「ちっ、この程度じゃ無理か」

 

 業火は楽し気に笑い、男、荼毘は憎々し気に呟いた。それはトガヒミコが見せた負の感情よりも遥かに濃密な殺気であり、業火でさえ一瞬だが固まる程のものだった。

 

「……あのJKと良い、あんたといい。俺はどうにもヴィランに嫌われているようだ。俺、何かしたか?」

「そうやってとぼけているのが答えだろうぜ!」

 

 業火の言葉に荼毘は再び炎を放つ。先程よりも火力を強めたそれは業火が手に持ったレーヴァテインを振り上げただけできりさき、業火を避けるように左右に割れてしまった。

 

「随分と単調な攻撃だな。火力が良いのにそれ以外が最悪。ヴィランらしい雑魚個性だな」

「っ!! 取り消せよ、今の言葉ぁ!!!」

 

 荼毘は現状で放てる最大火力をお見舞いする。業火が言った言葉は荼毘の心を荒立たせるには十分すぎるものであり、本気で殺そうと炎を放った。

 

「何度でもいうよ。お前の炎は弱い」

 

 しかし、業火はニヤリと嗤うと右手を突き出しその炎を受けて見せた。右腕が焼かれ、一瞬で体中が炎に包まれるがそれは意思を持つように形を変えていき、やがて()()の業火の右腕に纏まってしまった。

 

「……は?」

「俺の家ってさ。兄弟がいっぱいいるんだよ」

 

 ふと、業火は呆然とする荼毘を前に話し始めた。それは何処か呆れたような口調で話しており、まるで笑い話をするかのようなテンションだった。

 

「その中で長男が火力にだけ拘るバカだったんだよ。しかも体質があっていないのか炎を使えば火傷をいつもしていた。それなのに火力を上げる事だけ続けて最後には焼け死んだ。

あれを見た時俺は思ったね。()()()()()()()()()()()()って。むしろ恥ずかしいとさえ思ったよ。最初から候補に入っていない姉さんや失敗作の次男は別として長男は父さんから訓練を受けてもらいながら火力を上げる事しかしなかったんだ」

 

 そこまで言うと業火は手に集めた炎をまるで曲芸のように操って見せた。それは魅せるための動きであり、この場でなければ人々から拍手喝采されているような動きだった。

 

「火力だけ上げてもこの通り、より上位の耐性持ちには一切意味が無い。故にコントロールと応用を学ぶべきだった。

火力を上げると火傷をする? なら()()()()を生み出せばいい。個性は可能性の塊だ。俺は個性が発現した時、様々な訓練をしてきたよ」

 

 業火は荼毘の炎をレーヴァテインに纏わせる。その様子は荼毘を貶している動きだった。

 

「何を言って……」

「ようは馬鹿な長男と同じでお前もバカで可哀そうな奴って事だよ」

 

 そう言うと、業火はレーヴァテインを振り下ろす。瞬間、荼毘の炎は一気にその質量を増大させ、物陰で見守っていたタイツの男ごと周辺を飲み込んで見せた。

 

 

 

 

 

「クハっ! やっぱ周りを気にしないで個性を使うのって楽しいなぁ」

 




因みに現時点で荼毘=燈矢だとはオリ主君は気づいていません。長男と同じ火力だけの雑魚ヴィランと認識しています。むしろトガヒミコの方が強いとさえ思っていたり。

ここで少しだけオリ主君の情報を出すと個性が出て最初に行った訓練は炎をコントロールすることです。彼が最終的に目指していたのは生み出した炎を自分から離れた場所で常時燃やし続けて鬼火のように好きなように動かす事です。当然今の彼はそのくらい楽にできます。


次回で林間合宿は終わると思います。
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