また、体育祭後にやりたい事の都合上一年次は2022年度をベースにするので、5月のネタばらし等を調整します
午後の10時を回った頃、オレは外に出た。
何か目的がある訳でもなく深夜徘徊をする。
外は当然暗くとても静かだ。
人によってはこの暗さに苦手意識を持つだろうがオレはこの暗さと静けさを割と気に入っている。
夏や冬だと暑かったり寒かったりで遠慮したいが、春や秋は気温がちょうど良く、夜風も心地良いのでそれらの時期にする深夜徘徊は結構好きだ。
次に深夜徘徊をする時はドビュッシーの“月の光”でも聴きながらしようかと考えながら彷徨っていると、前方に堀北の姿が見えた。
跡を尾けるかどうか考え、跡を尾けることにした。
……数時間前にもオレは同じような事をしたな。
堀北は寮の裏手に向かい誰かと会っていた。
「…ここまで追って来るとはな」
「もうあの頃のダメな私じゃありません。追いつくために来ました…兄さん」
兄さん?あれは学先輩か。苗字が同じだったが、兄妹だったか。
「…追いつく、か。鈴音、お前はやはり自分が何故Dクラスに配属されたか気付いていない。3年前と何も変わらず、ただ俺の影を追うだけだ」
「それは───何かの間違いです。すぐにAクラスに上がってみせます。そしたら」
「無理だな。この学校はお前が考えているほど甘い場所ではない」
「絶対に、絶対にたどり着きます…」
「無理だと言っただろう。本当に聞き分けのない妹だ」
堀北を助ける気はないが録画はいつでもできるようにしておく。
そこからは学先輩の妹に対する折檻が始まった。
コンクリートの地面に叩きつけ、起き上がった堀北を投げたり、腕を極めたり、窒息しない範囲で首を絞めたり。
途中、懐かしい気配が近づいたのを感じながらも、録画をしながら躾の光景を見続けた。
オレは躾が終わったのを見計らい学先輩の前に姿を現す。
「お久しぶりです学先輩。入学式の日以来ですね」
「……綾小路か。見ていたのか?」
「ええ、見ていましたよ、録画をしながら」
そう言って携帯を見せる。すると右ストレートが飛んできた。それを躱すと今度は左から裏拳が迫ってくる。
それも躱したら一度下がり、携帯を真上に高く放り投げる。
不安要素が一旦無くなったのでこちらも応戦する。
ホワイトルームでは様々な格闘技を習っているが、近接格闘は『昔』からのスタイルの方がオレには性に合ってる。
掌打と手刀をベースに足技を織り交ぜ学先輩と拳を交える。
時間にして10秒程経ち仕切り直しの為に大きく飛び退く。その際に落ちてきた携帯をキャッチする。
「良い動きだ。何かやっていたのか?」
「色々とやってましたね。他人に言うのも憚られるようなことも、ね」
「ユニークな男だ。……そういえば、今年の1年生には面白いやつがいると聞いた。なんでも入試で全科目50点で揃えたとか」
「……偶然というのは怖いものですね」
どうせ合格出来るからと遊んだが、まさか目の前の先輩が結果を知っているとは。
「正答率の低い問題を正答し、逆に高い問題は誤答しておいて偶然だと?そして小テストでは満点。随分と面白いこともあったものだな」
入試だけじゃなく小テストの結果もか。生徒会長か生徒会全員か、どちらにせよこの学校は生徒会の権限も他校とは大きく異なっているようだな。
「それで、一体何が目的だ?わざわざ姿を現して録画した携帯を見せたということは、交渉か何かの目的があるんだろう?」
「では単刀直入に言います。録画した動画を代金に4月の小テストも含めた一年時の定期テストの過去問を売ってください」
「……ほう。小テストだけでなく三学期期末までの過去問もか」
「メインは小テストと一学期中間で、他は参考にする為のおまけです」
「………いいだろう。だが動画だけでは足りん。餞別をやるから連絡先を見せろ」
オレの携帯の番号を見せると学先輩は自分の携帯を操作する。
着信音が鳴り画面を見るとプライベートポイントが100万ポイント増えていた。
「あとで過去問を送る。それを確認したら先程の動画を送れ」
「わかりました」
学先輩は用は済んだとばかりに踵を返し去ろうとしたところで立ち止まる。
「そう言えば一つ聞きたいことがあったな。綾小路、お前はAクラスを目指しているか?」
「Aクラスについてはついでですね。それよりもやりたいことがあるので」
「それが何か聞いても良いか?」
「簡単に言えば、貴方の妹と同類なんですよオレは」
オレは一度言葉を切り、気絶し転がっている堀北を見る。
「先輩と堀北の会話は最初から聞いていました。堀北は学先輩に憧れたみたいですが、オレも誰かに憧れたことがあるんです」
近いもので例えると衛宮◯嗣に憧れた衛宮◯朗だろうか。
「弟子や教え子を教え導く。そんな姿をかっこいいと思い憧れましてね。
「そうか」
「ちょうど良くと言えばいいのか、ウチのクラスにはとびきり面倒で骨が折れそうなのが3人居まして。まずはそいつらを教えるのに集中する予定です」
「そうか。健闘を祈る」
そう言って学先輩は今度こそ去って行った。
学先輩が遠くに行ったのを確認し、先程からこちらの様子を伺っている奴に声を掛ける。
「学先輩はもう行った。出てきてもいいぞ『原初の赤』」
「ようやくか。待ちくたびれたぜ」
そう言いながらソイツは出てくる。
妖艶な赤い髪に深紅の瞳の美丈夫。オレと同じ『原初』の一柱にして最初に生まれた悪魔族。
ギィ・クリムゾン。それがこの男の名だ。
「久しいな『原初の茶』、それとも『アウル』と呼ぶべきか?…いや、さっきは綾小路と呼ばれてたな」
「今のオレは綾小路清隆だ。『アウル』の名は名乗る気は無い。呼ぶなら『茶』か清隆にしてくれ」
「わかった。では清隆と呼ぶことにしよう」
変わってない。
会うのは『昔』以来だが、あの頃と欠片も変わってない『赤』に懐かしさを覚える。
「しかし驚いたぜ。知らない名の奴がミザリー達を“同じ『原初』”なんて言ったからまさかとは思ったが、本当にお前だったなんてよ」
「お前がそれを知っているということは、ソースはBの担任か?」
「ああ、そうだ。先週の火曜のHRで確認してきたって聞いたぜ」
「『赤』、クラス表に『黒』たちらしき名前があったがあれは全員『原初』か?」
「その通りだ。ウチのメイドはもとより、ディアブロたち4柱にも既に会ってる。清隆、お前が最後だよ」
可能性は高いと思っていたが『原初』全員がこの学校に入学していたか。
なら次に確認すべきは──
「『赤』、お前たち7柱が取った国籍は同じなのか?」
「へぇ……。驚いたな。それにも気づいていたのか」
驚いたと言うわりには声色は変わってないな。オレの存在が浮上してから予想していたんだろう。
「国籍はフランス。順番としては俺がフランス国籍を取り、ミザリーとレインは再会した後取らせた。ディアブロたちは各々の意志で取ったと聞いた」
「そうか。まあ、予想通りだな。でなければあんな名前の奴が何人もいる筈がないからな」
ミザリーやレインなんかは探せば見つかるような名だが、『黒』たちに関しては別だ。
スーパーカー+悪魔や堕天使の組み合わせの名など、世界中を探してもアイツらだけだろうしな。
おまけに“ディアブロ”はもろに悪魔という意味だ。フィクションでもあるまいし、自分の子供にそんな名前を付ける親がいるとは思えない。
「ディアブロたちもフランスを選んだのは偶然だが、俺が選んだのは俺たちの色に馴染みがあるからだ。意味は分かるだろ?」
ああ、分かるさ。
オレたちの色の名称はこの世界のフランス語に該当する。
『赤』に従って取得した『青』と『緑』はともかく、『白』たちもフランスを選んだのはそういう運命に導かれでもしたのかと思ってしまう。
「で、お前はどっかの国の国籍取って名を変える気はないのか?」
これは純粋な疑問からきた興味だな。
自分たちは他国の国籍を取得してかつての名に変えたのに、何故オレは生まれ持った名前でいるのか、と。
特に隠す必要がないので明かすことにする。
「大した理由じゃない。
『アイツ』もこの世界に転生して再会したなら別だが、今の所この世界に転生したのは『原初』だけだし、その未来は訪れないだろうな。
「『アイツ』……『リムル』か。ハハハッ、そうかそうかリムルが理由か」
オレの理由を聞いて笑う『赤』の声には嬉しさや喜びが混じっているように感じる。
「嬉しそうだな。今言った理由に喜ぶような要素があったのか?」
「そりゃ嬉しいさ。何せ“昔”のお前を知ってる身としてはな」
『原初の赤』は言葉を一度区切る。
ここで言う“昔”とは恐らく名無しだった頃を指しているな。
「昔のお前はディアブロと同じく俺と引き分けるくらいに強かった。だがお前はレイン以上に自由奔放で、ディアブロ以上に気まぐれで怠惰な奴でもあった」
懐かしい話だ。あの頃は“思い立ったが吉日”と言わんばかりに、その日の気分でケンカを売ったり、売られたケンカを買ったりしたものだ。
もっとも、『赤』たちが冥界から居なくなったり、『黒』が提案した三竦みのゲームが始まったら張り合いが無くなり、『黒』が勧誘に来るまで自堕落に過ごしたが。
「そんなお前がディアブロやテスタロッサたちとは違う忠義や忠誠で行動する。全員似たような方向で動くよりは退屈しなくていいさ」
要は全員が似た動きをするより、1人くらいは違う動きをする方が変化があって面白いという感じか。
それにしても変化か。
考えてみればあの世界ではおよそ500年の周期で天魔大戦が起こるのもあり、人類の文明は変化に乏しかった。
それが『アイツ』の誕生と躍進を切っ掛けに食文化や流通、魔王の勢力圏等が大きく変化した。
魚はそれまで焼いて食べるしかなかったのが、刺身や寿司にして生の状態で食べたり
魔導列車の導入で人や物の動きが大きく変動したり
カリオンとフレイがミリムの配下になったことで、ミリムが広大な支配領域の長になったりと(内政はカリオンやフレイに丸投げしてたが)。
言うなれば『赤』は“昨日とは違う明日を求めている”といった所だな。
「ミザリーとレインはクラスの為に働かせるが、それ以外は今の所静観する気でいる。だがお前は今から何かしら動くんだろ?」
「学先輩との会話を聞いていたか。そうだ。素人の猿真似になるが、『アイツ』や『グランベル翁』のように誰かを導きたいと思ってる」
「『グランベル』?グランベル…グランベル…グランベル……。ルドラの弟子でルミナスの協力者だったグランベル・ロッゾか?」
「その『グランベル』だ。西方動乱や天魔大戦でヒナタ・サカグチを導いた姿が格好よく感じたんだ」
グランベル翁に関してはそれだけじゃない。
ハクロウと並ぶ深みのある渋さ、美丈夫の落ち着き、王者の風格。
どこぞの乙女座風に言えば「グランベル翁という魅力のあるイケオジに、オレの心は奪われた」になるだろうか。
「そうか。あの『茶』が導く側になるか。楽しみが増えるってのはいいな」
「そういう『赤』はどうなんだ?」
「俺?」
「この世界で再会したのは『原初』だけなんだろ?愛しの“白氷竜”殿が居なくて寂しくないのか?」
「ヴェルザードか。……そうだな。確かに俺はヴェルザードが居なくて寂しいと感じているな」
『赤』の陰りのあるその表情に覚えがある。
『アイツ』との繋がりが感じられず喪失感を覚えた時のオレ。そして、ホワイトルームを抜けてからこの学校に入るまで可能な限り探して見つからなかった時のオレ。
今の『赤』はそんな過去の自分を見ているように感じた。
だからだろうか。
粗のある思いつきを提案したのは。
「なあ、『赤』。将来、オレたちの会社を立ち上げないか?」
「会社だと?」
「そうだ。オレたち『原初』が興す会社だ」
「唐突だな。何で俺達で会社を立ち上げるなんて考えた?」
「質問に質問で返すが、高校を卒業した後の進路は考えているか?」
「?いや、卒業はまだまだ先の話だからな。とりあえず大学に進もうかとは考えているが……」
話題が会社の立ち上げから卒業後の進路に変わり、戸惑いながらも大まかな展望を答える。
「仮に『原初』が全員大学に進学したとして、そこから就職できたり続きそうな奴は何柱いる?」
「……………」
オレの問いかけにすぐには答えなかった。
答えるまで少し時間を要し返ってきた答えは───
「カレラとウルティマは職に就けない、もしくは入った後どっかのタイミングでやらかしそうなイメージがあるな」
同意だ。
テンペストではそれぞれ裁判長と検事に就いていたが、アイツらは事件が起きると嬉々として介入していた。
本来街の事件が起きた際の裁判長と検事の担当はまだ先だが、あの2柱は暇だからと出張り、現場でかち合ったら犯人そっちのけで争うことがあった。
「ディアブロはリムル至上主義だしな。就職しないでリムルを探す為に世界中を放浪しそうだな」
確かに。
『アイツ』の存在を認知してから召喚されるまで2年そこらストーカーしてたみたいだからな。
アイツならそれくらいやりそうだ。
「テスタロッサは普通に就職して続きそうではあるな。ただ、ワガママなとこがあるし、癪に障ることあれば配下であろうと手を出す奴でもある。それでいて常識人でもあるから、爆弾を抱えた奴ってところか」
そうだな。『白』は戦闘のみならず仕事面に関しても優秀な奴だ。
細かな気配りは上手いし、紅茶の腕前もシュナよりも上。
正直、劇物女と『黒』より遥かに秘書に相応しかった。ただ、それをして片方を外交武官にすると確実にトラブルを引き起こしかねないから、泣く泣く断念したなんてことがあったな。
「レインは能力はあるんだが、面倒事はすぐ他人に押し付けるし、極度のサボり癖がある。雇用側次第ですぐクビになりそうだな」
サボり癖か。
そう言えば、いつかは忘れたが自分の事を「やるなと言われれば頑張りたくなる」とか言ってたな。
それが良い方向に働けばいいが、その辺は職種次第になるか。
「ミザリーは真面目で堅実な奴だ。就職しても職務を忠実にこなして一番続きそうな感じだ」
それに加えて、努力家で泥臭い任務も完璧にこなす一面もある。
現代社会において最も適応できそうな人物だ。
「これで6柱。残るは俺とお前だが……。おい、『茶』。いい加減最初の質問に答えろ」
「何となく想像が付かないか?『原初』の約半数が現代社会で社会不適合者になりそうだって」
「…………」
『黄』から『緑』までの分析を口にした事で想像できたのか、口を閉じ続きを語るのを待っている。
「居場所が無いから自分たちで創る。『黄』や『黒』といった社会に適応が難しそうな『原初』も働ける環境。そんな受け皿と言えるような会社を創りたい」
少し違うかもしれないが、近いものを挙げると就労支援になるだろうか。
あるいはオ◯ガ・イ◯カが立ち上げた鉄◯団か。
問題があるとすれば───
「何で会社を立ち上げたいかは分かった。だがお前は一番大事な事を言ってない。会社ってことは当然社長がいる。その社長は誰がやるんだ?そもそもカレラ達は大人しく従うような奴じゃないだろ」
そう、社長だ。
仮に会社を立ち上げたとして、大なり小なりプライドが高い『原初』の中から誰がトップに立つかだが、それについては考えがある。
「それなんだが、ピラミッド型ではなく8人の幹部による合議制を採用した、台形型の会社にしようと思ってる」
「合議制……?」
「8人の幹部の中から代表たる神輿役を選出する。そしてそれ以外は神輿を担ぐ側になる。この体制なら恐らく問題はない筈だ。他の奴らは神輿になるより、担ぐ側を選びそうだしな」
この合議制だが悪い点もある。
一つは意見をまとめるのに時間がかかること。
もう一つは責任が誰のものかわかりにくくなることだ。
ただ、それを差し引いても、『原初』の特性を考慮した会社を創るなら合議制がベストだろう。
「会社を創る理由も合議制にする意図も分かった。肝心の神輿役は発起人のお前がやるのか?」
「いいやオレじゃない。『赤』お前だよ」
「俺だと?お前がやるんじゃないのか?」
代表はオレよりも『赤』が適任だ。
なぜなら───
「だってお前───ヴェルダナーヴァから任された調停者の役目を放り投げなかったし、ルドラとのゲームも長い間付き合い続けたじゃないか」
そう。そこが理由だ。
ヴェルダナーヴァやルドラとの約束による調停者やゲーム。
最終的に調停者の役職は『赤』から『アイツ』へ禅譲に近い形で推移し、ルドラとのゲームも終わりを迎えた。
それでも『赤』は数千年間それらを投げ出すことはしなかった。
だからこそオレたちの代表に相応しいと伝えると、どこかばつが悪そうにする。
「あ~もう、分かった。代表でもなんでもやってやるよ」
「そうか」
「とりあえず今日はもう遅いし、この話は明日以降にミザリー達に伝える」
「よろしく頼む」
時間はもうすぐ11時になる。
話を切り上げ、部屋に戻ろうとすると後ろから声が掛かる。
「『茶』。提案したのはお前なんだから退学せずに最後まで居ろよ」
振り向かずに手を振って応える。
部屋に戻りベッドに横たわったオレは、眠りに就くまでの間今日の事に思いを馳せる。
堀北の勉強会の失敗を見届け、櫛田の裏の面を知り、学先輩が堀北を折檻する場面を目撃し、『原初の赤』と再会した。
再会した『赤』と言葉を交わし、会社を創ろうと提案した。
会社に関してはまだ絵に描いた餅の段階だが楽しみではある。
暮らしやすい理想郷を創ろうとした『アイツ』もこんな気持ちだったのだろうかと思い、眠りに就いた。