異世界転生したので森で隠居してたら、勇者と魔族の娘を拾った話   作:you are not

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一日空いての投稿


第8話「同行の資格」

「……」

 リリアは閉口したまま、周りを何度も見まわしていた。

 

「……いかがいたしました?リリア王女?」

「みんなは?」

「と、いいますと?」

「私は王都に行くとして、村のみんなはどうなるの?」

 

 自分が王女であること。王都へ行かなければならないこと。そんな話よりも、ここにいる村の人たちのことが気になる。

 

「わしらはここに残るぞ」

 横で聞いていた村長が口を開く。

「村長……」

「ここはわしらの村じゃ。焼けても壊れても故郷じゃからな」

 老いた手で杖を何度も付きながら、頭をポリポリとかく村長。

 

「畑も家も建て直さにゃならん」

「でも……」

「じゃが、だからこそじゃ」

 村長は優しく笑ってみせた。

 

「リリアちゃんは王都へ行きなさい……わしらじゃ、お主を守れん」

 その言葉にリリアは唇を噛んだ。

 

「僕たちも同感だ」

「心配すんな、今生の別れじゃねぇんだ」

「こっちはこっちで何とかするさ」

 村長の鶴の一声を皮切りに、周囲で話を聞いていた村人たちも次々と声を上げる。

 

「……こちらも村の再建は王国が全面的に支援いたします。立ち直るまでの間の税も免除されるでしょう」

「そりゃありがたい」

「取れないものを取ろうとはしませんよ」

 

「みんな……ありがとね」

 村人(家族)たちの想いを受け取ったリリアは、泣きそうになるのを必死に堪えながら、笑う。

 

 不安はまだ残っている。

 

「じゃあ―――」

 リリアはゆっくりと隣を見た。

 

「俺は同行できるのか?」

 その視線を感じ取ったのかカインは、リリアよりも先に口を開く。

「えっ、カイン?」

「なんだ?気になってたんだろ?」

「いや、そうだけど……キモっ」

「どうやら、俺の心はまだ痛みを感じるらしい」

「よかったじゃん」

 カインはわざとらしく胸に手を当てて深いため息をついた。

 

「結論から申し上げます」

 アリア騎士団長の声に二人は途端に静かになる。

 

「難しいでしょう。できないといより、させたくないと言った方がいいかもしれません」

 リリアの肩がびくりと震え、瞳孔が揺れる。

 

「理由を教えていただきたい」

 そんなリリアの肩に手を置いて落ち着かせながらカインはアリア騎士団長の方を向く。

 

「理由はいくつかありますが、まずあなたは何者か分からない」

「山に住んでた世捨て人ですが?」

「そういう意味ではありません。身元、経歴、所属、それらすべてが不透明」

 指を一本ずつ折りながらアリアは続ける。

 

「さらに現在、リリア様は国家的重要人物です」

「まぁ、そうでしょう。王位継承権を持つ王族なんて、周りは信頼できる人物以外近づけたくないということですよね?」

「えぇ、あなたは話が速くて助かります」

 

「いや、ちょっと、王様なんて嫌なんだけど!?」

「必ずなるではありませんよ。リリア王女は、第三王子の娘。国王陛下の孫娘ですので、低い位置にはあります」

 アリア騎士団長は開いた手を左右に振ってリリアをなだめた。

「なら、良かった……のかな?」

「重要人物扱いではあるんでしょう?」

「はい。ですので、本来であれば護衛対象以外を近付けることすら許されません」

 アリア騎士団長は淡々と説明を続ける。

 

「加えて、今回は飛行船を使用します」

「飛行船?」

 リリアが首を傾げる。

 

「王都からこちらへ向かう際に使用した旅行用の魔導飛行船です。本来であれば、私と操縦士、それから護衛数名のみで運用する予定でした」

「つまり、俺は予想外だったと」

「言ってしまえばその通りです」

 アリアは即答した。

 

「現在も教会過激派がどこで動いているかわかりません。人数が増えれば増えるほど管理は難しくなります」

 

 騎士団長の言葉に周囲の騎士たちも無言で頷いていた。護衛対象が一人増えるだけでも負担は変わる。ましてや正体不明の少年ともなれば尚更。

 

「結局カインはダメってこと?」

 リリアが不満そうに尋ねる。

 

「正確には、同行を認める理由がないと言うべきでしょう」

「そんなのあるよ!」

 頬を膨らませながらリリアは反論した。

 

「私を助けて、村まで連れてきてくれた!」

「森での件は報告を受けています。教会騎士たちを翻弄し、王女殿下を奪還した少年として」

 事実だとしながら、アリアは首を縦には振らない。

 

「ですが、それと王都への同行は別問題です」

「むぅ……」

「ご理解ください」

 

「そもそも、カインは不確定要素じゃない!」

「私から見れば十分不確定要素です」

 なおも食って掛かるリリア。だが、アリア騎士団長も引き下がらない。十五の子供の我がままなんて、姪とはいえなんでもは聞いてられないのだ。

 

「そんなこと――」

「あります」

「ない!」

「あります」

 

「お前ら子供か」

 思わずカインが突っ込むほどに終わりのない幼稚な応酬が始まった。

 

「とにかく、私は騎士団長として、王女殿下の安全を最優先しなければなりません」

 アリアの方は頭を押さえて深々とため息を吐く。そして、カインの方を向く。

 

「あなたが味方である保証はない」

「当然の疑念ですね」

「カイン!?」

 またリリアが反論する前に、カインが頷く。

 

「初対面の人間を信用する方がおかしい」

「ならば理解していただけますか」

 その反応にアリアは少し驚いたようだった。

 

「理解はします。そうするのが、仕事なのでしょう。しかし、納得は致しかねます」

 アリアが目を細める。

 

「あなたは随分と面倒な人ですね」

「恐縮です」

 カインは反射的に踵を揃え、背筋を伸ばす。そして、右手が額へ向かいかけたところで―――

 

「……失礼」

 だが、途中で気付き、カインは苦笑しながら腕を下ろした。

 

「……軍隊式の敬礼ですか?」

 その仕草を見て、アリアの眉が僅かに動く。

「昔の癖みたいなものです」

「そうですか」

 それ以上は答えないだろうと、アリアも深追いはしなかった。

 

「とにかく、現状では同行は認められません」

「むぅ……」

 リリアが不満そうに頬を膨らませる。

 

「カインは強いもん!」

「強さだけが信用たりえません」

「でも!」

「リリア様」

 アリア騎士団長は少しだけ声を低くする。その圧にいい加減リリアも口を閉ざした。

 

「カイン殿」

「はい」

 

「個人として、あなたが悪人だとは思っておりません」

「光栄です」

 

「ですが、王女殿下の護衛に相応しいかどうかは別問題です。報告書は拝見していますが、報告書だけで人を判断するわけにもいきません」

 そう言って、アリアは腰の剣へ手を伸ばした。

 

 脅しではなく、教会騎士たちを返り討ちにした報告書の内容が誇張ではないか確認するために。

 

 カインは攻撃されるとは思っていなかったのか、目を見開く。

 

 ―――瞬間、カインの姿が消えた。

 

「なっ――」

 騎士たちの驚愕が響く。

 

 彼らの視点ではカインは這うかのような姿勢で騎士団長の足元に潜り込んでいるのが見えたからだ。

 

 アリア騎士団長もそれに気づいた時には、乾いた音が鳴り響いていた。

 

 内股から、右膝へ鋭い蹴りが叩き込まれる。

 

「――っ!」

 膝の痛みと共に、アリア騎士団長は片膝をついて崩れる。

 

 その隙を作ったカインは、立ち上がりざまに右足を跳ね上げた。まるで、斧が振り下ろされるような軌道を描き、脛でアリア騎士団長の側頭部を狙う。

 

「しまっ――」

 アリアは咄嗟に剣から手を放し、魔力で右の前腕を覆いながらガードした。

 

「ぐっ……!」

 しかし、凄まじい衝撃に耐えきれず、身体ごと数歩後退する。

 

 しびれる片腕の痛みに耐えながら、体勢を立て直す。

 

「……!剣が」

 その時には、カインに剣の切先を突きつけられていた。まるで最初からそこにいたかのように。

 

 アリアが腰を見れば、鞘だけが残っており、蹴りの瞬間に奪われたのだと遅れて気づかされた。

 

「待て、全員動くな!」

 蹴られた方の手を何度も開閉しながら、アリアが鋭く制する。その言葉に武器に手を伸ばしていた騎士たちは動きを止める。

 

「すまない」

 カインは剣をアリアの足元に投げ捨て、両手を上げると、短く謝罪した。その様子に、交戦を考えていた騎士たちは茫然とする。

 

「なぜ謝るのです?」

「攻撃されると思ったら、つい反射でやってしまったので」

「つまり今のは咄嗟に反応しただけだと?」

「はい」

 

 カインの返答に、アリアは言葉を失った。

 

 もし、一瞬でも反応が遅れていれば今頃、自分は意識を失って地面に転がっていた。

 

 恐ろしいことだ。それすなわち、体に刷り込まれるほどに戦いなれてしまっているということに他ならない。

 

(何者なのですか、この少年は……)

 

 十五歳だとそう聞いた。

 

 疑いなくなる。だって、その目は酷く冷たい。アリアが何度も見てきた戦場を知る人間の目だ。

 

「騎士団長様。一つ、よろしいでしょうか」

 先に沈黙を破ったのはカインだった。

 

「……どうぞ」

「仮に俺が教会側の人間だったとして」

 カインは肩を竦める。

 

「森で教会騎士を殴り倒して、王女を奪って、わざわざここまで送り届ける理由がありますか?苦肉の策としても非効率すぎる」

 アリアは黙る。

 

「そもそもスパイなら、あの子を見つけた時点で教会へ売り渡した方が遥かに簡単です」

「……」

「今こうして生きている時点で、それが答えではありませんか?」

 騎士たちを含め誰も反論できない。

 

 リリアを教会へ引き渡していれば、報酬も地位も得られただろう。少なくとも教会から追われる立場にはならなかったはずだ。

 

「そうですね。少なくとも、あなた方の話に嘘はないのでしょう」

 カインと言う人間について、少なくとも一つだけ確かなことがある。

 

 この少年は危険だ、必要とあれば躊躇なく骨を折り、刃を向けて、殺人もいとわない。

 

 けれど、同時に。今この場にいる誰よりも、リリア個人を守ろうとしている。こうして必死に弁論して、側にいようとするほどに。

 

「いいでしょう、監視付きであなたの同行を認めます」

「やったー!」

 リリアは両手を上げて喜ぶ。

「まだ話は終わっていません」

「えぇ……」




久しぶりの戦闘、書いてて楽しいね
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