日常に悪魔の契約という仕事が加わってはや数日。
俺の悪魔家業は順調にこなしていった。
悪魔との契約だからもっと欲望とか恐怖を煽る仕事かと思ったが、内容は愚痴を聞いてほしい、オタクトークを楽しみたい、とりあえず慰めて、一晩子供の面倒を見ていて、そこにスクリーントーン貼って、など様々だった。
正直、思っていたのと違うなぁと思いながらも次の依頼人の元に行くととんでもない存在と出くわした。
「にょ」
右手を上げて鳴き声らしき挨拶をした存在。
どっかの世紀末に出てきそうな圧倒的な存在感のある鍛え抜かれた筋骨隆々の巨体を誇る、百戦錬磨の武人が如き覇気を放つ益荒男。
身に纏うゴスロリ衣装と頭部につけているネコミミは、一体何の意味があるのか。それって女の子が着るもんじゃなかったっけ?と疑問が浮かぶが彼から発する覇気に声が出ない。
ねぇ、ドライグ。どういった対応が正しい?
『すまん、相棒。長く生きた俺でも、このような存在は初めてだ』
あの二天龍の片割れですら戸惑うってどんだけだよ。とりあえず何かしゃべらないと。
「えっと、悪魔契約サービスのグレモリーです。依頼人の方ですか?」
「そうだにょ。お願いがあって悪魔さんを呼んだんだにょ」
あ、意外と答えてくれた。ていうかこの人の周りが何かで歪んでいる様に見えるのは気のせいだよね?
つーか、こんな人の願いって何だ?
「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」
すっげぇ無理無茶無謀な願いだな!?
『流石に無理じゃないか?そもそも相棒は肉弾戦特化だし』
ドライグのいう通り、これは俺が出来る範囲を超えている。
「ま、魔法少女ですか?流石に難しいかと……」
とりあえず、流石に無理があるんじゃないかとなるべく刺激しない様に伝える。
「無理は百も承知だにょ。異世界へ渡っても無理だったにょ」
突っ込みどころ満載なんだけど、どうやって異世界に行ったのこの人。
「もう、こうなったら宿敵の悪魔さんに頼み込みしかないにょ」
宿敵!?宿敵って言ったよこの人!?
『こいつに宿敵認定されるとか、悪魔勢力終わったな』
いや、流石に予想できないって。これどうすんの?
「悪魔さんッッ!!」
気迫の込められた声が衝撃波となって吹き荒れる。この人って神器もってたりしない?
「ミルたんを魔法少女してにょぉぉぉッ!!」
怖い怖い怖い!?そんな凄まないで下さいよ!?まだ死ぬつもりは無いんですから!?
「……ちょっとお待ちください」
この案件は俺が出来る範囲を超えていると判断しリアス部長に連絡する。
連絡を受けて依頼人の元に来たリアス部長はミルたんの規格外の存在感に固まってしまうが何とか再起動して俺に聞いてくる。
俺は取り合えず、ミルたんの願いについて相談するとそれに近い方法に悪魔の眷属化という手段があるが流石のリアス部長も彼の眷属化は躊躇う様だ。
それでリアス部長は上層部と様々な議論をしているとたまたま居た四人の魔王様の一人がミルたんに興味を示して会いに行って話し合った結果、彼の事をいたく気に入ったみたいで即眷属にした。
『あれを眷属化とか、とんでもない変わり者だな』
それな。しかもその魔王様もミルたんと同じく魔法少女に憧れているらしく、眷属化後は一緒に魔法少女を目指して特訓しているらしい。
因みに対価だが、異世界で手に入れたという周囲の魔力を吸収する鉱石を貰った。
そんなことがあってから数日後、休日に予定が空いた俺は久しぶりに黒歌と白音と一緒にお出かけしていた。
「次は何処に行こうかにゃ~」
「姉様。此処とかどうでしょう」
久しぶりのデートに二人は楽しそうに行きたい場所を選んでいるのを見ながら歩く。
「はわうっ!?」
路面に転がる音と声が聞こえたので見ればそこにはシスターが転がっていた。
何故悪魔の領地にシスターが居るんだ?
「大丈夫ですか?」
無視するのも気が咎めるので起こそうと手を差し伸べる。無論、いつ襲われても対応できるくらいの警戒は解いたりしないが。
「あうぅ。なんで転んでしまうんでしょうか。すみませんありがとうございますぅぅ」
声からして若いな、同い年くらいか。
起き上がらせると頭のヴェールが取れ、その姿が明らかとなる。
この場に居る黒歌と白音に劣らない綺麗な金髪碧眼の女の子だった。
俺はヴェールを拾って彼女に返してあげる。
「はい。これ、君のものだろ?」
「あ、ありがとうございます」
「結構な荷物だけど、旅行?」
「いえ、私、この町の教会に今日赴任することになりまして」
この町の教会って言うとあそこか?でも確か数年前に潰れていたはずだが?
「この町に来てから困っていたんです。その私って日本語うまく喋れないので道に迷っても皆さんと話しができなくて」
言語通じぬ少女を案内もなく一人で現地に放り出すか。何か訳ありな気がしてきたぞ。
「場所は知っていますけど」
「ほ、本当ですか!ありがとうございますぅぅ!これも主のお導きのおかげですね!」
まあ放っておくのもなんだし。
悪魔がシスター連れて教会とか色々駄目な気もするけれど。
「二人共、すまん。少し寄り道をするが良いか?」
「別にいいにゃよ」
「私も問題ありません」
そうして四人で教会へ向かう途中に公園の前を横切ると子供の泣き声が聞こえたので目を向ければ、膝を擦りむいた男の子とあやす母親がいた。
俺は動かなかったが彼女は動いていた。
泣いている子供に近寄り頭を撫でると、やさしい表情で声をかけそしてシスターは自分の掌を怪我のある膝へと当てた。
淡い緑の光が発せられる、その光は神の慈愛の力で傷を癒やす。
(これは神器か?)
シスターの純粋な優しさによる治療はとてもとても尊い行為だ。泣いてる子供も感謝するだろう。
だが、信じがたい現象が目の前で起こっている社会経験があり一般的な感覚を持つ母親は別だ。
「はい、傷はなくなりましたよ。もう大丈夫」
シスターはもう一度子供の頭を撫でてからこちらへと向かってきた。
状況を理解した母親は、頭を垂れてから子供を連れてそそくさと去っていく。その目に優しいシスターに向けるべきではない、普通の人らしい当たり前の感情を浮かべて。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
子供の方は純粋に感謝しているのが救いと言えば救いか。
「さっきのは」
「はい、この治癒の力は神様から頂いた素敵なものなんですよ」
微笑みを浮かべる彼女、しかし寂しげな表情から自身がどう思われるのかは理解しているようだ。
ようやく辿り着いた教会。なんだか随分と久しぶりに来たがすっかり古びているな。人が住める状態なのかコレ。一応は灯りが付いているが。
悪魔という種族であるから敷地に近寄ると嫌な悪寒を感じる。
「あ、ここです!良かったぁ」
地図の書かれたメモと照らし合わせながらシスターが安堵の息をつく。
ここまでだな。帰ったらすぐに部長に報告しないと。
「じゃあこれで」
「待ってください!」
お礼をしたいとシスターは告げるが、流石に不味いので適当な理由で断る。
彼女は残念そうな表情を浮かべるが
「私はアーシア・アルジェントといいます!アーシアと呼んでください!」
「俺は兵藤一誠。周りからイッセーと呼ばれているから機会があるならそう呼んでくれ」
「私は黒歌だにゃん」
「……白音です」
「はい、イッセーさん、黒歌さん、白音さん、必ずまたお会いしましょう!」
俺が見えなくなるまで外で見守る彼女。だが俺達は何かの予感を感じて直ぐに部長に報告する事を決めた。