人間であろうと人形であろうと、衝撃的事実が発覚した時には思考が停止すると言われている。それはいかなり戦闘であろうと冷静に対処できる精鋭部隊の一人であろうと変わらない。
カラビーナはワナワナと震えていた、己の目の前に存在している光景と自身が今聞かされた事実と彼女について知っていることがまるで噛み合わないからだ。
だが嘘を付かれたという感じもしない、それは周りの雰囲気もそうだがカラビーナ自身の勘とも言えるそれが無慈悲にも真実だと語ってしまっているからだ。
「う、嘘ですわ」
だとしても彼女はその言葉を吐き出さないわけにはいかなかった、と言うよりも認めたくないという感情のほうが強いというのが正しいもしれない。
認めてしまえば何かが音を立てて崩れてしまうと確信したが故に。だが彼女の電脳と周りは無慈悲に事実だと突き付けてくるではないか。
「ま、カラビーナの気持ちは痛いほど理解できるわ。正直、私だって初めて知ったときは同じだったし」
「そこは俺もだな、料理を先に知ってたから尚の事だったよ」
「あら酷いって言いたいけど、皆同じ反応するからそういうことなのよね」
出てくる証言の数々と本人の言葉にカラビーナはそれでもと言いたかったが言えなかった。言えない代わりに自身の目の前の物に目を向ける、そこにあるのは一流のパティシエが作ったと言われても納得しかないお菓子の数々と紅茶。
ついさっきまで彼女自身も美味しい美味しいとパクパク食べていた代物、故に味も自分自身が保証している。
(お、落ち着くのです私、落ち着いて此処までのことを思い出すのです)
或いは悪あがきか、それとも現実を受け入れられずにちょっと電脳がオーバーヒートしたのか真相は彼女にすら分からないがカラビーナはこの席に座るまでのことを思い出すことのしたようだ。
事の始まりは業務も一段落しお茶でもと思った午後の16時辺り、所謂アフターヌーンティーとも言える時間だったので食堂でお菓子でも楽しみながらお茶でもしましょうとカラビーナが思った時間帯。
「カラビーナ、もしかしてこれからお茶でも?」
「えぇそうですわ副官さん、なにか御用ですの?」
そこにふらっと現れたのは副官さんことベクターさん、なおカラビーナは顔を見た瞬間また下らないギャグでも放ってくるのではと警戒したのは秘密である。
「いい茶葉とお菓子があるからお茶会でもっと思ってね」
「お茶会!」
なんとも素敵な響きだと言わんばかりにカラビーナの目が輝いた。美味しい紅茶とお菓子を食べながら会話に花を咲かす、光景だけでもTheお嬢様と言えるそれをカラビーナが嫌う理由があるわけもない。
寧ろ積極的に自ら開いて見たいとすら思っている。なお、理由はこの後すぐに判明するがお嬢様を自称する彼女にはちょっと難しい問題でもあったりするのだ。ともかく、カラビーナはベクターさんからの誘いに二つ返事で頷けば
「じゃあ、行きましょうか。ネゲブ達も待ってるから」
「本日はネゲブさんもですの? 珍しいですわね」
これは言うまでもないと思われるがベクターさんからのお茶会は今回が初めてというわけでもなく定期的とまでは言えないがそれなりの頻度で開かれている。
だと言うのに誘いがあれば先程のような反応を見せるのでベクターさんもカラビーナを誘うのは楽しみにしている節があるとかと言う話は此処までにしておき、彼女が言うようにネゲブさんがお茶会に来るというのは割と珍しい。
曰くそこまで暇じゃないのとキャラじゃないとのこと。なので今回、しかもベクターさんからの誘いで来ているということには驚きを隠せない。
「なんだか今日は暇だったのと、カラビーナも誘うって言ったら来たのよ」
「……?」
なんで私が誘われたらネゲブさんも来ますの? 理由を聞いても疑問しか浮かばない寧ろこれで納得しろと言われても無理である、なのでカラビーナは考えることを放棄した、それよりもお茶会の方が大事だしその場で聞けばいいとすら思った。
「お、来たみたいだな」
「本当に呼んできたのね、とりあえず座りなさい」
ウキウキ気分でお茶会の場に向かえばカラビーナを出迎えたのは指揮官とネゲブさんの二人。指揮官が居ることには別段驚きでもなんでも無い、ベクターさんがなにかするのならばセットで付いてくるという認識なので。
とりあえず、近くの椅子に座ってテーブルに展開されているお菓子の数々に目を輝かせる、どれも非常に美味しそうで直ぐにでも食べてみたいが先ずは紅茶だと言うタイミングでベクターさんから紅茶が提供され、そこでふと気付いた。
「これは……初めて見るティーカップですわね」
「昨日、初めて寄ったお店で買ったのよ、このティーポットとセットでね」
「あぁ最近出来たっていう茶器専門店か、遠目だったけどアンタが気に入りそうだとは思ったがその通りだったか」
そんなお店が出来てたとは全く知りませんでしたわと思いつつ紅茶の香りを先ず確認、ふわっと鼻を擽る紅茶特有の良い香りに頬が緩むが、そこでカラビーナは一言。
「前回のと違うんですわよね、茶葉」
「えぇ、ナガンの所で良い茶葉だとオススメされたのだから違うはずだわ」
「……とてもいい香りですわ!」
(分かんなかったんでしょうね)
(カラビーナ、鼻は良いんだが微妙に区別が付かないんだよなぁ)
狙撃手として一流だが日常だとポンコツになる、それがカラビーナであり先程語ったように彼女自身からお茶会をと言うのが難しい理由は此処にある。
彼女に茶葉の違いや良さというのが微妙に分かっていないと言う致命的な理由が。香りでこれということで察せられるかもしれないが紅茶を飲んでもカラビーナは小首を傾げてから美味しいですわねとなる。
最もこれも日常なので誰も気にしないし寧ろ個性だという話になってるので此処で終わり、次にカラビーナは出されたお菓子を一口、相も変わらぬ大満足な味に舌鼓を打つ姿を見つつベクターさんが爆弾を放り投げた。
「どうかしら、私が作ったクッキーは」
「大変美味しいですわ……はい?」
そして冒頭に繋がる。落ち着いて此処までの流れを思い出してもベクターさんが絶品クッキーを作ったと言う事実しか行き当たらない、なので叫んだ。
「どうしてお菓子が此処までちゃんと作れて料理はああなりますの!!??」
「本当よね、私にも分からないけど多分バグってヤツよ」
「はっ!? じゃあ待ってくださいまし、私が今まで食べた市販のチョコって……」
「そいつが市販に見せかけて丁寧に作った物よ」
「どうりでお店で買っても味が微妙に違うと思いましたわ!!??」
想定通りのツッコミの嵐に指揮官は笑いながらチョコケーキを一口、ベクターさんもごめんなさいねと言いつつ
「でもほら料理の後に私が作ったお菓子をなんて出されても困るでしょ? だから市販っぽく作ったのを出したのよ」
「ぐぬぬ、それは、そうですわね……むぅ、お心遣いには感謝しますわ」
騙してたと言えばそうなのだが事情を聞けばカラビーナも矛を収める他無い。それに美味しいお菓子と紅茶には罪はないのだから何を怒れというのですかと冷静になる。
その後はお茶会は平穏に、和やかなまま時間は流れていく。そしてベクターさんにこれもどうかしらとお菓子を出されては美味しい美味しいと食べていくカラビーナを見て指揮官とネゲブは同時に思った。
(これは今後はお菓子で餌付けされるなこの娘)と。
フライドポテトとお菓子と紅茶さえあれば釣られるわ餌付けされるわなエリート狙撃手が居るらしい