【―外伝―メイド イン ロンドンの開始!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~   作:初雪空

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指名手配となった室矢重遠は、どこへ!?
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第22話 守護者(ガーディアン)

 戦慄の夜が明けた。

 

 ようやく眠れたと思えば、いきなり叩き起こされたのだ。

 

 メイド家系であるフローラ・テレサ・バーンズですら、シャキッとしない。

 

 氷をぶちまけた洗面器に水を張り、そこへ顔を突っ込み、強引に頭を働かせる。

 

「化粧は最低限でいいから、全体のシルエットを整えて!」

「……はい、フロア長」

 

 気持ちの整理がつかないのは、ゼフィ・デ・メイソン。

 

 そのうえ、ほぼ徹夜でのお迎えだ。

 

 かなり不機嫌そうで、ノロノロと動く。

 

「ゼフィ! 今は、陸揚げする直前なの! 予定通りに獲れないと、次は船に乗れないわよ!? クビにならないよう、とっとと動け!」

 

 フローラが漁船に例え、手を叩いたことで、ゼフィはようやくエンジンがかかってきた。

 

 まだ騒がしいウィットブレッド公爵家の敷地を歩き、室矢重遠たちを出迎える。

 

 円卓(ラウンズ)の正騎士3人と公爵が話し合っている広間へ……。

 

 

(ゼフィは、大丈夫! 重遠さまは……。不機嫌だけど、メイドに八つ当たりするほどじゃない)

 

 フローラは壁を背にしたままで立ち、ひそかに息を吐いた。

 

 重遠が本邸の召使いに認められていなかったら、胃が痛いどころではない。

 

 険悪な雰囲気で話し合っている公爵たちを眺めたら――

 

「おはようございます」

「……お席は、あちらでございます」

 

 執事やメイドたちの声で振り向けば、室矢カレナがやってきた。

 

 重遠の斜め後ろに立っているゼフィに合図しつつ、すぐに給仕へ。

 

 ところが、その重遠が立ち上がり、立派な椅子に座っているカレナの後ろに回り込む。

 

(……おっと!)

 

 視界に入っていたことで、会釈しつつ、後ずさりで退く。

 

 戸惑いつつ、こちらを見ているゼフィに、そこで待機しているよう、ジェスチャー。

 

(さて、何を始めるつもり?)

 

 全体を見ながら、用心する。

 

 今度は、ガシャガシャという金属音が近づいてきて、一体化したフードをかぶったローブの3人が登場。

 

(へー? やっぱり、顔と装備は見せたくないの……)

 

 円卓の騎士は、見る機会が少ない。

 

 フローラが、徹夜で居座っていたであろう騎士たちが出ていくことに安堵――

 

 複数の絶叫と共に、突風が吹いた。

 

 椅子に座っているカレナの前で投げつけられた物体が跳ね返されたような気がしたら、分厚い絨毯の上に落ちる太い矢。

 

 その一部が、ゴンッと床に落ちた音で、我に返った。

 

 いつの間にか、武装した重遠がカレナの前に立っている。

 

(刃物? いつ……。給仕したナイフ!?)

 

 ゾッとしたフローラが見れば、呆然としていたゼフィが首を横に振る。

 

 視線を戻したフローラが改めてみれば、古いものの、明らかに戦闘用のダガーが二振り。

 

 その切っ先をたどれば、フードを外した従騎士3人の顔は、まるでゾンビだ……。

 

 反射的に後ずさったフローラの踵が、壁に当たる。

 

(あなた達がマスターよね? 早く、何とかしなさいよ!)

 

 だが、従騎士たちを見ている正騎士3人は、ソファに座ったまま。

 

 フローラも、円卓の騎士が誓約(オルコス)という武具を身に着けて戦うことは知っている。

 

 重遠と向き合っている従騎士3人は、一触即発だ……。

 

 視界に入っている使用人たちも、どうしていいのか、迷っている様子。

 

(簡単な護身術は習ったけど……。聞いてないわよ、こんな状況!)

 

 つまるところ、人を殺す覚悟。

 

 それがなければ、いくら技術や装備があっても意味がない。

 

 執事やメイドがお世話をして、騎士が守り、戦う。

 

 だというのに――

 

 その時に、フローラはカレナの雰囲気が変わったことに気づく。

 

 幼女と言っていいわりに貫禄がある対応で、気に入らない相手には言いたい放題の子供っぽい部分もある公爵令嬢。

 

 そのカレナは、公爵の次に立派な椅子に座ったまま、顔を伏せた。

 

 けれど、すぐに上げる。

 

 少女の姿をした大人のように、低い声で告げる。

 

「これ以上は、見るに耐えません……」

 

 カレナから放たれるオーラは、今までと全く違った。

 

 それを感じたフローラが、ただ思う。

 

(誰……。この子?)

 

 今までの態度が演技だったという可能性に思い当たり、怖くなる。

 

 ただ、カレナが怒っていることは分かった。

 

 何かを言っている従騎士だった3人を無視して、命じる。

 

「やりなさい」

 

 それを聞いた重遠が、敵に向き直る。

 

 しかし、正騎士3人の邪魔で、両手にあるダガーを消した。

 

(馬鹿! 今の状況を分かって――)

 

 相手を殴れるぐらいの至近距離で、武器を手放す。

 

 それは、死刑宣告と同じはずだった。

 

 次にフローラが目にしたのは、身に着けた誓約(オルコス)を粉々に砕かれつつ、広間を高く舞う3人の姿。

 

 同時に、ビルを破壊したような轟音も耳に届くが、それどころではない。

 

 力なく落ちた3人の床にぶつかる音で、ようやく事態を理解し始める。

 

(は?)

 

 フローラが見れば、右腕を下ろす重遠。

 

 殺気はなく、相手を指さしたような姿だった。

 

 彼が、この3人を倒したのだろう。

 

 女主人で、義理の妹であるカレナが命じて、そもそも襲ってきたから……。

 

 だが、何をしたのかが分からない。

 

 恐怖を感じるフローラは、重遠の気負わない様子に悟る。

 

(仮にもユニオンが誇る円卓の騎士が、必死になるほどの相手ではないと!?)

 

 そして、気づく。

 

 重遠にある感情を。

 

(悲しそう……)




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