【第二章 The Princess's Knightスタート!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
第24話 1週間で王女殿下の侍女にする、ブートキャンプ
『よく来たな、新兵ども! 今の貴様らは、地面で這いまわっているミミズにも劣る! だが、安心しろ!! 一人前の兵士になるまで、俺たちがしっかり鍛えてやる! 返事は!?』
『『『Sir, Yes, Sir!』』』
軍の新兵への訓練は、ブートキャンプと称される。
映画やドラマで、よくある光景。
なら、現代のメイドさんは?
公爵家に就職したと思ったら王女殿下の侍女になったゼフィ・デ・メイソンは、広い部屋で立っている老婦人と向き合う。
「ピュアフォイです……。あなたを王女殿下の侍女にするべく、家庭教師を仰せつかりました。私は男爵家ゆえ、『マイ・レディ』と呼ぶように! 1週間、よろしくお願いいたします」
「は、はい! マ・レディ――」
扇子の先で顎の下から持ち上げられたゼフィは、思わず固まる。
まるで、釣り上げられた魚だ……。
いっぽう、微笑んでいる老婦人が、説明する。
「私、魚料理が好きですよ? しかし、王女殿下の侍女として、あまり好ましくありません。その訛りを直すように! 私に続いて、ゆっくり発音なさい。マイ・レディ」
「マ……マイ、レディ」
扇子を離した老婦人は、微笑んだままで頷く。
「よろしい! ユニオンは、アクセントで区別されます。思うところはあるでしょうが、それが現実ですよ? 普段の3倍の遅さで、母音を意識しつつ話すことを心掛けなさい! 落ち着きのある響きに変わります」
「はい、マイ・レディ……」
この時点で、ゼフィは上司だったフローラ・テレサ・バーンズが説明した時の微妙な顔を思い出した。
王女殿下の侍女は、大変……。
なるほど。
興味本位で受けたが、苦労しそうだ。
けれど、ゲスト待遇にすぎない。
ピュアフォイと名乗った老婦人は、数年前まで王室の上級侍女を務めたうえ、女王陛下とも面識があるベテラン。
今は、キャリアを活かし、マナーコンサルタント。
王室の事情に詳しく、柔軟に動けるという、貴重な人材だ。
微笑んだまま、扇子を両手で持つ。
「さっそくですが、始めますよ? 今できる範囲で構いませんから、やってみなさい」
挨拶、お茶の給仕、入室から退室までを一通り。
老婦人は特に指摘することなく、1日目が終わった。
ホッとしたゼフィは、他のメイドと一緒に食事やトークを楽しみ、あてがわれた部屋で休む。
――2日目
昨日より冷静に、老婦人と向き合うゼフィ。
微笑んでいる老婦人は、首をかしげた。
「予想通りと、言いますか……。何もなくて」
そうか。
公爵家に採用されただけあって、自分の技量で――
「いえ、合格ラインが1つもなくて……。昨日は、かなり悩みました」
?!
無言でショックを受けたゼフィに、老婦人が淡々と告げる。
「先に申し上げると、メイドの蓄積がない家庭のわりに筋がいいことは事実です。しかし、王家の侍女をするには足りません! アドラステア王女殿下は自由な発想で気さくな御方ゆえ、他の方々と比べれば、あなたも働きやすいでしょう」
手にした扇子を少し動かした老婦人は、上品に息を吐く。
王女殿下の侍女として落第のゼフィに、扇子の先を突き付けた。
「いいですか? 残りの6日間で、あなたをハリボテに仕上げます! どのみち、1週間で何から何までは、無理です」
2~3日目は、ゼフィの猫背、歩く時の足音、目線の泳ぎ、致命的な単語や呼び方を徹底的に修正した。
100点における、30点から50点の引き上げ。
4~5日目で、ボロを出さないための技術、フリーズとスイッチを教える。
「困ったら、彫像のように固まりなさい! それから、特定のサインが出た時に、マニュアル通りの対応をするように」
その場凌ぎではあるが、求められている技術は、まさにそれ。
アドラステア・リーディ・シェラフィール王女には、幼馴染を兼ねた侍女、日常のお世話のプロとしての侍女などがついている。
ゼフィがいてもいなくても、変化はない。
最も怖いのは、たまたま侍女が出払っていて、ゼフィだけがアドラステアの後ろに立つか、VIPに応対しなければならない場面。
「時間を稼ぎつつ、取り返しのつかないミスをする前にフォローしてもらいなさい! あなたが見るに堪えない奇行をして王女殿下の評判が地に落ちるより、何もしないほうがいいのです」
6日目で、フリーズやスイッチを使ってのダメージコントロールを確認。
思っていたよりも良いことで、老婦人はようやく自然な笑顔に。
「その調子です! 分からないことを我流でやらない……。それを覚えておけば、大怪我をせずに立ち回れます」
7日目は、打って変わってのお茶会。
和やかな雰囲気のまま、老婦人が優しく告げる。
「この1週間、よく頑張りました! あなたの意気込みが伝わってきましたよ? 姿勢や歩き方、相手に応じた呼び方は、今後も自分で練習することをお勧めします。あなたは、お仕えする
「はい! 気難しい方ではないと思います」
頷いた老婦人が、言葉を選ぶ。
「私は、日本をよく知りません。ウィットブレッド公爵家にいたカレナ様も同行するため、くれぐれも注意するように! あの方に嫌われたら、終わりです」
「嫌われてはいないと思います、たぶん……」
◇ ◇ ◇
室矢カレナは、ローズマリーを見つめた。
「メイドになりたい?」
「はい! マスターを喜ばせたくて……」
ふむ、と考え込んだカレナは、虚空からノートパソコンを取り出した。
“猫耳メイドは発情期! ご奉仕生活シミュレーション”
両手で受け取ったローズマリーは、力強く頷いた。
なお、ユニオン基準だと、単純所持でも違法っぽい模様。